古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

1012 / 1091
第1006話

 娼婦対策の話し合いで、ザスキア公爵はバニシード公爵を問い詰めたが最後の機会を与える様に僕の提案を飲まされた事に文句も言わずに引き下がった。やる事はやらせて、失敗したら手を出す考えかな?

 

 あの後、応接室を出た所で参謀達が追いかけて来て深々と頭を下げて感謝された。無関係な責任を押し付けられる所を本来の仕事が出来る様に取り計らった為にだ。

 

 僕としては、彼等にバニシード公爵の手伝いをさせない為の処置だったんだけどね。責任は全て責任者である、バニシード公爵が負う。結果的に参謀達に感謝されたのは良しとしよう。

 

 

 

 アルドリック殿との関係も改善されたし、軍部に籍を置く者として参謀達と良好な関係を築く事も必要な業務だよ。癒着じゃないよ、風通しの良い円滑な関係の構築と維持だよ。

 

 ザスキア公爵とリゼルを伴い大使館へと馬車で向かう。護衛の正規兵が歩兵の為に速度は出せない。娼婦達が接触してくるのなら最後のチャンスだと思うが……来るかな?

 

 娼婦の対応をバニシード公爵に丸投げした後で、囮みたいな行動で娼婦達の暴走を誘ったとか思われなければ良いけどね。もし娼婦達が暴走して突撃陳情してきたら?

 

 

 

「護衛の兵士達が拘束、王都に連行の上で沙汰待ちでしょうか?」

 

 

 

 ボーッと馬車の窓の外を見ながら考えに耽っていたら、隣に座るリゼルが腕を抱きかかえながら問題発言をした。向かい側に座る、ザスキア公爵の視線が冷たくて痛い。いえ、誤解です。

 

 色事では有りませんです。多分ですが、リゼル曰く牽制らしいのですが……何についての牽制かは教えて貰えませんでした。女性間の事には突っ込まずにスルー推奨してます。

 

 情けないとかは関係ありません。方針を決めたら、それに従うのです。ザスキア公爵とリゼルが視線を合わせているのは、目を合わせるだけで会話が成立しているのだろうか?

 

 

 

 暫く見つめ合った後、同じタイミングで顔を背けて深く溜息を吐いた。仲が悪いようで、本当は仲良いよね?タイミングぴったりだし。

 

 

 

「そんなに分かりやすい顔をして考えてたかな?」

 

 

 

「いえ、違います」

 

 

 

「そうでは有りませんわ」

 

 

 

 いえ、息ぴったりですよね?絶対に仲良いですよね?

 

 

 

 リゼルのギフトはザスキア公爵には教えているが最重要機密なのだから、意思の疎通が良好なんです!位にしないと疑われるぞ。阿吽の呼吸とかです!なんて理由で納得などしてくれないだろう。

 

 モンテローザ嬢という洗脳ギフトの脅威もあるし、読心術も脅威度は高いんだぞ。頭の中の考え事が読まれるとか、駆け引き不要の裏技過ぎる。

 

 小国のバーリンゲン王国が周辺諸国に飲み込まれずに国家を維持出来た理由の殆どが、リゼルが他国との交渉時に自国が有利になる情報を得ていたからだ。

 

 

 

 普通だったら大した国力も無い小国の癖に上から目線の交渉を仕掛けて来た時点で潜在的な敵国認定、態度が悪過ぎれば即日開戦だよ。主に国家の面子の問題で、舐められたままでは済まさない。

 

 まぁ大陸の端で占領しても旨味も無く維持が大変だから放置していたのだろう。ウルム王国だってエムデン王国を挟み撃ち出来る立地だったから勝率を上げる為に接触しただけで普通なら完全無視だろう。

 

 エムデン王国は前王が行き過ぎた博愛主義者だったから大目に見ていたし援助もそれなりに行っていたのが原因で、こんな変な思考を持った連中が生まれたんだ。前王の責任は大きい。

 

 

 

 『隣国は永遠の友にはならない』というのが外交関係者の常識なのだが、前王の非常識な博愛主義によって今の僕達が苦労している。未来に苦労を背負わせない為にも今回で歪な関係を清算する。

 

 

 

「む?周囲の兵士達が騒がしいぞ」

 

 

 

 馬車が止まった。上級貴族の乗る馬車を止める事は不敬案件、公爵と伯爵本人が乗っているのだから相応の理由が無ければ切り捨てられても文句は言えない。

 

 窓の外を見れば、護衛の兵士達が正面に集まって娼婦達の集団を拘束している。ええっと、何時になく強硬な対応だけど何が有ったんだ?一応は自国民だから、極力危害を加えない方針の筈だが?

