古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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これも読者の皆様のお蔭です。有り難う御座います。
今年こそは完結目指して頑張ります!


第994話

 城壁の上から報告書を片手に、前方で蠢く難民達の集団を見ながら考える。大きな集団として纏まった数は三つ。それがゆっくりと動き始めた。

 

 

 

 最近の難民達の動きは激しかった。後方で小競り合いを繰り返していたが、漸く纏まりを見せて来た。つまり共食いが落ち着いて、大きな集団が幾つか生まれた。

 

 これを間引きが終了したと悲しむべきか、有象無象がそれなりの集団として機能し始めたと慄(おのの)くべきか?面倒臭くなったと悩むべきか……

 

 正解は面倒臭くなって手間が増えたと嘆くかな?モンテローザ嬢の暗躍により敵戦力が纏まったという事と、集団を指揮する能力の有る者が三人は居るって事だ。

 

 

 

 3つの軍団が連携して同時侵攻してきたと考えた方が良いか?好き勝手に動いてくれる方が対応がし易かったのに……

 

 

 

 武装は一般兵士よりは貧弱、統一感はないのだが最低限の鎧・兜・盾・武器を身に着けているものが多い。奪い合ったのだろう、見事に仕様も意匠もバラバラだな。

 

 子供の演芸会みたいな様相だが、前は普段着で手に持つ武器は農機具とかの連中も多かった。それが一応は下級兵士か見習い冒険者程度には装備が整っている。

 

 略奪したにしても、相応の戦闘行為を経験しただろう。殺して奪う喜びを覚えたのならば、余計に滅ぼすしか選択肢は無くなった。最悪の外道に進化したと考えてよいな。

 

 

 

 彼等を見下しているエムデン王国領内に侵入させれば、略奪の限りを尽くすだろう。

 

 

 

「漸く体制が整ったと言う事でしょうか?」

 

 

 

 隣で共に見下ろす、アルドリック殿が待ちきれない感じで言ったけどさ。此方も増援部隊は間に合っていないんだ。原因はバニシード公爵の往生際の悪さだけどね。

 

 最後まで渋って増援の申請を引き延ばした。正規兵を動かすのには各方面への調整と指示が必要で時間が掛かる。増援は漸く王都から出発した頃?到着まで余裕を見て半月位か?

 

 増援が間に合わないのならば、今有る戦力だけで何とかするしかない。幸いだが時間が少しは有ったので、人員配置を調整する時間は確保できたので実行に移すまでだ。

 

 

 

「どうやら三ヶ所に分かれて攻撃するみたいですね。戦力の分散は愚策と思われますが、此方の戦力を分散させたいという意味では良い作戦です」

 

 

 

 規則正しくとはいかない、バラバラでお世辞にも統制が行き届いてはいない。だが『攻撃』や『退却』くらいは指示を聞くだろう。それだけでも脅威度は上がる。

 

 

 

「拙い練度でも、わざわざ見せ付ける様に移動しているのは此方の戦力を分けたいという事が一つ。もう一つは全部を纏め切れなかったので分かれて独自に動く。とかでしょうね」

 

 

 

「いや、あの程度でも凄いだろうと見せ付けているのかもしれないよ。彼等の自尊心というか根拠の無い自信は凄いからね」

 

 

 

 我が無敵部隊の行進を戦々恐々として見ろ!くらいは考えていそうだよ。でも指揮官の存在が確認出来ない、こういう移動ならば先頭に居て指示を出すのだが……

 

 誰の命令を聞けば良いのか分かり易い様に目立つのが必須なのだが、先頭周辺も団子状態で誰が指示を出しているか遠目では分からない。自己保身が強いのか?

 

 敵から離れた所では堂々と指示を出し、接敵後は後方から指示をだすのがバーリンゲン王国の戦法なのだが今回は全く違う。軍隊経験者が指揮をしていない?

 

 

 

 モンテローザ嬢の指示?彼女は軍属でも無いし軍隊経験も無い。こういう場合の指揮は執れないから、誰か他の者の入れ知恵?単純に保身に走って兵士の中に紛れている?

