古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1009話

 翌朝、ザスキア公爵がモンテローザ嬢の遺体と娼婦達と共に王都に戻って行った。モンテローザ嬢の遺体は、僕謹製の特別な棺を錬金した。水属性魔法を付与し温度を継続的に氷点下まで下げる事が出来る。

 

 アウレール王に確認して貰い埋葬する迄は、綺麗な状態でいて欲しいという贖罪からだ。普通なら首だけ塩漬けとかが遺体の保存方法だからね。流石にそれは晒し者みたいで気の毒だから。

 

 娼婦達も、僕謹製の護送車を用意した。絶対に逃げ出せないが、居住空間としての環境もそこそこで悪くはない。普通なら檻に全員押し込んで移動だから破格の待遇だよ。

 

 

 

 当然だが外部から中は見えない仕様だから、罪人として捕まった事も民衆には分からない。勿論だが、善意じゃなくてエムデン王国が娼婦ギルド本部の構成員を捕縛した事も知られない。

 

 ザスキア公爵が今回の件について、娼婦ギルド本部と交渉する筈なので情報の秘匿が目的だ。娼婦ギルド本部は、バレンシアさん達が捕まった事を知らない。

 

 全てを下調べした後で、ザスキア公爵は娼婦ギルド本部と交渉という断罪を下す。其処には一切の慈悲は無いのだろう。本人がそう言っていたし、実際にエムデン王国としても危険な状態に陥る可能性も有った。

 

 

 

 男女間のイザコザだからと今まで甘い対応をしていたツケを双方が清算する時期が来たという事で、あとはお任せしました。

 

 

 

 もう一つの朗報が、参謀連中が対処した敵の掃討が完了した事だ。これでフルフの街周辺の不穏な連中は一掃された。森の浸食は未だ近くまで来ていないので、これからも生き残った連中が逃げて来る可能性は高い。

 

 だが大人数が押し寄せて来る事は無いだろう。少人数の集団が逃げ込んできて、声高々と保護しろとか、援助しろとか、早く何とかしろとか、好き勝手言うのだろうな。

 

 その対処は相応に経験を積んだ連中が対処マニュアルを作成し、入れ替えの兵士達に引き継ぐ事になっているので任務が滞る事も無い。もう暫くはフルフの街に常駐して対応する事になる。

 

 

 

 バニシード公爵は微妙だ。成果は一応有るには有るが、色々とやらかしているので最終的にどう評価されるのかは分からない。焦ってはいるが、もう成果を上げる大きな仕事も無いだろう。

 

 後はフルフの街の維持管理を問題無くこなした位だろうか?治安維持と情報の秘匿関係も失敗したから、最悪は王都に呼び戻される可能性も有る。その辺は、ザスキア公爵の報告次第だろうか?

 

 僕の評価は、これからなんだよな。大使館の整備は殆ど完了、後は後続の大使館員を迎え入れれば良い。自分の屋敷の整備も殆ど終わったが、使用人は呼び寄せていない。

 

 

 

 アイン達で十分に維持管理が出来ているので、未だ一応危険地帯といえる所に軍属以外を呼ぶ事は憚られる。本当は、アーシャ達を呼び戻したいけど我慢だな。あと一ヶ月か二ヶ月は此処を動けない。

 

 多分だが、バニシード公爵は王都に更迭されるだろう。更迭までいかなくても、色々な弁明を含めて王宮に呼ばれる事になる。詳細報告ならば報告書の提出だけでなく、僕も同行するべきなのだが……

 

 ザスキア公爵に説明したので、娼婦関連の事も含めて色々あるけど任せて欲しいといわれたので余計にフルフの街を離れる事が出来なくなった。仕事の区分を明確にしたのだけれど、尻拭いが必要か?

 

 

 

 まぁ正規兵達も入れ替えだから引き継ぎにも限度が有るし、参謀連中も全てを把握している訳でもないので居残りは仕方無いのかな。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 バーリンゲン王国の不穏分子共を一掃し押し寄せて来る連中の波も一段落した。野盗連中から襲われない程度の戦力を持った小規模の集団、貴族や裕福な商人が纏めている比較的に秩序の有る連中。

 

 だが秩序は有れども、エムデン王国を見下している点は変わらない。ここまで苦労して来たのだから好待遇で受け入れろ!宗主国なのだから属国の困っている者を無償で好待遇で無条件に迎え入れろ!

