今回は季節外れの七夕回です
個人的に全力を注いだ回になります
あと今回は少し長いです
梅雨が明け、季節は夏になろうとしていた。しかし、月はまだ七月だ。梅雨が明けても暑いということに変わりはない。
七月といえば七夕だ。願い事はどうしようか、しかしそう言ってもなかなか決まらない。アフターグロウとしての願い事は「いつも通りにバンドを楽しもう!」と決まっている。まさにアフターグロウそのものだ。
じゃあ俺はどうする?俺は十年前にひまりと約束していることがある。ひまりを幸せにする、それが十年前の約束だ。
ならそれを願い事にしたらいいじゃないか、それでいいじゃないかと言いたいところだが、好きな人にそんなことがバレたら黒歴史レベルで恥ずかしくなる。そんな願い事、ひまりには見せられない。
「願い事か、どれにしようか迷うな」
「願い事決まってないの?」
「どわぁ!ってなんだひまりか。驚かすなよ」
ごめんごめん、ひまりはウィンクしながら言った。耳元でそんな声出されたら誰だって驚く。ファンにとってはプレゼントでしかないだろうな。
そういえばひまりの願い事は何だろうか。気になるが、この場合は聞かない方がいいのか?もし聞いたらどうなるんだ?とりあえずダメ元で聞いてみるか。
「ひまりは七夕の願い事って決まってるか?」
「結月、それ今聞くの?悪いけど秘密だよ。残念ながら教えられません!」
「だよな。悪い、こんな事聞くのはまずかったな」
「そりゃそうだよ。七夕なのにいきなり願い事なんだって言われて教える人はいないと思うよ?」
確かにそうだ、いきなり願い事を聞くなんてタブーだったな。俺としたことが情けないことをしたな。まぁ、俺も聞かれても秘密だけどな。
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あの結月が願い事を聞くなんて、私からしたら珍しいことだった。というより、結月から聞かれること自体が予想外だった。
アフターグロウとしての願い事はみんなで決めたから まだいい。でも、私の願い事なんて始めから決まっている。私の願い事は……。
――結月のお嫁さんになれますように。
これが私の願い事だ。結月と十年前に交わした約束は私の願い事であり、結月と誓った約束でもある。だから、私の願い事はこれ以外に変わることはない。変わってしまったら私じゃなくなるし、結月と約束した意味がなくなっちゃう。
「待っててね結月、この願い事は絶対に叶えるから!」
私はあの日から誓った。結月の隣に立てるようにしないといけない。結月のことが好きだって胸を張って言えるようにしないといけない。だから私は日々努力しなくちゃいけない。
息が詰まりそうだ。こんな弱い所を結月に見られたら合わせる顔がない。逃げ出したい気持ちが芽生えそうだけど、結月を好きだという気持ちを手放したらおしまいだ。全てが終わってしまう。
結月に好きだって伝える、口で言うのは簡単だ。いつまでも言うだけじゃ駄目だ。結月が他の人と付き合う前に動かないと!
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七月七日、七夕当日。今年の七夕はどうやら休日にやる年のようだ。今までは巴の妹であるあこも一緒だったが、今年はロゼリアが七夕ライブをcircleでやるらしく、一緒にはいられないそうだ。
あのロゼリアが七夕ライブをやるなんて誰が予想しただろうか。湊先輩も珍しいことをするものだ。
さて、今日は七夕だがどうするか。昨日はつぐみや沙綾から笹の飾りの準備を手伝ってほしいと頼まれて準備したわけだが、どんな感じになるのか楽しみだ。
「結月何悩んでるような顔してんだ?」
「巴か。何でもないよ」
――本当は悩みはある。あまり知られたくない悩みなんだけどな。
俺は悩みがあるということを気づかれないように少し視線を逸らした。これは俺が嘘をつく時によくやる癖だ。
「……嘘だな。結月、嘘をつく時の癖隠せてないぞ」
「やっぱり巴にはわかるか。よく見てるな」
「結月は嘘をつくのが下手すぎるんだよ。つぐやモカには隠せていると思うけど、アタシにはバレバレだ」
巴にここまで言われるなんて、まぁこればっかりは俺が悪いか。
俺は巴に隠そうとした悩みを打ち明けることにした。その悩みはひまりが隠している願い事だった。俺は昨日から引き摺っていた。自分でもここまで引き摺るというのは不思議だなと思っていた。
「それはひまりでも秘密にするだろ。こればっかりは結月が悪い」
「そう……だよな。俺もここまで気になってたなんて思ってなかったんだ。願い事を秘密にされたっていうだけなのに、それが悩みになるなんて情けないとしか思えないよな」
俺は愚痴を混ぜるかのように言った。巴に当たってもしょうがない。これは自業自得なんだ。こんな状態が続くとせっかくの七夕が台無しになってしまう。それだけは御免だ。
巴が腕を組んで考えるかのような表情になった。何を考えているんだ?どんなことを言われるんだ?俺は巴が考え終わるのを待つことにした。
「よし、こうしよう。しばらくしてからでいいからさ、今度ひまりに聞いてみるのがいいと思うな」
「今度か、しかしいつ聞いたらいいんだ?」
「それは……。あれだな、例えば付き合ってからにしてみるとかだな」
――付き合ってからにしてみる?
