ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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80話

 

 

地上部隊は順調にトリオン兵の数を減らしていった。

しかし戦場には出ずにオペレーター的な役割を担っていた男性近界民(ネイバー)・ヨミが「完全同時並列思考」のサイドエフェクトを使って操縦(マニュアル)モードのアイドラを2体同時に操縦することで流れが大きく変わった。

本来は自動で動くトリオン兵であるから、戦術は単調で動きさえ掴んでしまえば容易く倒せる。

だが人間が操縦するとなれば動きが人間のものと似たものとなるわけだ。

諏訪曰く「()()()なのが出てきた」だが、地上部隊の陣形が崩れ始めた。

そこで近接戦闘を得意とする黒江・木虎組と笹森・辻組がそれぞれ「動きの早いヤツ」を止める役を受け持ち、他の隊員は通常の自動タイプのアイドラの進撃を止めることとなった。

「エース機」と呼ぶことにした操縦(マニュアル)モードのアイドラはノーマルタイプよりは手強いものの、A級隊員の敵ではなかった。

黒江の「韋駄天」を使った高速斬撃と木虎のワイヤーによる連携で、エース機をいとも簡単に撃破。

だがヨミが別のアイドラに()()()()()しまえばエース機は復活する。

ヨミも韋駄天のカラクリに気付き、黒江の軌道を推測して移動コースの上にアイドラのブレードを置くという対応をした。

黒江はダメージを受けて頭に血が上るが、木虎に諭されて自らの役割を思い出して立ち上がった。

 

本部基地内で那須と熊谷はウェン・ソー相手に善戦していた。

(ゲート)でドグを召喚したり、煙幕や変装用トリガーを用いるといったトリッキーな接近戦で那須たちを翻弄していたが、ガトリンとラタリコフの()()があと5分くらいと判断すると奥の手を使うことにした。

彼女の藁の兵(セルヴィトラ)は本物と同じ動きをする鏡写しの虚像を作り出し相手を惑わすトリガーである。

虚像に実体は無いがレーダーによる本物の発見が難しいというもの。

虚像の大群に翻弄されるものの、菊地原の強化聴覚(サイドエフェクト)によって()()のウェン・ソーを発見して撃退した。

 

屋外の部隊はアイドラとドグの排除を続けていた。

その中で三輪と米屋のふたりはコスケロの黒壁(ニコキラ)に振り回されていたが、月見の指示で三輪は民家の屋根の上にコスケロを誘導。

「戦いの最中におしゃべり」をして敵を油断させるという作戦で、会話によって動きを止めることにより迅の風刃の遠隔斬撃を命中させた。

 

迅の未来視(サイドエフェクト)でこの戦いがあと数分で終わると知った隊員たちは一気に敵を片付けようとラストスパートをかけた。

中でもレイジの全武装(フルアームズ)と京介のガイスト射撃戦特化(ガンナーシフト)はトリオン効率度外視の圧倒的火力で戦線を押し返し始める。

トリオン兵をどんどん送り込んでいたガロプラだが、さすがにここで戦力を投入するのは意味がないと判断したヨミはトリオン兵を引き上げようするが、人型近界民(ネイバー)最後のひとり・レギンデッツは数体のドグを引き連れて警戒区域外へと移動を開始した。

本人曰く「ドグを散らして街に向かわせれば玄界(ミデン)の兵は泡食って戦力をこっちに向けるはず」で、ボーダー隊員をバラして手薄になったところを叩くというもの。

しかし迅の予知によりボーダー側は街に被害が出ないことを知っていたため、レギンデッツの陽動作戦には引っかからなかった。

 

格納庫での攻防戦は互角の状態が続いていた。

ガロプラ側には時間がなく、一刻も早くカタをつけたいところだが、エース4人の連携を崩すことができずに苦戦中。

一方、ボーダー側は遠征艇を人質に取られたような形になっているので動きが制限され、処刑者(バシリッサ)のアームが非常に硬いために正面から崩すのはほぼ不可能であった。

迅の予知と本拠地(ホーム)である分ボーダー側は有利なのだが、逆を言えばガロプラ側はそんな不利をものともせずに戦っているわけであるから、彼ら、特にガトリンは相当な実力者であるといえよう。

