夕焼けと月に恋心を込めて   作:ネム狼

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雨で濡れて透けたら気まずいよね


梅雨のどしゃ降り、濡れて透けるのは当たり前

 六月に入ってから一週間、今日の天気は若干曇りだ。梅雨に入れば湿度が上がり、更に楽器にも影響が出る。そうなってくると面倒なことが起きてしまう。そうならないように管理には気を付けないといけない。

 

 しかし、髪が伸びてきたな。特に前髪が気になる、今度ひまりに頼んで切ってもらった方がよさそうだ。全く、どうしてこんなに髪が伸びるんだ?あまり長いと女子と間違えられそうだ。

 

「蘭、大丈夫か?ずいぶんと眠そうだが……」

「昨日華道の方でお父さんと出掛けてた。多分その疲れかもしれない」

「じゃあ、モカちゃんが膝枕をしてあげよう。らーん、さあ膝においでー」

 

 そのまま寝ちゃいそうだからパスと言って蘭はモカの膝枕を断り、モカはしゅーんとなって悲しそうな表情をした。よっぽど蘭を甘やかしたかったんだな。モカ、ドンマイ。

 

「つぐみ、この時期は梅雨だけど雷は平気……じゃないよな?」

「もちろんだよ結月君……。雷なんてなくなればいいのに……」

 

 まあ雷がなくならないのは仕方ない。自然の摂理だからな、なんというかつぐみが可哀想になってきた。慰めようにもどう言ったらいいかわからない、そう思っていた時、巴がつぐみの近くに座った。

 

「まあつぐ、今度雷鳴ったらアタシが側にいてやるから、泣くなって!」

「巴ちゃん、ありがとう……!」

 

 つぐみは巴に慰められた途端に抱き着いた。つぐみの雷嫌いは昔からで、雷が鳴るとリスのように蹲る。可愛いように見えて可哀想に見える、そんな謎の現象が起きてしまうのだ。

 

 斯く言う俺も小学生の頃は雷が苦手だったがな。苦手だったあまり、中学三年の時に克服しようとしたが、あの時はマジで泣きそうになった。泣きそうになったらひまりに慰めてもらう、そんな毎日だった。

 

 

――ひまりに慰めてもらってたなんて、みんなの前では言えないよ。

 

 

「結月、何一人で黄昏てるの?」

「いや、なんでもない。少し昔を思い出してただけだよ」

「昔のこと?」

「ああ、俺が雷苦手だった頃を思い出してな」

 

 こんなことはあまり話したくない。何故かというとみんなに笑われるからだ。現にひまりが目の前で笑いそうになっているのが証拠だ。

 

 まあ案の定、笑われた。つぐみからは意外だと言われ、蘭には可愛いところあるじゃんと鼻で笑われ、巴とモカに至ってはドンマイと慰められた。だから話したくなかったんだ。そしてひまり、笑いすぎだ。

 

 今日は雨が降りそうだ。念のため折り畳み傘を持ってきたが、ひまりは傘を持ってきただろうか……。少し心配だ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 天気が曇りのち雨なのは聞いていたけど、まさかここまで降るなんて聞いてないよ!大雨だなんて、今日の私はついてないなぁ……。

 

 しかも傘まで忘れるし、もう最悪!傘の方は結月に入れてもらおう、さすがに雨だと楽器は持っていくのが難しい。でも結月って普段は折り畳み傘だったような気がする。まあいいか、入れれば別にいいや!

 

 雨が降っているから部活は中止になってしまった。私はというと図書室で結月の帰りを待っている。結月は手芸部だから中での活動だ。後三十分で部活は終わる。図書室で待ち合わせって言ってたから、ここで待たなきゃいけない。

 

 私は欠伸をしながらスマホの画面を見て時間を見た。もう5時、部活が終わる頃だ。結月、来てるかな?

 

「ひまりー、おーい」

「あ、あれ?結月、いつの間にいたの?」

「ついさっきだ。ひまりが考え事をしていた辺りからいたぞ」

 

 それって途中からってことだよね?連絡入れてくれればいいのに……。変な顔見られてないよね!?見られてたら恥ずかしいよぉ。

 

「そろそろ帰ろっか」

「う、うん……」

 

 なんか複雑だ。絶対結月笑ってるよね?変な顔してたぞって言うかもしれない。

 

 私と結月は靴を履き替えて玄関を出た。すごい雨だ、ジメジメするししかも寒い。風邪引かないようにしないといけないなぁ。

 

「どうしたひまり?」

「ごめん結月、傘忘れちゃったから入れてもらえないかな?」

「構わないよ、折り畳み傘になるけどいいか?」

「大丈夫、結月ありがと!」

 

 結月は鞄から折り畳み傘を出して傘を開いた。あれ、これってよく考えたら相合い傘だよね?全く考えてなかった……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 なんでこんなことになったのだろう。まさかひまりと相合い傘で帰るなんて思わなかった。折り畳み傘は小さいから俺とひまり、二人で傘の中に入るには限りがある。俺はいいけど、ひまりが濡れてしまっては駄目だ。それに、風邪を引かせる訳にはいかない。

