古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1001話

 自分の受け持ちの敵を一掃して、フルフの街に帰還したが……此方は此方で問題を抱えていた。バニシード公爵め、自分の王命の範囲くらい対処しておいて欲しい。

 

 娼婦関連の問題事の放置をするから、ザスキア公爵がフルフの街に乗り込んで来る事になるんだぞ。辺境の街に、しかも制圧しているとは言え敵国の領内に公爵本人が二人も滞在とか大問題だろう。

 

 これが公(おおやけ)の戦争中とかなら有り得るが、今回の王命はエルフ族絡みで国土が森林化するという大問題行為が現在進行形な訳で、情報の管理と秘匿は最重要案件なんだけど……

 

 

 

 何故、民間の諜報員を兼ねている娼婦達の行動を制限せずに、一部は自由に街の中を移動させている?

 

 

 

 彼女達からすれば周辺諸国が高額で買い取ってくれる『美味しい情報(ネタ)』だけど、国家からすれば座視できない異常事態で、知れば何もせずに静観など有り得ない。

 

 国土を失う可能性が微塵でも有るとなれば、仮に相手が絶対に勝てないエルフ族であっても何もしない事は無いだろう。

 

 その手段が隔絶した相手であるエルフ族への抗議とかじゃなく、未だ相手にし易いエムデン王国に向くのが問題なんだ。周辺諸国はエムデン王国を最大級に警戒しているから……

 

 

 

 今回の件は、そういう意味では我が国を周辺諸国で連携して叩ける絶好の『美味しい情報(ネタ)』だな。

 

 

 

 まぁエムデン王国も言われっぱなしにはしないし相応の対応もするので、『使える』のと『使う』のは同じじゃないけどね。相手国もエムデン王国との関係悪化みたいな事は嫌だろう。

 

 エムデン王国としても、ウルム王国を併呑してから落ち着きを取り戻しつつある周辺諸国との関係悪化は少なからぬ問題だ。大陸最大最強の国家になったとはいえ、数国が敵対すれば同時に相手など出来ない。

 

 世界の敵になるつもりなんて無いのだから、どこかで協調路線に舵を切る必要が有る。というか今は内需の拡大と占領国の安定が最重要な筈で、僕も復興支援に尽力していたんだけど……

 

 

 

「ご自分の世界に籠る事が悪いとは言いませんが、思考の海に沈んだ時は『何をしちゃっても良い』という事で宜しいでしょうか?ザスキア公爵様も同じ条件で了承を貰っていると聞いています」

 

 

 

 自分の屋敷まで考え事をしながら歩いていたら、知らないうちに到着していた。玄関先でリゼルが出迎えてくれたが、掛けてくれた言葉には問題しか無い。

 

 流石に娼婦達も、この区画への立ち入りは厳重に禁じているので途中で接触する確率は限りなく低いのだが、指摘されれば少々不用心だったかもしれない。全く周囲を警戒していなかったのだから……

 

 襲撃に対しては常時展開型の魔法障壁を張っているから問題は無いとはいえ、攻撃の威力が無いとか意思の無い場合は障壁が干渉しない場合も有るから手を掴まれたりはされるだろう。

 

 

 

 慢心じゃないけど油断し過ぎていたかな?でもね。

 

 

 

「いやいやいや。ザスキア公爵にも、そんな変な条件を了承した事実は無いよ」

 

 

 

「そうでしょうか?イーリンさんとセシリアさんも同じ条件で了承していただいていると言ってますわ」

 

 

 

 小首を傾げて思い違いでは無いですか?って感じをだしているけど、他に意識を向けていた時に悪戯し放題とか許可する訳ないでしょう!

 

 

 

 彼女を伴い屋敷の中に入る。最低限の人員しかいないというか、屋敷の維持管理はゴーレムクィーン達が交代で行ってくれているので人の気配が殆ど無い。そもそも無機質のゴーレムは気配が極端に薄い。

 

 自己主張の激しさは有るが、それは割り振られる仕事に対しての奪い合いで、与えられた仕事に対しては文句も無く粛々と行ってくれる。仕事は完璧で文句は無い。

 

 この仮の屋敷もホコリ一つなく綺麗に維持管理されている。たまに女性兵士達が手伝ってくれているらしいが、その時は不在の時が多くて……いや僕の不在の時にしか手伝いに来ていないぞ。

 

 

 

 まぁ問題は無いから良いか。応接室じゃなく執務室に向かう。アインが紅茶と焼き菓子を用意してくれたが、この焼き菓子はアイン達の手作りだ。僕のゴーレムクィーンはメイドとしても優秀だ。

 

 その様な機能は搭載していないのだが、多分だけど学習機能が高いのと学ぶ意欲が高いので色々な仕事を覚えているのだと思う。王宮の官吏レベルの政務まで熟すとか、言葉で表せない驚きだよね。

 

 配膳を終えて、何故かリゼルの後ろに立つアイン。そこは僕の後ろに控えるのが本来の立ち位置じゃないかな?アインの中のリゼルの位置って、どうなっているのだろう?

