古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第998話

 早朝、寝起きで意識がはっきりしていない時に、伝令兵が我が屋敷に駆け込んできた。身分上位者の屋敷に朝駆けは自重して欲しいと思うのは間違いでは無いと思うのは駄目か?

 

 アーリーモーニングティーを飲む時間位は余裕を見て欲しいのだが、どうせゴネても後で面倒臭い事になるのは目に見えている。俺は日々成長しているから詳しいんだ。

 

 伝令兵を屋敷に招き適当に持て成す様に指示を出し、簡単に身嗜みを整えてから会いに行く。流石に寝巻のままと言う訳には行かないが、最低限で良いだろう。

 

 

 

 その方が急な面会に対して直ぐに対応した感が有って良い筈だ。その程度の人身掌握的な計算位は出来るのだよ。

 

 

 

「伝令!バーレイ伯爵の部隊が敵部隊の殲滅に成功、味方に被害は無し。増援の有無の確認をお願いします」

 

 

 

 奴には三方向に分かれた中で一番規模の大きい連中の対処に当てたのだが……味方の被害はゼロで全滅させたか。こと戦争関連においては、現代最強と言われる事はあるな。

 

 まぁ分かり切っていた事だが、早々に敵兵の殲滅を終わらせたか。戦闘狂め、万単位の敵兵が相手でも味方に被害すら与えないとはな。上手く使えば、これ程使い勝手の良い駒は居ない。

 

 だが対応を誤ると軍属の殆どが敵に回るという厄介さ。軍属からすれば英雄かもしれないが、人殺しの狂人だぞ。常識人である、俺の感性からすれば有り得ないがな。

 

 

 

 敬礼してから微動だにせず直立不動のままなのは、早く回答しろって事か?普通は持ち帰って検討してから回答だろう。英雄殿を待たせるなって事なのだろうが腹立たしい。

 

 俺は公爵、貴族社会のトップに君臨する公爵四家の第四位。今回は軍属として方面軍の司令官扱いだが、奴は軍属のトップ。俺よりも奴を配慮するのが普通って事かよ。

 

 だが、ここで不満を爆発させたら駄目だ。俺への評価が駄々下がりするだけで何のメリットも無い。もう失敗は許させない瀬戸際まで追い込まれている。

 

 

 

 故に応援してくれるならば、その提案は受ける。

 

 

 

「ふむ、此方に割り振られた敵共は慎重らしく、未だに攻めて来ない。此方から襲い掛かる訳にもよらず睨み合っているだけだが、バーレイ伯爵が応援に駆け付けてくれれば状況も動くだろう」

 

 

 

 俺はフルフの街の防衛を固めて、連中を殲滅するという蛮勇は譲ろう。その方が配下の被害も無くフルフの街の防衛に成功したという事実は残る。

 

 成果は欲しいが、欲張れば難易度が上がる。それじゃ駄目だ。リスクは抑えて、評価は最悪はプラマイゼロでも良い。どのみち最低評価は変わらず、派閥構成貴族共の失敗も上乗せされる。

 

 損切覚悟で切り捨てて、爵位の降格までは受け入れるが奪われる事は我慢がならない。最低限の抑えは必要だが、これ以上の冒険は出来ない。

 

 

 

 娼婦共との約束も反故だな。元々突っ撥ねても問題無い筈だ。良い思いはさせて貰ったが、相応の代金も払ったので大丈夫だろう。支払いについては、アルドリックから念押しされたしな。

 

 無料(タダ)ほど高いものはない。確かに無料の接待は、後で相応の厄介事が待っている。それは断り辛くさせる為の仕込みの場合が殆どだからな。

 

 今回の場合は、ゴーレムマスターの情報及びフルフの街の状況。そしてトップシークレットとなるエルフ族の行動。国土が森に埋まるなど、常識では有り得ない。

 

 

 

 だから情報として価値が有る。それらの情報の漏洩は、大国であるエムデン王国でも大問題なのだ。

 

 

 

「フルフの街の防衛に問題有り。了解しました。バーレイ伯爵に伝えます。それでは失礼致します」

 

 

 

 おい、ちょっと待てや。その言い方だと、俺の防衛戦術に問題が有る事になるだろうが?綺麗な敬礼の後に頭を下げるのは良いが、お前は俺を見下してないか?