ボーダー側は重い方(ガトリン)を太刀川と小南で攻撃、軽い方(ラタリコフ)は風間がカメレオンと冬島の仕掛けたスイッチボックスを利用したショートワープで翻弄する。

ガロプラ側は2発目の砲撃で遠征艇を破壊するためにその機会をうかがっているのだが、チャージに時間が掛かるために「一撃」で決めなければならず難しい状況にあった。

両陣営共に敵の特徴を正確に見極めており、ラタリコフは風間の「消えたままでは武器が使えない」と「空中ならワープはない」を見抜いてそれに対処していた。

しかし風間も踊り手(デスピニス)の軌道を読み、鋭い反撃を繰り返していく。

そしてカメレオンを起動した。

姿は見えなくなるが、ラタリコフは自分の背後に「トリオンの煙」の漏れを見付け、そこに踊り手(デスピニス)()を放つ。

だがそれこそが風間の仕掛けた罠だったのだ。

()の正体はラタリコフに斬られた左腕であり、それを囮にして踊り手(デスピニス)()を撃たせ、その隙に背後に回って両脚を切断する。

これは遊真がB級ランク戦・Round3で那須隊の日浦に対して使った()であった。

足を失ったラタリコフはガトリンの指示で遠征艇のある格納庫の扉で待機する村上に攻撃を仕掛け、ガトリンは砲撃準備態勢に入った。

小南が村上の援護に回り、ガトリンと太刀川が一対一の状況となり、彼ごと格納庫の扉を撃ち抜こうとする。

しかし太刀川の位置が悪く、村上の位置からは大砲の射線が読めず砲撃からの防御ができない。

仮に村上が()()()()()も太刀川は確実に倒せる。

ガトリンはそれを狙っていたのだ。

だがその目論見は完全に外れた。

小南が双月で太刀川ごとガトリンを真っ二つにしたのだ。

これは迅が「太刀川がぶった斬られる」未来を予知していて、そのことを知っていた太刀川と小南が逆に未来視(サイドエフェクト)を利用したという作戦であった。

だがガトリンも最後の力を振り絞って大砲を撃つ。

それを村上が(シールド)モードのレイガストで軌道を変えて防御。

そこでガトリンの換装が解けて確保…となるはずだったのだが、緊急脱出(ベイルアウト)してしまった太刀川と同様に()()が消えてしまったのだ。

続いてラタリコフも消えてしまう。

どうやらガロプラも緊急脱出(ベイルアウト)のシステムを開発・導入していたようだ。

他にも捕らえられたウェン・ソーとコスケロも同様に緊急脱出(ベイルアウト)していた。

捕虜には逃げられたものの、遠征艇の破壊を目的としていたガロプラを撤退させ、遠征艇を守りきったのだからボーダー側の勝利であることは確かである。

地上のトリオン兵の大部分も撤退の様子を見せていた。

 

 

ところが数体のドグを引き連れて警戒区域外へ出たレギンデッツと脱走したヒュースが遭遇してしまった。

さらにその直後にヒュースの行方を探していた陽太郎が追いつき、ここで事件が起きることとなる。

ヒュースがアフトクラトルに帰りたいのなら帰してあげたいと考えていた陽太郎。

だからこそヒュースの帰国の意思に反対することはない。

追いかけて来たのは、単純にまだ別れの挨拶をしていないヒュースにひと目会いたいという気持ちがあったからである。

そしてもうひとつの目的は陽太郎が迅から預かっていた蝶の楯(ランビリス)をヒュースに返すためであった。

引き止めに来たのだと思ったヒュースだが、陽太郎の気持ちと行動に素直に感謝して蝶の楯(ランビリス)を受け取る。

その光景を見ていたレギンデッツは苛立ちを抑えきれずにいた。

ヒュースは従属国のガロプラなら自分をアフトクラトルへ連れて行く協力をするだろうという考えがあって接触したわけだが、レギンデッツは「捕虜を発見しても救助・奪還の必要はない。邪魔であれば始末していい」という命令を受けている。

そもそもこの遠征自体がアフトクラトルに向けられる玄界(ミデン)の人間の目をガロプラ(自分たち)に向けるのが目的であると気が付いており、自分たちが上手く利用されているのだとわかっていた。

ガロプラは小国であるからこれ以上敵を増やしたくないというのに、アフトクラトルのせいで玄界(ミデン)を敵に回すことにもなりかねない。

撤退の指示が出ているものの、レギンデッツは何の成果もなしに撤退することが悔しいし、何より自分たちがひどい目に遭うのはすべてアフトクラトルのせいなのである。

過去に祖国を蹂躙され、現在ではアフトクラトルの「使い走り」同様の扱いを受けている。

そんなアフトクラトルのことを信用できない上に、ヒュースと陽太郎の親しげな様子を見せられたとなれば、ヒュースとアフトクラトルに対してますます不信感を募らせるのは当然であった。

