古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1004話

 伝令の兵士からの報告に慌ててしまいワインを膝に零してしまった。あの女狐がフルフの街に今着いたというのだ。報告は聞いていたが予想よりも大幅に早い。そもそも来るとは聞いていたが何時とは聞いていない。

 

 上級貴族ともなれば準備には時間が掛かる。一ヶ月位は掛かると思っていたが一週間も経っていない。フザけるなっ!予定では全てが終わった後でノコノコとやって来る筈だったのだ。

 

 俺の成果を知らしめて優越感に浸る予定が台無しじゃないかっ!ゴーレムマスターも知らなかったのか?知っていて知らせなかったのか?あの女が最前線まで出張って来るとか、呆れてなにも言えぬ。

 

 

 

 一応戦場だし他国の領土内だぞ。橋頭堡を築いているとはいえ、安全とは程遠い敵地だぞ。それを女だてらに乗り込んで来るとか、一応は淑女だろ?見た目だけなら少女だろ?何を考えている?

 

 いや、知っていて教えずに黙っていたのだな。奴らは繋がっているし、俺はハブかれたのか。結託して俺を追い込もうって腹だな。性悪共め!政争を戦場に持ち込むとか、呆れた愚かさだぞ。

 

 気持ちは慌てているが、身体は準備を進めようとしている。有能な俺だけの事は有るな。ナプキンで濡れた服を拭きソファーから立ち上がる。

 

 

 

「だが取り合えずは出迎える準備をせねば……いや、先ずは着替えだ。ワイン塗れとは笑えない。勿体無い、安い酒じゃないんだぞ。取って置きの高級品だったんだぞ!」

 

 

 

 女狐も王命を受けてフルフの街に来たのだから、蔑ろには出来ない。少なくとも先触れを出してからフルフの街に来たのならば、相応の対応は必要だ。

 

 半月程度は様子見をして、アルドリックが帰還してから戦力を纏めて連中に攻め込む予定だった。一ヶ月は余裕が有ると思っていたが実際は一週間程度とは凄い詐欺にあったようなものだ。

 

 貰い事故?誤爆?兎に角、予定と全く違うのだから慌ててワイングラスを手放しても仕方ないだろう。ワインは諦めるし服も着替えれば良い。だが予定外の時間は埋まらない。考えが纏まらない。

 

 

 

 女狐が直接乗り込んで来るって事は、俺を追い込みに来たと考えて良い。このまま成果を上げられる筈が、追い落としに来やがったのか?最悪、邪魔するつもりじゃないだろうな?王命の明確な妨害だぞ!

 

 

 

「不味い、不味い、不味い。兵士達の前で無様な真似は出来ない。これから総仕上げの段階なのに、この段階で横槍かっ?」

 

 

 

 素早く着替えを済ませて馬車に乗り込む。こういうのは初手が大事なんだ。慌てず騒がず冷静に、何の問題も無いという態度で臨まねばならない。お前の行動など予測済みだってな。

 

 兵士達にも、どちらが主導権を握っているのか分からせる必要が有る。女狐は増援ではなく、防諜対策……娼婦対策で派遣されたのだ。俺の王命の範疇を犯される訳には行かない。

 

 あくまでも総仕上げの殲滅戦は、俺が主導して成し得なければならない。ゴーレムマスターにも最後の仕上げは手伝わせない。奴は既に成果を上げているので、これ以上の手柄を与えたくない。

 

 

 

「おい、お前等。直ぐに来れる奴は着いて来い」

 

 

 

「バニシード公爵様?急に何を?」

 

 

 

 屋敷に暇そうに侍っている連中を怒鳴りつける。質が悪いのは承知しているが、率先して問題行動を起こす連中よりマシだ。細かく命令しないと動かないが、その方が胃の負担が少ない。

 

 オロオロして此方の顔色を伺うだけで、準備をしようとしない。今は一刻を争う時なのだ。従順なのも考え物だが、居ないよりはマシだ。俺の統率力が試されている訳だ。

 

 数回深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。自分が慌てては、下に付く者も落ち着く訳がない。そう考え直せば、自ずとする事は理解出来る。俺はまた成長している、成長が止まらない。

 

 

 

「軽装で構わないから装備を整えろ。街の入り口に歓迎出来ないが受け入れるしかない、厄介な者が来ている。兎に角、急げ。急ぐのだっ!五分以内だぞ」

 

 

 

 細かい指示を出す。数は力、取り巻きでも私兵でも居ないよりはマシだ。正規兵からは何故か人気が無い。あれだけ優遇しているのに?酒も女も与えたのに?何故だっ?

