というわけでひまりおめでとう
愛を誓った彼女におめでとう、夕日に祝福を
十月二十二日。それは俺の彼女、上原ひまりの誕生日前日である。俺はひまりのために一週間掛けてある作品を作っていた。その作品とは、マフラーだ。
秋は暖かいというイメージがあるが、今年の秋は寒いのだ。そこで、今年はマフラーを編んでプレゼントにしようと考え、この結論に至ったのだ。一方の蘭達は、帽子をプレゼントに選んだらしい。モカが選んで皆がそれにしよう、ということで決まったそうだ。
俺は作業に入る時は髪を縛っている。だが、ひまりと付き合ってからはラフポニーにすることが多くなった。ひまり曰く、他の髪型を見たいとのことだ。ひまりも髪フェチに目覚めたのかと思ったが、聞いてみたらただの好奇心だった。
「編み物って久しぶりにやるが、こんなに難しかったか……」
「おっはよー結月!」
「ひまりか!?お、おはよう。今日はどうしたんだ?」
「遊びに来ただけだよー。今日はポニーにしたんだ。うんうん、似合ってるよ!さすが私の彼氏だよ」
恥ずかしい、面と向かってそんなことを言われると耳どころかうなじが赤くなる。絶対に狙って言ってるだろこいつ。可愛いから許すけど……。
その後、ひまりから何を作っているのかを聞かれたが、俺は教えないことにした。その代わり、見ていればわかるとひまりに言うことにした。それを言われたひまりは頬を膨らませて俺の膝の上に乗ってきた。これは作業を見て当てるつもりだな。
――ひまりは挑戦状を受け取った、そう捉えているのかもしれない。なら当ててみるがいいさ。
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私は結月が何を編んでいるかを当てるために、作業を見ることにした。見ていればわかるかもしれない。形からすると何だろう、長方形だよね?うーん、聞いてみようかな?
「結月、何を編んでるのか教えてくれる?」
「まだ教えないよ。明日になればわかるかもよ?」
「明日?もしかして明日って……」
私が言おうとした時、結月は人差し指を出して私の口を止めた。これをするってことはわかってるのかもしれない。そうだとすると、安心する。
「ひまり、口にするにはまだ早いぞ」
「そ、そうだね……」
「まぁ明日を待っててくれると嬉しい。今日は途中までになっちゃうけど、それでもいいか?」
「大丈夫だよ。結月が私のためにしてくれてるってことはわかってるから」
結月は作業の手を止めて私を抱き締めた。うん、暖かい。外は寒かったけれど、今は暖かい。
それにしても、結月のうなじが色っぽい。あれは私を誘ってるのかな?襲っていいっていう合図?どっちだろ?
「結月、襲っていい?」
「待てひまり。何故そうなったか理由を聞いていいか?」
「結月のうなじが私を誘ってるからだよ……」
「それはあれか?俺が悪いのか?」
「そうだよ!変態!髪フェチ!」
ひでぇ言い掛かりだ、と結月は言った。こればっかりは結月が悪い。うなじで誘われる私も人のことは言えないか。明日は私の誕生日だ。結月が何を編んでいるかいるかはわかっちゃったけど、ここで言ったら結月に悪い。明日を楽しみにしよう。
作業は夕方の四時に終わった。残りは後で仕上げるって言ったけど、あの勢いだと徹夜しそうだ。ここは彼女としてエールを送ろう。
「ねえ結月、キスしてあげようか?」
「キス?いいけど……」
結月は目を瞑った。ふっふっふ、引っ掛かったね。普通は唇だけど、私がキスをする場所は決まっている。私は結月の膝から離れ、彼の後ろに立った。そう、キスをする場所は――
――うなじだ。
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うなじに何か感触がした。ん?まさかひまり、本当に誘われたのか!?こいつは……。
