古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第999話

 フルフの街に移動中、敵の部隊に数回遭遇して殲滅した。恐らく偵察の為の部隊と思われるが、それにしては人数が三百人前後と微妙に多いし殆どが歩兵で構成されている。

 

 敵との遭遇を前提とした人数にしては微妙だったし、此方を見付けると統制の取れてない動きで逃げ出した。今思えば、偵察という名の脱走だったのだろうか?対処後に調べたら物資とか殆ど持っていなかったし。

 

 進む事も戻る事も出来なくて別れた友軍を頼って逃げ出したのだろうと思っていたが、数少ない生き残りを尋問したら物資調達という名の略奪部隊だった。最悪の野盗集団、捕縛したら問答無用で死罪だ。

 

 

 

 しかも非公認だから敵前逃亡と判断されても言い訳は出来ないし、自国内から略奪する気満々だし最悪の戦争犯罪集団でもある。

 

 

 

 尋問後に流石に現地判断で処分するのも嫌だし捕虜にする気も無いので、敵の陣地に強制的に送り返した。直ぐに取り押さえられたのは見えたので、やはり敵前逃亡だったのだろう。

 

 彼等の、その後の事は分からないがお咎め無しとはいかないだろうね。まぁ連中に適正な軍規が有るとも思えないので、最悪な最期を迎えたかもしれない。敵に討たれずに味方に処罰されるとか……

 

 そんなモヤモヤする事も有ったが、予定より少し早くフルフの街の手前まで到着したので待機中。この後、兵士達は数日間の休息を取らせる事にする。任務は成功したし、ご褒美は必要だから。

 

 

 

 だが同行してくれた兵士達の殺る気が溢れていて、次の作戦について物凄く意欲的というか何というか。妙に気合が入っているというか何というか、仕事に前向きというか?

 

 うーん、自分達の成果は満足するに足るものだが、残りの任務期間も少ない。もっと多くの成果獲得の追い込みがしたいのかな?もう大きな戦争も起こらないだろうから、最後のチャンス的な?

 

 随分と迷惑を掛けられ続けた相手だし、引導を渡す的な?この国の存在自体が無くなるから、これが最後の悪足掻きだと告げて諦めさせるとか?

 

 

 

 別の意味でも国自体が消滅しちゃうから最後通牒?いや最後通牒は外交的な意味合いの言葉だから、最後通告かな?後腐れ無く何も無くなってくれるのが、エムデン王国の望みです。

 

 

 

「バーレイ伯爵、フルフの街の受け入れ準備が整ったと報告が有りました」

 

 

 

 伝令兵が全速力で走って来たのに、息も乱さずに一息で報告してくれた。そんなに急がなくても大丈夫ですよ。

 

 

 

「ご苦労様です。一応、敵部隊を警戒しながら街に入りましょう。まぁ敵が大門が開くのに合わせて総攻撃をしてくるなんて事は無いでしょうが、警戒は必要です」

 

 

 

 籠城体制になっているので、味方でも街に入る為にはバリケード等を撤去・移設しなければならない。数人単位ならば通り抜けられるが、致命的な隙を晒す事になるので短期間でサッと通り抜けたい。

 

 それには守備側の準備が必要なので、こうしてフルフの街の手前で待機していたんだ。バニシード公爵の顔を立てる意味でも伝令を出して伺いを立てている。面倒臭いが、手順って大事だよね。

 

 城門が左右に開くと工兵達がワラワラと出てきてバリケードを一部解体したり移動させたりして、僕等が通れる道を整備してくれているが手際が良い。というか籠城している殆どの人員が出て来てない?

 

 

 

 一時間もしないで城門正面部分のバリケードが撤去された。

 

 

 

 まぁ正規軍の歩兵は工兵を兼ねている部分もあるからね。周囲を警戒しながら少し待てば、通路が整備されたと報告が有ったので騎兵達を先頭にフルフの街に入る。

 

 半月に満たない遠征だったが、理想的な成果は有ったので満足出来た。城門を通り抜けると守備隊の兵士達が左右に整列して出迎えてくれた。友軍の凱旋を喜んでくれているのだろう。

 

 流石に過去の凱旋の時みたいに万歳三唱で迎え入れる事は無かったが……アレはアレで嬉しいけど恥ずかしさが先だって微妙だった。悪い気はしないし、兵士達も喜んでいる。

 

 

 

 今夜は備蓄を開放して豪華な食事にしよう。保管している少し良いワインも放出しよう。今夜位は飲み過ぎても大目に見るぞ。今夜の楽しみに心を躍らせていると困った一団を見付けてしまった。

 

 

 

「バニシード公爵め、頼んだ事をしていなかったのか。結構な問題だよ、これはさ」

 

 

 

 守備隊の連中に止められているが、強引に前に出て来ようとする連中。バニシード公爵に王都に送り返せと頼んでいた、娼婦と思われる女性の群れが揉みくちゃにされながら鬼気迫る表情を浮かべて近付いてくる。

 

 どうしても、僕と接触をしたいのだろうな。先頭はバレンシアさんかよ。アルドリック殿も別動隊の指揮で忙しいし、残った参謀連中では強行出来なかったのか?てか、今の状況でも居残ってたの?

