古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第995話

 囮連中と距離を取る為に、わざと何かに躓いた様に転んで起き上がる気力が無い風を装いましたが……案の定、誰も助ける為に手を差し伸べてくれるような善人はいませんでした。

 

 状況的に自分だけで手一杯なのは分かりますが、どうしてもマイナスイメージが強過ぎて当然だと思ってしまうのは駄目なのでしょうか?諦めに近い失望という感じでしょうか?

 

 日頃の疲れが溜まっていたのでしょう。地面に顔を付けた体勢で倒れ込んだ振りで横になっていますが、頬に触れる草や土の匂いが嫌ではなく逆に心地良く感じます。

 

 

 

 大地の匂いとは落ち着くのですね……

 

 

 

 風向きも後ろからなので、大勢が移動する事による土埃も気になりません。このまま身体が休息を求めているので、身を任せてしまってもよいでしょう。

 

 全身を襤褸のフードで覆っていますので、中で身体を丸めても外からは分かりませんし見えません。囮連中がノロノロと移動しているのをフードの隙間から確認します。

 

 本当に統制が取れていませんね。前の方に居る方々は欲望優先、他の誰よりも多く略奪する為に我先にと進んでいます。まぁ他の方々より奪った物資が多いので体力も有り余っているのでしょう。

 

 

 

 その後ろについていく方々は、それなりの体力が有り略奪のお零れが欲しい。最後尾付近は何も考えずに付いて行くだけの、思考を放棄し従うだけ。でも略奪は喜んで行う。

 

 力尽きて倒れた仲間からは奪わないだけの理性は残っているのでしょうね。まぁ脱落している連中は物資が尽きて何も持っていない、漁るだけ無駄とか思っていたり?

 

 大勢の略奪者の群れ。これが元難民の正体とは呆れてしまいますが、私が洗脳した事も原因なので何とも言えません。ですが私のギフトは感情増幅、つまりは心の底に秘めた願望。

 

 

 

 それが『他者からの略奪』という昏い欲望だっただけなのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 気が付いたら二時間以上寝てしまっていたらしく、心地良く感じていたヒンヤリ感が身も凍る冷たさに変化しています。身体から体温が奪われるというのでしょうか?

 

 このまま横になっていては体力が根こそぎ奪われるだけなので、ゆっくりと立上り服に付いた汚れを手で払います。少しの土埃と草が周囲に舞いましたが、目立った汚れは有りません。

 

 私を心配そうに見詰める手駒の方々に聞けば、声を掛けたけれど中々起きなかったとの事です。余程疲れていたのでしょうか?今は少し寒いですが、感じていた鈍い疲労は有りません。

 

 

 

「モンテローザ様、御身体の方は大丈夫なのでしょうか?」

 

 

 

「大分お疲れの様でしたが、地面などで寝てしまっては御身体に障ります」

 

 

 

「直ぐに暖を取れるように火をおこしましょうか?」

 

 

 

 口々に心配していると言って下さいます。彼等は私への忠誠度その他が爆上がりしていますので、私の意思を最優先する為に自分から何かを行動する事は殆ど有りません。

 

 事前にお願いしている事を愚直に守る。これは私のギフトの歪で使い辛い部分ですね。自主的に行動を起こしてはくれない、命令待ちの状態。好き勝手に動き回られないだけマシでしょう。

 

 この国の方々は自分勝手に動いては失敗を繰り返しますから、その対策として色々とギフトを重ね掛けしてしまった結果が今の状況なので……

 

 

 

 私の自業自得でもありますわ。

 

 

 

「此処で火をおこしては駄目よ。エムデン王国の方々に存在を知られてしまいます。少し移動して身を隠せる場所を探しましょう」

 

 

 

 これから暗くなるのですから、焚火などしてしまえば私達の存在がバレてしまいます。これからは慎重に隠密行動を心掛けなければなりません。

 

 境界の向こう側にはエムデン王国の兵士達が、囮連中に対峙する様に夜営の準備を進めています。遠目でも分かるのは警戒の篝火と煮炊き用の焚火の灯りが確認出来たからです。

 

 もう少し距離が欲しいですわね。此処から境界を目指しても見付かる可能性は低くは有りません。夜陰に乗じても結果は変わらないでしょう。

 

 

 

「ふふふ、囮の方々ですが派手に動いているようですわね。精々私の役に立って下さいな」

 

 

 

 物資不足が懸念されている中で、盛大に焚火をして浪費を繰り返している愚か者共をみて思います。先が見通せないから無駄遣いをして、失敗を成長に生かせない滅びるべくして滅ぶ連中。

 

 エムデン王国の方々の注意を最大限に引いてくれる事に感謝が尽きません。私は失敗から学ぶ事が出来るので生き残りますわ。ええ、こんな辺境で死んでなるものですか!