 

 

 

 護衛対象には間違い無いし、護衛対象としての優先度は護衛を必要としない僕よりも高く指示しているからか?ここでも女主人みたいな地位を得ていないよね?

 

 

 

「それで、僕がいなかった間のフルフの街の様子を教えて欲しいのだけど……特にバニシード公爵と、その周囲の連中の動きを重点的に教えて欲しい」

 

 

 

 僕とアルドリック殿が不在の時の、バニシード公爵と取り巻き達。それと彼に付けていた参謀連中が何をしたか、どういう動きをしたか。先ずはそれを把握してからの対策だな。

 

 仕事の横槍をするつもりは無いが、自由にやらせる事もしない。王命だし仕事の区分は明確に分けたが、口出しをしないという選択肢は無い。彼の失敗は王命を受けた連中全体の失敗に繋がる。

 

 特に情報漏洩は最悪です。その辺の取り扱いについては十分に言い聞かせているつもりだったけど、微妙な感じなんだよな。情報が周辺諸国に漏れて連帯責任で処分とかは勘弁して欲しい。

 

 

 

 優雅に紅茶を飲む姿が様になっている。流石は二つの国の王宮に勤めていただけ有るよね。

 

 

 

「参謀の方々の苦労は忍ばれますが、成果はイマイチというか無し寄りの無しでしょうか?」

 

 

 

 輝く笑顔が台詞の内容と合ってないですよ。呆れを通り越して放置っぽい感情が滲み出ている事が良く伝わりました。

 

 でも僕の責任って皆無とは言わないですが、限りなく無いに等しいですよね?アルドリック殿は配下の参謀達の職務怠慢で責められるかもしれませんが、僕は対象外です。

 

 分かってて放置した?いえいえ、事前に仕事の区分を明確に分けましたし、娼婦関連は最初から完全否定でした。それを強行したバニシード公爵が全て悪いと思います。

 

 

 

 そっと視線を彼女から机の上の焼き菓子の乗った皿に移し、一枚手に取って齧る。サクサクしてバターの風味は絶妙、王都の名店のパティストリーワイズの焼き菓子にも勝るとも劣らないだろう。

 

 話し合いは頭脳労働、つまり糖分が必要だと二枚目にも手を出す。表面が食欲をそそるキツネ色、一口齧ればバターの風味が鼻に抜ける。甘味は控え目なのが良い。

 

 貴族相手の高級品って高い香辛料を大量にブチまけた味は二の次みたいな料理擬きや、やたらと砂糖を入れた甘過ぎる菓子とかもあるからな。もう砂糖の塊を齧っている感じがするんだ。食への冒涜だと思う。

 

 

 

 こういう素材の味を引き出したものは貧相だとかケチを付ける連中も少ないけど居る。関係無い事を考えてしまったが、これも思考の海に沈むって事か?まぁ良いか。

 

 

 

「つまりバニシード公爵に押し切られてしまったって訳か。上級貴族の悪い癖が出たのか、情報漏洩の危険性の受け取り方が薄かったのか。それはそれで問題なんだけど……」

 

 

 

 追い詰められて性格的に少し改善したかと思ったけれど、あまり変わっていなかったのかな?危機的状況に追い込まれた事で一皮むけたと感じていたけどさ。僕が居なくなったら元通りって事?

 

 うーん、どうしようかな?それも合せてザスキア公爵と相談というか、彼女の考えを聞いてから動いた方が正解っぽい。この件は緊急性は有るけど、迂闊に動くと失敗しそうだよ。

 

 僕の考えをギフトで読んでいたのだろう。ザスキア公爵の名前を思い浮かべた時に深く溜息を吐かれたが、彼女は対策をしに態々来るのだから其方の方針に合せた方が良くない?

