古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第996話

 バーリンゲン王国の連中と対峙して六日目の夜、漸く分かり易い動きが見えた。昨日から煮炊きの煙の数が激減したのは燃料不足か食料不足か?

 

 全員に行き渡る量を調理出来ていない事が分かった。今夜は更に減っていて、多分だが上位陣の分しか調理していないだろう。消費量は予想よりも若干早かったな。

 

 下位の連中の不満が爆発する前に、目の前の連中から奪えば良い。そういう単純な理由で、今夜の夜襲が決まったと思う。本当に、どうしようもない理由だな。

 

 

 

 糧食や燃料の管理も出来なかったのだろうか?出来なかったんだろうな。

 

 

 

 有ればもう少し自軍に有利な状況で攻撃を仕掛けてくるだろう。まぁ連中は夜間による奇襲が有効だと考えているのだろうが、バレていては奇襲の意味は無い。

 

 逆に待ち構えられて不利になる。奇襲だからイニシアチブを握れると思っていたら、準備万端で待ち構えられていたなんて笑い話にもならない。

 

 確かに雲が多くて月が隠れている。夜陰に紛れての奇襲には最高の条件だろうし、日が落ちる前に大体の此方の配置も確認出来ただろう。

 

 

 

 だが幾ら暗闇と言えども、大人数が動けば何となく分かる。それに真っ暗闇ではないので普通に動いているのが分かる。

 

 

 

 そもそも奇襲するならば、攻撃する直前まで存在を隠す努力をしないと駄目だよ。普段より少ないし小さいとは言え話し声が聞こえる。

 

 最低限の篝火を焚いているので僅かな光源に刃物が反射している。刀は鞘に納めていても槍の穂先は剥き出しとか、布で巻くとかして隠そうよ。

 

 あと指揮官クラスは騎乗しているのだが、軍馬として教育が施された軍馬でも夜間の移動は難しい。教育が行き届いてない馬が嘶(いなな)いては存在はバレバレだ。

 

 

 

 指揮官は騎乗して指揮を執るのが、選ばれし者の正しい姿とか考えているんだろうな。又は単純な見栄えとか?夜間騎乗とか普通はリスクが高くてやらない。

 

 軍馬が言う事を聞かないし、落馬の危険性も高い。鞭を入れても、まともに指示に従えないだろう。ああ、後ろで指揮をするだけだから動かないとか?

 

 夜間の奇襲は事前に打ち合わせをしておかないと同士討ちも有り得るし、そもそもまともに動けなくない?『進め!』とか『攻撃!』とか『引け!』しかないから平気とか?

 

 

 

「あの、奴等は本当に攻めて来ますか?バレバレの行動は囮か陽動で、本命の少数精鋭の部隊が居るとか?」

 

 

 

「いえ、周囲に放った偵察隊から別行動をしている部隊は居ないとの情報は信じますが……」

 

 

 

「一応、士官級の教育を受けた者がいれば、この様な作戦など実行しないと思います。連中って素人ですかね?そうじゃない連中が居るのは確認していますが、行動が雑で行き当たりばったりでは?」

 

 

 

 小隊長達が、余りの愚策に別に本命の部隊が居るのでは?と疑心暗鬼になっている。だが万が一の為に周囲に複数の偵察隊を放って、別働隊が居ない事は確認済みだ。

 

 行進に付いて行けずに少数の脱落した連中は確認している。彼等が暗殺者で此方の指揮官級を襲うとも考えて監視はしているが、今の所は動きは無い。

 

 腹が空いた連中は殺気立って略奪という欲望を抱いて士気は高いかも知れないが、体力は落ちているし注意力も散漫。此方が負ける理由にはならないし、負ける方が難しいだろう。

 

 

 

 より確実に殲滅する為に一旦引いて奥深くまで誘導する案も出たが、此方の陣地を物色する事に夢中になって追いかけて来ない可能性が高いと却下した。

 

 

 

「まぁ連中は奇襲が成功しても、僕等の物資を根こそぎ奪う方に集中しそうだからね。此方の陣地の外で決着を付けよう」

 

 

 

「せめて明け方とか、此方が油断している時間を狙うとかしないのでしょうか?未だ日付が変わる前どころか、これから寝ようとする時間ですが……」

 

 

 

「寝入りっぱなに攻めて来るのも一応は有りなのか?今回の件の報告書ですが、正直に書くと嘘っぽく感じますね」

 

 

 

 肩を竦めて呆れを表す。午後十時過ぎに夜間奇襲とか幾ら何でも有り得ないと思うが、彼等の行動を理由を付けて説明など出来ないよ。報告書かぁ、正直に書くしかないけど創作話と思われそうだな。

 

 

 

 まぁ此方の陣地を荒らされるのは嫌だし、そこまで慎重になって被害を多くする事も無いだろう。分かり易い囮として、相応の物資を見える様に積んでいるので奪われたくもない。

 

 食料に群がる害虫駆除的な感覚が芽生えている。周辺諸国にも襲われたから返り討ち『難民などでなく訓練され統一された動きをする野盗集団だった』と言えれば良い。アレ等では言えるかな?

