「うーむ」
放課後、一夏は机の上でぐったりとうなだれていた。
(ISのこと何も知らないから、とりあえず勉強しようと思ったが。意味のわからん専用用語ばっかりだな。誰かに教えてもらわないとどうにもなりそうにないか……)
とにかく専門用語の羅列なのだ。辞書でもなければやっていけない。だがISの辞書など存在しないので、つまり一夏は今日一日殆ど全く何もやっていけなかった。
「よかった。織斑くん、まだ教室にいたんですね」
「あ、山田先生」
呼ばれて顔を上げると、副担任の山田先生が書類を片手に立っていた。
「えっとですね。寮の部屋が決まりました」
「え?」
そう言って部屋番号の書かれた紙とキーをよこす山田先生。
そう、ここIS学園は全寮制なのだ。生徒は全て寮で生活を送ることが義務付けられている。これは将来有望なIS操縦者たちを保護するという目的もあるらしい。
「確か一週間は自宅から通学するって聞いてましたけど」
「事情が事情なので無理矢理ねじ込んだそうですよ」
「でも荷物とかあるんで一度家に帰らないと……」
「あっ、それなら」
「それなら私が手配してやった」
ああ、この声、絶対に千冬姉だよ。
「着替えと携帯の充電器があれば十分だろう。ありがたく思え」
「はぁ……どうもありがとうございます」
すげぇ大雑把。
◇
「えーっと、0号室……0号室……」
一夏は部屋番号を確認して、ドアに鍵を差し込む。
「おお、さすが国立というか。そこいらのビジネスホテルよりよっぽどいい部屋だな」
部屋に入ると、まず目に入ったのは大きめのベッド。それが二つ並んでいる。そこいらのビジネスホテルより遥かにいい代物なのは間違いない。
「ふー、ベッドもいいもん使ってやがんなあ……。しっかし疲れた。これからどうしたもんかね」
荷物をとりあえず床にやって、一夏は早速ベッドに飛び込む。
ベッドが余りにも気持ち良かったのか一夏は睡魔に襲われ、眠りについてしまった。
◇
――久しぶり。
頭の中に、どこかで聞いたことのある声が響く。
――やっと、会えたね、×××。
懐かしむように、慈しむように。
――嬉しいよ。でも、もう少し、もう少し待って。
一体誰だ、と問いかけるも、答えはない。
――もう、絶対に離さない。もう、絶対間違わない。だから、
不思議な声はそこで、途切れた。
◇
「~♪ ~~♪ ♪……」
耳に優しい鼻歌を聴きながら、一夏は次第に目覚める。
(う……?)
刹那、目に入る光に顔をしかめる。
そうすると、一夏の目覚めに気付いたその人は、光を遮るように一夏の前に顔を寄せてきた。
「目覚めた?」
妙に眠たげな顔をした少女は、その顔に違わぬぼうっとした声でそう言った。
「どち……らさま……ですか?」
「……ん、ああ」
少女はぼうっとした様子のまま身体を起こすと、垂れていた前髪を鬱陶しげに搔き上げた。
「同室になった
「そうですか……」
まだ眠りか覚めきらない、ぼんやりとした意識で返事をする。
「ていうかっ!」
ふと体勢に気付いた一夏はがばりと起きる。
妙に柔らかくて心地のいい、しかもいい匂いのする枕だと思ったら!
「な、な、何してるんですか!?」
「ひざまくら」
ぐあ。
その通りだが、その通りなんだけど。
そう思って零香から離れようとした瞬間、素早く両手が一夏の肩を下ろす。
「のわっ!?」
体勢を崩した一夏は再びふかふか膝枕へと。
「まだ、寝てていいよ」
「いやいや。それは不味いだろ!」
と、上体を起こす一夏。
「……ん」
もの足りなさそうに零香は一夏のことを見つめる。
いやいや、どうしてそんな顔をするのですか。
一夏は空いているもう一つのベット再び入る。
今日は色々なことが起こり過ぎた。肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていたのか、一夏は布団の中ですぐに眠りに落ちていった。
それからしばらく零香は一夏を見つめて、ひどく優しい表情を浮かべる。そして、黒いクリスタルを取り出すと。
「おやすみ、一夏……」
一夏の身体へと吸い込まれていった。
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