古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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 他のサイトで公開していましたが事情によりハーメルン様の方に移ってきました。
 宜しくお願いします。
 取り敢えず毎日1話ずつUPしていきます。


第一部
第1話


 封印指定のダンジョン、誰が何時・何の為に・どうやって造ったかは正確な記録は無い。

 此処は国内に数あるダンジョンの中でも危険度が高く、国が冒険者等の立ち入りを禁じた特殊なダンジョン。

 エムデン王国建国時代には既にダンジョンは有った、だが300年以上も前に造られた最古のダンジョンとしては異質過ぎる存在。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ねぇ、ディルク様……このダンジョンってさ、長らく封印指定されてたんでしょ?」

 

 今回の調査隊リーダーである彼はエムデン王国聖騎士団副団長であり父親が男爵位を持つ貴族の次男。

 金髪碧眼で筋肉質の典型的なエムデン王国貴族の彼だが、他の貴族と違い平民への対応も高圧的でない。それは彼が妾腹であり家を継げない事も関係していると思うわ。

 エムデン王国貴族の階級は公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順で男爵は最下級の五位、その次男では領地も貰えないので国の要職に就き給金を貰っている。

 領地の無い貴族は珍しくも無いが、彼はその剣の実力だけで騎士団の副団長まで上り詰めたものの、彼曰く才能と努力で可能な出世はソコまでらしい。

 騎士団長は伯爵以上の爵位が無ければ無理で、大抵は地位で貰える名誉職で有り実務は副団長達が行うそうです。

 彼の所属する聖騎士団では8人の副団長が団長をサポートしていて、彼は副団長の序列第5席。

 

「ああ、300年以上は封印されていた筈だぞ、少なくともウチの騎士団が創設されてから入った奴は居ない。

まぁエムデン王国建国前のルトライン帝国時代から在ったらしいぞ」

 

 ルトライン帝国って事は300年以上前に戦争に負けて地図から消えた国よね?

 その時に数多の魔法や魔法に関する技術も消えた……あの国は魔法技術の最先端を突き進み秘匿し、最後は周辺諸国が危険視して連合を組んで滅ぼしたというのが尤もらしい噂。

 抜き身のロングソードを構え周囲を警戒しながら薄暗い通路を歩く彼に私は秘かに憧れている。

 暗い石造りの回廊、なのに要所要所の壁面に青白い魔法の炎が灯されているのが不思議。

 故に自分の周囲が辛うじて見渡せるのが幸いだけど、普通なら後衛職の私達が片手に松明を持つかしないと駄目なのに……

 何百年も燃えている燈篭だけでも持ち帰れれば一財産だと思う、これも失われた魔法技術の一つ。

 日々の灯りの為の油代も馬鹿にならないので本気で持ち帰りたい。

 

「この正確に隙間なく積まれた巨大石も凄いわよね、髪の毛1本入らない程に正確に積まれているわ。

ルトライン帝国が今の技術を上回っていたという噂もコレを見ると……」

 

 廊下の壁に積まれた石を指でなぞると、表面はツルツルしていて繋ぎ目にも段差が無い。

 

「信憑性が有るってか? そんな夢物語を信じてるのか? イェニーは可愛いな」

 

 この憎まれ口を叩くのが盗賊のゲレオン、中年のスケベ親父だが罠解除とかの技能は高いらしい盗賊ギルドお勧めの一人だ。

 でも小汚いし臭いし酒臭いしスケベだし、良い所なんて何も無い普通なら絶対係わり合いになりたくない男性。

 直ぐに私のお尻を触ろうとするので本当に困る、死ねば良いのよセクハラ野郎!

 

「ゲレオンは意地悪だわ。でも今の技術でコレを造れるの? 無理でしょロータル?」

 

 ロータルも魔術師ギルドお勧めの魔法使い。フードを深く被り素顔を未だ見た事は無いけど声や仕草、僅かに見える手の皺を考えると老人よね。

 でも腰も曲がってないし背も高いし不思議で礼儀正しい人で、私は秘かにお祖父ちゃんと呼んでいる。

 

「ふむ、この燈篭だが火の精霊と契約をしてるのだろうな……普通は契約者が死ねば契約は無効となるのだが300年以上も続いているとは謎だ。ルトライン帝国は魔法大国で今では失われた魔法や技術を沢山持っていたのは事実だぞ。出来れば今回のクエストが終わったらじっくり調べたいのだが無理かな?」

 

「国が管理している封印迷宮だからな、今回は戦費を補う為に特例で入る事を許可された……半分こじ付けだがな。

でも財宝を見付けなければ我が国は遠からず滅びるだろう、あの仁君気取りの馬鹿王の為に!」

 

 何故、騎士団の副団長第5席のディルク様が私達冒険者と一緒にダンジョンを攻略してるかと言うと、この国の危うい現状に起因する。

 エムデン王国は現在戦争中、隣国のコトプス帝国から侵略を受けている。

 それも奇襲に近い形で隣接する国境から敵が雪崩れ込んできて、最悪の侵略軍により多くの村や町が襲われ略奪が行われた。

 エムデン王国も迅速に対応し3つ有る騎士団を直ぐに向かわせ二陣として常備軍、三陣として貴族達から編成される部隊を順次投入し一度は国境の外に何とか敵軍を追い出す事に成功した。

