古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1005話

 他人事の様な態度で、僕等をニタニタと見ているバニシード公爵を胡散臭い目で見る。不敬では無い、疑問を投げかける視線だ。此方の視線を察したのだろうか?少し動揺した感じがする。

 

 ああ、隣に居るザスキア公爵とリゼルの刺す様な視線に怯んだのだろうか?腐っても貴族の最上位である公爵本人なのだから、見目麗しい女性の視線に怯まないで下さい。

 

 詰めの段階での失策は勘弁して欲しいので、話し合いは重要なのだけど……ザスキア公爵本人が乗り込んで来た事を考えると、助力するだけって事にはならない。

 

 

 

 必ず損得勘定とパワーバランスの調整が入る。当然だが、何方も自分の利益を要求するだろう。そこに手を取り合って相手を尊重して派閥を超えた協力は、残念ながら有り得ない。

 

 

 

 ザスキア公爵が、バニシード公爵の方へと歩いて行く。必然的に、僕とリゼルが後を追う形となるのだが、周囲に集まっていた兵士達も事前に打ち合わせ済みみたいに自然に動き始めた。

 

 具体的には、バニシード公爵と私兵を半円状に囲む様に兵士達が動く。そしてリゼルの後方には女性兵士達が固まっているのだが、これってバニシード公爵は凄い圧を感じていると思うぞ。

 

 本来ならば自分の指揮下に置かれている筈の正規兵達が、自分達を無言で整然と一糸乱れぬ動きで取り囲むとかさ。もしかしなくても指揮権は此方側に有ると正規兵達が態度で表しているのだから……

 

 

 

 重ねて思うけど、ギリギリ不敬ではない。

 

 

 

「さて、バニシード公爵には色々と問い質す事が有るのですが宜しいかしら?」

 

 

 

 小首を傾げる仕草は、その若々しいというか幼い容姿と相まって凄く愛らしい。バニシード公爵本人は驚愕の表情で固まったが、私兵達は魅了されたみたいに呆然としている。

 

 そんな彼等を蔑んだ目で見る女性兵士達。うーん、纏まりと締まりのない状況だな。兵士達の輪に阻まれている娼婦達が、頑張って前に来ようとしているが完全武装の鍛えられた兵士達に阻まれている。

 

 彼女達にすれば、交渉相手が一堂に集まっている所に突撃したいだろう。でも無理だよ。兵士達も実力行使はせずに人垣として阻んでいるが、これ以上無理をすれば叩き出されるぞ。

 

 

 

 レイチェル殿とバレンシア殿が髪の毛を振り乱しながら何とか最前列に身体を捩じ込もうと頑張っているけど、正規兵達は許さない。鉄と肉の壁は想像以上に分厚いらしい。

 

 

 

「詳細は移動してからにしましょう。新しく整備した大使館で……」

 

 

 

「いや、話し合いならば此方の領主の館の会議室にしよう。大使館は他国との交渉の場、俺達は同じ国に所属している。不適切とは言わないが、正論でもない」

 

 

 

 言葉を遮ってきたが、自分のテリトリーで主導権を握りたいとか?まぁそれならそれで構わない。此処から近い場所を提案しただけで、僕としては何処でも構わない。

 

 だが移動時に、娼婦達からの接触を阻めるかは、提案した貴方の責任の範疇ですよ。あの二人の他にも十人以上の娼婦達が見えるのは、殆どの娼婦達は帰国せずに残っていたって事だ。

 

 帰国は戦時体制に移行した事で危険度が増したので彼女達の安全を思っての事だったのだが、一応は命令の形で行ったので明確な命令違反だな。

 

 

 

 男女関係のアレとしてナァナァで済ます一線は、既に超えたよ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 領主の館に移動中、娼婦達が頑張って接触しようとしてきたが全て正規兵達が跳ね除けていた。思った以上に頑張るのは、僕達が舐められているのと情報が高値で売れると確認している。

 

 多分だが、僕絡みの情報で過去にも大儲けしていたのだろう。だから今回も何としても情報を入手したい。そんな欲に塗れた感情が手に取る様に分かる。

 

 娼婦ギルドは金貸し業も営んでいるから余計に儲け話には執着するのだろう。その結果のリスクを計算出来ない程、僕達貴族の事を軽く見ているのだろう。

 

 

 

 何か有っても男女間の関係の縺れとして大事にならない。今回の件は、そんな簡単な話じゃないんだけどね。少しは痛い目を見て反省を促せれば良いのだけど……

 

