古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第997話

 目の前の大惨事に思わず身体が固まる。火属性魔術師の使用する大規模攻撃魔法は何度か目にしているが、今回のは特別というか次元が違う。

 

 最高の威力を誇るビッグバンを複数同時に行使すれば、こういう結果になるのだろうか?いやいやいや、バーレイ伯爵は土属性魔術師だから、火属性の魔法は使えない筈では?

 

 二属性を行使出来るとは聞いていない。土属性一本を極めた、現代最強の土属性魔術師の筈だ。大量の高性能ゴーレム軍団を操り集団戦を得意とする筈では?

 

 

 

 幾つもの疑問が浮かんでは消える。あくまでも噂話と、実際に目にした事実を比較すれば真実が分かる。

 

 

 

「これが稀代の古代の偉大なる魔術師と謳われる、ツアイツ卿の生まれ変わりと噂される真の実力なんだな。戦場のカリスマ、英雄リーンハルト卿」

 

 

 

「モア教の教義では輪廻転生の教えも有るが、そんなものは嘘かまやかしと思ってたが……あながち法螺話と笑い飛ばせないな」

 

 

 

「バーレイ伯爵は魔術の研鑽を生きがいとしている程の努力の人だぞ。それを生まれ変わりだから何でも出来るという考えを押し付けるのは失礼だろう」

 

 

 

 確かにと頷く。練兵場での鍛錬もそうだが、二回にも及ぶドラゴン討伐などの王命も根底には実力の底上げが有った筈だ。人の何倍も努力しているのに、その評価は非常に失礼だった。

 

 呆然と目の前の惨状を眺めていたが、漸く自分達がする事を思い出した。思い出したのだが、一直線に並ぶ陥没した大穴と未だに鎮火せずに燃え広がる業火の列に飛び込む勇気が湧かない。

 

 最大な爆発には膨大な熱量も含んでいたのだろうか?有り得ない事に穴の周辺の地面が高熱で真っ赤に溶けている。爆発の衝撃に高熱のダメージ、果たして生存者は居るのか?

 

 

 

「なぁ万単位の敵が魔法の一撃で全滅ってさ。俺達は歴史的な快挙の瞬間に立ち会ってないか?」

 

 

 

「本来なら生存者の救助とかになるが、殲滅する相手だし生き残りの捜索と排除の流れだが……」

 

 

 

 未だに、もうもうと燃え盛る地獄に突入する勇気が一ミリも湧かない。いやこれ、どうしたら良いんだ?近付いたら自分達も無事じゃ済まないのだが、仕事だから突撃するしかないか?ないな。

 

 

 

「もう此方に向かって来る馬鹿はいないだろう。居ても少数だから一部隊を残しておけば良いな。予定とは違うが残りを半分に分けて左右から迂回して逃げ出す連中を追撃するぞ」

 

 

 

 そうだった。思考を放棄して固まっていては駄目だ。俺達はエムデン王国の正規兵、職業軍人として行動する義務が有り今回は王命。自分が死んでも達成させる必要が有る。

 

 両手で自分の頬を叩くが、ガントレットを装備して兜も被っているので乾いた金属音しかしなかったが気持ちを切り替える事は出来た。使命を果たす、それだけだ。

 

 見回せば、皆が決意を新たにしている。無抵抗とは言えず、自分達に攻め込んで来た兵士でもない一般の民かもしれないが無辜ではない。悪意をもって攻めて来た明確な敵だ。

 

 

 

 それでも戦えば殆ど抵抗なく倒せる程度の相手、トラウマに成り得た惨劇の殆どを年下のバーレイ伯爵に押しつけてしまった。

 

 相手は自分達よりもエムデン王国の為に身を粉にして戦っている現代の英雄、その彼の功績を考えない思いは非常に失礼なのだが……未だ少年なのだ。

 

 正式な成人式も行っていないのに、王命の殆どを押し付けてしまった。自らの不甲斐無さを嘆くのは後回し、今は王命の遂行が第一。目的と順序を見失うな!