 

 

 

 俺よりも奴の方が兵士達に人気が高い。英雄の看板は思ったよりもデカい。他にも多くの人気取りの行動をしているので仕方が無い部分は有るが、それでも敵の殲滅は俺の王命の範疇。奴の仕事は大使館の整備と他種族との交渉だっ!

 

 越権行為と言えない微妙な部分で仕掛けてくる。コイツ、本当に少し前までは新貴族男爵程度の後継者だったのか?どう見ても伯爵か下手したら公爵の後継者の教育を受けていたレベルだぞ。認めたくは無いが、俺に近しい有能さだ。

 

 出生詐称、いや見た目詐欺、コイツは普通じゃない異常だ。どうしたら、こんな元新貴族男爵の長子が育つんだ?一時期噂になった、アウレール王の隠し子説も嘘だとは言い切れない不自然さだな。促成教育では説明出来ない。

 

 

 

「その辺の出生の秘密に、奴を追い込む手掛かりがあるか?いや藪蛇というか嫌な予感しかない。もしも万が一にも王族の隠し子だったりしたら、その秘密を暴いたらどうなる?俺はどうされる?」

 

 

 

 百万が一にも、アウレール王の隠し子だったら?救国の聖女イェニー殿が国王と浮気?ははは、有り得ない戯言だな。イェニー殿が浮気などする訳が無い。この件は無し、忘れる事にしよう。

 

 配下を引き連れ馬車に乗り込み正門へと急がせる。放っておけば、女狐はゴーレムマスターの屋敷に転がり込むだろう。俺を追い込む密談を密室で二人でされても困る。人目の有る場所で話す事で、周囲に認識されるのが重要だ。

 

 フルフの街に居る連中の殆どが集まっているんじゃないか?馬車が人混みで進み辛い。む?不味いぞ。娼婦達もチラホラ見える。お前達は隔離されているだろうに、何故自由に動き回っている?

 

 

 

 ザスキアに見られたら大騒ぎじゃないか?あの他人を引き摺り落とす事に長けた女狐に口実を与えるとは、俺の周りには足を引っ張る連中しか居ないのか?

 

 

 

「おいっ、ザスキアに見られる前に娼婦共を下がらせろ!」

 

 

 

 此処に居ない筈の連中が、チラホラと見える。完全武装の兵士達に紛れて薄着の女達が紛れているとか、場違い感が酷い。俺でも、いや俺だから異常だと分かる。高性能の頭脳ゆえの苦悩だな。

 

 

 

「おっ俺達がですか?でも前も言いましたが、あいつ等は言う事を聞かないというか、強く言い辛いというか……」

 

 

 

 取り巻き共に命じるが、全員を下げる事は出来ないな。糞っ、余計な負い目というか弱味を見せてしまう事になろうとは。俺の女に優しい紳士たる部分が悔やまれるが仕方ない。出来る事をするしかない。

 

 ゴーレムマスターとザスキアが合流しているが、未だ移動はしていないし娼婦共も接触していない。兵士達が寄せ付けない様に頑張っているな。ん?ザスキアとリゼルが口論しているのか?ふははっ、突け入る隙が見えたぞ。

 

 ゴーレムマスターは女難の相が強い。リゼルを焚き付けて、ザスキアと衝突させれば面白い事になるな。女の嫉妬は醜い、同行させた妾と後から追ってきた愛人。どういう諍いが生まれるのか、見物だな。

 

 

 

 側近で愛人を同行させるから問題となる、そこは分けるべきだろ。仕事も性欲も満たせとは欲張り過ぎだぞ。俺の愛人は既に王都に返しているから問題は無いので、この身体は潔白だ。

 

 男女の関係はだな。ある程度の線引きをしないと揉めるのだ。その辺は子供のゴーレムマスターには難しいだろうな。まぁ絡まれている相手が、女狐みたいな問題児ばかりでは初心者は無理だったか。

 

 ふふふ、男女間の正しい距離感や付き合い方については、俺の方が熟達しているという事か。修羅場は外側から見ているのが楽しいので、俺に飛び火させるなよ。修羅場の当事者達と絡むとかお断りだぞ。

 

 

 

 振りじゃないからなっ!

