古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1011話

 かつて所属していたバーリンゲン王国の愚かすぎる行動と末路を知って慟哭する、タマル殿達。一年程度の期間で属国化からクーデターを起こして独立、そしてエルフ族に喧嘩を売って滅びる最中。

 

 しかも族滅どころか国土そのものを地図から書き換える程の怒りを買っている。そして隣国に多大な迷惑を掛けている最中だが、その隣国であるエムデン王国がバーリンゲン王国を完全に見捨てている。

 

 エルフ族と交渉して森林化の境界を決めて、国交を結び交渉の為にフルフの街を整備しているんだ。そしてフルフの街は防壁としてバーリンゲン王国から逃げ出した者達を拒んでいる。つまり逃げ場はない。

 

 

 

 僕が来る前に難民を受け入れていないのは、匿われる時に有る程度の事情を含めてリゼル達から聞いていたのだろう。故に自分達の現状と起こりうる未来の姿も想像していただろうな。

 

 

 

「さて、タマル殿」

 

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

 

 僕の問いに、何かの決意を滲ませた顔をした。同情や憐れみを引き出す悲しい表情じゃなくてだ。勿論だが安易に助けてもらえるという安堵感も無い。何でも受け入れて、それでも強く生き抜く覚悟だろうか?

 

 彼女は婚姻関係でバーリンゲン王国に来たので、生粋のバーリンゲン王国人ではない。だが彼女の周囲に比較的まともな人材が多いのは、異常な国に染まらない連中が集まったのだろうか?

 

 まぁエムデン王国に対して理不尽な思想が通用しない事を理解しているのだろう。それを理解しているだけでも十分、顔に出さないなら更に良し。自分の命を担保に異常行動など出来ないだろう。

 

 

 

 受け入れても、ある程度の期間は監視が必要だろう。信用してるしてないの問題ではなく、国家として普通の対応。信じてるなどの安っぽい言葉で手間を惜しんで反エムデン王国活動をされたら堪らない。

 

 

 

「僕は辺境の部族、カシンチ族連合と魔牛族を難民でなく移民としてエムデン王国に受け入れました。対外的なアピールも必要なので、カシンチ族連合には悪いがバーリンゲン王国の国民だと身分を偽らせています」

 

 

 

 モア教のジェスト司祭の救済活動の件、近隣諸国への非道な事をしていないアピール。巻き添えでエルフ族と事を構えそうになったが、フルフの街を国境として森林化を止めた交渉をした事。

 

 エムデン王国がバーリンゲン王国の完全排除に動いた事、既に集団で暴徒化した連中を何万人と処分して来た事、フルフの街自体が逃げ出すバーリンゲン王国の連中の最終の防波堤として機能している事。

 

 もはや森に埋まって森と共に全滅するしかない。そういう段階まで来ている。気になるのは倒した連中が簒奪を実行した奴らじゃない、元凶の連中が居ない。もしくは既に死んでいる?

 

 

 

「私達も同じ扱いならば、保護して頂けるという事でしょうか?ですが恥を承知で伺いますが、バーレイ伯爵には何の利も有りません。それでも保護して頂けると言うのでしょうか?」

 

 

 

 メリットとデメリットの関係か?交渉事には必要不可欠な問題だけど、この状況になっても確認するとはね。貸し借りの危険性を良く知っている生粋の貴族なのだろう。

 

 ここで厚遇を受け入れてしまい、後から色々な問題事を押し付けられる事を危惧している。命を救われても、後から断れない不利な条件や仕事を強要される事も有る。死んだ方がマシって事も無いとはいえないし。

 

 一時的に命は救われても、後から死んだ方が良かった的な事をされるかもしれない。そこまで考えが至る程に追い込まれて追い詰められて。または裏切られてきたのだろうか?そうだろうな。

 

 

 

 弱者を追い込む。バーリンゲン王国の連中って、そういう事を平気でやるから嫌なんだ。

 

 

 

「メリットというか、大した手間でも無いです。対外的には全く救助をしない事はイメージが悪いですよね。カシンチ族連合の連中だって身分を偽らせているので、何時かボロが出る可能性も有ります。それに……」

 

 

 

 建前を伝えたが、未だ納得はしてなさそうだな。十数人が増えたからといってプラスになる事など少ないと感じているのか?まぁカシンチ族連合は、クギュー達が上手く纏めているから早々失敗はしないだろうし。

 

 タマル殿は自分の存在が埋没してしまう事が嫌なのだろうか?貴族だし平民階級と同じ扱いで移民として暮らしていく事が受け入れられないとか?でも貴族として扱う事も同等の権力を持たせる事も難しい。

 

 そういう支配階級の連中が散々やらかしたから今の状況になっているんだし、エムデン王国としても許容しない。最悪は排除の方向で動く事になるだろう。

 

 

 

 この回答で、彼女の反応がどうか調べるか。呆れるか、苦笑して受け入れるか?それとも怒り出すか?先ずはエムデン王国というか、僕への反応を確認しよう。

 

