インフィニット・ストラトス 零ユートピア   作:ぬっく~

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第6話

「あら、逃げずに来ましたのね。慣熟飛行(ウォーミングアップ)する時間くらい差し上げますわよ?」

 

セシリアがふふんと鼻を鳴らす。

鮮やかな青色の機体〈ブルー・ティアーズ〉。その外見はフィン・アーマーを四枚背に従え、どこか王国騎士のような気高さを感じさせていた。

 

「いや……いい。IS(こいつ)まるで、昔っから自分の手足だったみたいに馴染むんだ」

 

「それは結構」

 

「それでは最後のチャンスをあげますわ。わたくしが一方的な勝利を得るのは明白の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら許して差し上げないこともなくってよ?」

 

腰に当てた手を一夏の方に、びっと人差し指を突き出した状態で向けてくる。

 

「そういうのはチャンスとは言わないな」

 

「そう? 残念ですわ」

 

そう言ってセシリアは目を笑みに細める。

 

「それなら―――お別れですわね!

 

キュインッ! 耳をつんざくような独特な音。それと同時に走った閃光が一夏の身体を打ち抜く。

 

「さあ踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

白式のオートガードが発動し、一夏の身体を守る。直撃は避けたものの、さすが代表候補生、正確な射撃だった。

射撃。射撃射撃射撃。まさに弾雨のごとく攻撃が降り注ぎ、シールドエネルギーがどんどん削られてく。

 

「何か武器は!?」

 

白式に問うと、すぐさま現在展開可能な装備が現れる。

しかし、そこには『接近ブレード』と書かれた装備しか表示されなかった。

 

「何もないよりマシか……ま、逃げてるだけじゃ勝ちようないしな。やるだけやるさ!」

 

素手やるよりはいいと、一夏は接近ブレード《名称未設定》を呼び出し(コール)、展開する。

キィィィン……。

高周波の音とともに、一夏の右腕から光の粒子が方出される。それは手の中で形となって、収まる。

片刃のブレード、渡り一・六メートルはある長大な『刀』が一夏の武器だった。

 

「中距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑もうだなんて……笑止ですわ!」

 

すぐさまセシリアの射撃。それを身をひねって一夏は躱すが、目の前にあるのは二十七メートルという相手との距離。一夏にとっては、数キロにも思える道のりだが、引く訳にはいかない激戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

「―――27分。持った方ですわね。褒めて差し上げますわ」

 

「そりゃどうも……」

 

シールドエネルギーの残量が残り67。

やばいな……シールドの残量が、これ以上当たるワケにはいかない……。

 

「このブルー・ティアーズを前にして、初見でここまで耐えたのはあなたが初めてですわね」

 

セシリアの機体名称の由来、四つの自立機動兵器(ブルー・ティアーズ)。まるで意思を持つかのようにそれぞれが独立で動いて、あらゆる場所からレーザーを撃ってくる。やっかいな武装だな……。

 

「では、閉幕(フィナーレ)と参りましょう」

 

セシリアの笑みとともに右腕を横にかざす。すぐさま、命令を受けたブルー・ティアーズが二機多角的な直線機動で接近してくる。

 

「くっ……!」

 

一夏の上下に回ったそれらビットの先端が発光し、レーザーを放ってくる。それを辛うじて防御、あるいは回避すると、その隙をセシリアのライフルが突いてくる。

 

「左足、いただきますわっ!」

 

まずい! 当たれば確実に負ける!!

なら、一か八か――

 

「ぜああああっ!!」

 

ガギンッ! 派手な音と一瞬の花火。無理矢理の加速で、一夏の身体はセシリアのライフルに正面からぶつかった。その衝撃で砲口が逸れ、なんとか止めの一撃を逃れる。

 

「なっ……!? 無茶苦茶しますわねっ。けれど、無駄な足掻きっ!」

 

セシリアは距離を取り、空いている方の左手を横に振る。すると、それまで周囲に待機していたブルー・ティアーズが一夏に向かって飛んで来る。

 

(一機撃墜!!)

 

穿てれるレーザーを潜り抜け、一閃。重い金属を切り裂く感触が手のひらから伝わる。

真っ二つにされたビットは両面に青い稲妻を走らせ、爆散した。

 

「なんですって!?」

 

驚愕するセシリアに向かって、一夏は上段突撃の構えで斬り込む。

 

「くっ……!」

 

後方に回避するセシリア、そしてまたその右手を振るう。そしてビットが二機飛んでくる。

一夏は軌道を読み、ビットの後部推進器(スラスター)を破壊して落とす。

これで二つ目!! 残りあと半分!!