 

 爽やかな笑顔を浮かべて足早に去って行く伝令兵の背中を見て苦々しく思う。やはり、コイツ等は俺を見下していやがる。だが我慢だ。ここで癇癪をおこして地団駄を踏んでも意味がない。

 

 戦闘狂と比べても意味がない。俺は俺で奴は奴だ。恨みは忘れないが、外に出さずに内に秘める。何時か必ず仕返しはする。その鋼の意思だけで今は良い。

 

 

 

 忍耐の時期、耐えて忍ぶって事だな。

 

 

 

「まぁ増援が来れば楽になるのも事実だし、今の内に問題事の整理をしておくか……」

 

 

 

 思い浮かぶのは、娼婦共の事。手厚い接待を受けた負い目は有るが、言われてみれば情報を抜きに来たのだろうな。うむ、未だに王都に戻らずに居続ける連中も多い。

 

 強制的に追い出した方が後腐れは無いな。理由も有るし、構わないだろう。何方にしても娼婦達の対応は責任者である、アルドリックに丸投げだが……しまった!

 

 奴は別方面に部隊を率いて居ないじゃないか!居残りの参謀連中に押し付ければ良いか?上司の仕事は配下の責任でもある。押し付けて……いや、命じても構わぬな。

 

 

 

 愛妾も娼婦達に嫉妬して先に王都に戻ってしまって女っけは無くなったが、身辺整理という意味では良かっただろう。もう此処での王命も終わりに近い。

 

 

 

「戦闘狂英雄殿が全てを終わらせてくれる。こんなに楽な事は無い」

 

 

 

 それよりも早く王都に戻って派閥構成貴族達の引き締めの方が重要。カルロセルと息子のカスタインに任せ切りだが、定時報告書の内容は上手くいって無い。

 

 他の公爵連中の攻勢に後手に回っている感じしかしない。だが奴の頑張りと努力は認めてやるしかない。俺が動けないので、配下の中でも優秀な親子に任せるしかない。

 

 最悪の場合は他国への亡命も視野に入れるべきか?いや、この選択を行った場合どうなる?相手国はどう思う?俺とバーレイ伯爵との関係は周辺諸国に知れ渡っている。

 

 

 

 つまり自動的に奴と敵対する事になる?

 

 

 

 ううん、これは不味いな。デンバー帝国やルクソール帝国ならばワンチャン有るか?無いな。仮に受け入れられたとしても、奴と敵対する場合は最前線に送られる。

 

 逆立ちしても勝てないから逃げるのに、逃亡先で戦う様に強制される?笑えない冗談だな。ならば資産の大半を持って隠棲するか?隠れた賢者みたいでイメージは良いが実際の生活はどうだ?

 

 俺は身の回りの事など一人では出来ない。世話をする連中が必要なのだが、信用できる世話人が何人いる?今はエムデン王国の公爵という地位が有るから従っている連中だぞ。

 

 

 

「くそっ、この身に流れる高貴なる血筋が憎らしい。地位も名誉も捨てた生活が出来ない呪いに掛かっている」

 

 

 

 つまり敵対は出来ないが、味方にもなれない。何という高難易度のミッションなのだ。だが、上手く動かねば追い込まれるだけの先細り。何か良い考えは無いだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 伝令兵からの報告は四日間程掛かった。いや普通に早い、片道二日ってフルフの街にいるバニシード公爵迄なら理解出来るが、アルドリック殿の部隊までは距離があった筈だよね?まぁ此方もフルフの街に移動中だけどさ。

 

 満面の笑みで報告をしてくれたが、バニシード公爵のやる気の無さが酷過ぎる。僕等が応援に来るまで、フルフの街で防備を固めて待ってるとか王命の放棄に限りなく近くない?黒よりのグレーじゃない?

 

 戦力の損失を抑えて、殲滅という名の残虐行為は他人に押し付けるって事だぞ。現状維持のみの成果って、公爵という立場なのにどうなの?駄目な部類だと思いますが?