「ひまり、お前うなじにキスしたのか?」
「その通りだよ!ごめんね、我慢出来なかった!」
「我慢出来なかったって、満足気に言うお前が怖いよ」
「えへへ」
笑顔で言われたらどう言えばいいかわからなくなる。俺はひまりの頭を撫でることにした。なんか尻尾振ってるように見えたからやっちまった。不意打ちを喰らったのか、ひまりは顔を赤くした。これは仕返しだ。
ひまりはその後、また明日と言って部屋を出た。さて、仕上げるか。明日はひまりの誕生日、付き合ってから初めて彼女を祝うんだ。
俺はコーヒーを淹れて作業に戻った。途中休憩も入れ、作業は深夜の一時まで掛かった。マフラーは無事完成した。あとはひまりにプレゼントするだけだ。
次の日、十月二十三日。ついにひまりの誕生日を迎えた。今日はひまりの家で祝うということになっている。時間は午後の一時からだ。それまで俺は彼女の家でケーキを作ることにした。蘭達も来てくれたようだ。
「結月、今日は上手くいくといいね」
「もちろんだ。蘭も失敗しないようにな」
「ありがと。お互い頑張ろうね」
俺と蘭は互いに健闘を祈った。ひまりは知らない筈だ。蘭達が選んだプレゼントが帽子であることを……。俺の方は知っていても、蘭ならサプライズ的なことでプレゼントは渡せるだろう。
途中でつぐみにも手伝ってもらい、ケーキ作りは順調に進んだ。しかし、苺は二つ程モカのつまみ食いによって犠牲になってしまった。許せ、苺。あとモカ、つまみ食いは止してくれ。
一時間掛けてケーキは完成した。そして二時、ひまりの誕生日パーティーが始まった。最初に蘭達がプレゼントを渡した。その帽子はどうやらひまりが欲しかったものだった。俺は帽子と聞いてはいたが、欲しかったとまでは知らなかった。彼女の欲しい物をもう少し知るべきだったな。
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それから時間は過ぎた。私は蘭達から帽子を貰った時は泣いてしまった。嬉しさのあまり泣いて結月に抱き着いちゃったけど、私にとっては凄く嬉しかった。けど、まだ結月からプレゼントを貰ってはいない。
「ねえ結月」
「何、ひまり」
「二人きりになったね……」
あの後、皆は私達に二人でお楽しみにと見守るかのような眼差しで言って帰った。それを言われたら恥ずかしいし、気まずくなる。結月にどんな顔をしたらいいの?
「とりあえずプレゼントあるから渡すけど、いいか?」
「うん、いいよ」
「プレゼントは気づいてると思うけど、これなんだ」
結月は私にプレゼントを差し出した。丁寧に紙袋で渡すなんて、結月らしい。知ってるけれど、私は言わなかった。言わなかったというより、口止めをされたが正しいか。
私は紙袋に手を入れて結月の編んだ私へのプレゼント、もといマフラーを出した。うん、予想通りだ。
「やっぱりマフラーだったんだね」
「ひまりにはわかってたか」
「当たり前だよ。結月はわかりやすいし、顔に出やすい。けどね……私は結月の彼女なんだよ?」
「随分と自信満々だな。さすが俺の彼女だよ」
えへへ、と私は微笑んだ。当たり前だ、彼女が彼氏のことを知らないでどうする。私と結月は十年も一緒にいたんだ。知らないことなんてあるわけがない。
私は結月の腕に抱き着き、キスをせがんだ。この雰囲気なら、してくれるよね?
「結月、してくれる?」
「わかったよ。もう一つのプレゼントっていうのは変だけど、今キスするから急かすなよ。あと、ひまり」
「何?」
「誕生日おめでとう。好きだよ」
結月はそう言って私の唇を重ねた。こんな不意打ちをするなんて、彼はズルい人だ。けど、そういうところも好きだ。
私の誕生日を祝ってくれてありがとう。好きになってくれてありがとう。大好きだよ、結月。
約一時間で書きましたが、駄文だらけのクオリティになってしまいました