 

 戦時体制に移行すると宣言したのに、頑張って居残った根性は認めるけど話す事など何も無い。この状況で言葉を交わす事の意味も無い。どうせ凱旋の祝いの席で給仕をさせて下さいとか?兵士達を労りたいとか?

 

 

 

 そんな建前を言って迫ってくるのだろうな。彼女達は酒の席で情報を抜くのが本業だろうから、そんな機会は与えない。迷惑以外の何物でもない、嫌な気分を深い溜息に変えて吐き出す。

 

 

 

「招かれざる者達が居ますね」

 

 

 

 僕の周囲を固める小隊長達に短い言葉を掛けて娼婦達に視線を向ければ、即座に理解してくれて配下の兵士達に指示を出してくれた。本当に折角の凱旋にケチを付けないで欲しい。

 

 小隊長が自分の腹心達に声を掛けて頷き合った後、行進の波に逆らわず隊列を乱さずに上手く娼婦達の方に動いていった。完全武装の正規兵の防衛線にか弱い女性では太刀打ち出来ないだろう。

 

 最悪は時間稼ぎが出来て、僕が通過出来れば良い。僕の屋敷や大使館には立ち入れないし……アレ?何故、彼女達は大通りに居るんだ?隔離されていた筈だが?自由に動き回り過ぎてない?

 

 

 

 鉄と肉の壁に遮られて娼婦達との接触は防げたが、出掛ける前の問題がそのままというか厳重に区画して隔離して管理していたのに構わず出て来てるじゃん。管理がユルユルじゃん。

 

 全てが順調という訳でなく、そこそこの問題を抱え込んでしまっているのは理解した。女性絡みの問題事は管理外なのだが、そうは言ってられないのか?お腹がシクシクと痛くなってきたぞ。

 

 僕は女性問題については初心者レベルなのに、娼婦との交渉とか全然駄目なんだ。参謀連中は抱き込めるが、そもそも彼等が、バニシード公爵を動かせれば問題は無かったけどね。

 

 

 

 まぁ身分的にゴリ押し出来るのは、此処では僕くらいか。参謀達では荷が重すぎたって事か……

 

 

 

 彼女達の脇を通り過ぎた時に、何か騒いでいたが聞こえないし視線も送らない。絡まれる要素は全て排除、そもそも娼婦達の管理はアルドリック殿だし許可したのはバニシード公爵だよ。

 

 僕の所に陳情に来ても管理外だから何も出来ない。故に無視というか相手にしないでも大丈夫だろう。僕は利用した事もないのだから、何か言われても何も出来ないです。

 

 娼婦達の事は一旦頭の隅に追いやって、フルフの街の状況を確認する。籠城を選択したのだが、特に厭戦的な雰囲気は感じられない。戦意は漲っている感じだし、体調も万全と思う。

 

 

 

 逆に籠城する事にストレスを感じているみたいだな。ヤル気が逸って暴走しない様に注意が必要な位だよ。懸念していた兵士数の差も問題無さそうだな。

 

 

 

 所詮は烏合の衆と侮るつもりもないが、現有戦力だけで対応は可能と判断出来る。目の前に陣取る連中を殲滅出来れば、数の不利も逆転するだろう。それよりも、目の前の脅威を何とかしたい。

 

 大使館の前で笑顔で出迎えてくれる、リゼルと女性兵士の一団の圧が強い、凄く強い。彼女は直ぐに女性兵士達の纏め役というかトップの座についてしまった、赴任して直ぐにだよ。

 

 その影響力は結構強くて、バニシード公爵にも一目置かれているというか……正直、避けられていると思う。まぁ彼女はザスキア公爵やレジスラル女官長とも渡り合える女傑だったよ。

 

 

 

 宮廷魔術師筆頭、サリアリス様を交えた王宮の女傑三人衆の次席、もう女傑四人衆とか四天王とか陰で呼ばれている存在だった。

 

 

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 

 

 

「うん、ただいま。でもご主人様は誤解を招くから止めようか。周りの君達も軽挙妄動は控えてくれると助かる。誤解だから言い訳はしないが弁解は聞いて欲しい」

 

 

 

 女性兵士達の驚いた顔に思わず両手を上げて弁明してしまう。誤解が広まるのに、敢えて『ご主人様』と言ったのには意味が有るのだろうが、出来ればそういう誤解を生む言動は止めて欲しいです。

 

 僕の思考を読んだのだろうが、男らしいニヤリとした笑みは止めなさい。似合っているのが余計に困る。君は僕を困らせる事に楽しみを見出してないかな?そう言う性癖は困るから直しなさい。

 

 女性兵士達は大使館には入らずに周囲の警備の為に散って行ったのだが、間違い無く娼婦達への警戒の為だろう。つまり僕が居ない短期間の内に状況に変化が有ったって事だろうな……