 

 夜の闇に乗じてもう少し離れて昼間は身を潜め、明日の夜に越境を予定しましょう。可能ならば今夜とは違って、月が隠れている日が良いです。

 

 

 

 今夜は月明かりで周囲が見渡せますから……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 バーリンゲン王国の連中が大きく三つの集団になり三方向へと別れて移動し始めたので、僕達も同じく三つの隊に分かれて対応する事になった。

 

 フルフの街は少し不安だが、バニシード公爵に参謀二人が補佐に就く。王命を受けた本件の責任者だから外す訳にはいかない。だが保険として、リゼルにアインとツヴァイを預けた。

 

 彼女達ゴーレムクィーンはゴーレムポーン各百体の指揮権を預けてあるので余程の事が無い限り、堕とされる事は無いだろう。防衛設備には力を入れたので強固ではある。

 

 

 

 取り零しの方が心配だ。保身に走ってフルフの街に籠って、越境を試みる連中も多いだろうが、アインとツヴァイの何方かは、リゼルから離れる事は無い。

 

 

 

 左右に分かれた集団には、僕とアルドリック殿を指揮官とした中隊を振り分けたが兵士の殆どはアルドリック殿に預けた。僕にはゴーレム軍団が有るので妥当な判断だと思う。

 

 基本的には殲滅だが、此方から仕掛ける事は厳禁としている。か弱く立場の弱い難民に襲い掛かる事は対外的に批難される原因になるから専守防衛だね。

 

 

 

「派手に動いてますが、どう言うつもりなのでしょうか?」

 

 

 

「まぁ派手だね。過剰な篝火で警戒して煮炊き用の焚火も多そうだし、物資が不足気味って報告を受けてるけど倹約なんてしてないよね」

 

 

 

 補佐役に指名した小隊長三人と、僕等の少し先に夜営している連中を見ながら考える。普通は物資が不足気味で補給の予定が組めない状況ならば節約するよね?

 

 それが無駄とも思える過剰な箇所に篝火を用意しているのは、まぁ警戒する意味では分からなくも無いけどさ。篝火だけで監視の兵士が少な過ぎる。此方からは攻めないと理解しているにしてもさ。

 

 襲撃が無いとわかっているなら、篝火を減らしたりしないのかな?薪だって、荒野で手に入れるのは難しいのだけれど、自分達の全貌が分かる位に煌々と焚いている。

 

 

 

「無駄を無駄とも思わないとか?」

 

 

 

「数日で物資が無くなる想定ですので、明後日以降は注意が必要でしょうか?」

 

 

 

「自分達は攻める側で、我々は受ける側。主導権は自分達に有ると思っているのでは?その攻め時も予想されているのですが……」

 

 

 

 思い思いに意見を述べてくれたけど、お馬鹿な行動を繰り返す相手の評価には多分に先入観が入るけど、情報収集は怠って無いので余計に常識外な行動に疑問が入る。

 

 予想し易い、与しやすい相手とみるべきか?予想外の行動を繰り返す、常識では測れない連中と警戒を引き上げるか?前者であって後者では絶対に無いのだが、判断に躊躇が混じる。

 

 だが、実際に目視した内容だけでも相当な予測は建てられる。凡その人数に荷駄隊の規模だけで、何日分の物資が有るかも予想出来る。別動隊も居ないので、持ち込み分が全てだろう。

 

 

 

 個人で持ち込む量も最大三日程度で見込んでも、彼等の食糧は保って最大一週間と予想したのだが節約せずに盛大に使用していると半分程度か?