 

 

 

「ははは、我が国の軍隊だったら全員再教育で足腰立たない位に猛特訓させるレベルですよ。無様としか言いようが無いですね」

 

 

 

「油断も慢心もしないつもりですが、流石に酷い烏合の衆というか何と言うか……数だけが脅威、数だけでも脅威かな。あれ?突出して何人か出て来たね」

 

 

 

「我先に先頭に立とうとしているけど、今更感が酷いですね。自分が一番とか隊長だとかの自己アピール?」

 

 

 

 諜報部隊から仲間割れ寸前との情報も入ってきている。自分の配下が多くなったので欲が出たのだろう。自分が一番になりたいという、悪癖。もう国民病とでも言えば良いのか?

 

 ある程度状況が改善されると直ぐに不正を働きたくなるというか、自分を最優先して利益を得たくなるというか、滅亡一歩前なのに良くやるよなって思う。

 

 確かに老人や女性に子供が見える範囲では居なくなり、青年から中年の戦える男達が目立っている。弱肉強食ではないが、戦えない抗えない弱い者達が淘汰されたと思う。

 

 

 

「嫌な現実ですね。此方の手間が省けたと思うしかないですよ。弱き者を手に掛けるのは精神的にキツいので、代わりにして貰ったと努力を認め割り切りましょう」

 

 

 

 弱者に手を掛ける事が減ったのは良いが、見殺しには変わりない。見て見ぬ振りをした罪悪感がじわじわと沸き上がってくるが、それ以上にバーリンゲン王国の連中への嫌悪感が凄い。

 

 敵は戦力を集めて纏めて行動し始めている。此方もただ指を咥えて見ていただけではない。対応できる策を練ってきた。今が行動を起こす時だね。

 

 アルドリック殿と視線を合わせる。何時の間にか、リゼルと参謀の二人も近くに居る。何時の間に近付いて来たのか分からなかったが、バニシード公爵が役立たずなので信頼できる仲間には違いない。

 

 

 

「予定通りの行動をしましょう。現時点をもって、彼等を難民でなく敵と認め殲滅対象とします。全軍に通達、事前の計画通りに迎え討ちましょう!」

 

 

 

「「「「「おおぅ!」」」」」

 

 

 

 城壁の下に兵士達が集まっていて、僕の命令に大声で応えてくれた。全員がヤル気に満ちているし、此処が正念場だと理解もしている。一人でも後方に入り込まれる訳にはいかない。

 

 何枚も保険の為の策も用意しているし準備もしている。だが此処に居る全員が王命の達成を成し遂げようと奮起している。最初から保険を当てにはしない、全力で完璧に成し遂げて見せる。

 

 纏まりなく動く敵兵達を見て思う。兵数的には劣勢だが個々の強さも練度も圧倒している。負ける要因は皆無と言って良い。

 

 

 

「こういう一体感とか高揚感とか良いですな」

 

 

 

「血沸き肉躍るなどと言うつもりはないけど、心が弾むのは止められない」

 

 

 

「これが戦場、己の命を懸けて戦う場所ですか」

 

 

 

 勝ち戦だからかもしれないが、弱気で逃げ腰よりは絶対にマシだね。参謀連中も聖戦には参加しているが、アウレール王と同行し最前線には行かなかった筈なので気分が高揚してる?

 

 

 

「まぁ悪くはないね」

 

 

 

 単独ないし少数精鋭との行動が多かったので、僕も実はワクワク感が止まらない。

 

 

 

「これだから男達は……子供ですか?」

 

 

 

 リゼルの呆れた言葉に全員が顔を見合わせて笑った。この戦い、絶対に負ける訳には行かない。絶対に勝ってみせるぞ!

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 漸く準備が整いました。ギフトを使いエムデン王国への敵対心を高め、根拠の無い愚かな自尊心も高め同僚との競争心も高めて、やっとの事で行動させるまで漕ぎ付けました。

 

 彼等の保身力は、その無謀な行動を平気で起こす割には異様に高いのです。誰かに責任を擦り付ける能力が高いからこそ、危機管理能力も鍛えられたのでしょうか?