 

 

 

「一人残らず殲滅する。向こうから仕掛けて来たのに、逃げ出したので見逃せは通用しない。自業自得と嘲笑って倒すぞ」

 

 

 

「これ以上、バーレイ伯爵に負担を背負わせる事など出来ない」

 

 

 

「なに、残敵処理だ。問題は無いし慈悲も無い。後腐れなく此処でケリを付ける」

 

 

 

 バーレイ伯爵が追加で複数の魔法の灯りを空中に浮かべてくれたので良く見渡せる。まぁ未だ燃え盛る炎の灯りも合わせれば、昼間の様に明るいので見落としは無い。

 

 チラリと彼の方を見れば、俺達を微動だにせず見詰めている。つまり後の事は全て任せたって事だぞ。気合を入れろ!

 

 腰に差したロングソードを抜いて、炎の壁で見えない後方の生存しているかもしれない敵に向ける。

 

 

 

「全軍突撃、逃げ出した奴は一人残らず見つけ出して殲滅。未来に遺恨は残さないぞ!」

 

 

 

 走るのに邪魔なので、ロングソードは鞘に納めてから走り出す。全員が気合が入っているのが分かる。勝利は確定、あとは如何に取り零しを無くすだけだ。

 

 頬がヒリヒリする程の熱量だが大回りしては時間をロスする。炎の壁のギリギリを抜けて後方に回れば、一目散に逃げだす連中が見える。

 

 数は多くは無いが最後まで諦めずに戦うという選択を放棄した負け犬共め。逃げ切れると思うなよ。専守防衛が基本だが、攻撃されれば反撃も辞さない。

 

 

 

 襲ったならば襲われる覚悟が有ったのだろう?だから逃げずに最後まで抵抗してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 予想以上の破壊力に身体が固まるが、何とか狼狽えずにその場に留まる事が出来た。思わず座り込むか数歩下がるかしそうになったので、耐えられて良かった。

 

 最後に使ったのは、ユエ殿が監禁されていた塔を証拠隠滅の為に徹底的に破壊する為だったか?大軍相手だったので、二回り程の大きさで錬金したのだが威力は桁違いだった。

 

 コレ、火属性魔術師の全力のビッグバンよりも高威力じゃないかな?今度、ベリトリアさんに相談してみよう。僕に知る限り彼女は最上位の火属性魔術師だし、ビッグバンの使い手でもある。

 

 

 

 アンドレアル殿や今のフレイナル殿も悪くは無いが一段落ちるというか、現役の宮廷魔術師よりも実力は高いと思っている。

 

 

 

 呆けて別の事を考えていたら、正規兵達に見詰められている事に気付いた。最初の作戦と全然違うじゃないかって非難されている気がするが、何とかスルーする事にした。

 

 黙って燃え続ける炎の壁を見詰めていると、雄叫びを上げながら左右に分かれて炎の壁を迂回し後ろ側に突撃して行った。一部の部隊は残っているのは、一応此方にも攻めて来る事を警戒したのかな?

 

 しかし万を超える敵兵を五十個の改良型魔力石の爆発で殆ど消し飛ばせるとか、今後の戦略の舵取りが間違いなく難しくなるな。城塞都市だって一撃で崩壊するレベルの破壊力だし……

 

 

 

「封印しよう、そうしよう」

 

 

 

 徐々に炎の壁が低くなり惨劇の後が明らかになっていく。魔力球の光によって昼間の様に明るくしているので、詳細に状況が見える。うん、これは非常にアレな状況だな。

 

 万を超える敵兵の死体、僅かな生き残りも味方が追撃して討ち漏らしはなさそうだ。指揮官レベルが誰なのかも分からない後方にあった僅かな物資も爆風で殆ど吹き飛ばされている。

 

 これは後始末の方が大変という事だ。先ずは最低限の死者の尊厳を守る為の埋葬用の大穴を複数、ゴーレムルークに掘らせる。掘った大穴にゴーレムポーンが死体を納める。

 

 

 

 死者からの略奪はしない。装備も持ち物もそのままの状態で納めては埋めて行く。埋めた後は錬金で固めて、僕以上の固定化魔法の使い手じゃなければ墓を暴く事が出来なくする。

 

 当然だが、エルフ族が植物を植える事も考えて地上から2m程度の土の部分は固定化せずに埋め戻すだけにする。これで仮にこの場所が森になっても死者の眠りは妨げられる事はないだろう。

 

 百近い大穴を掘り、死者の埋葬が終わる頃には朝を迎えていた。徹夜で働いたので朝日が余計に眩しく感じる。心地良い疲労感に身を任せて横になりたいのだが、未だ仕事は終わっていない。

 

 

 

 正規兵達も埋葬の手伝いと周辺の調査を行ってくれたので、報告を聞かなければならない。その上で今後の行動の判断を下す必要が有る。

 

 他の連中の応援に向かうか、駐屯地に戻って守りを固めるか、この場に留まり暫く警戒を継続するか。別行動の部隊との連携も有るし、伝令を走らせて状況の確認をするか?