 

 

「何か言い訳は有るのかしら?」

 

 

 

 領主の館に入り応接室に通される。用意してくれた紅茶に手も付けず、初っ端から攻勢に入る、ザスキア公爵を忌々しそうに睨み付けるバニシード公爵。ザスキア公爵は、最初から攻撃的だな。

 

 参加者は、僕とリゼルとザスキア公爵。バニシード公爵と参謀二人の合計六人。それなりに広い応接室に向かい合って座っている。参謀二人は既に顔面蒼白で極限まで緊張している。

 

 アルドリック殿の不在時の抑えとして残っているのに、結果的には何もしていない状況だからな。心の中では負い目や責任感がえらい事になっているのが手に取る様に分かる。

 

 

 

 この参加しているメンツの前で、分かりやすくアピール出来るほど腹芸に優れている訳じゃない。本当に死刑宣告を待つ罪人みたいに緊張している。

 

 

 

「何かと言われても、何故と言い返す事しか出来ぬな。俺は参謀連中に娼婦達を王都に追い返せと指示を出している。敢えて言うならば平民の女共に無体な事はしないという、男の矜持だろうか」

 

 

 

 憮然とした態度で、さり気なく参謀連中に失態を擦り付けている。参謀達も公爵の言葉に否定的な事は言い辛いのだが、視線と表情で全力で否定していますよ。彼等を見てあげて下さいね。

 

 

 

「指示して終わりは子供の使い。進捗と結果の確認、問題が有れば改善までを指示してこそ一人前の男ではないかしら?」

 

 

 

 扇で顔を隠しながら、言葉の刃でバッサリと叩き切ったぞ。内容的には間違ってないというか正論だが、表現が物凄く男の矜持を傷つけます。バニシード公爵も反論する前に胸を押さえて前屈みになった。

 

 まぁ男の矜持を持ち出したのに、淑女に正論でブッタ切りされれば呻きたくもなるよな。しかも外見は未成年の少女だよ。ザスキア公爵はネクタルを追加で飲んだと思う。僕より年下に見えるから余計にだよ。

 

 深呼吸を数回繰り返しているのは衝動的に怒鳴り散らす事を我慢する為だろうか?真っ赤になってるし両手の拳も力強く握っている。普段なら『怒鳴り散らして後はやっておけで終わり』じゃないよな?

 

 

 

 このメンバーで短絡的な対応は破滅に直結している事を理解はしている。でも感情が納得していないとか?

 

 

 

「娼婦ごときがフルフの街の中を徘徊していようが問題は少なかろう?要所の警備は万全だし、目くじらを立てる事でもないだろう?」

 

 

 

 我慢して何とか絞り出した言い訳がソレ?その程度の言い訳で、ザスキア公爵が満足するとか思ってるの?馬鹿なの?王命の指示書を読んだ?

 

 簡単に言えば『可及的速やかに娼婦達をフルフの街から追い出せ!』と『情報の漏洩の危険度を限りなく下げろ!』だよ。その両方の命令を殆ど無視した回答だよ。駄目どころか駄目駄目だよ。

 

 自分の語彙(ごい)力が怪しくなる程、脳が言葉の意味を理解する事を放棄したよ。それは上に立つ者として駄目なんじゃないのかな?

 

 

 

 リゼルが天井を仰いで、ザスキア公爵はパチンと扇を閉じて机を軽くリズミカルに叩き始めた。女性陣はバニシード公爵の回答に失格を出した。

 

 参謀は責任の押し付けに限りなく低かった忠誠心が無くなったと思う。仕事だし王命の責任者として配下として任務に就いたので、ある程度の理不尽さは爵位の関係でも飲み込もうと思った。

 

 だが実際に大問題を押し付けられたら、いくら王命だとしても上官と仰いで仕事に邁進する。

 

 

 

 パシッと軽快な音が応接室に響く。ザスキア公爵が扇でテーブルを結構な力加減で叩いた。バニシード公爵は不機嫌そうな顔をして、参謀二人は文字通り飛び上がって驚いた。

 

 

 

「王命による指示書をお読みになりましたの?その様な甘い対応で遂行出来ると、本心で思っていらして?もしそう思っているのならば……」

 

 

 

 思っているなら?その先の言葉を言わせたら、後戻りが出来ないと理解したのだろう。不機嫌そうな顔から慌てた顔になり両手を前に突き出して振り始めたが、中年貴族の怪しい行動にしか見えない。