剣の扱いに集中できる。これも訓練の成果かな。

 

「このビットは毎回セシリアが命令を送らないと動かない! しかも、その時セシリアはそれ以外の攻撃をできない。制御に意識を集中させているからだ。つまり――ビットが動いている間、セシリアからの攻撃はない!」

 

ひくくっとセシリアの右目尻が引きつった。図星だったようだ。残りのビットは二機。

 

(……!!)

 

しかも軌道は読めた。

 

()()は必ず俺の反応が一番遠い所から狙ってくる!)

 

(わたくしのビットが三機も!? ありえませんわ! こんなのマグレに決まってます!!)

 

(必ず見えない所から仕掛けてくるなら逆に見当もつくし、どこに飛んで来るか自分で誘導できる。とにかく距離をつめればこっちが有利だ)

 

一夏はやっと見え始めて勝利に、わずかに胸を躍らせた。

 

 

 

 

 

 

「はぁあ……。凄いですねぇ、織斑くん」

 

ピットでリアルタイムモニターを見ていた山田先生がため息混じりに呟く。確かに素人が候補生と張り合える程度の健闘ぶりだった。

しかし、織斑先生は対照的に忌々しげにな顔をする。

 

「あの馬鹿者。浮かれているな」

 

「えっ? どうしてわかるんですか?」

 

「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろう? あれはあいつの昔からのクセだ。あれが出る時は大概簡単なミスをする」

 

「へえぇぇ……。さすが姉弟ですね。そんな細かいことまでわかるなんて」

 

なんとなくそう言った山田先生に、けれど織斑先生はハッとする。

 

「ま、まあ、なんだ。あれでも一応私の弟だからな……」

 

「あー、照れてるんですかー? 照れてるんですねー?」

 

「山田先生。最近ひよっ子どもの指導ばかりで鈍ってしまったので、格闘訓練にでもつきあってもらえないか……?」

 

からわかれた織斑先生は山田先生を睨みつける。

山田先生は地雷を踏んだと察し、黙り込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

(最後の一機!)

 

セシリアの間合いに入った一夏は、振り下ろした刀で最後のビットを撃墜。

ライフルの砲口は間に合わない。確実に一撃が入るタイミングだった。

 

「残るはセシリア! お前本体のみ!!」

 

にやり、と。セシリアが笑うのが見えた。

 

「おあいにく様。ブルー・ティアーズは六機あってよ!」

 

セシリアのセシリアの腰部から広がるスカート状のアーマ―。その突起が外れ、動いた。

しかも、さっきまでのレーザーとは違い。これは『弾道型(ミサイル)』だ。

 

ドカァァンッ!!

 

赤を超えて白い、その爆発と光に一夏は包まれた。

 

 

 

 

 

 

「一夏っ!!」

 

モニターを見つめていた箒は、思わず声を上げた。

織斑先生と山田先生も、爆発の黒煙に埋まったモニターを真剣な面持ちで注視する。

 

「――ふん。機体に救われたな、馬鹿者め」

 

黒煙が晴れた時、織斑先生は鼻を鳴らした。

まだ微かに漂っていた煙が、弾けるように吹き飛ばされる。

 

「ようやく、目覚めたのね……」

 

その中心にある純白の機体。

そう、白式の真の姿が――

 

 

 

 

 

 

「30分――それなりに楽しめましたわ」

 

セシリアは勝利を確信していた。

 

『初期化と最適化が完了しました。確認ボタンを押してください』

 

「ま、まさか……一次移行(ファーストシフト)!? 今まで初期設定の機体で戦っていたって言うの!?」

 

これには、セシリアは驚きを隠せなかった。

まさか、初期設定状態で自身と互角に渡り合っていたのだから。

 

「これが白式の……真の姿――」

 

『セフィロトシステムのインストールが完了しました』

 

突然現れたパネルに、情報が表示されていく。

 

『モード〈神威霊装・十番(アドナイ・メレク)〉と〈神威霊装・五番(エロヒム・ギボール)〉の使用が可能になりました』

 

「モード〈神威霊装・十番(アドナイ・メレク)〉? これは――」

 

「そ、それがなんだと言うのですの? これで対等の条件になっただけですわ! 最後に勝つのはこのわたくしです!!」

 

「零香さんとの訓練の成果を無駄にする訳にはいかないためにも――俺は誰にも負けないっ!!」

 

「いいえっ!! 勝つのはわたくしですわ!!」

 

弾頭を再装填したビットがセシリアの命令で飛んでくる。だが――

 

「来い! 〈鏖殺公(サンダルフォン)〉!!」

 

それは――幅広の刃を持った、巨大な剣だった。

虹のような、星のような幻想的な輝きを放つ、不思議な刃。

一夏が剣を振りかぶると、その軌跡をぼんやりとした輝きが描いていった。

そして――

 

(ブルー・ティアーズを全て――それも剣一本で!?)

