古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1012話

 アウレール王から王宮に来いと命令が来た。一応は召還された形だが、実際は更迭に近いのだろう。一応命令書の体だったが、お褒めや労いの言葉は書かれていなかった。何故だっ?

 

 クソッ、クソックソッタレがぁ!王命は達成したのに、この扱いは納得が出来ない。バーリンゲン王国の糞共は一人たりともエムデン王国への進入を許さず、俺の指揮下で反逆者共は全て屠ったのにだ。

 

 確かに連れて来た派閥構成貴族の連中が馬鹿をやったが、処罰もしたし相手には相応の補償もした。娼婦共の件だって、俺は早く帰れと言ったのに命令を聞かない娼婦共が悪い。

 

 

 

 ハイモの件だって、長く潜伏していたモンテローザを捕縛する為に味方にも情報を制限していただけだ。上手くすればあの毒婦を捕まえる事が出来たかもしれないのに。いや捕まえられた筈だ。

 

 ダッヘル達の事もだ。奴等は親に見捨てられて送り込まれた捨て駒だった。馬鹿な行動を起こす前提だったのだから、俺が幾ら優秀でも元から暴発する予定の連中をどうこう出来る訳がない。

 

 入れ替えした連中が無能なのも、問題をおこさない事を優先して選抜したからだ。財務など担当させた事の無い連中なのだから、多少の間違いや遅れは許容範囲内だろ?今居る人材を有効活用してるのだからな。

 

 

 

 そうだ、俺が一方的に悪い訳じゃない。そうだ、そうじゃないか。俺が一方的に悪い訳じゃないぞ。

 

 

 

 ゴーレムマスターも非協力的だった。仕事の区分を明確化?同じ王命の最中に細かい事を言って協力をしないなど有り得ない愚行だろう。お前が奴等の接待を素直に受ければ、連中は目的を達成し帰ったんだ。

 

 アルドリックや参謀連中もだ。最後の最後で裏切りやがって!軍属共の癒着の現場を目の当たりにしたんだぞ。しかも俺が呼び出された後は、全ての権限を引き継ぎやがった。つまり最終的な手柄は総取りだ。

 

 腹立たしい。俺が準備して段取りを組み実行し殆どの成果を上げた後で、全ての権限を引き継ぐとか卑劣過ぎる。俺の手柄も成果も全て横取りしやがった。腹立たしいから執務室をブチ壊してやった。

 

 

 

 武器庫に有った軽めのメイスを振り回し、目に付くもの全てに殴りかかって破壊した。少しだけ気持ちが軽くなったが、本当に僅かだ。他の部屋もブチ壊したかったが、家人共に止められた。

 

 これ以上は責任問題に発展するとか何とか言っていたが、これ位を直す事など造作も無いだろう。歴代最高の土属性魔術師様ならな。まぁ良いか。絶対に弁償はしない。それが俺の正義だ。

 

 ゴーレムマスターの帰還は凱旋扱いで国民が騒ぐのに、俺が帰還した時は一切の出迎えが無いってどういう事だ。最上級貴族たる公爵本人が王命を殆ど達成し帰って来たのに誰も出迎えないのか?

 

 

 

 さり気なく、家人達に王都の連中の寂しい対応について聞き回らせたが特に通達もなにも無かったので知らなかったそうだ。

 

 

 

 王命ではあるがバーリンゲン王国の消滅絡みの件なので、国民達にも秘密だから仕方ない。全てが終わった後で、今回の件の詳細を多少の脚色と隠さねばならぬ事の調整を行い大々的に国内外に発表する。

 

 バーリンゲン王国の愚行は嘘ではない程度に誇張されて、エムデン王国はその尻拭いを強要されたと。既に滅んだ連中には謝罪も補償も賠償も請求出来ないのだが、その関係性が白紙に戻っただけでも歓迎すべき事だ。

 

 悉(ことごと)く滅べ、バーリンゲン王国めっ!俺の活躍は、もう少し待たないと発表されないって事だな。残念、今回の件は凱旋するに相応しい成果だったのだがタイミングが悪かったのだな。

 

 

 

 一旦、自分の屋敷に戻り身支度を整えてから王宮に出仕する。本当は明日以降にして欲しいのだが直ぐに来る様に呼び出しを受けている。人気者は辛いって事だな。

 

 

 

「ふぅ、現実逃避もここまでか。さて、我が公爵家の没落を何とか回避する為にはどうするか?味方は居ない、不利な材料は満載。孤立無援で御前会議に臨むとはな」

 

 

 

 気持ちを切り替えて会議に挑む為に、また気合を入れる為の両手で己の頬を叩く。思った以上に力を入れ過ぎた為に痛くて涙が出て来たぞ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 久し振りの王宮、自分の執務室によってみれば机の上に書類が山積みだ。専属の侍女共を下がらせて、どっかりと椅子に座る。今は一人で少し考えたい。山積みの書類からは目を逸らす。

