……どうしてこうなったのだろう。
「ひまり、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよ、狭いし暗いよー」
俺とひまりは今とある密室にいる。その密室は掃除用具だったり、中には専用になって着替えや私物を置くための物にもなる。そう、その名は……。
――ロッカーである。それもテニス部の女子更衣室だ。
何故俺とひまりがこの密室という名のロッカーにいるのか、それは数分前に遡る。
俺が家庭科室で手芸部の活動をしていた時のことだ。時間に余裕ができたからパッチワークをやり始める直前にひまりから連絡が来た。どうしたんだろう、部活終了前なのに連絡が来るなんて珍しい。俺はバイブレーションで振動しているスマホを手に取り、先輩に一言言って廊下に出て電話に出た。
「もしもし、どうしたんだ?」
「あ、もしもし?ごめんね結月、今出て大丈夫だった?」
「全然大丈夫だよ、それでどうした?」
「実は今日部活早く終わってね、迎えに来てほしいんだけどいいかな?」
迎えにか。今日はもうやることはないし、先輩も先に上がっていいよって言ってたもんな。よし、迎えに行くか。
「わかった、今行くから待っててくれないか?」
「ありがとう。でもね、今日は場所違うんだ」
場所が違う?どういうことだ?いつもは校門前なのに、今日は違うなんて珍しいな。まあ聞いてみるか。
「場所はどこなんだ?」
「場所はね、更衣室の中だよ」
ん?ちょっと待て、今何て言ったんだ?更衣室って言ったのか?俺の聞き間違いじゃないよな?
「なあひまり、一言言っていいか?」
「え、なに?」
「それおかしくないか!?なに、バカなの?死ぬの?」
「バカじゃないよ!バカって言った方がバカなんだからね!あと死なないよ!」
それを言ってる時点でバカなんだよ。俺は心の中で呟きながらひまりの一言に呆れ、溜め息を吐いた。はあ、もうどうしたらいいんだろう。ひまりはこれを言ったらそれ以外のことは聞かないからな。仕方ない、行くとしよう。こんなこと蘭とかにバレれば絶交待ったなしだ。
「わかったよ、行けばいいんだろ」
「窓の鍵は開けてあるから待ってるね。あと安心して、先輩達はまだ後片付けしてるから」
「手伝わなくてよかったのか?」
「先輩達から彼氏さんが待ってるだろうから先に上がっていいよって言われてね」
彼氏さんって……。だから俺とひまりは"まだ"そういう関係じゃないんだけどな。とりあえず行こうか。俺は先輩に先に帰ることを伝えてひまりの待つ女子更衣室の窓の元へと走って向かった。もちろん、先輩からも彼女さんとお楽しみにと言われた。だからそういう関係じゃないってば!
▼▼▼▼
よし、大成功!こういうのやってみたかったんだよね。実はこれは私の立てた作戦で、早く終わったのは本当だ。窓の鍵は開けたからあとは結月が来るのを待つだけだ。先輩達はまだ片付けには時間がかかるだろうから問題はない。作戦が成功するのを祈るだけだ。
待つこと十分、窓から顔を出そうとしたら結月が目の前にいた。やっと来た、よかったと私は心ので中ホッとした。
「待ってたよ結月」
「待たせて悪い、というかこのまま入って大丈夫なのか?まずいだろこれは……」
「大丈夫、バレなきゃ犯罪じゃないんだよ!」
「それ言ったらダメなやつだからな!」
結月は私の頭にチョップしてツッコミを入れた。でも、そんなに痛くはなかった。そんな時、ドアから部員達がやって来る音が聞こえてきた。
「え、嘘!?」
「嘘じゃねえよ!どうするんだよこれ!?」
「と、とりあえずロッカーに隠れよう!」
私と結月は二人して更衣室のロッカーに隠れることにした。というか下に結月の鞄置いてあるから足元が狭い、これは自業自得だからしょうがないか。
私と結月の態勢は私が結月にくっつき、結月は私を壁ドンしているような状態になっている。なんかドキドキするよ。
ドアが開く音がして先輩達が入ってきた。賑やかな話し声や着替えや私物が入っているロッカーが開く音等がする。というか今私と結月って二人きりだよね?