 

一夏が、ブルー・ティアーズに向かって、剣を横薙ぎにブン、と振り抜く。

もちろん、剣が直接届くような距離ではない。

だが実際――ブルー・ティアーズを全て破壊した。

 

「おおおおっ!」

 

ISに備わっている搭乗者保護機能。搭乗者は絶対防御というバリアフィールドで守られている。

――でも、その防御フィールドを上回る威力の攻撃を受けた場合は搭乗者はダメージを負う――つまり最悪、死に至るのだ。

 

(あのセシリアが怯えている!? 俺は――このまま女の子を斬ってもいいのか?)

 

一夏は躊躇してしまった。

その結果――

 

「いやっ! 来ないでっ!!」

 

「やべっ!」

 

セシリアのライフルをもろに受けてしまったのだ。

 

『織斑機。白式、シールドエネルギー0。模擬戦終了です』

 

『聞いたか二人とも、試合はオルコットの勝利だ』

 

試合終了の指示を出す織斑先生だが、セシリアは――

 

「落ちなさいっ!! このっ!! このっ!!」

 

(セシリアのやつ――取り乱してる!?)

 

模擬戦が終わったにもかかわらずに、未だに一夏にめがけて射撃を繰り返す。

 

『織斑、撤退しろ。シールドのない状態で攻撃を受ければどうなるかわかっているな?』

 

「撤退? クラスメイトがこんな状態なのに見捨てて逃げるなんてできないよ。ましてや原因が俺だとしたらなおさらだ」

 

だが、一夏はセシリアを見捨てることが出来なかった。

 

「さっさと落ちなさいっ!!」

 

(パニクっても狙いは正確だし、動きも制限されちまう。流石訓練積んでる代表候補生だけあるぜ)

 

一夏はなんとかギリギリのところでセシリアの攻撃を避ける。

 

(バリアがあったさっきと違って、当たったら下手すりゃアウトな状態だからな……)

 

それでも、一夏はセシリアの元へと近づかなければなかった。

 

「――って何躊躇してんだ。行くしかないだろ!!」

 

「いや――っ!! 来ないで――!!」

 

「うお――っ!!」

 

なんとかセシリアの元までたどり着いた一夏はセシリアを取り押さえる。

 

「落ち着け! セシリアっ! お前の勝ちだ!!」

 

「わ、わたくしが……勝ちましたの?」

 

勝機に戻ったセシリアは一夏と共にアリーナに降り立つとISを解除する。

 

「ああ。シールドエネルギー切れで俺の負け」

 

『命がけで救ってくれたクラスメイトに感謝するんだな、オルコット』

 

織斑先生の言葉にセシリアは罪悪感を感じ、

 

「た、大変! 怪我なさってますわ!?」

 

「平気だって、かすり傷だから」

 

(シールドバリアが失われている状態でわたくしのために……命がけで!?)

 

「セシリア?」

 

「あの、その……勝利を求める余り、つい夢中になり過ぎて――傷つけてしまったお詫びですわ」

 

 

 

 

 

 

「負けてしまったね」

 

「ああ……」

 

一夏の隣を共に歩く零香はそっと一夏に声をかける。

 

「悔しい?」

 

「そりゃまあ、悔しいさ」

 

「何故あの時躊躇したのだ。相手は完全に怯んでいたではないか。勝機を見逃すなど甘すぎるぞ!」

 

零香とは逆にいた箒は今回の勝敗を分けた所を掘り返す。

 

「そう言われると返す言葉はないが、怯えてる相手にやっぱり剣は震えないだろ?」

 

零香はそれを聞いて、少し微笑む。

 

「一夏は一夏のしたいようにすればいいんだよ。それが、どんな結果を生んでも後悔をしなければいい」

 

その日、一夏とセシリアとの模擬戦が幕を閉じたのだった。




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