 

 でも、その前に遣り遂げた感満載で整列している連中を労わって報告を聞くのが最優先だな。

 

 

 

「皆、ご苦労。皆のお陰でエムデン王国の未来の安泰が約束された」

 

 

 

 おおぅ!と歓声が上がる。苦労に見合った成果があれば、疲労困憊でも気力は上がるし士気も維持出来る。特定の条件で精神力は肉体に勝る。

 

 でも肉体の疲労は蓄積されるから、適時必要な休息を与える必要が有る。軍隊の維持管理の難しさだが、指揮官の裁量で何とかなる。なんとかなるけど、指揮官による部分が大きい。

 

 なので軍規でシステム的に運用方法を決めて、参謀連中が実行し補佐する事も考えられている。無能な指揮官によって部隊が全滅とか、少し前までは特別じゃなかった。

 

 

 

「僕達は三割強の脅威を打ち倒した。残りは友軍が対処している、彼等も優秀だが被害は極力減らす事も必要だ」

 

 

 

 酷使する事になるのだが、特に反発も不満もなさそうだ。良かった、ノルマは達成したから休ませろって言われる可能性も少しは有ると思っていたが全く無かった。嬉しい誤算だな。

 

 

 

「伝令を走らせて別動隊の状況を確認し、場合によっては応援に向かう。各隊警戒を行いながら順次休憩、情報が集まり次第、行動を開始する」

 

 

 

 ヤル気に満ちているのか興奮状態がおさまらないのかは判断できないが、皆のテンションが高い事は分かった。時間が経てば落ち着いてくるから、今は休息が必要だな。

 

 殺意マシマシでテンション高めで追撃戦とか、絶対に警戒が疎かになって手痛い反撃を食らう可能性が高いからね。情報収集に力を入れて順次休憩だな。

 

 先ずは食事、そして睡眠。腹が満ちれば眠気も誘発される。最悪、警戒は自分ですれば良い。敵戦力の三割減は、それ位の御褒美が必要な成果だよ。

 

 

 

「僅かな時間だが食事を採って休憩とする。今回は物資の節約は無し、好きなだけ食べて飲んで欲しい。今回はワインを一人一本支給する」

 

 

 

 大歓声で喜ばれた。物資は僕の空間創造に大量にあるし、運んで来た荷物が減れば移動も楽になる。二倍消費しても問題は無いので、今は好きなだけ食べて飲んで貰おう。

 

 明日から……いや日が昇ったから今日か。情報が集まり次第、行動に移そう。逃げ切れた敵兵は居ないみたいだし、一応指揮官クラスは確認出来なかったが、命令書の類は回収出来た。

 

 正式な命令書や伝達の為の書類は殆ど見付けられなかったのは、そもそも命令書とか発行していなかったのかもしれない。証言を取ろうにも全滅だから予想するしかない。

 

 

 

 他の連中の情報収集に期待かな。僕等は殲滅を主目標にしたので生き残りを捕縛して情報を抜き出す事を疎かにしてしまった事は反省し、次回の作戦に生かそう。

 

 ザスキア公爵と諜報部隊の有難みが身に染みる。依存ではないが居ない事に不安を感じる位は気に掛けている。『孤独な軍団長』とか名乗っていた時と比べれば、弱気になっているのか?

 

 いや、情報の重要性と味方の有難さを再認識しただけだ。だから帰国したら感謝の気持ちをザスキア公爵に伝えよう。兵士達の輪に混ざり空間創造からワインを大量に取り出し振舞う。

 

 

 

 僕は不本意ながら『エムデン王国一番の酒豪』と周囲から呼ばれていますが、流石に敵地の最前線で飲み比べとかはしませんから。残念そうな顔はしないで下さい。

 

 

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