 

 緊急時故に雑務に思考を割きたくはない。カルロセル子爵に有る程度の権限を与えて見させていたが、流石に決済が必要な書類に判は押せない。これは嫌々だが御前会議の後で確認だな。

 

 俺の手持ちのカードは、王命を殆ど達成した事。亡命や難民を装った連中から没収し、エムデン王国に献上した財貨や物資、それとクーデターを起こしたと思われる数人の貴族の首。

 

 

 

 本来ならば十分な成果だ。

 

 

 

 逆に責められる材料だが、派閥構成貴族達のやらかし。招き入れた娼婦共のやらかし。俺以外の馬鹿共のやらかしの所為で責められる訳だが、前者は謀反の疑いを掛けられ、後者は諜報の協力を疑われた。

 

 どちらも大問題な訳だが、派閥構成貴族連中の件はゴーレムマスターが不敬案件で貴族院預かりにしてくれた。娼婦共はザスキアの女狐預かりとなり、厳しい尋問をしているらしい。尋問の結果は、俺も知らぬ。

 

 その他にも細かい失敗は有るが、それも全て俺以外の連中の愚かな行為なのだ。だが派閥の長として、配下の連中の失敗の責任の一端は有るな。ほんの僅かだが、嫌々だが償う気持ちは有る。

 

 

 

「他人の尻拭いを押し付けられるのも、上に立つ者の責務とは……責任有る者の責務とはいえ、やってられないな」

 

 

 

 呼び鈴を鳴らし、侍女を呼び付け勢いをつける為にワインを一杯用意する様に命令する。勝利の秘蔵の美酒は終わった後に楽しむとして、今は一杯のワインだけ楽しもう。

 

 

 

「バニシード公爵、朝からワインを飲むとか……この後直ぐに、御前会議に出られるのですよね?」

 

 

 

 カルロセル子爵と息子のカスタインが、俺の執務室に訪ねて来た。コイツ等は頼りになるのだが、ゴーレムマスターに靡いている疑惑も有る。派閥移籍の可能性は捨て切れないが、直接は言って来てはいない。

 

 溜息を吐いて朝から、俺を責めるな。俺だって酒でも飲まねばやってられない、ワイングラス一杯位で文句を言うな。それ位じゃ酔わないし顔にも出ないぞ。酒臭い息は、まぁ他の連中と席は別れているから問題は無い。

 

 胡乱な目を向ける親子に視線で報告をするように指示をする。もうそれ程、御前会議まで時間的な余裕はないのだ。王都を離れていた間の情報を仕入れておかなければならない。

 

 

 

 情報は重要な武器になるからな。特に今回みたいに長期間王都を離れていた場合は、王都にいる時よりも情報が驚く程少ない。当たり前だがな。

 

 

 

「それで、俺の不在の間に何か問題が有ったか?」

 

 

 

 その無いみたいな話し方をするなよ的な呆れ顔は止めろ。俺の気持ちが萎えるだろうがっ!カスタイン、やれやれみたいな顔をするな。問題が起こると確信したから、お前達親子を先に王都に帰したのだぞ。

 

 公爵本人が配下を引き連れて敵国内に侵入して王命を果たす。これは前例の少ない凄い事なのだぞ。ゴーレムマスターは常に単独か少数で行動?知らぬわ、アレは化け物の域に居る異常者だぞ。

 

 俺と引き合いに出されても何も言えぬわ。俺は地位も権力も財も有るが、個人の武勇は無い。無いというか必要が無かったのだ。アレは軍属で宮廷魔術師、戦う事が仕事の野蛮な奴なのだ。

 

 

 

「先ずは派閥構成貴族の結束の引き締めですが……」

 

 

 

 カルロセル子爵の報告を聞いて頭を抱えたくなるのを何とか我慢する。馬鹿息子共の実家連中の離反は予想の範疇だが、その取り巻き連中も纏めて離反したが受け入れ先が全く無いとはな。

 

 無所属の派閥にも迎え入れられないって相当だぞ。まぁ無所属派閥の連中も、ゴーレムマスターと何やら裏で画策してるらしいので実際は無所属は間違いかもしれぬ。

 

 そもそも、ゴーレムマスターに不敬を働いたのだから、奴と懇意な無所属派閥の連中が受け入れる訳などない。だが本来の意味での無所属で味方も居ない独りぼっちの状況は厳しいだろう。

 

 

 

「だから再度派閥に加えてくれと泣き付いて来ただと?断固拒否、ふざけるなって事だな」

 

 

 

 笑えない冗談だ。もしかしなくても。俺を舐め腐ってやがるだろう。余力が無いから追撃はせずに放置だが、恨みと怒りは忘れないからな。

 

