夏休みが迫っている、それは俺達学生にとって楽しみの一つであり、一番長い休みでもある。
しかし、その前に重要な物がある。その重要な物とは……。
――期末試験だ。
期末試験、夏休みの前哨戦にして赤点を取ると補習確定という最悪な物が付いてくる。そうならないように試験勉強をしなければならない。
「さて、試験二週間前になったが……」
「モカちゃんは問題ナッシングだよー」
「アタシは苦手なところはあるけど、他は大丈夫だぞ」
「わ、私も大丈夫だよ……」
つぐは全くもって問題ないからまだわかる。巴は確か理系が苦手だってことは把握してる。モカは授業でも寝てる時があるが、意外にも赤点を取ったことがない。もしやこいつ、睡眠学習でも身に付けてるのか?
この三人はまだいい。一番の問題は、蘭とひまりだ。あの二人は特にヤバイ。
「ねぇ、英語はやる必要なくない?」
「補習なんてやりたくないよ!期末試験なんてなくなればいいのに、わけがわからないよ」
蘭、お前英語で歌ってる時あるのに何を言ってるんだお前は?あとひまり、最後の言葉は魔法少女になれっていう契約詐欺のマスコット擬きになるからやめなさい。
蘭は音楽には強いのに何故か英語がダメ、ひまりに至ってはまさかの全教科というかなりまずい物だった。ひまりはこれまで俺が付きっきりで教えてたから、こうなると今回も付きっきりになる。
「蘭、さすがに湊先輩みたいな結果にはなるなよ?今井先輩から聞いたが、あの人も英語まずいらしいから」
「はぁ!?湊先輩と一緒にしないでよ!あの人に負ける訳にはいかないし、赤点取ったら練習もライブもできなくなるから補習は御免だよ」
こんなに強気になってるが大丈夫だろうか。俺には心配で心配で仕方ないよ。ともかく蘭達もそうだがひまりを何とかしないといけない。ひまりが赤点取ったらおしまいだ。
何故ひまりが赤点を取ったらおしまいなのか。それは夏休みの予定に関係ある。俺は決めたんだ、今年の夏祭りで伝えると決めた。
――ひまりに告白すると決めたんだ。
俺はあの日から決めていた。今年中に告白すると言ったが、夏祭りにというのはつい最近だ。ひまりがあの時の約束を覚えていると俺は信じている。
「結月、助けてくれるよね?」
ひまりが涙目、上目遣いで助けを求めた。そんな顔をしなくても助けるさ。断る訳にはいかないし赤点を取ってほしくないからな。
「もちろんだ、断るっていう選択肢はないし今まで助けてただろ?今回も助けるに決まってるだろ」
「ありがと結月!」
そう言ってひまりは俺に抱き着いて来た。蘭達の前なのにそんなことされたら恥ずかしくなるだろ。そして蘭、モカ、巴、つぐみ。お前ら何見守るかのような表情になってんだよ、止めろよ。
▼▼▼▼
こうして試験勉強が始まった。この試験勉強の期間中は部活は中止になる。平日と土日は蘭達も来てつぐの所で勉強会を開き、私はみんなが帰ってからも結月と一緒に勉強をするという形になった。
みんなそれぞれわからない所を教え合ったり、休憩中は糖分補給としてデザートを食べたり、あっという間に一週間が過ぎた。
「ひまり、本当にいいのか?」
「何が?」
「勉強会するのはいいけどさ、泊まってていいのかってことだよ」
私は結月と付きっきりになる。そのため、今回は結月の家に泊まることにしたのだ。前は泊まることはなかったけど、今年は結月と一緒にいたいということで泊まると決めた。
私としては好きな人と一緒にいた方が安心するし結月と一緒にいると勉強が捗るような気がする。これはあれかな?愛のパワーというやつかな?