 

 今回の作戦の目標は『エムデン王国領内に侵入しモレロフの街に集積されている物資を強奪する』ことです。

 

 

 

 勿論ですが内容は適当な嘘ですが、驚くほど簡単に信用しましたね。今回のバーリンゲン王国への侵攻の最前線基地がフルフの街ですが、安全な後方のモレロフの街に豊富な軍需物資が集まっている。

 

 それを早い者勝ちで奪いましょう!と唆せば、驚くほど簡単に我先にと動き始めました。競争心と成功報酬に物資の独り占め、疑う事も無く共闘せず競い合う為に分かれました。

 

 私の考えは複数の大きな軍団が分かり易く動けば、陽動と思われるかもしれませんが対応できる相応の数の兵士達が動きます。当然ですが警備網は薄くなりますので、私が逃げ込む隙も生まれます。

 

 

 

 策とも言えない穴だらけのものですが、これ以上の時間を掛ければ……自分の貞操の危機でした。

 

 

 

 本当にあの連中は欲望に忠実で恥知らずの屑ばかり、ギフトを使用する為に最低限の距離に近付かないと効果が無いので我慢しましたが気持ち悪いの一言です。

 

 モレロフの街に軍需物資が集まっている事は簡単に信じるのに、複数同時侵攻が作戦の成功率を上げるといっても信じないのです。自分が統一してから攻め込めば成功間違い無しとか……

 

 どう言う思考回路をしているのでしょうか?もう此方の物資はカツカツで、仲間割れをしている時間も暇も物資も無いのに自分が一番でないと我慢が出来ない。

 

 

 

 そう割り切ってしまえば我慢も出来るのでしょうが、私も短気ではないと思っていましたが我慢の限界でした。何かと触ろうとする気持ち悪い連中、もう一時も我慢が出来ませんでした。

 

 粗末な服装を着て襤褸のマントを被り、周囲には洗脳した手駒を配置し目立たない様に集団に紛れ込んで途中で別れて様子を伺いエムデン王国領内に侵入します。

 

 夜間の闇に紛れたい、出来れば月明かりが無い夜が良いです。可能ならば痕跡も消せる雨の日が希望ですが、そんなに都合良く天候が変わる事も無いでしょう。

 

 

 

「愚図愚図するなよな」

 

 

 

「邪魔だ、しっかり歩けよ」

 

 

 

 ぞろぞろとゆっくり動く集団に紛れて歩きながら、徐々に移動に付いて行けない様に最後尾へと移動する。流れを乱せば小突かれたり舌打ちされたり、最低の対応をされるわね。

 

 誰も弱っている仲間を助けよう、手助けしようという気にはならないのね。私としては好都合なのだけれど『人の心は無いの?』と問い詰めたいわ。

 

 まぁ民度の低さは分かり切っていますけど、釈然とせずに心の中がモヤモヤしますわ。此処に居る全員が囮の捨て駒だと考えて、心を静め冷静さを保ちます。

 

 

 

「はぁはぁ、もう少し……もう少し我慢すれば自由を掴める」

 

 

 

 半日以上歩いて、予定通り最後尾付近に位置取り出来ましたわ。私達の行動に合わせて、エムデン王国側も兵士を移動させていますね。

 

 もっとも向こうは数こそ少ないですが統制の取れた集団、此処の強さも練度も此方と比べるのが烏滸がましいくらいの差が有りますわ。

 

 途中で襲って来ない事を考えれば、専守防衛なのでしょう。対外的にも良くて民兵、悪ければ素行の悪い領民の集まりなので積極的に攻める事は不都合なのでしょうね。

 

 

 

「あっ?」

 

 

 

 何かに躓いた様に装ってその場に倒れます。倒れた私を気遣うのは、洗脳した手駒だけで他の人達は視線こそ向けるものの何もせずに離れて行きます。

 

 でもそれで良いのです。力尽きて倒れた仲間を見捨てて先に行く。それでこそ囮として見殺しにする罪悪感が薄れるというものですわ。手駒達も力尽きた様に周囲に倒れます。

 

 これで私達は衰弱して脱落して、放っておけば確実に衰弱死するとおもわれ監視から外れる筈ですわ。まぁ本当に疲れているので、このまま横になって休みたいのも本音ですが……

 

 

 

「暫く動かないで、暗くなってから行動しますので今は少しでも身体を休めるのよ」

 

 

 

 少しでも囮は離れて貰いましょう。日差しの暑さも襤褸のフードで防げますし、水も簡易食料も持っていますので体力の回復も可能です。

 

 嗚呼、思ったよりも疲れていたのでしょう。瞼が重いです。もうこの心地良さに身を任せて眠ってしまいましょう。後は起きてから考えれば……

 

 

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