 本来なら奇襲に近い形で攻めてきた国に対して賠償なり、そのまま攻め込むなりをするのがこの時代の常識、戦費だって馬鹿にならず参加した貴族達にも恩賞を渡す必要が有る。

 つまりお金が沢山必要なのは子供でも分かる。

 だけど現王アレクシク三世は侵略戦争を良しとせず軍を国境に留めて復興を始めた、確かにそれは素晴らしい事だ。

 素晴らしいのだけど侵略の脅威が無くなってないのに復興に力を入れて、あまつさえ国境に近い敵国の町や村も復興を支援した。

 これを他の隣国のバーリンゲン王国とウルム王国は、こぞってアレクシク三世を褒め称えたが、これは額面通りに受けては駄目らしい。

 少なくともウルム王国はコトプス帝国と婚姻外交を行っているので、アレクシク三世を煽り立ててコトプス帝国への侵攻を遅らせたのだ。

 時間を稼げたコトプス帝国は撤退してきた軍を再編して再度エムデン王国に侵攻を始めた。

 現在戦況は膠着状態だが、軍を長期間国境に張り付けるだけでも膨大なお金が掛かってるので国家予算は火の車。

 国庫も日々蓄えが目減りしている状態を憂いた王弟アウレール様が色々な手を打って金策に奔走し、その内の一つが冒険者ギルドを中心とした各ギルドへの封印迷宮への攻略要請であり、各ギルドお勧めの人達を監視する為に同行しているのがディルク様。

 でも時間が掛かる迷宮攻略まで金策に期待しているとは、エムデン王国も本当に危ないかも知れないわ。

 我々冒険者は隣国のギルドを頼って逃げる事も可能だ。特定の国で活動する訳じゃないから比較的国外には出やすい。

 勿論戦争中に出国が許可されるかは疑問だけど、国民よりは簡単だと思う。

 

「でも、この迷宮っておかしくない? 私達半日は北側に向かい歩き続けているのに罠だけで敵が居ないわ……」

 

 迷宮の中は涼しく適度に湿気も有って過ごし易い。それに迷宮特有の異臭もないし夏の間は此処に居たいほど快適よ。

 確かに盗賊ギルドから派遣されたゲレオンが苦労する罠が多数あったが、侵入者を排除するには罠だけはおかしい。普通はゴーレムとかモンスターとかが居るはず。特にルトライン帝国時代には今では考えられない高性能のゴーレムが……。

 

「そうだな、変だぜ……いくら通路が曲がっていようとも確実に北に向かって進んでるんだ。普通ならもう渓谷にぶつかっている筈だな、つまり空間が歪んでる?」

 

「ははは、その謎を解く鍵が目の前にあるぜ。見てみろよ、デカイ扉だな……まるで謁見の間みたいな豪華絢爛さだ」

 

 幅4m高さ8m、黄金の輝きを放つ豪華な両開き扉を見上げる。

 ディルク様が言うならばエムデン王国の謁見の間の扉にも引けを取らないのね。

 ゲレオンが扉に罠が無いかを調べているけど、こっそりナイフを使い嵌め込まれた宝石を取ろうとして殴られたわ。

 

「この扉だがよ、金をふんだんに使ってるし嵌め込まれた宝石も見事だぜ。エムデン王国からの依頼を十分に達成できる」

 

「扉一つでか? だが、この扉を持ち帰るって事はよ……扉を開けるって事だぜ? 果たして扉の中から何が出ると思う?」

 

 コレだけの扉で守られた中身ってなんでしょう? 財宝? それとも古代の守護者? 封印されたモンスター?

 

「どうだ、ゲレオン? 扉は開くのか?」

 

 ロングソードを握り直したディルク様が尋ねたのは、中を確認するって事?

 

「開く開かないじゃないぜ、そもそも扉には鍵が掛かっていないんだ……俺は罠だと思う。扉の宝石を取れるだけ取れば良くないか?」

 

「俺もゲレオンに賛成だ。無理する必要は無いだろ? 迷宮に入って初日で依頼達成なんだ、ラッキーだったな」

 

 暫く無言で考えるディルク様……5分程だろうか?