 

 扉を開けて外に出て確認しようとドアノブに手を掛けたが思い留まった。僕との接触が目的なので避けていたのに、のこのこ出て行ってどうするの?連中と対話するの?駄目じゃん。

 

 

 

「護衛の兵士達に任せましょう。彼等が拘束するという判断を下したならば、娼婦達の行動に問題が有ったのでしょう」

 

 

 

 僕の名前を叫ぶ声が聞こえるけど完全無視、女性が助けを求めているのだから助けろ?いやいやいや、彼女達は国益を損ねる諜報員だよ。国家の為にも拘束して取り調べを行い相応の対処をするべきだ。

 

 

 

「バニシード公爵に大きな貸しが出来ましたわ。自らが招いた者達が、私達の行動を阻害する。本来ならば退去している筈の者達なのですから、何かしらの思惑が有る筈ですわ」

 

 

 

 情報の抜き出しだろうけどね。エムデン王国の情報は些細な事でも周辺諸国が高値で買ってくれるし、彼女達も何か重要な情報を隠していると肌で感じていたのかも知れない。

 

 だが隠している情報が危険すぎるので、その秘密を探ろうとする連中には厳しい対応をする必要が有る。彼女達は『虎の尾を踏んだ』し『藪をつついて蛇を出した』んだ。もう甘い対応など出来ない。

 

 バーリンゲン王国と同じ、今まで甘い対応をされていたので危機感が麻痺してしまったのだろうね。バニシード公爵の責任も大きいが、哀れでもある。対策すると言ったのに、対処する前に娼婦達が暴走したから……

 

自作自演と言うか、計画的行動?後から文句を言われると思うけど、早く対処しなかったのが悪いんです。

 

 

 

「取り調べは、私に任せて下さい。裏の裏まで調べます」

 

 

 

「私も参加するわよ。愚かな女共に、お灸を据える絶好の機会ですもの。殿方が関わっては駄目です。今回は男女のアレコレで済ませませんわ。同性として、きっちり対処します」

 

 

 

 そんな会話をしていると正規兵達は、全ての娼婦達を拘束して運搬用の馬車まで呼び寄せていた。準備が良過ぎるのは、事前に予測して用意していたのか?リゼルを見れば、嫣然と微笑んだ。

 

 この娼婦達というか、レイチェル殿とバレンシア殿の姿も確認出来た。彼女達の暴走も促されたと思って良いのか?もしかしなくても、ザスキア公爵が来る前に事前に手を打っていた?

 

 つまり、ザスキア公爵とリゼルは最初から暴走させる為に動いていて、バニシード公爵から対処すると言う言質を取った後で直ぐに暴走させて拘束し最も有利な状況に?

 

 

 

 ザスキア公爵を見れば、花が咲き誇る様な可憐な笑顔を浮かべた。

 

 

 

「おいたが過ぎましたわ。一度引き締める必要が有りましたから、丁度良い機会でした」

 

 

 

 全ては二人の掌の上で踊っていたのだろうな。ザスキア公爵が最前線に来る意味を考えれば、相応の成果を求められる訳だよね。つまり王都の娼婦ギルド本部を巻き込んでの粛清の嵐という訳だ。

 

 ハイゼルン砦では相応の待遇を確保していたのに、新婚家庭に波風立ててくれた恨みは忘れていない。故に擁護もしないし、追い込む手伝いを頼まれたら躊躇なく追い込む。

 

 心が狭い?そうだよ、僕は自己中心的だし根に持つタイプでもある。恨みは絶対に忘れないし、報復は時が過ぎても必ず行う面倒臭い男ですが何か?