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 ザスキア公爵と護衛の妖狼族のフェルリルとサーフィルを出迎えたのだが後ろに控える、リゼルさんの圧が物凄く強い。物理的に背中に穴が開きそうなほど強いよ。ピリピリでヒリヒリだよ。

 

 

 

「リーンハルト様、来ちゃいましたわ!」

 

 

 

 輝く笑顔を浮かべる、見た目は同い年位だがエムデン王国で唯一の女公爵様が目の前に居る。その後ろには、種族ごと配下に収まった妖狼族の若き指導者の二人。君達はモレロフの街の防衛を任せていた筈だが?

 

 視線を向ければ、物凄く申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。まぁ彼女達が、ザスキア公爵に勝てる訳が無いから状況の確認だけで叱責は無し。怒ってしまうのは流石に哀れというか酷い、断った方が問題だったな。

 

 怒ってないアピールで微笑んだら何故か隣に居る、リゼルさんに脇腹を抓られた。割と本気の力加減で我慢の限界くらいに痛くて、表情を変えない様にするのに苦労する。我慢出来るギリギリを攻めてる?

 

 

 

「歓迎します。道中無事で何よりです」

 

 

 

 妖狼族が護衛していれば安全面での問題は限りなく少ないだろうし、他種族を積極的に使ってくれるという実績も積めるので悪くはないのだが……出来れば事前に連絡が欲しかったが、緊急時だし厳しいか?

 

 いや、報(告)連(絡)相(談)は仕事人として重要だよ。リゼルさんの謎の圧が強まったので、僕の胃がキリリと痛み始めた。この任務が終わったら、イルメラに癒して貰おう。

 

 

 

「不要で不急では?娼婦対策に公爵本人が敵国の領内に乗り込む意味が分かりませんが?」

 

 

 

 リゼルさんが全否定したが、王命なので必要で至急だよ。王都の娼婦ギルドには個人的に思う所が有るから、これを機会に釘を刺すのは賛成だ。他国に情報を売るとか、利敵行為も甚だしい。

 

 エムデン王国に所属する団体なら、所属の国家の不利益になる事は控えるべきだよね。秘密を守るだけなのだから、国家に所属する国民の最低限の義務だよ。利益を得ようとするのは許容出来ないな。

 

 個人的な恨みもあるし、今回の件については全面的に協力する。男の度量?紳士の心構え?淑女の扱いは花を愛でる様に慎重に?そんな心構え的なモノは、最初から持ってないですが?

 

 

 

「ふふふ、おイタが過ぎる不届き者が多くて嫌になるのよ。これを機に一掃したいのよね。機密という蜜に集る害虫など、健全な国家の運営には不要だと思いません?」

 

 

 

 うわぁ、厳し過ぎる対処が、見た目十代の少女の言動じゃない。リゼルさん配下の女性兵士達の動揺が伝わってくる。噂でしか知らなかった生きる伝説を実際に見る事になった。

 

 しかも若返りの秘薬『ネクタル』の話は貴族社会だけでなく平民達にも広がっているが実際の成果を見た者はいなくて、あくまでも噂レベルだった。

 

 でも『奇跡の体現者』を自分の目で見てしまえば、その衝撃は大きいだろう。特に若返りとか女性として無関心では居られない。動揺しない方が不思議レベルだろうね。

 

 

 

「その件については、彼方にいるバニシード公爵を交えての協議でしょうね。娼婦関連の責任者ですし、娼婦達の誘致を許可した本人です。何かしらの腹案位は用意していると思いますよ」

 

 

 

「あらあら?そうね。仮にも公爵様ですものね。それ位は当たり前ですわね」

 

 

 

 十人前後の私兵に守られながら、此方を伺うバニシード公爵に話を向ける。ニタニタと楽しそうに見ていたけど、娼婦誘致の責任者として責任を取って貰う必要が有るのに、何を楽しそうに見ているのか?

 

 もっと大問題だと真剣に取り組んで欲しい。貴方のやり残した問題ですよ。娼婦達を誘致したのも、済し崩し的に居残りを認めているのも全てバニシード公爵の責任です。故に問題を解決して下さい。

 

 声を掛けられ視線が集まった事で、不審な挙動を繰り返していますがキリキリ働いて貰いますからね。ザスキア公爵の指示に従って粛々と仕事をして下さい。

 

 

 

 それが保身を第一と考える、貴方の為になる事だから……

 

 

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