「教科書の6ページ」
「え、えーと……現在世界中にあるISは467機。その全てのコアはIS開発者、篠ノ之博士が作成したのでその技術は一切開示されていません。博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行なっています」
「――それ故に専用機は国家、または企業に所属する人間にしか与えられない。一夏が戦う相手のセシリアさんがいい例」
「なるほど……」
一夏は零香の説明を聞いて納得する。
代表候補生と言う立場は、思っていた以上のことであることを。
「零香さん」
「ん?」
一夏は一つだけ疑問があった。
「俺、授業出なくていいって本当なんですか?」
そう。一夏は目覚めた時に零香がそう伝えたのだ。
セシリアとの決闘の日まで、授業に出なくていいと。
「ん。その代わりに、私がみっちり鍛える」
「はあ……」
一夏は未だに草薙零香のことがよくわからないでいた。
あの織斑千冬をそっちのけで寮でツーマンセルで勉強を教え込まれているのだ。
「千冬から伝言を預かっている」
「はい?」
さらには、千冬姉のことを千冬と呼んでいるのだ。
普通ではありえない。
本当に一体、零香さんは何者なんだ?
「一夏に専用機が与えられることになった」
「え? 確か専用機って……」
「ん。一夏は他の人とは違い特例。データ収集が目的のため、政府が用意してきた」
つまるところ、一夏には専用機がプレゼントされるということだ。
「ん。今日の授業はここまで。休憩を挟んでからアリーナで実演練習」
そう言って、零香は懐中時計で時間を確認し、席を立つ。
◇
そして、翌週。セシリアとの決闘の日。
「一夏ァ!!」
「うお!? 箒!?」
一夏の目の前には、怒りをあらわにする幼なじみの篠ノ之箒がいたのだ。
「一体どういつもりだ! 剣道場に来ないどころか、授業にも来ないとは、お前は一体何を考えている!!」
「あー、本当にすまん、箒」
結局のところ、一夏は最初の初日以降、教室に顔すら出すことはなく、麗香の個人レッスンを受けていた。
「ん。一夏は謝る必要はない」
零香は一夏の袖を摘まみながら、その横に立つ。
「貴様……一夏との話の邪魔をするな!!」
一夏との話に割り込んで来た零香に箒はさらに怒りをあらわにしする。
「篠ノ之! そこまでにしろ!!」
「っ! 織斑先生!!」
第三アリーナ・Aピットに駆け足でやってくる山田先生と織斑先生だった。
「ん。ちゃんと仕上げてきた」
「ああ。山田くん、すまないが後のことを頼む」
「は、はい」
織斑先生は山田先生に一夏のことを任せ、零香と共に行ってしまった。
「では、織斑くん。ピットにISが搬入されてありますので」
ごごんっ、と鈍い音がし、ピットの搬入口が開く。斜めに噛み合うタイプの防壁扉は、重い駆動音を響かせながらゆっくりとその向こう側を晒していく。
――そこに、『白』が、いた。
白。真っ白。飾り気のない、無の色。眩しいほどの純白を纏ったISが、その装甲を解放して操縦者を待っていた。
「これが……」
「はいっ、これが織斑くんの専用IS【白式】です」
真っ白で、無機質なそれは、一夏を待っているように見えた。
「ハイパーセンサーには異常はありませんか? 織斑くん、気分は悪くないですか?」
「大丈夫です」
山田先生の言葉通り、装甲を開いている白式に身体を任せる。受け止めるような感覚がしてから、すぐに一夏の身体に合わせて装甲が閉じた。
「……行ってくる」
「……ああ、勝ってこい」
その言葉に首肯で応えて、一夏はピット・ゲートに進む。微かに身体を傾けるだけで、白式はふわりと浮かび上がり前へと動く。
◇
その一方、織斑先生と零香は――
「すまないな。あいつのことを任せて」
「かまわない」
普段とは違い、まるで友のように千冬は話す。
「勝率はどう見る」
「五分……運を含めるなら六分」
「そうか……」
少し残念そうにする千冬に零香は微笑む。
「大丈夫――彼ならきっとやってくれる」
零香は一夏の勝利を誰よりも願う。
そして、その時が始まろうとしていた。
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