 

 

 

「まままま、待て。ちょっと待て。ちゃんと考えているぞ。ほら、お前達、今後の事を話せ。アレだアレ、この間の話し合いで決めただろ?」

 

 

 

 いきなり話を振られた参謀達も言葉に詰まってアゥアゥとしか言えない。まぁ話し合いとか無かったのだろうが、それをそのまま正直に言っても駄目なのだから慌てるよね。

 

 同情の視線を向けたら懇願の視線を返された。リゼルが軽く僕の膝を叩いたのは、参謀連中をフォローしろって事?チラリと横目で見れば心を読んでいたのだろう、そうだと頷いた。

 

 バニシード公爵を擁護する必要性は感じないが、此方に都合の良い提案をいかにも自分達で考えたと話に乗ってくれれば良し。それに反発すれば代案を出させれば良い。

 

 

 

 多分だけど、ザスキア公爵の提案は色々な意味で苛烈だと思うぞ。

 

 

 

「予定していた通りに娼婦達を私兵達の手で強制的にフルフの街から退去させれば良いではないですか?参謀の方々は最後の詰めである敵の掃討の準備と実行、王命を受けた正規兵に娼婦達を追い出せとは言えないでしょ?」

 

 

 

 黙って素直に恨まれ役を演じて下さい。それが娼婦達から接待攻勢を受けて良い思いをした、貴方の責任です。仮に揉めても恨みは御自身で受け持って下さい。それ位の泥を被らないと、ザスキア公爵は納得しませんよ。

 

 僕等はモンテローザ嬢の処理の件も相談しなければ駄目なので、娼婦関連に時間を割きたくないのが本心なのです。僕は娼婦関連の事とは全く関係無いので、巻き込まないで欲しいのです。

 

 参謀達は無言で首を縦に振り続け、バニシード公爵は意表を突かれたのか放心状態から面倒事を全て押し付けられた事を理解して怒りが生まれたのだろう。一瞬で真っ赤になったが、反論は無意味と押し黙った。

 

 

 

 一応、手助けをしたのですから感謝して下さい。最悪は王命の不履行で王都に更迭されて処罰ですから、首の皮一枚で繋がった事に喜んで下さい。

 

 

 

「そうだな、そうだったな。勿論だが忘れた訳ではないぞ。只な、最近忙し過ぎて考えが混ざってしまって整理する時間が欲しかったのだ。その通り、娼婦達は俺が責任を持って王都に送り返す」

 

 

 

 無表情で抑揚無く言葉を紡いだのだが、本心は全く納得していないが取り合えず仕事として納得はしたのだろう。最悪から最悪二歩手前位にはなった。

 

 後は娼婦達にいう事を聞かせられるだけの交渉力が有るか?無ければ武力行使出来るか?彼女達の恨みを一身に受けるだけの覚悟が有るのか?考えれば色々と無茶な話だが、問答無用で更迭よりは幾分マシだろう。

 

 

 

「外に居る残敵の掃討作戦の前にですよ。作戦の一部でも知られて拡散されてはたまりませんから。『弱いもの虐め』とか『歩み寄りが必要だった』とか周辺諸国から要らぬ批判の対象にはなりたくないのですわ」

 

 

 

「そうだな。弱小国ではあるが、それ故に大国としての対応には細心の注意が必要という事だな。エムデン王国は正義を貫く国だからな」

 

 

 

 ハッハッハッてヤケクソ気味に叫んだけど、戦争に正義など無いよ。殴られたから殴り返した、やられたからやり返した。それは正義ではなく国家の面子と自己防衛だよ。敵対するなら、戦争を仕掛けて来るのだから。

 

 相応の対応をさせて貰うという事だから、正義とか安っぽい言葉で表して欲しくない。聖戦という錦の御旗も、モア教の教義を犯した者への報復だよ。自分達の正義、その程度の建前を国家の重鎮が言っては駄目だよ。

 

 正義を貫く国家とか胡散臭すぎて吐き気がする。周辺諸国の安寧も担っているとか笑えない肥大した自尊心だぞ。どれだけの負担を抱え込む事になるのか、理解してるの?してないから気楽に言えるのだろうな。

 

 

 

 まぁ頑張って下さい。本国は駄目だと思っているから、ザスキア公爵本人を派遣したと考えて行動しないと危険ですよ。もう後は無いと思って行動して下さいね。

 

 

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