 

 

 

「バニシード公爵は深くは考えていないみたいです。娼婦達に持て成しを受けたが対価は十分に払っているし、高位貴族の自分に従うのが普通。そろそろ追い出せば良いだろう程度の認識ですわね」

 

 

 

 この期に及んでも呑気というか何というか……カップを持ち上げて紅茶のお替りを頼む。マナー的には良くないけど、アインが手際良く紅茶を淹れてくれるのを見て、リゼルが軽く頭を振った。

 

 いや今は厳密なマナーを守る状況じゃないから見逃して下さい。マナー重視だと肩が凝るんだよね。だから楽を出来る時は自由に行動したい。王宮勤めに戻るのは仕方ないけど、現場に出ている時位はさ。

 

 序に焼き菓子も一枚丸ごと口の中に放り込む。これも結構なマナー違反で、レジスラル女官長にでも見つかったら長い説教を受ける事になるだろう。

 

 

 

 現場、万歳!自由って素晴らしい。

 

 

 

「まぁ嫌な事や面倒臭い事を先延ばしにしたって事だろうね。危機感は有れども何とかなるだろって思って先延ばしにした程度の考えか?参謀連中から裏取りだけはしておくか」

 

 

 

「リーンハルト様も同じですわ。ザスキア公爵に丸投げする為に現状維持に徹するというのは。違いますか?」

 

 

 

 両手を上げて降参の意を示す。そうは言っても、僕が陣頭指揮を執って娼婦達を王都に追い返しても何もメリットが無いどころかデメリットが山盛りだよ。娼婦達の思惑通りの展開だよ。

 

 徹底的に避けていたからね。兎に角僕との接点が欲しい。その為にバニシード公爵に接待攻勢を掛けて機会を伺っているのに、態々自分から接触しに行くのは間違いだと思う。

 

 だから状況の確認を行う為の、参謀達への事情聴取だよ。もしかしたら万が一の確率で、バニシード公爵が起死回生の一発逆転の素晴らしい策を講じているかもしれないじゃないか?

 

 

 

「そんな事は有りませんわ。私も滞在中の事は調べ尽くしていますが、その様な素晴らしい策を講じたという記憶は有りません」

 

 

 

 何を馬鹿な事を言っているんですか?って諭されたけど、バニシード公爵だって臣下の最上位である公爵の爵位を頂いているのだからさ。やる時はやれる筈だよ。きっと多分、もしかしたら……

 

 

 

「うん、まぁ知ってた。そんな都合の良い事が有る訳は無いよね」

 

 

 

「そうですわ」

 

 

 

 皿の上の焼き菓子を食べ尽くしたので、アインにお替りを催促したが駄目だった。首を左右に振られたが、糖分の取り過ぎは健康に良くないって事だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ザスキア公爵を待っている間に、懸念事項を無くす事にする。つまり地下要塞の設備の隠蔽工作、エムデン王国からの調査団の受け入れ準備だな。魔力球による制御方法については、レティシアと相談だ。

 

 エルフ族の魔法技術は、僕の数段上をいっているので下手な工作や誤魔化しは余計な事になりそうだからな。転生の秘術の件は絶対に秘密なので、バレる危険性は極力抑えたいし。

 

 アスカロン砦の件は、レティシアも気にしてくれていたし。嗚呼、そうだった。アスカロン砦の件は触りだけ、メディア嬢にも聞かれたんだった。義理堅い彼女に口止めしたので大丈夫だと思うけど……

 

 

 

 まぁメディア嬢からは『また聞いては駄目な機密事項を聞かせましたね!』という意味を込めた、鋭い視線を向けられたけどね。

 

 

 

 それと、調査にはニーレンス公爵家も一枚噛ませる約束もさせられた。その辺の強かさは、流石若い貴族令嬢達の纏め役としての才覚の高さだろうな。

 

 証拠隠滅の隠れ蓑として、ニーレンス公爵家を勝手に巻き込んだという事だ。護衛のゴーレム、エルフの件とかの恩を少しでも返したいって言っているし。ジゼル嬢の親友なのだから、遠慮は不要なのに。

 

 モリエスティ侯爵夫人のサロンとは別系統の力を持っている。彼女の意向に逆らえる淑女は、エムデン王国内では殆ど居ないだろう。サリアリス様も嫌々な振りをしても認めているし。

 

 

 

 『古代の秘密基地』は魅力的に感じるだろうし、この件も色々な連中の思惑が絡んでいる。王都の魔術師ギルド本部に盗賊ギルド本部、公爵三家も平等に噛ませないと駄目なんだ。

 

 

 

「あはは、僕もバニシード公爵と同じで厄介事を先延ばししているじゃないか」

 

 

 

「リーンハルト様?落ち着いてください。未だ大丈夫です。大丈夫ですから……」

 

 

 

 両手で頭を抱える僕の背中をリゼルが優しく擦って労わってくれたが、半分以上は呆れているよね?

 

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