 

 

 

 馬車に向かって助けを求めている姿を窓越しに見ても、憐れむとか可哀そうという感情は砂一粒程も生まれない。

 

 

 

「娼婦達の件は早々に片付きましたね。ザスキア公爵に一つ相談に乗って欲しい事が有ります」

 

 

 

「良いわよ。何だって言ってくれれば叶えてあげるわ」

 

 

 

 馬車が動き出した。娼婦達は全員取り押さえられて搬送されたし、伝令だろう数人の兵士達が領主の館の方に走って行った。バニシード公爵は慌てるだろうな……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 ザスキア公爵とリゼルを大使館に招いた。僕の仮の屋敷に連れて行くのも問題だし、幸いというか大使館には各国の大使を招いても問題無いように客室も用意している。

 

 まぁ此処はエルフ族専用の大使館なので周辺諸国の大使が泊まる事など無いだろうが、どの様な対応も出来る程度の設備は整えた。いずれ、クロレス殿やレティシア達も来るのだから、宿泊場所は必要だ。

 

 世話焼きのアインが紅茶と焼き菓子を用意してくれる。最近のアインは厨房に籠り料理の研究もしているらしく、料理の腕が上がっている。もう王都の有名な料理店よりも美味しく感じている。

 

 

 

 ゴーレムの可能性は無限大って事だね!

 

 

 

「実は、クリスがモンテローザ嬢を捕まえまして拘束しています」

 

 

 

 直球で報告する。もしかしたら、ザスキア公爵の事だから既に彼女を捕まえた事もしっているかもしれない。ん?少しじゃない位に驚いた顔をしたのは、流石に知らなかったって事かな?

 

 

 

「何時、何処で?」

 

 

 

 語彙力が低下したの?短い言葉で端的に質問してくる。もう死んでいるかもと思われていたのだから、生きたままで拘束していると聞けば驚くか。

 

 

 

「難民達を洗脳して戦力を集めていたらしく、三つに分かれた敵とは少し離れた所に潜伏していたそうです。僕が、その一つを殲滅させた時に動きが有り、クリスが見つけて拘束しました」

 

 

 

 そう、と呟いて考え込んでしまった。知らない内に、クリスが僕の後ろに立っていた。気付いたときに悲鳴を上げそうになったが何とか耐える。心臓に悪い登場の仕方を止めてくれと言っているが改善してない。

 

 クリスも面白がって態とやっている可能性が高いんだよな。修行で感情を無くしたらしいので、こういう悪戯染みた事をする様になったのは良い兆しだと褒めるべきなのだろうな。

 

 僕が警戒して驚かなければ良いだけなのだが、彼女も日々修行しているのか隠密能力が出会った時よりも研ぎ澄まされていて感知できない時の方が多い。何とか誤魔化しているけど、そろそろ危うい。

 

 

 

「王命は生死を問わず。彼女のギフトは凶悪ですので、生かして王都に連れて行くよりは此処で処理した方が良いでしょう。痛みを与えず安楽死させる方法は持ってますから」

 

 

 

 手を汚すのは自分、他人には任せない。僕はギフトを使われても洗脳は防げるが、他の連中は防げない。彼女は有能で、自分に同情させるような手段は豊富に待っている。僅かでも同情すれば、ギフトで絶対助けるようになる。

 

 厄介だが防げない。モリエスティ侯爵夫人に嵌められたのだが、最初に裏切ったのは彼女だから自業自得だろう。そこに同情の余地は無い。年若い女性だから助けるとかにはならない。

 

 ザスキア公爵と視線が合うがお互い逸らさない。逸らしたら負けというか決心が揺らぐから、彼女の処刑は誰にも譲れないし譲らない。自分の役目だから、他人に押し付けたら駄目だから。

 

 

 

「そう、そうね。生かしたまま王都に連れて行く危険性は大き過ぎて駄目よね。彼女の処遇は王命で決められているのだから、王都に行っても結果は変わらないし変えられないわ」

 

 

 

 ザスキア公爵が視線を逸らした。彼女でも結果を覆す事など出来ない。仮に出来たとしても、モンテローザ嬢が再びエムデン王国に悪意ある行動をしないという保証も出来ない。

 

 何故か、モリエスティ侯爵夫人のギフトである『神の御言葉』が解除された謎も解けてない。簡単に助けるなど判断出来ない。いくら考えても覆せないが、そもそも覆そうとも思っていない。

 

 自分で思っている以上に、僕は人でなしなのだろうな。まぁ権利には義務がセットであり、僕は貴族の恩恵を受けているのだから国益を優先する必要が有る。

 

 

 

 僕の意思が固い事を感じたのだろうか?または憐れんでくれたのだろうか?ザスキア公爵が一筋の涙を流した……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。