 

 損害を補償し謝罪しろ!とか同じような要求を突き付けてくるので、引き継ぎマニュアル通りの対応に終始している。話を聞いて丁重にお断りをして、納得しなかった場合は武力を行使する。

 

 

 

 前と同じ轍は踏まない様に、追い返した連中が纏まって勢力が大きくならない様に注意と監視はしている。連中は同族でも上下関係をはっきりしたがるので、余程の数がいないと争う。

 

 生き残りを掛けた生存戦略に権力争いを仕掛けてくるとかさ。先が見通せないというか協力とか協調性がなく、上下関係が優先されるというかマウントを取りたがるので扱いやすい。

 

 追い返す時に、何処の誰の方が良かったとか口を滑らせれば突っ掛かって行くので争わせ易い。相手の規模を同じ程度にすれば共倒れを狙える。あくどいとは思うけど、これも間引きだね。

 

 

 

 僕等の武力で全ての敵を屠る必要は無い。自滅させる方が消耗も少なくて効率的だ。そしてある程度の規模になってしまえば、此方から強襲して数を減らす。

 

 

 

 正規兵達も大きな戦いを終えて順次入れ替えを行っている。ストレスの強い職場からの撤収、相応の臨時報酬と休暇が与えられる。苦労には報いないと為政者として失格だから、奮発する必要が有る。

 

 予想通り、バニシード公爵はアウレール王より召還の命令が来た。処分ではなく命令なので、そこまで酷くは無いが王命の途中で戻されるって事は評価は最低限だろうな。本人も酷く落ち込んでいた。

 

 参謀連中は裏切り者と罵倒されていたが、全く気にしていなかった。アルドリック殿が他の二人の参謀連中を抑えていたけど、参謀達の中でもバニシード公爵の評価は低いのだろう。

 

 

 

 バニシード公爵は仮住まいをしていた領主の館の一室を癇癪をおこして暴れて壊して補修もせずに帰国していった。

 

 

 

 召還の命令書の後でもう一通、僕に権限を委譲する命令書が来た事を知った時は荒れに荒れた。実質的に任を解かれた事になるからだけど、時間差で命令書を送ってくるのは意地が悪いと思う。

 

 最低限の成果は有ったと安心した後で、権限を全て引き継げって事は解任って事だから。お前の仕事は途中で終わり、後は別の者に任せるから帰ってこいって事だし。ザスキア公爵達の暗躍が……

 

 僕の方にも権限の委譲による大幅な王命の変更が有り、フルフの街の最高責任者となった訳だ。序にアルドリック殿と参謀二人も、僕の配下として組み込まれたが本来の指示系統から言えば違う。

 

 

 

 前線指揮官の下に参謀連中が組み込まれるって前例を作るのは駄目じゃないかな。参謀が考えて承認された作戦を遂行するのが現場なんだけど、立場が逆転してるよ。

 

 アルドリック殿も納得してるけど、主席参謀が受け入れちゃ駄目じゃない。なに、その安心しました的な顔はさ?自分の仕事の分野が侵されているのに、安心しちゃ駄目だって!

 

 妻や側室、親族の女性陣に対して、僕の配下に組み込まれたと報告して良いかってお願いされたけどさ。『新しき世界』の信奉者達から迫られていたけど、これで解放されたぜ!とか言っちゃ駄目だよ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 『フルフの街の実質的な支配者となったので、大使館から領主の館に引っ越ししましょう!』と、リゼルが言い出したが断った。手間暇掛けた大使館に愛着が有るし、領主じゃないから住みません。

 

 バニシード公爵の後任が来るかもしれない。僕も大使館の他に自分の屋敷も整備しているので、領主の館とか今更な感じがしている。クロレス殿に確認するけど、もしかしたら解体して更地で引き渡しかもしれないし。

 

 地下の秘密空間への進入路も有るから、エルフ族もそのまま使用するかもしれない。まぁ表向きの引っ越さない理由を色々考えているだけで、本心は余り良い思い出が無いので住むのが嫌なんだ。

 

 

 

「リーンハルト様、今回の訪問してきた一団ですが……」

 

 

 

 大使館に設えた執務室で仕事をしていたが、リゼルが言い難そうに報告してきた。珍しい、普通は報告の時に既に何通りかの回答も用意している才媛な彼女が言い淀む程の事?