あれ?待て、それって……。もしかして俺がひまりのことを好きなのバレてんのか!?嫌な予感しかしないけど、聞いてみるか。
「巴、聞くようなことじゃないんだが俺がひまりのこと好きなの知ってるのか?」
「いや知ってるも何もバレバレだぞ?」
「嘘だろ。言っておくけど、このことはひまりには言わないでくれよ!ひまりにバレたらなんて言ったらいいのか……」
「言うわけないだろ。さすがに言ったりはしないし、幼馴染みがそんなことをするわけないだろ!」
なんだろう、巴が言うとすごい説得力がある。やっぱり巴って頼りになるな。さすが姉御だ。
「そうだよな。わかった、そうするかな。巴ありがとな」
「どういたしまして。なんかあったら相談しろよ。頑張れよ!」
巴は笑顔で言った。いつまでもこうしてちゃ駄目だ。こんな姿、ひまりには見せられないな。うん、肩の力が抜けてきた。
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空に綺麗な夕焼けが映る、その夕焼けは目に焼き付けるには十分すぎるくらいに綺麗だった。結月ならなんて言うかな。聞いてみたいものだ。
「結月遅いなぁ、いつになったら来るんだろ……」
普段は時間通りに来るのに、今日は珍しく遅い。
いつもは結月が待っていることが多い。たまに私と結月がバッタリ会うっていう時もあるし、家が隣だからそのまま合流して一緒に出掛けるということもある。
――何もなければいいんだけど。
そんなことを思ってから二十分が経った。私は左腕に付けている腕時計に目を通す、時間は夕方の四時二十分。もしかして来ないのか、そんなことを思ってしまった。
「ごめんひまり、遅くなった!」
彼の声が聞こえた。この声は……結月だ!よかった、来てくれた。私は結月の声が聞こえたと同時に落ち着けると感じた。
「いいよ、私も今来たばかりだから」
「いや、充分待たせちゃってるよ。ホントにごめんな」
私は遅くなった結月にどうして遅くなったのかを聞こうとした。でも、それは止めることにした。彼の首を見たら汗でダクダクだった。きっと何かあったに違いない。
「遅れた理由なんだけどさ……。母さん達に七夕の飾りの準備を手伝ってくれって言われたんだ」
「そうなんだ。私心配したんだよ?」
「ごめんって。とりあえず商店街行こうか。待たせたお詫びにスイーツ奢るから」
スイーツを奢る、そんなことを言われたら仕方ない。それで許そうかな。私は結月と一緒にコンビニに寄ってスイーツを奢ってもらい、商店街に向かった。
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ひまりを待たせてしまった。ひまりは許してくれたが、俺にとってはやってはいけないことをしてしまったと反省している。普段は待たせることはなかったのに、今日に限って待たせるなんて何をしているんだ俺は……。
俺はひまりに嘘をついた。母さんに七夕の飾りを手伝ってくれと言われたことだ。だが、本当の理由は巴に相談をしていたから遅くなった、それが本当の遅れた理由だ。
きっとひまりは気づいていない。好きな人に嘘をつく、それは俺にとってやってはならないことの一つでもある。
今度ひまりには謝っておこう。いつまでもこんなことを引き摺ってはならない、引き摺っていてはひまりを幸せにすることはできないんだ。
――こんな俺をひまりは許してくれるだろうか……。
いや、許してはくれないだろうな。とりあえず切り替えよう。せっかくの七夕なんだ、彼女といるこの時間を大切にしないと。
「そういえば結月って願い事決まったの?」
「決まってるけど、教えないぞ?」
「やっぱり教えてはくれないんだね。なんか残念だなぁ」
