サアアアアア……。
シャワーノズルから熱めのお湯が噴き出す。シャワーを浴びながら、セシリアは物思いに耽っていた。
(もしあの時、わたくしの攻撃がもうすこし遅ければ――いえ、彼が躊躇することなく剣を振り抜いていれば確実にわたくしの負けでしたわ)
いつだって勝利への確信と向上への欲求を抱き続けていたセシリアにとって、困惑はひどく落ち着かないものだった。
けれど、腑に落ちない。なんだかすっきりとしない。
(初代ブリュンヒルデこと、最強のIS使い織斑千冬。同じDNAを持つ織斑一夏――)
あの男子のことを思いだす。あの、強い意志の宿った瞳を。
(もし彼があの時、剣を止めなければわたくしの身体は切り裂かれていましたわ。あの時彼の中にあったのは、勝つよりもわたくしの身を案じる
セシリアは出会ってしまった。織斑一夏という、理想の、強い瞳をした男と。
(織斑……一夏……)
その名前を口にしてみる。不思議と胸が熱くなるのが自分でもわかった。
どうしようもなくドキドキとして、セシリアはそっと自分の唇を撫でてみる。水滴に濡れた形のいい唇は、触れられることを望んでいたかのように不思議な興奮を生み出した。
「……んっ」
熱いのに甘く、切ないのに嬉しい。
(彼のあの腕に抱きしめられたい……あの胸に包まれたい――)
意識すると途端に胸をいっぱいにする、この感情の奔流は。
(まるで、子供の頃読んだ物語の騎士様みたいに――強くて――優しくて――……)
その正体を。その向こう側にあるものを。
(わたくしの……騎士様。こんなに強い男性初めてですわ……知りたい――あの人のこと、もっと……)
浴室にはただただ水の流れる音だけが響いていた。
◇
一夏はベッドに横になりながら右腕に付けられたガントレットを眺めていた。
(セフィロトシステム……)
追加武装とは全く違い、別系統での武装追加だったのだ。
山田先生にも一応このセフィロトシステムについて質問をしてみたものの、全く聞いたことがないシステムらしい。
「ん」
ひょっこ、と零香が覗き込む。
一夏は目をパチパチさせ、遅れて驚き、そのままベッドから落ちる。
「な、なんですか。零香さん!!」
「ん。一夏が悩んでいたから」
零香はベッドに座りながら一夏の問いに答える。
「あ、いや。それほどのことではないの――」
「セフィロトシステムのこと?」
一夏の言葉を遮って零香が言葉を発する。
「今……なんって――」
「セフィロトシステムのことが知りたいんでしょ?」
零香は確かにセフィロトシステムと言いた。
ゴクリ、と一夏は息を呑む。
何で零香さんがそのことを知っているか、疑問が残るが一夏はそんなことを考える余裕がなかった。
「セフィロトシステムは……私が作ったシステムだもの」
目の前にこのシステムの製作者がいたのだ。
「零香さんが……これを作ったのですか……?」
「ん。一夏だけのための、史上最強のシステム」
「俺のためだけのですか?」
「ん。条件を満たせば解放される。現行のISを10機でも勝つことができる装備・能力が使えるようになる」
現行のIS……それはつまり、セシリアの〈ブルー・ティアーズ〉などの第三世代ISを10機を相手に勝つことができると零香は言うのだ。
普通ならありえない。
第三世代に至るまでにISが発表されてから10年以上の年月が経っている。
目の前にいる13歳ぐらいの少女がその常識を打ち砕いたシステムを作り出してしまったのだ。
「知りたいの? 嫌なの?」
零香は首を左右に傾け、一夏に問いかける。
呆然とする一夏は、有無を言わずに右腕のガントレットを差し出す。
零香は身を前に出して、ガントレットに触れる。
「セフィロトシステムとは、旧約聖書の創造期2章9節以降にエデンの庭の中央に植えられた生命の木をモデルに作られたシステム」
生命の木……これは一夏も知っていた。
よく物語とかに使われる題材であり、アダムとイヴの物語に出てくる木だ。
「今一夏が使えるのは、
「その……エロヒムなんとかと言うのは?」
「セフィロトには10個の神名と守護天使があるの。そして、その五番がエロヒム・ギボールとカマエル。十番にアドナイ・メレクとサンダルフォンだよ」
ガントレットから映し出されるモード名と装備名が零香の言う通りに一致するのだ。
「能力は、超回復力と延長線上に在る物をある程度ぶった切る能力だよ」
「はい?」
よくわからない能力に一夏は首を傾ける。
「セフィロトシステムを使用中の間、白式のシールドエネルギーが10秒ごとに100回復して、一夏が剣を振った延長線上に在る物をある程度ぶった切ることができるようになれる」
とんでもない能力に一夏は言葉を失う。
ISの公式ルールにより、ISのシールドエネルギーの量は両者とも同じ1000に設定される。
そして、試合中にシールドエネルギーが回復することはない。
しかしこのセフィロトシステムはその常識を破壊してしまったのだ。
「ちなみに、白式の
うわ……もう、この機体はチート機体と言ってもいい。
白式の
〈零落白夜〉が決まれば試合には問答無用で勝利することができる最強の能力であるが、それなりのリスクがあった……今までは。
「一夏が強くなるなら、私は何でもするよ」
零香は両手を広げて微笑むが、一夏にはその笑顔が少し恐ろしく感じた。