 

「ひまり、肩濡れてないか?」

「少し濡れちゃったかな。私は大丈夫だよ」

「そっか、あと寒くはないか?」

「結構寒い……かな」

 

 早く帰った方がいい、俺も寒くなってきたしこのままだと二人共風邪を引いてしまう。

 

 それにしてもひまり、体が震えてるな。これはまずい、帰ったらシャワーを貸してやろう。あと、暖かいものとあとなんだ?何があったっけ?まあ家に着いてからにしよう。

 

 俺は自宅に着きひまりを家に上げた。今日はおばさん達が帰ってくるのが遅くなるって聞いたから上げることにしたんだ、決して襲おうっていうわけではない。

 

 ひまりにタオルを渡し髪を拭くように言った。髪を拭いたひまりはカーディガンを脱ぎ、畳んで俺の部屋に置いた。

 

「ちょ、ひまり!?」

「ん?何、どうしたの?」

「Yシャツなんだが……」

「へ?Yシャツ?」

 

 俺は目を逸らしながら指を指した。ひまりは視線を下に落とす。そして気づいた瞬間、徐々に顔を赤くした。ああヤバイ、殺される!

 

「結月……見てないよね?」

「な、何を!?」

「……ブラの色は?」

 

 俺は目を逸らして緑だ、と言った。色を言われたひまりは涙目になりながら俺のことをバカ!と言いながらタックルをしてきた。地味に痛い……。

 

 しばらくしてひまりはシャワー借りるね、と言って浴室に向かった。そして俺はというと自分の部屋で待つことにした。服は替えのジャージを渡したから問題ない。だか、サイズがちょっと大きい。それを考えるとひまりには申し訳ないな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私はシャワーを浴び、結月から借りたジャージに着替えた。制服は洗濯機で洗って乾燥かけておくって言ってたっけ?さすがに今日は泊まろうかな?

 

 二階に上がり、結月の部屋のドアをノックする。どうぞ、とドア越しから聞こえ、私は結月の部屋にドライヤーを持って入った。髪は乾かしてもらおう。あと、さっきタックルをしたことも謝ろう。

 

「お待たせー」

「暖まったようだな。今コーヒー入れてくるから待ってな」

 

 結月の今の髪は一つ縛りの状態で眼鏡まで掛けていた。私は床に敷いてある座布団に座って結月を待つことにした。机にはパッチワークが置いてあった。今度は何を作ってるんだろ?

 

 3分くらい経ち、ドアが開く音がした。トレーにコーヒーとシュークリームが置いてあるのが見えた。

 

「待たせた。あとシュークリームも置いとくから、今髪乾かすから隣いいか?」

「いいよ、お願い」

 

 ドライヤーをコンセントに差し、電源が入る音がした。ああ、気持ちいい。結月は私の頭を撫でながら髪を乾かしていた。やっぱり癖になるなぁ。

 

「結月、さっきはごめんね」

「さっき?俺、なんかしたっけ?」

「私のYシャツ透けてたじゃん?それで私がタックルしちゃったから謝ろうと思ってね」

「いや、あれは見ちまった俺が悪い。されて当たり前だし、ひまりは何も悪くないだろ?」

 

 結月はそんな優しいことを言ってくれる。それは嬉しいけど、私も悪いんだ。どっちもどっちだけど、あれは私が悪いに決まってる。

 

「私が悪いよ!結月は悪くない!」

「じゃあこうしよう、どっちも悪いってことで今お互いに謝った、これでいいだろ?」

「なんか複雑……」

「ひまり、言うこと聞いてやるから終わりにしよう。切りがないだろ?」

 

 結月の手が離れる、乾かし終わったんだ。もうちょっと撫でて欲しかったなぁ。でも今言うことを聞くって言ったんだ、それなら撫でてもらおうかな。

 

「結月、膝の上座っていい?」

「え?別にいいが……どうしたんだ?」

「撫でてほしいんだけど、いいかな?」

「いいよ、いくらでも撫でてやるよ」

 

 断られなくてよかった。私は胡座をかいてる結月の膝の上に乗った。頭に結月の手が乗るのを感じた。うん、やっぱり結月に撫でられるのは気持ちいい。

 

 私と結月は幼馴染みだから距離は近い。でも、こうして密着していると更に距離が縮んだなって思ってしまう。私はそれが堪らなくて嬉しかった。

 

「どうした、ひまり。何かいいことでもあったか?」

「ううん、何でもない!」

 

 そっか、と結月は優しげに言った。本当は結月の側にいたいって言いたいけど、恥ずかしくて言えない。だから撫でてもらって側にいようって思ったんだ。

 

 

――今日は結月の側にいて暖まろう。この温もりが消えないくらいにくっつこうかな。

 

 

 

 




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