 

 

「リゼルとクリスが禁を破ってまで貴女達を匿ったのに、僕が見捨てる判断を下すと?それは無いので、諦めて受け入れて下さい」

 

 

 

「ふふふ、リゼル殿もクリス殿も良い主を得ましたわね。バーリンゲン王国ならば、考えられない回答です。そうですか、配下の行動を是として受け入れて対応するのですか?」

 

 

 

「それが上に立つ者の心構えでしょう。勿論ですが、違法な行為や無理な事なら窘めますよ。今回はそうではないでしょう」

 

 

 

 ふむ、三択の中で一番希望していた対応だったな。ブングル殿とミグニズ殿が何とも言えない微妙な顔をしているのに、タマル殿は笑いを堪えられずに下を向いて腹を抑えて笑い出した。

 

 それ程、笑われる事ではないと思うけど?何が笑いのツボに触れたのか分からないが、悪い感情ではないので良しとしよう。一頻り笑った後で、急に真面目な顔になって見詰めて来た。

 

 正直表情の温度差が激し過ぎて困る。これからが本番という事かな?まぁ悪い感じはしないし変な要求もしてこないと思う。だが何かしらの希望は有るのだろうな……

 

 

 

「理想の上司なのですね。正直、羨ましいです。希望というかお願いが有ります。こういう事を言える権利など無いのは、勿論ですが承知しています。ただ何もせず朽ちていく事は嫌なので、何か仕事を与えて欲しいのです」

 

 

 

 ワーカホリックなので何か仕事をしていないと心が休まらないのです。そう自嘲気味に笑ったが、働きたいとは思わなかった。これは移民として受け入れた先で生活の糧を得る為の仕事って意味じゃないな。

 

 タマル殿のスペックを生かせる仕事をしたいって事だろう。望まぬ婚姻で苦労を重ねた人だし、代官の妻として代行し街の運営に関わっていた事を考えても有能だよな。確かに市井の民として腐らせるには惜しい人物だ。

 

 僕個人で雇用するとして、タマル殿とブングル殿とミグニズ殿だな。ハーミィとカーマインは家族だから一緒に付いて来るから問題は無いかな?他の連中の中にも使える人材が有れば引き抜くか……

 

 

 

「取り合えずモレロフの街に受け入れ後に時間をおいてから、僕の家臣団として引き抜きましょう。僕の仕事はフルフの街に新しく用意した大使館でエルフ族との交渉担当だから、その手伝いでどうでしょう?」

 

 

 

 エムデン王国の領内に招き入れれば、彼女の過去を知る者も居る筈だ。無用なゴタゴタを招く可能性も有るので避けた方が良い。フルフの街に来れる連中は限られるし、僕の配下ならば騒がれないだろう。

 

 つまり、エルフ族に引き渡すとは言え、それなりの生活基盤を整える必要が有るのか?エルフ族主体だから難しいか?モレロフの街を整備して、其方に本宅を置いてフルフの街は別宅扱いで通わせるか?

 

 うーん、中間地点のスメタナの街も整備に力を入れた方が良いのか?開発絡みの話だから、アウレール王にもお伺いを立てないと駄目だな。まぁ今後の課題だな。

 

 

 

「それはまた難解な仕事……ですが望むところです。勿論ですが断る選択肢など有りません」

 

 

 

 異種族絡みの交渉だし、エルフ族は人族の上位種族みたいなもので隔絶した力量差の有る連中との交渉は確かに難解だけど凄く嬉しそうなのは何故だろうか?ワーカホリックだって面倒臭いのは嫌だと思うけど?

 

 今まで沈黙を保っていた男二人が小刻みに震え出したのだが、膝の上に置いている両の拳に想像以上の力が入ってないかな?いや気持ちは分かる、自分達も働きたいって事だよな。目の輝きが変わったからね。

 

 元々責任感が強い連中だったから、自分達も何かしたいという気持ちが伝わってくるよ。安心して欲しい。君達にも僕の屋敷と大使館と警備という仕事が有るから。そう思い言葉を掛けようと思えば……

 

 

 

「「自分達も働きたいです!」」

 

 

 

 向こうから凄い勢いでお願いされた。身体が前屈みになる程の勢いだな。此方を窺う他の連中は、ハーミィとカーマインは凄い勢いで頷いている。残りの連中は静観しているだけだが、僕の下で働く意思は無さそうだ。

 

 今後の事は流れに身を任せる感じだろうか?自分自身の事だけど、色々有り過ぎて積極的になれない感じか?まぁ彼等の事は別途でタマル殿から詳細を聞いてからだな。危険と判断すれば監視は付けるし最悪は人知れず排除だ。

 

 馬鹿で愚かな国の思想が少しでも残っているのならば、エムデン王国に受け入れる訳にはいかない。この最低限のラインは守る必要が有る。その前に、リゼルに確認だな。彼女のギフトは有能過ぎて、頼り過ぎてしまって怖い。

 

 

 