 

 

 

「腹一杯に食べて、体力を全回復させてから攻めて来る?今夜にでも夜襲とか?」

 

 

 

「こんな月が明るい夜にか?夜襲の意味がないだろ?」

 

 

 

「そもそも、こんなに近くで睨み合ってて奇襲?別動隊がいれば陽動とかも考えられるけど、そんなものは居ないぞ」

 

 

 

 煮炊きの煙も数多く立ち昇っている。結構な量が用意出来る数だな。此方は三百人で夕食の準備用の煮炊きは十ヵ所、向こうは約八千人で煮炊き用の煙は目視だけで三百十以上。

 

 戦力差は約二十七倍だが脅威とは全く感じていない。気にしているには数が多過ぎて取り零しの心配だけ、一斉に散らばって越境しようとすれば多分だが防げない。

 

 自己愛の強い連中だから、命令を無視して散り散りに逃げ込む可能性も低くは無い。なので攻め込んできたら、極力固まっている時に倒したい。

 

 

 

 予定は未定、確定ではないのが辛い。

 

 

 

「此方は全員騎兵、逃げ出した連中が居ると想定して追撃が得意な連中を集めました」

 

 

 

「一対三十、不可能では有りません。問題は時間的なものだけです。逃げ込まれた場合に時間が経つ程、逃げ切れる可能性が高いです」

 

 

 

「恥も外聞も関係無く、みっともなく逃げ出すでしょうね。虱潰しで対応しますが、見落としが心配です」

 

 

 

 隊長達の自信に溢れた言葉を信じれば、連れて来た兵士達が三十対一の戦力差に恐怖を感じていない事が心強い。これはゴーレム軍団には討ち漏らしを担当させた方が良い?

 

 メンタルダメージを考えて、兵士達には討ち漏らしを担当して貰う為に騎馬中心に組んだけど重武装の歩兵中心の方が良かったか?機動力より攻撃力と防御力を優先すべきだった?

 

 うーん、正解は分からないが作戦の成功率が高い事は分かった。状況的には不利ではないので、効率を考えて騎兵に騎馬から降りて戦ってくれとは言えない。

 

 

 

 騎兵には愛馬と共に戦うというプライドが有り、それを無用に汚す事は出来ないし、しない。

 

 

 

「連中が攻め込んできたら、小隊単位で突撃。討ち漏らしはゴーレム軍団で引き受けますが、ファーストアタックは譲って下さい。広域攻撃魔法を打ち込みます」

 

 

 

 半数位は間引けば良いかな?複数の石柱を倒して圧死させるか、鋼鉄の刃で切り刻むか、或いは大地に大穴を空けて落としてから生き埋めにするか?方法は幾らでも有る。

 

 

 

「それでは初撃で恐れをなした奴等が逃げ出すのでは?」

 

 

 

「此方に来ずに後ろに全力で逃げ出したら、追撃は面倒ですよ。一旦見逃して、また集まるのを待つのも面倒です」

 

 

 

「可能であれば、此方に深く誘き寄せてから魔法で一撃を加えて貰い追撃、動揺の納まる前に殲滅するのが理想ですね。そう上手くはいかないでしょうが……」

 

 

 

 うーん、有象無象でも八千人からの人数だし半数でもバラバラに逃げ出せば三百騎では追い切れないという判断か。

 

 無駄に自信満々で大丈夫と言わないだけの自己評価はしているか。無駄にプライドが高くなく、出来ないと言える事は良い事だよな。自信が無いとかじゃなく、客観的に出来ないと判断出来るのだから。

 

 まぁ常識で考えても半数でも四千人、騎兵三百でも十四対一。一人でバラバラに逃げ出す連中を十四人も倒すのは厳しいよな。

 

 

 

「ゴーレムポーンを逃げ出す側にも錬金して配置できます。僕の『瞳の中の王国(リトルキングダム)』の範囲は1kmで一千体、漏れは極力減らせます」

 

 

 

 そう言ったら、全員が溜息を吐いた。いや、大言壮語じゃなくてですね、実際に可能ですから。食事にしましょう!とか話題を変えようと気を遣わないで下さい。

 

 

 

 その後、全員で食事を共にして英気を養った。連中は今夜は攻めて来なかった。

 

 

 

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