「あ……あ、あああ、ああああああああああああああああ――――ッ!」
――慟哭が、世界を支配していた。
眼からは滂沱と涙が溢れ、喉から悲鳴とも絶叫とも取れぬ声が絶え間なく溢れる。
しかしそんなものは、彼女の途方もない悲しみの一端さえも示しきれていなかった。
今この場にいるのは、彼女と――その前に横たわった少年のみである。
彼女の手を取って逃げようとした少年が凶弾に倒れた瞬間、彼女は怒りと悲しみと混乱に意識を支配され、無差別に辺りに力を撒き散らして周囲を破壊し、その場を逃れていたのだ。
少年の身体には、傷一つない。当然だ。彼女が力を以て傷を塞いだのだから。
けれど――少年は目覚めなかった。
確かに彼女の力があれば、傷ついた身体を治すことは可能だ。
しかし一度失われてしまった命を取り戻すことだけは、出来なかったのである。
「なん……で……どうして……ッ」
彼女は――泣いた。
それこそ、どのくらいの時間が経ったかも分からないくらいに、泣いて、泣いて、泣き尽くした。
だが、それでも涙は止まらない。
彼女は噛み締めた唇から血を滲ませながら、ガリガリと頭を、肌を掻き毟った。
思考を回転させる。この絶望を打破する手段がないかを考え抜いた。
しかし、考えても考えても、答えは出てこなかった。
「…………」
少年の笑顔をもう一度見るためには。
そして、少年と少しでも長くともにいるためには、一体、何をすればいいのか。
彼女は考えた。
ひたすらに――考えた。
「…………ぁ…………」
――どれくらい、そうしていただろう。
いつの間にかカサカサになってしまっていた唇から、小さな小さな声が漏れた。
「そう……か……」
彼女はよろよろと身体を起こすと、静かに眠る少年の顔を覗き込んだ。
「――
そしてそう呟いて、少年の頬を撫でる。
そう。
それが、長い長い思考の果てに、彼女が至った答えであった。
――彼女は、ぺろりと唇を舐めて湿らせると、ゆっくりと、少年の顔に自分の顔を近づけていった。
そして、その唇に、自分の唇を重ねる。
少年の唇はまだ柔らかったけれど、もう、体温は失われていた。
「…………」
彼女は集中するかのように目を伏せた。
自分を取り巻く世界、それを、頭の中で変質させるような感覚。
すると、少年の身体が淡い光の粒と化し――彼女の身体に、吸い込まれていった。
「…………んっ…………」
少年の身体を完全に吸収し、彼女は小さな吐息とともに身を起こした。
そして、優しく自分の腹部を撫でる。
「――私が、もう一度産んであげる。
一度死んだ少年が生き返ることはない。
ならば――自分の胎を使って、少年をそっくりそのまま作り直せばいい。
否、そっくりそのまま、というのは語弊があろうか。
彼女の胎内で身体を再構成する過程で、少年に彼女の力を分け与える。
少年は、少年としての身体を持ったまま、力を得ることになるのだ。
嗚呼――だが、それだけでは駄目だ。
人の身体は余りにも脆い。一度に全てを与えては、きっと耐え切れず自壊してしまうだろう。
少しずつ、少しずつ。
幾つもの因子に分けて、力を少年に与えねばならない。
だから、最初に用意するのは一つだけでいい。
――『瞬時に回復する力』。
いつか、いつの日か、少年が産まれ、育ち、安定した身体を手に入れたときに。
一つずつそれを手に入れられるように、渡す。
彼女はそれを、側で見守っていればいい。
そして、少年が全ての力を手に入れたそのとき――
少年は、何者にも害されぬ力を持ち、未来永劫にも近い命を持った、彼女の、永遠の恋人となるだろう。
「――もう、絶対に離さない。もう、絶対間違わない」
彼女は、お腹を撫でながら呟いた。
「だから……待っててね。――