「ああ、そういうこと?そういうことなら私は平気だよ」
「平気って……。おばさんからひまりのこと頼むって言われたけど、大丈夫かなって思って聞いたんだ」
「そうなんだ。結月って私のことになると心配性になるよね?」
「え、そうか?」
結月は私のことになると心配性になる、それは昔からだ。私は結月のこういう優しい所が好きだ。これは女の子でも惚れてしまう、でも結月のこの優しさを知っているのは私や蘭、モカ、巴、つぐだけだ。
「そうだよ。もしかしてまた気づいてなかった?」
「いや、それは自覚してるかな。迷惑だったか?」
「全然、私は結月のそういう所好きだよ」
「そ、そうか!ならよかった……」
結月って私から好きって言われるの弱いんだなぁ。こういうことを知ってるのは私だけだ。弱いってなると私のこと好きなんじゃないのかって思っちゃうけど、あまり自惚れてちゃ恋愛は上手くいかない。
だから赤点を取らないように頑張らないといけない。取ったらみんなに迷惑がかかるし結月に教えてもらった意味がない。とにかく結月の期待に応えないと!
▼▼▼▼
俺はスマホの電源ボタンを押して時間を確認する。時間は……11時か。もうこんな時間か、ひまりも眠そうにしてる。疲れてるようだからここまでにするか。
「ひまり、眠そうにしてるけど大丈夫か?」
「んぅ……。今何時ぃ?」
「もう11時になるかな。今日は止めにして明日にしよう」
わかったよ、とひまりは両手を上に伸ばした。上に伸ばしたせいか胸が強調されている。目のやり場に困るな。全く困ったものだ。
「今日は疲れたねー」
「そうだな。何時間やってるか忘れるくらいにやってたな」
「だよねー」
ひまりはそう言って立ち上がろうとしたが、疲れてるせいか俺の方に倒れてしまった。俺は頭を床にぶつけてしまった。少し痛いがひまりが心配だ、大丈夫だろうか。
「ひまり、大丈夫か!?」
「ご、ごめん!頭ぶつけたよね?今退くから待ってて」
「わ、わかった。ひまりも怪我とかないか?」
「私は大丈夫、ごめんね結月」
よかった、ひまりに怪我はなかったようだ。怪我があったらどうなってたか、想像するだけでも恐ろしい。
ここまで心配性になるなんてな……。これを言うのもなんだが、ひまりは罪深い女の子だよ。まぁ、こんな状態になった俺が悪いけど。
しかし倒れた時に思ったが、ひまりの胸が当たってしまった時にクッションのような感触を味わった。いや、止めよう。忘れた方がいい、忘れないと彼女に変な感情を抱いてしまう。
――とりあえず今日は寝よう。寝ていれば忘れるはずだ。
▼▼▼▼
今日も私は結月と一緒に寝る。でも今日は向かい合ってではない。結月は後ろを向いて寝ていた。こんな状態だと私は見捨てられているのではないかと思ってしまう。こんなこと思いたくないのに、どうしても思ってしまう。
私はこの感情を拭い去りたかった。結月に抱き着く、これしか私には思い付かなかった。好きな人と一緒にいたい、その方が一番よかったと思った。
「見捨てられたくない、結月と一緒にいたいよ……」
彼は聞いていないのかもしれない。いや、聞いてほしくない。こんなことを聞かれたらどう思われるだろう、彼なら見捨てるわけないだろと言ってくれるかもしれない。
言っててくれば私は救われるだろう。でも、そうとは限らないと思ってしまう。大好きな人を疑いたくはない。そんなことをしてしまったら私はおしまいだと思う。
――だから私は決めた。今年の夏祭りに結月に告白しようって決めたんだ。
それから数日後期末試験を終え、解答用紙が返却された。蘭はギリギリだったけど大丈夫だった。 巴は少し間違えた所があったけど結果はよかった。モカとつぐは相変わらず優秀、結月も点はよかった。でも、前回の中間より点は下がったとのこと。
そして、肝心の私はというと……。
――赤点はなかった。
ヒヤヒヤした。ただそれだけだった。けど本当によかった、結月の期待に応えられたし、いい点を取れたから恩返しはできたはずだ。結月からも頭を撫でられ、よく頑張ったなと褒められた。
嬉しかった。結月に褒められることがどれだけ嬉しいことか、これだけでも私の努力は報われたんだなと思ってしまう。
――あとは夏祭りだ。ああ、この想いを早く届けたい。
突然ですがあと五話くらいで本編を終わりにする予定です
最後までお楽しみに