 

「そうだな……無理する必要は無いな、一旦戻って工兵を呼んでこよう。証拠にゲレオンが外した宝石を見せれば納得するだろう」

 

 リーダーの決断に皆が安堵する、こんな封印指定の迷宮で無謀な攻略などしたくないのが本音よね。

 しかも罠だけで敵もいない怪しい封印迷宮なんて早く出たいわ。

 来た道を戻ろうと後ろを向いた瞬間、今まで固く閉ざされていた観音開きの扉が、音を立ててゆっくりと開いた……。

 

『逃がさんぞ、迷宮を攻略せし(つわもの)達よ。歓迎しよう、中に入り給え』

 

「ディルク様、通路が……通路が無いわ?」

 

「おぃおぃ、やはり空間に干渉した魔法迷宮だったのかよ! どうするリーダー?」

 

 咄嗟に逃げ出そうとしたが、既に迷宮はその形を変えて私達を閉じ込めていたわ。敵が居ない罠だけの簡単な迷宮じゃなかった、罠に嵌ったのは私達。

 

「俺が先頭、ゲレオンはイェニーとロータルを守れ。イェニー、魔法で皆に加護をロータルは攻撃魔法で援護してくれ」

 

 ディルク様は矢継ぎ早に指示を出すと、ゆっくりと中に入る。部屋の中は廊下と違い昼間のように明るかった。本当に夏の日差しのように……。

 何もない広い空間、多分だけど王都の中央広場くらいの広さがあるわ。

 この魔法迷宮を造った魔術師は想像がつかないくらいの力量だ。現在の宮廷魔術師筆頭のサリアリス様だって、こんな物は造れないと思う。

 魔術師の中でも空間創造と言うレアなギフト(祝福)を授かった者だけが造れる魔法迷宮。本来は収納系の魔術だが極めれば宮殿クラスの空間を造り出せるとか。

 

『ようこそ、我が迷宮へ、君達が300年振りのお客様だ』

 

 部屋全体に響く声、でも声を発している人が見当たらないわ。

 

「ゲレオン、周囲を索敵しろ! この部屋に誰か居るのか?」

 

「分かんねぇよ、他に誰かの気配なんて感じないって……」

 

 輪になって周囲を確認するけど、明るくて見渡せる部屋の中には私達以外の誰も居ないわ。

 

『暫く大人しくしてくれ……眠りの風よ、彼らに平穏と安らぎを与えたまえ』

 

 眠りの魔法? 直ぐにレジストを……って駄目だわ、魔法に抵抗できない……これでも私は高位神官なのに……こんな初級の魔法に……全くの無抵抗なんて……。

 せめてもの抵抗の為に、私はゲレオンを蹴飛ばしてディルク様の胸に倒れ込んだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「300年待って現れたのは四人か……どうなっているんだ、この世界は?」

 

 床に倒れ込んだ四人を見て考えるに戦士・盗賊・僧侶・魔法使いのパーティーなのだろう、バランスは取れていて個々のレベルも高い。

 だが初歩の眠りの魔法をレジスト出来ずに全員眠ってしまうとは、(いささ)かお粗末ではないだろうか?

 初級とは言え籠める魔力量を大きくすれば効果は覿面(てきめん)に上がるが、本当に起きないくらいに深い眠りについてしまう場合がある。

 だから徐々に魔力を籠めて眠らせようとしたが、殆ど魔力を籠める前に寝てしまった……女僧侶がレジストの魔法を唱えたと思ったのだが、彼らは能力が低いのか?

 

「ふむ、先ずは記憶を覗かせて貰おうか? 我が眠っていた時に世界がどう動いたのか……」

 

 世界の情報を知るならば魔法使いだろう、知識を集める職種だからな。

 我には今は実体が無い、依り代の腕輪が壊されたら我の意識も霧散する……そして腕輪が劣化してきた。

 強化魔法を重ねがけして強固に造ったが、我の意識と魔力を籠め続けるには限界があったのだ。故に新たな依り代を急いで用意せねばならない。

 魔法使いの老人の頭の中に意識を集中する……。

 

「なんと、我の生きていた時代よりも随分と国が増えたのだな……我がルトライン帝国は滅んだのか。しかも新しいエムデン王国は現在侵攻されている最中か」

 

 読み取った世界情勢は我が生きている時代よりも複雑であり群雄割拠の様相を呈している、つまりは成り上がり易いが直ぐに滅びる可能性も高い。

 しかも魔法技術の衰退が激しすぎる!

 魔法は秘する部分が多く広く伝える事ではないのは分かるが、秘する余りに一族間でしか伝承せず有能な後継者を探す事が出来ないでいるのか。

 そして秘術の全てを伝える事が出来ずに衰退していった……まぁ国が滅びれば国家が押さえていた秘術は失われるだろうな、それ目的で侵攻してきても全ては奪えないだろう。

 

「これは急がねばならぬな。新たな奴が来るのを待つ訳にはいかない。彼らで手を打つしかないか」

 

 我が新たに肉体を得るには、彼らの内の誰かの子として生を()ける必要が有るのだが……

 順当に行けば魔法使いだが高齢過ぎるので、子を成すのは無理だろう。

 中年の盗賊は子を成す可能性は有るが、我が成人するまで庇護して貰えるかが疑問だ。

 女僧侶か……容姿は優れているし高い魔力を持っている、だが聖職者が伴侶を得るとは思えんな。

 

「残りは戦士か……」

 

 だらしなく女僧侶を抱き締めながら眠る戦士を見る……戦士の息子が魔法使いとして生まれるには伴侶が魔力を持ってなくては不自然だろう。

 先ずは第一候補の戦士の記憶を読む事から始めるか。

 

 


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