そこでレギンデッツはヒュースを()()()ことにした。

自分はヒュースのことを信用できない。信用できない人間を遠征艇には乗せられない。

玄界(ミデン)の子供 ── 陽太郎をその手で人質にして連れて来れば信用してやろうと言う。

街頭の監視カメラの存在に気が付いたレギンデッツは、ヒュースが陽太郎に危害を加える様子をこちら側の人間に見せることで、アフトクラトルの思惑どおりにはさせないという意味である。

たしかにアフトクラトルの捕虜が脱走して民間人の子供を誘拐するということになれば、こちら側の人間の憎しみの目はガロプラよりもアフトクラトルの方へ向けられる。

アフトクラトルにひと泡吹かせられるというものだ。

 

ヒュースは選択を迫られていた。

陽太郎を自分の手で捕らえてレギンデッツに引き渡せばアフトクラトルへ帰る道が開ける。

しかし断れば遠征艇に乗ることを諦めるしかなく、アフトクラトルへ帰る手段が失われる。

ヒュースにとってもっとも重要なのは、大恩あるエリン家の主のもとに馳せ参じること。

そのためなら何を犠牲にしても仕方がない。

アフトクラトルの戦士としての彼らな迷うことなく陽太郎を捕らえてレギンデッツに引き渡していたはずだ。

しかし陽太郎との日々が彼を大きく変えていた。

さんざん世話になった陽太郎への恩義に報いることなく、逆に恩をアダで返すことにもなるこの選択。

祖国の主を選ぶか、それとも自分のことを信頼し危険だというのに蝶の楯(ランビリス)を届けに来てくれた小さな()()を選ぶか…

その板挟みになっていた時、迅がヒュースたちの見える場所へとたどり着いた。

ほぼ同じタイミングで林藤も迅とは別のヒュースたちの見える場所へ来ており、どちらもしばらく様子を見守ることにした。

レギンデッツとしてはヒュースが子供を誘拐して悪役になる様子をこちら側の人間に見せさえすればそれで成功であった。

しかしレギンデッツの思惑とは大きく異なり、ヒュースはスコーピオンを起動すると陽太郎の腹を刺し貫いたのだ。

陽太郎は地面に伏しピクリとも動かない。

それを見たレギンデッツは想定外の展開に混乱し、ヒュースにとってとても残酷な真実を告げた。

ヒュースも薄々は勘付いていただろうが、ここまではっきりと「国に捨てられた」のだと断言されたら不都合な事実であっても受け入れざるをえない。

「ヒュースはアフトクラトルに帰ることはできない」と知ると、陽太郎はムックリと起き上がった。

スコーピオンで刺し貫かれたのはヒュースと陽太郎の演技で、ふたりの間に強い絆があったからこそできた即興芝居であったのだ。

嵌められたのだと気付いたレギンデッツは逆上し、さらにヒュースの戦意を感じ取って自身のトリガー剣竜(デュガテール)を起動した。

しかしヒュースが蝶の楯(ランビリス)を起動し、レギンデッツは何も出来ぬまま敗北・撤退する。

その一部始終を固唾をのんで見守っていた迅はヒュースと陽太郎の前に姿を現した。

ここでヒュースは迅との「賭け」の話を持ち出す。

「賭け」というのはB級ランク戦・Round4を玉狛支部で一緒に観戦していた時、玉狛第2が勝つかどうかの賭けをしていたという()()()のことである。

迅は「玉狛第2が負けたら俺に可能な限りなんでもひとつ頼みを聞いてやる」と言っており、この賭けはヒュースの勝ちとなっていたが約束はまだ果たされていなかったのだ。

そこでヒュースはその「権利」を使うことにした。

「どんな手を使ってでもオレをアフトクラトルへ送り届けろ」と言うヒュースに迅は「OK」と答え、ヒュースと陽太郎を伴って本部基地へと向かうこととなった。

 

彼らの様子を静観していた林藤はツグミに連絡を入れた。

 

「ヒュースと陽太郎は無事だ。迅がふたりを連れて本部へ行くことになった。俺はこれから玉狛支部(そっち)に戻る。詳しいことは帰ってから話すが、そろそろ修たちの試合が始まるぞ。おまえもしっかりと見て応援してやれ」

 

 

 

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