 彼女の存在が、バーリンゲン王国という厄介な国の存続に大きく貢献していたのだろう。普通ならば、とっくに内乱か辺境の連中に攻め滅ぼされるかしていた筈だよ。影の護衛とか、それなりに有能な人材育成もしていたのにさ。

 

 変な思想で自分達は他国よりも優秀で崇められる存在、エムデン王国には何をしても問題無い。過去の捏造した嘘を真実だと思い込み謝罪と補償と賠償を貰えると勘違いしている異常者の集まり。

 

 地理的に隣国、しかもエムデン王国としか接していないから他国との交流は殆どない。エムデン王国も攻め滅ぼして自分の領土にしても旨味が一切無いから放置していたのを攻め込まれないのは自分達が優秀だからと根拠のない謎の自信を持っていた。

 

 

 

 違うよ。関わり合いになりたくなかっただけだよ。相手にするのも嫌なんだ。近くに来るな、話しかけるな、上から目線で命令するな。お前達の嘘の歴史などエムデン王国には関係ないんだよ。滅びろ、バーリンゲン王国!

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、今後の事をもう少し詳細に話し合い、周辺の警備を増やして必要な物資を多めに渡すから暫く潜んでいて欲しいと頼んでおいた。不自然にならない程度に正規兵達の巡回警備のリストからも外しておいた。

 

 僕個人が持ち込んだ物資の集積所で、警備はゴーレム達に任せる事にした。個人資産の警備にエムデン王国の正規兵は使えないというのが建前の理由だが、正規兵達は好意的に受け入れてくれた。

 

 勿論だが好意で無償で巡回警備とかしない様にやんわりと断りを入れておいた。過酷な辺境での任務だから、極力余計な仕事はさせたくないと言ったら凄く喜ばれたので逆に申し訳ない気持になったよ。

 

 

 

「それで、タマル殿が連れて来た連中だけど何を考えていたのかな?」

 

 

 

 先に隠れ家の状況整理を終えてから、自分の屋敷の執務室で先程の話し合いの時に他の連中が何を考えていたかを聞いてみた。仕事が一段落したので休憩を兼ねた雑談だ。

 

 アインが手早く紅茶とドライフルーツを用意してくれた。輸送の関係で新鮮な果実は入手が難しいのに、空間創造が有るからと自分達だけ毎回新鮮なフルーツを食べるのはどうなのだろう?

 

 と言う事で、新鮮なフルーツは正規兵達にも配っている。特に柑橘系のフルーツは不足しがちな栄養素の補給になるし甘味はストレスの軽減にも効果的だ。軍隊の食事って基本的に栄養と量が重要で味は……

 

 

 

「デーツの実か……」

 

 

 

 乾燥した赤黒いドライフルーツを手に取り一口齧る。仄かな甘さが口の中に広がる。このデーツはナツメヤシの実を乾燥させた物で宗教的にも意味の有る果物なんだ。

 

 このデーツの実の歴史は古く、現存する古文書から確認できる世界最古のフルーツだ。荒れた大地でも生息し主に熱帯地域で盛んに栽培されている。栄養価も高く、パンと肉とデーツが有れば生きていけるとも言われている。

 

 この植物の面白いというか変わっているところは、開花期に雨が降ると結実しないという事。つまり乾燥地域でしか実が取れない、不思議な生態をしている。

 

 

 

 因みにだが、女神ルナ様もフルーツ好きだが好んで食べられている。宗教的な話をするならば、神が人間に与えた果物らしい。

 

 新しい神を創造する時に余った何かで作ったとかなんとか……まぁ宗教関連は深く考えると問題が有るし、僕もモア教の信者だけど女神ルナ様も広義では信仰している事になる。

 

 何たって妖狼族という女神ルナ様の眷属を現世では纏めている事になっている。それで無関係と言える訳もないし、言えば女神ルナ様の不興を買うので難しい。

 

 

 

「保護された彼等ですが、基本的にはタマル殿との話し合いの結果を全て受け入れる感じでした。話し合いの結果にも不満は無く、逆に喜んでいましたわ。これで安息の地を得られたと……」

 

 

 

 ここに来る迄に相当苦労したらしく、この苦しみから解放されるならば全てを無条件で受け入れると考えていましたわ。って言われた。詳細は聞いてないが、相当苦労したんだな。

 

 絶望の中に希望を見出せたのならば、多少の事など問題無く受け入れるだろう。安息の地とは大袈裟かと思ったけれど、そうでもなかったのか。これで受け入れについては進めても良いな。

 

 家臣の補充も出来るし、結果オーライだろうか?代官の能力の有るタマル殿に、元警備隊の副長二人。メイドの経験も有る女性が二人、人手不足でフルフの街に割ける人材に悩んでたので丁度良かった。

 

 

 

「不満が無いなら良いか。だが身元や思想については、タマル殿とも要確認だね」

 

 

 

 これで此処での仕事の殆どが終わりそうだ。周辺の治安維持や安全の確保も出来たし、後回しにしている地下空間の調査の方も進めるかな。

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