「ごめんね結月」
「これはしょうがない、こんなこと一度きりだからな」
「うん、ホントにごめん」
私と結月は外に聞こえないようにお互いに小さい声で放した。やり過ぎたかもしれない、私は自分のしてしまったことに後悔した。
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そして今に至る。なんか外からあの二人付き合ってるのかなとかが聞こえるが、それって俺とひまりのことなのか!?
「結月、私達って周りからどう見えるのかな?」
「な、なに?どうなんだろうな、それはわからない」
そう、ひまりは俯いて言った。あれ?なんかまずかったかな?てか狭いから胸が当たるんだけど、これひまりは気づいてるよな!?気まずいどころじゃない、ここにいること事態が地獄だ!
「さ、寒い……」
「大丈夫か?」
「大丈......夫だよ。あと結月、これ実は私の考えた作戦なんだ」
「作戦?もしかして俺を更衣室に入れたことか?」
そうだよ、とひまりは体を震えさせて言った。俺はひまりを安心させるために抱き締めて頭を撫でた。多分、泣きそうになってるかもしれない。普通なら怒るだろうけど、俺はそんなことはしない。何故なら、たまにはこんなことも悪くないなって思ったからだ。
人生には何が起こるかわからない。起こることによっては最悪と感じたり、こんなこともいいなとかもあるだろう。これはあくまで俺が個人的に思っていることだ。ひまりとだったらこういうこともいいなって思ってしまう、何故かはよくわからない。
「結月……ホントにごめんね」
「いいよ、怒ってないから。今は落ち着くのを待とう」
「うん……」
ひまり、相当申し訳なさそうにしてるな。わかってはいたけれど、俺が来ることを楽しみにしていたことで頭から抜けていたのかもしれない。まあこれに乗った俺も悪いけどな。
しばらくして外から音はなくなった。どのくらい閉じ籠っていたのだろうか、俺とひまりはロッカーから出て壁に掛けてある時計に目を向けた。もう六時か、ということは一時間か。
「ひまり着替えてないよな?」
「そうだった、結月見ないでね?」
「見るわけないだろ。外で待ってるよ」
「出ない方がいいんじゃない?出たらバレちゃうよ?」
そうか、よく考えたらそうだよな。止めておこう、俺は目を瞑り、耳を塞いで後ろを向いてひまりが着替え終わるのを待つことにした。駄目だ、気まずい。
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私と結月は暗い帰り道を歩く。お互いに気まずい雰囲気だ、今日私がやったことに怒ってるかもしれない。さっきは怒ってないって言ったけど、大丈夫かな?
「ねえ結月、怒ってない?」
「なんのこと?」
「さっきのことだよ」
「怒ってなんかないよ、まあ呆れはしたけどな」
やっぱり、呆れたってことは見損なったってことかもしれない。これじゃあ結月を好きになる資格なんかないよね。本当に結月には迷惑かけたな。
「まあそれどころか、こんなことも悪くないなって思ったな」
「え?」
「俺思ったんだ。ひまりとこういうことするのなら別にいいかなって……」
私は結月の一言で涙が出そうになった。君は優しすぎるよ、どうして私にこんなに優しいの?どうして私のことを大切に思ってくれてるの?私は疑問に感じてしまった。それと同時に結月のこの一言を聞いて安心した。それはとても心地よくて、冷めていた心を暖めてくれるような温もりだった。
家に着き、私と結月はお互いにおやすみ、と言って帰宅した。今日のことは一度きりで私と結月にとってなかなか経験できないことだ。人生で一度はあってもいい青春だなと私は思った。
こんな終わり方になったけど、私にはこれが精一杯です
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