 

 

 

 残敵掃討と警戒の意味も込めて、フルフの街に移動しながら野営地を設営している。明日にはフルフの街まで戻れる距離まで移動し、専用の天幕の中で寛いでいる。

 

 夕食は皆と同じ物を食べているが、量は少なめにしている。魔術師は思考が鈍ると魔法の行使に支障をきたすという最もらしい理由をつけているが、実際は全く違う。

 

 己の欲望に忠実なだけだ。何故ならば、イルメラさん達の手作り料理を夜食として味わう為に胃袋に余裕を持たせたいだけだから……

 

 

 

「今夜は何にしようかな?」

 

 

 

 空間創造に収納している大量の手料理の中からランダムに選んだのは……ロールモップとツヴィーベルクーヘンだ。ロールモップは、白アスパラのピクルスにイワシを巻き付けたマリネ。

 

 ツヴィーベルクーヘンは、玉ねぎとベーコン入りオニオンパイだな。魔法迷宮バンクの最下層に挑んでいる時に食べさせてくれた料理だったかな。懐かしい記憶が蘇る。

 

 あの時はウィンディアとエレさんの合作料理の、ケーニヒスベルガークロプセを出された後にイルメラさんが出した料理だ。あの頃は彼女達の手料理を食べるのが嬉しくて、色々とリクエストしていた。

 

 

 

 その後で、イルメラさんが負けん気をだして更にヴァイスヴルスト(白ソーセージの丸ごと茹でたもの)を出したりして盛り上がったんだ。僕のお腹も物理的に盛り上がったけどさ。

 

 更にデザートとして三人の合作である、アイアーシュッケという何層にも生地を重ねて焼いた、バームクーヘンみたいだが味はチーズケーキに近い家庭的なデザートも食べた。

 

 幸せな記憶を思い出したら、お腹も気持ちで一杯になってしまった。だが食べる、完食する。気合を入れて、ヴァイスヴルストにフォークを突き刺す。ブツリと皮が破れて中から肉汁が溢れ出す。

 

 

 

「ふふふ、匂いだけで美味しさが分かる。ウィンディア曰く『お互いの愛情の補正が入っている』からかな」

 

 

 

 太い白ソーセージを口一杯に頬張り、何度か咀嚼してワインと共に飲み込む。美味い、心も胃袋も満たされる。三口で一本を食べ終わり二本目に取り掛かる。

 

 ヴァイスヴルストは二本にして、ロールモップも一口。ピクルスの風味が肉汁塗れの口の中をさっぱりさせてくれて、食欲が増してくる。この組み合わせは正解だったな。

 

 次にツヴィーベルクーヘンに取り掛かる。これはパイなので口内の水分を持ってかれるので、ワインと交互に口に運ぶ。サクサクのパイ生地は食感の変化も併せて食欲がマシマシだぞ。

 

 

 

「美味い、美味過ぎる」

 

 

 

 思わず声が出てしまったので、止める為に料理を頬張る。無限に食べれると思ったけど、限界が近い。デザートまで辿り着かねばならない、最後の力を振り絞り料理を食べ進めていく。

 

 一時間程でデザートまで完食、証拠を残さない為に器などは全て空間創造に収納し入口の布を開けて換気も行う。何故か周辺には味方の天幕は無く少し離れた所に設営されているんだよな。

 

 僕の天幕を中心に円を描く様に正規兵達の天幕が設営されている。傍から見れば包囲網みたいだけど、彼等からすれば護衛対象なので受け入れるしかない。

 

 

 

 まぁ立場上は守られる側なので、普通に受け入れるけどね。でも三重の輪の中心って、もう少し良い配置は無かったのかな?

 

 

 

「お腹も満ちたし、心も満たされた。今夜は良く眠れるだろう。明日は、リゼルと会うけど……彼女も居残りで色々と気苦労が多い筈だから、リカバリーが必要になるだろうな……」

 

 

 

 頭の中で両手を組んでプンスコ怒っている彼女の姿が思い浮かぶ。思わずクスリと笑ってしまう。僕はリゼルの事もザスキア公爵と同じ様に家族認定しているのだが、彼女は気に入らないらしい。

 

 でも側室に迎え入れる気はないんだけど、納得してくれないんだよな。あぁ明日会えるし、直接話せば良いか。会話は人類の最高のコミュニケーション方法だしね。

 

 ある程度、愚痴を聞けば気持ちもスッキリするだろう。お土産はないけど。そこは任務だから我慢して貰おう。

 

 

 

 今回の作戦で殆どの難民を排除する事が出来るだろう。対象相手の人数が減れば、少しは楽になるし作戦期間も減るだろう。人手に余裕が出来れば、色々な事が出来る。

 

 未だ地下の大規模空間の調査も終わってない。エルフ達に引き渡す前に、何とか調査を終える必要が有る。調査というか、隠蔽工作だけどね。

 

 ふふふ、見通しが立ってきたな。これで少しは兵士達の負担も減らす事が出来るし、もう一踏ん張り頑張ろう!

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