 

 被害者面はさせない。あくまでも徒党を組んで襲って来た野盗として適切な処理をした。面倒臭いのだが、そういう体にしなくてはならない。

 

 

 

 未来のエムデン王国の為に、変な言い掛かりがつけられない様に徹底的に行う必要が有る。彼等は被害者ではなく、加害者で侵略者で自業自得で滅ぶのだ。

 

 

 

「最初の一撃で数を減らします。その後に魔法で照明を灯しますので討ち漏らしが無いように徹底して下さい」

 

 

 

「では偽装して待機している連中にも指示します。バーレイ伯爵の一撃の後に、予定通りの配置にて割り当てられた範囲の残敵掃討。余裕が有れば友軍の応援に回ります」

 

 

 

 黒いマントを羽織り直して、小隊長達が各々の持ち場へと移動していく。夜襲ならば細かいけど、これ位の事はしないと直ぐに気付かれるので成功率が低くなる。

 

 

 

「さて、主導権を握った攻める側だと何時から錯覚していたのかな?お前達は狩られる側だよ」

 

 

 

 視線の先に人数だけは多い烏合の群れが、夜襲なのに雄叫びを上げながら駆け込んでくる。せめて気付かれるギリギリまでは隠蔽する努力をしろよな。

 

 声高々に攻めて来るとか、威嚇のつもりかもしれないけど此方に気付かれて準備される事を考えないのが凄い。本当に、こんな連中を一応でも纏めた、モンテローザ嬢の能力が凄いのかな。

 

 残念ながら、彼女は此処には居ないみたいだな。他の二つのどちらかに居るのか?それとも煽るだけ煽って、次の駒を探しているのか?

 

 

 

 厄介ではあるが、この先には逃げ道も無いので最終的には此方に来るしかない。見付ける機会は必ず有るので、焦らずに目の前の事から対処するかな。

 

 

 

「では盛大な花火を打ち上げるとするか」

 

 

 

 元々の用途とは違うが、土属性魔術師の僕でも高い火力を持った爆発攻撃が可能な改良型魔力石を襲って来る連中の前に等間隔に錬金し、即着火する。

 

 数秒後、轟音と盛大な炎が綺麗に一列に咲き誇る。ビックバン相当の破壊力を持つ改良型魔力石が五十個も同時に爆発したのだから、その威力は凄まじい。

 

 50m以上離れている僕にも熱風が吹きつけられる。しかも熱くて目を開けていられない程の熱風。やり過ぎたかと額に汗が一筋流れる。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 宿敵エムデン王国に天誅を下す為に、正義は此方に有れども一応自軍の被害を減らす為に夜間にて奇襲をする事にした。これも参謀を兼任する指導者としての役目だ。

 

 飯が少ないとか自分の欲望の事しか頭の中に無い無能な連中だが、戦力として駒として使ってやっているのに文句だけは一人前だな。飯の質や量など能力により変わるのは普通だぞ。

 

 手持ちが少ない事は理解していたが、俺達を監視する様に付いて来る連中から奪えば良い。アレは俺達の保管庫というか補給部隊、ストレスも解消し物資も貰えるボーナス連中だ。

 

 

 

「アザド殿。部下達の我慢も限界みたいだが、もう攻めるのか?腹が空いて寝れないとか、どうでも良い理由で騒いでいるので面倒なのだが」

 

 

 

「コンス殿か。有象無象の使い捨ての駒だが、居なくなっては都合が悪い。目の前の獲物に襲い掛からせて、自分達の食い扶持を用意させるのも良いな」

 

 

 

「だが金目の物は、アレだ。今後の活動資金として我々で確保しなければならないし、飯だって全部を与える訳にもいくまい」

 

 

 

 ふむ?確かに俺達の今後の行動には資金が必要だし、飯だって連中よりも美味い物を多く食べる権利が有る。全てを奴等にくれてやる事など出来ないな。

 

 だが今は腹を満たす事しか考えていないのだから、明日の朝にでも略奪品を調べさせて回収すれば良いな。その為には、俺達が後ろで指揮に専念してはネコババされる心配が有る。