 

 

「相応の詫びの用意が有ると言っていますが?」

 

 

 

「それでもだ。裏切り者を引き込む事に意味はない。奴等が同じように裏切らないという保証は無い。いや不利になれば保身に走り再度裏切るぞ」

 

 

 

 怒りに任せて拳を執務机に叩き付けたいのをグッと我慢する。コイツ等、流石にそれは虫が良過ぎるだろう。俺に見切りを付けて派閥を抜けたのならば、戻って来ようなどと思うな。

 

 落ち目とは言え臣下の最高位である公爵家だぞ。相応のプライドも有る、見切りを付けられて去った連中を味方欲しさに再度受け入れると思うな。それは最上級の侮辱と同じだ。

 

 そもそも裏切るのならば、先に受け入れ先を確保するのが常識だろう。自分達ならば、他の所でも受け入れられるとか思っている時点で愚か者だぞ。

 

 

 

 まぁ無所属にまで拒否されたのならば、他に受け入れ先など無いな。精々裏切り仲間共で身を寄せ合って頑張れば良い。余力が出来たら絶対に潰してやるけどな。

 

 

 

「分かりました。その様に対応します」

 

 

 

「他に急ぎの報告は有るか?」

 

 

 

 カルロセル子爵は有能だった。俺が不在の王都を任せても問題ない程度には纏めてくれていた。しかし派閥構成貴族の二割が去って、その内の一割が出戻り希望とは呆れて良いのか怒るべきなのか悩む。

 

 他の公爵家から攻められてもう少し切り崩されると思っていたが、二割で済んで安心した位だ。残った連中の引き締めの為に飴と鞭の用意をさせる。只でさえ厳しい資産を切り崩す事になるが構わない。

 

 これ以上派閥構成貴族を減らせば、数の力が弱くなる。平均的でも平均以下でも相応の数は力になる。居ないよりはマシ程度だが、人手の少なさが問題なのは今回で理解した。

 

 

 

 譜代の家臣が多くいる俺でも苦労するのに、急激な出世で殆ど家臣が居なかったゴーレムマスターが少数だが有能な連中を抱え込めたのは何故だ?英雄だからか?同族一万人殺しの狂人だぞ?

 

 俺と奴の差はなんだ?全く分からない。若さと魔力以外で負けている事など無いのだが、独身じゃないからか?妻帯してると人気が無いのか?難しい、成り上がりの新興の伯爵家に歴史有る公爵家が勝てない?

 

 ザスキアの女狐が何かしてるのか?それとも、リゼルが裏で蠢いているのか?嗚呼、そうか。毒婦共に擦り寄られて色々と裏でやらせているからの人気か。謀略に長けた連中が情報を操作してるのだな。

 

 

 

 作られた英雄、その寿命は思った以上に短いかもしれぬし長生きするかもしれない。神のみぞ知る!だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 御前会議、公爵と両騎士団の団長、それと宮廷魔術師が参加する最上位の会議だ。今回の参加者はニーレンスにローラン。ザスキアと両騎士団長、それと宮廷魔術師筆頭サリアリス殿だ。

 

 俺以外の連中が既に謁見の間に集まっている事に警戒する。俺が居ない時に何か下話をしている可能性が高い。俺を御前会議で吊るし上げをするつもりじゃなかろうな?

 

 王命で動く案内の近衛騎士団の連中も予定された時間の少し前に迎えに来たのは、俺だけ集合時間が違ったわけじゃない。コイツ等が自発的に更に早く集まったと考えた方が良いだろう。

 

 

 

 悪巧み好きな連中め、そんなに俺を蹴落としたいか?

 

 

 

「これはこれは、俺を抜いて事前に話し合いか?なにか良い悪巧みは出来たのかな?」

 

 

 

 嫌味の一つも言っても許される状況、この言葉に誰も何も言わなかったが、ライル団長だけがバツが悪そうに顔を背けた。その仕草だけで、何を話していたのか想像がついた。やはり悪巧みかよ。

 

 自分の指定の席に座わり他の連中をグルりと睨み付ける。殆どが目を合わせないが、ザスキアだけがニタリと笑いやがった。その笑みに背筋がゾッと寒くなり手元に視線を下す。この女、ヤベェぞ。

 

 少しだけ震えが来たが気合を入れて耐える。机の上には、特に事前の資料等は配られていない。資料無しなど珍しくも無いが、今回は記録も残さないとかないよな?

 

 

 

「アウレール王がいらっしゃいます」

 

 

 

 近衛騎士団員の声に立ち上がり姿勢を正す。不機嫌そうなアウレール王の顔を見て、今回の御前会議の行方が厳しいものになると予想がついた……

 

 

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