 

 書類から視線を彼女に向けると、何とも困惑した感じで組んだ指を忙しなさそうに動かしている。非常に珍しい光景なので、暫く見詰めている。気が付けば、リゼルの後ろにクリスも控えている。

 

 クリスは相変わらずの無表情だけど、どこか居心地が悪そうな感じがする。僕に視線も合わせないし、なにかヤバめな失敗でもしたのかな?ヤバい連中でも来たのかな?

 

 

 

「その、タマル殿を中心にアブドルの街の住人達が逃げ込んで来ました。自国の民に追われていたらしく、殆どの者達が何らかの怪我を負っていまして……」

 

 

 

「彼女達には世話になった。追い返すのは気が引ける」

 

 

 

 感情の希薄な、クリスが申し訳なさそうに手を後ろで組んで身体を左右に揺らしている。顔も逸らしているが視線はチラチラと此方を伺っている。

 

 ふむ、義理人情と王命との狭間に悩んでいるが切り捨てるだけ割り切れていないという事か。暗殺者としては失格なのだろうが、僕は今の彼女の方が好ましい。

 

 イルメラさんの情操教育の効果は確実に実っている。ならば、主である自分が折角育んでいる感情を殺す訳にはいかないな。どんな事にも抜け道は有るし、失敗した時の責任は取る。

 

 

 

「クリス、君は……そうか、そうだね。確かに世話になったし、恩には報いる必要が有るよね」

 

 

 

「はい、そう思う。王命には違反するけど見捨てる事はしたくない」

 

 

 

 うん。ちゃんと考えているし問題点も理解している。その言葉に、リゼルは少しも驚かないのは報告の前に二人で話し合っていたのだろう。結果は僕の指示に従うけれど、気持ちは伝えたいかな?

 

 

 

「やり方は幾らでもある。解釈の相違による抜け道的な事とかね。まぁタマル殿達は問題無いけれど、同行者達が問題かな。エムデン王国に害する考えを持っているのならば受け入れない」

 

 

 

 この言葉に、リゼルがニヤリと笑ったのはさ。不心得者は自分が洗い出すから大丈夫って事だよな。全員を安易に受け入れるとか不用心でも無警戒でもない。

 

 あとは共に苦労して逃げ延びた仲間を切り捨てる事を、タマル殿達が受け入れられるかだけど……それは今考える事ではないか。だが安易に同情して妥協はしないし出来ない。

 

 どうしても見捨てられないと言われれば、全員を受け入れないというしかない。彼等は更生などしないし、すると言っても口だけだ。それは散々騙され続けてきたから間違いない。

 

 

 

「タマル殿達かぁ。アブドルの街の攻略の依頼を受けた時に世話になったよね。他国から嫁いで苦労をしたそうだけど、バーリンゲン王国の悪癖には染まらない人だった」

 

 

 

 アブドルの街、懐かしいな。クリッペン元殿下の横暴に反発した副隊長のミグニズ殿と同じく副隊長のブングル殿、それと幽閉されていた領主の妻のタマル殿が居た街だな。短い滞在だったが、確かに世話になった。

 

 ミグニズ殿は五十歳前後で恰幅の有る落ち着いた感じだった。筋肉が凄いパワータイプ、右眉から耳に掛けての裂傷の有る見た目も実力も歴戦の古強者で娘さんがいた筈だ。責任感が強いし自己犠牲も厭わなかった。

 

 ブングル殿は二十代半ばと若い、中肉中背のバランスの取れたタイプ。中々な色男だったがが髪は短くボサボサで身嗜みに気を使わないタイプで妹殿がいた筈だ。

 

 

 

 娘さんと妹さんは確か、ハーミィ嬢とカーマイン嬢だったかな?どっちが妹か娘か忘れてしまったけど名前は辛うじて憶えている。メイド擬きの格好をさせて世話を焼いて貰ったが、嫌な思いはしなかった。

 

 タマル殿は他国からバーリンゲン王国に嫁いだ為に馴染むまでに苦労したらしい。最も馴染んだのではなく、対処を実地で学んだからだろうか。バーリンゲン王国の変な思考に染まってない珍しい連中だった。

 

 彼等に会ってみて思惑を確かめてから判断すれば良い。当時のままの考えを維持してくれているならば、助ける事も吝かではない。バーリンゲン王国の悪癖に思想が染まってしまっていたら……

 

 

 

「先ずは直接会ってみて確かめよう」

 

 

 

 そう言って立ち上がると、予想通りだったのだろうか?クリスとリゼルが先に部屋を出た。多分だが案内される先に、タマル殿達が居るのだろうな。

 

 

 

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