 

 

 

「近状報告を聞こうかな」

 

 

 

「それが良いと思いますわ」

 

 

 

 うわぁ他人事みたいに言ったぞ。コレって、バニシード公爵やアルドリック殿、それと参謀達以外にも文句が有るって事だよね?僕は別で扱って欲しいと思うのは駄目な思考だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 完成した大使館の応接室に、リゼルと二人で入る。未だ大使館の職員は詰めていないので、建物内に人の気配は殆どない。一応、戦時体制中なので施錠して見回りにて管理している状況だな。

 

 リゼルが紅茶を用意してくれているのをボンヤリと見ながら高級なソファーの座り心地を堪能する。流石に野営が続いたので、身体の節々が痛い。今日は柔らかいベッドで熟睡したい。

 

 その為には問題事を解決しておかないと駄目なのか?僕に休息は無いのか?バニシード公爵に文句を言っても構わないよね?絶対に嫌味を盛大に含めて文句を言ってやるぞ!

 

 

 

「どうぞ、ライラック商会の差し入れの紅茶と焼き菓子ですわ」

 

 

 

「うん、有難う。ライラックさんは護衛を付けて先に王都に返したんだよね?」

 

 

 

 フルフの街の安全には最大限の配慮をしている。エルフ族に引き渡す事もそうだが、民間人の協力者の安全には最大の配慮が必要だ。そうしなければ民間協力など得られない。

 

 モレロフの街で待機して貰い、安全が確保出来れば再度呼び出す予定になっているが一旦王都に帰っても良いと言ってある。短期で終わらせる予定だが、相手がいるから確約は出来ないし……

 

 暫し高級な茶葉の味と匂いを楽しんだ後、砂糖とミルクを少し入れて味を変えて楽しむ。さて、そろそろ気が進まないけど本題に入るかな。

 

 

 

「それで、何故未だに娼婦達が残っていてさ。しかも自由に大通りに居るのかな?」

 

 

 

 一番疑問に思っている事を聞いてみる。まぁ参謀連中がバニシード公爵を抑え切れないとか、丸投げさせた参謀連中が抑え切れてないとか?

 

 一度でも利用してるとさ。余計な遠慮というか配慮をしたくなるのが男ってものだ!とか?いえいえ、男なら女性が危険な場所に居る事を憂慮して早く安全な王都に送り返して欲しいです。

 

 この問いに、リゼルさんは怪しく微笑んで暫く無言を貫いたので辛抱強く言葉を待つ。予想が外れてくれると良いのだが、実際はどうなのだろう?

 

 

 

「バニシード公爵が参謀達に押し付けて、後は知らん振りですわ。参謀達も利用頻度が高かったみたいで、なぁなぁで押し切られて居座られている感じでしょうか」

 

 

 

 両肩を持ち上げる仕草は『ヤレヤレですね』って事かな。他人事みたいな態度だが、正直他人事だから文句は言えないが愚痴は聞いて欲しい。

 

 

 

「うん、予想通りだったよ。バニシード公爵は高位貴族の悪い癖が出たのか。下に丸投げで放置とかさ」

 

 

 

 この戦時体制中のゴタゴタで、好き勝手に動き回るのを見逃したのか?バニシード公爵は少しは見直したのに、また悪い時期に逆戻りだよ。面倒臭いから放置とかじゃないよね。

 

 冗談じゃなく衰退の危機だけど、もうどうにもならないと開き直ったのか?いやいやいや、確かに他の公爵三家と敵対してるけどアウレール王は存続を望んでいる筈だよ。

 

 それとも既に取り返しの付かない所まで追い込まれて、それどころじゃなくなってるの?政争に負け確定でヤル気がゼロとか?

 

 

 

「最近ですが、この大使館やリーンハルト様のお屋敷の方にまで訪ねて行っているそうですわ。勿論ですが、何方も侵入は許していません」

 

 

 

 娼婦が普通に屋敷の周りに徘徊してる?うーん、情報漏洩に対する防諜対策とかってどうなっているのかな?この辺の認識が適当になってない?

 

 

 

「うーん、ご退場願うにしても穏便にって訳には行かないのかな?もう強制退去で良くない?早急に追い出した方が良いって!」

 

 

 

 誰が強制退去を実行するかと言えば、バニシード公爵?参謀連中?何方もやれるならすでにやってるよな。強制出来ないから、今の状況が出来上がったんだし。もしかしなくても、僕がやるのか?

 

 

 

「この件について、ザスキア公爵より親書が届いてます。王命により、本人が自ら対処する事になったので此方に向かっているそうです」

 

 

 

 はい?ザスキア公爵が自ら娼婦の対処に王命で乗り出したの?王宮内では娼婦の対応が、王命になる様な事態になってるの?防諜絡みだけど、大事になり過ぎてない?

 

 

 

「嘘でしょ?なにそれ怖い」

 

 

 

 凄く間抜けな顔で呟いた問いに、リゼルさんは暗い笑みを浮かべるだけで、答えてくれなかった。

 

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