 

 有る程度、前線に身を置いてボーナス物資を確認しておく必要が有る。コイツ等は意地汚く金に汚いから、絶対に隠したりしてネコババするだろう。

 

 

 

「仕方無いな。我等指導者階級の精鋭達も前線に赴く必要が有りそうだ。馬は……残念ながら、こう暗くては言う事も聞かない。仕方無い、降りて徒歩で攻め込むか」

 

 

 

 騎乗して指揮をする事は武人の誉(ほまれ)だが、軍馬は暗くては言う事を聞かない。そもそも振り落とされる危険も有るし、安全の為には降りて徒歩だな。

 

 別に名乗りなどしないし、一方的に蹂躙するだけだし。エムデン王国の連中に礼を尽くす必要も感じないし、物資のネコババを防ぐ為に前線に向かうのだし。

 

 俺は優秀な指揮官だから、危険を避けて生き残る事が最重要。そして活動資金の確保も最重要、働き過ぎて痩せてしまいそうだな。

 

 

 

 それも自分に与えられた使命と言う事で、我慢するしかないのか。滅私奉公みたいで嫌なのだが、状況がそれを許さないのだな。天才の孤独というヤツか……

 

 

 

「それは構わないが、危ない事は嫌だぞ。専属の護衛を配置して最前線には行かず、中間部分で指示をだそう。エムデン王国の連中を蹴散らしたら、最前線に向かえば良いな」

 

 

 

「当然だ。選ばれし貴種たる我等には大いなる責務が有る。無駄死になど御免だし、代わりに危険に晒される責務を負った者達に仕事をさせれば良い」

 

 

 

 当然の事を確認し合い、夜襲の準備を行う。幸いにして雲が多く月を隠してくれている。これも俺の徳のお陰だろう。全ての事が俺に有利に進んでいる。

 

 

 

「俺様は、この世界に愛されているって事だな。この逆境も更なる飛躍の為の神の与えし試練なのだな」

 

 

 

 心の底から笑いが込み上げてくるが我慢する。これから夜襲なのだから高笑いなどしては問題視されてしまう。そんな恥ずかしい事は御免だぜ。

 

 暫く自分の中だけで大いなる責務について喜びを感じていたが、夜襲の準備が整ったと報告が有った。士気を高める為にも簡単な演説を行う必要があるな。

 

 神に選ばれし自分の言葉には不思議な力が宿っている。モンテローザも、そう言っていた。俺は選ばれし英雄、怨敵エムデン王国を打ち倒す勇者と……

 

 

 

 良い女だったが、アイツもエムデン王国の侯爵令嬢。立場上、正当なバーリンゲン王国の王になる、俺の妻にはなれない。精々が愛妾だが、知らない内に居なくなっていた。

 

 まぁ良い。他にも良い女は居るし、王妃には相応の立場の淑女を迎える必要が有るのだよ。エムデン王国を下したら、周辺諸国の王族の美姫が群がってくるので心配は無い。

 

 滅ぼしたエムデン王国の王族の中で美人や美少女は命を助ける事を条件に後宮に迎えても良いか。夢が膨らむぜ。俺の未来は明るいって事で、抑えた笑いが込み上げてくるぜ。

 

 

 

 ふふふ、ふははははっ!

 

 

 

「さぁ、エムデン王国の連中に正義の鉄槌を下す事にするぞ。襲い倒し奪え、この戦いは聖戦なのだ。バーリンゲン王国の更なる飛躍の為に、勝って弾みをつけるぞっ!」

 

 

 

 集まった有象無象も、俺の激励を受けて一般兵士位の能力に引き上がった。これで盤石な状態で戦える。エムデン王国の連中など恐れる事は無いのだ。

 

 

 

「突撃っ!」

 

 

 

 俺の号令に兵士共が一斉に襲い掛かる。俺の加護を与えた万を超える軍団を持ってすれば、エムデン王国など恐れる事など無いのだ。鎧袖一触にしてくれるわっ!

 

 

 

「ん?何だ、この突然現れた石は?エムデン王国側からの攻撃か?投石?」

 

 

 

 突然目の前が輝いて、光がおさまった後に拳大の石が浮いている。投石による攻撃にしては威力が乏しいし、浮いているだけだ。

 

 

 

 その数秒後に不思議な石が眩しい程に光り出したと思えば、物凄い轟音と衝撃が身体を襲う。俺は何も分からない内に意識が遠のいた。

 

 

 

 嗚呼、エムデン王国の連中に何か卑怯な事をされたのだな……

 

 

 

 

 

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