「残念って……。俺からしたら昨日のお返しだよ」
そうだ、教える訳にはいかない。願い事を教えてしまったらその願い事は叶わなくなる。父さんから教えてもらったことがある。ひまりが教えてくれないのなら俺も教えない、そうするまでだ。
今の時間は俺とひまり、二人だけだ。蘭達との七夕は昨日済ませてある。何故そうしたのか、その理由は蘭が七夕当日は家族と過ごしたいから前日にしてほしいということだった。
それを言ったのは蘭ではなく、蘭のお父さんだった。あの人がそんなことを言うなんて誰が予想しただろうか。いや、誰も予想出来なかっただろうな。あの日から蘭と蘭のお父さんは仲直りしようと努力していた。
――蘭、ちゃんとお父さんと仲直り出来るようにしろよ。
歩いて数分、俺とひまりは商店街に着いた。夕方ではあるが、七夕ということで賑やかになっていた。周囲には近所の人だったり、沙綾やはぐみもいた。
「どうする?つぐに声掛ける?」
「いや、止めとくよ。沙綾とはぐみと話してるみたいだから三人だけにしてあげよう」
そっか、ひまりが口元を緩ませて言った。たまには商店街の看板娘達にしてあげよう。三人で話したいこともあるんだ、それならそうしてあげた方がいいと思うな。
俺とひまりはベンチに座り、二人で空を見上げた。見上げた空は少しではあるが赤が残っていた。その夕焼けは目に焼き付けるには充分すぎる物だった。
「結月願おうよ、願い事決めたんでしょ?」
「ああ、決まってるよ。ひまり、願い事言う前にこうしないか?」
「何をするの?」
「手を繋いで目を瞑って心の中で願い事を言う、やってみたかったんだ」
こんなことを言うのはなんだが、これは咄嗟に思い付いたことだ。普通は手を合わせて心の中で願い事を言う、これが常識だ。でも俺は違うやり方を選んだ。ひまりとならこんなロマンチックなことをしてみたいと思ったからだ。
「いいけど、結月ってロマンチックなとこあるね」
「そうか?」
「もしかして自覚ないの?」
「どうだろうな……。まぁ言われてみればそうかもしれないな」
ひまりは不思議そうに俺を見つめた。きっと自覚していないのかもしれない、俺が気づいていないだけなのかもしれない。どっちだろうか、まぁいいや。
俺とひまりは手を繋ぎ目を瞑った。さぁ願うんだ。俺は自分の想いを願いに込めて心の中で言った。
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こんなことをするなんて結月らしくない。でも、悪くないなと私は思った。
結月とならロマンチックなことでも構わなかった。手を繋いで願い事を言う、私でもこんな発想はなかった。さすが私の好きな人だ。
最初は恥ずかしいと感じた。でも、不思議と恥ずかしくなくなってきた。なんでかな?結月と一緒にいるから恥ずかしくなくなったのかな?理由はわからないけど、結月と同じ気持ちだからかもしれない。
ねえ、結月。貴方に伝わってるかな?私の想いは届いてるかな?私は結月のことが好き、どうかこの想いが届いてますように。私は自分の想いを込めて願い事を言った。
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二人の願い事は偶然にも同じだった。内容は違えど想いは同じ、それだけが二人の気持ちを重ねるかのように見えた。
少年の想いが……。
――どうか、ひまりを幸せにできますように。俺の想いが……。
少女の想いが……。
――どうか、結月のお嫁さんになれますように。私の想いが……。
――重なる瞬間だった。
――想いが届きますように。
内容はアレですが、私的には満足です
こんなロマンチックな人生送りたかったなと書いてて思いました