古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1013話

 孤軍奮闘が約束された御前会議、参会者は公爵連中に両騎士団の団長。それとアウレール王の相談役サリアリス殿。合計七人で行う事になる。アウレール王は最初から不機嫌さを隠してない。

 

 分かり易い導入の態度なのは、俺に対してか他の参加者に対してか?まぁ俺だろう。俺はやらかしていないが、配下の連中が盛大にやらかした。その事についての上に立つ者としての処罰だろう。

 

 不敬案件の馬鹿共は貴族院を交えての交渉と処罰になるが、ゴーレムマスターはそこまで大事にはしない感じだ。謝罪と補償でなんとかなるだろう。間違っても謀反を企ててはいない。

 

 

 

 女遊びが過ぎた事への謝罪がメインになるだろう。漢としては必要経費なのだが、ザスキアは女だからな。その辺の男心の機微が分からないのが困る。

 

 

 

 アウレール王が座ったので、暫く間を置いてから周囲に合せて座る。それに合わせて女官達が水差しとコップを配っていく。今回は紅茶じゃなく冷たい水が用意されたって事は白熱した討論になるのか?

 

 誰もコップに水差しから水を注ごうとはしない。まぁ最初に行動するのは嫌なので様子見を決め込む。黙って腕を組んで目を閉じている、アウレール王の行動を観察する。

 

 臣下が沈黙する国王に話しかける訳にもいかず、全員が黙って周囲を伺いながらアウレール王の言葉を待つ。待っていたのは体感的には一分程だと思うが、もっと長かったのかもしれない。

 

 

 

「バニシードよ。王命の達成、諸手を上げて大成功だと祝えないのが残念だが及第点は越えたぞ」

 

 

 

 含みが有る言葉と態度だが、思い当たる事が多過ぎるので逆に安堵した。罵倒されても文句も言えず反論するにもネタが無かったのだが、一応の成果というか平均点は越えたと認めて貰えた。

 

 この後で減点方式で全体評価が決まるのだろうが、最初に掛けられる言葉としては悪くは無い。チラリと他の参加者の様子を見れば、少し予想外だったという顔をしているのは最初から罵倒されると思っていたのか?

 

 ザスキアは余裕の笑みを浮かべているのが恐ろしい。ローランとニーレンスは敢えて無表情にしているが、僅かに感情に動きが見えるが……それ程予想と外れていない感じか?

 

 

 

「はっ有り難き御言葉を頂き感謝に堪えません」

 

 

 

 先ずは掛けられた言葉に対して礼を言って深々と頭を下げる。

 

 

 

「エルフ達の動きが此方の予想よりも相当早い。フルフの街の引き渡しを一年後にと言われたので、バーリンゲン王国が森に埋まるのも同じ位だろうと期間を短縮修正したのに更に早まっている」

 

 

 

 確かに、エムデン王国を発つ前は数年単位の任務と思っていた。小国とはいえ広大な領土が森に埋まるなど簡単には出来ないと思っていたが、まさか植物ゴーレムが移動しながら植物を生やして回るとはな。

 

 序に屑共の間引きも行ってくれているので助かってはいるが、やはりエルフ共の魔法は理解不能だな。まぁゴーレムマスターも驚いていたそうなので、人間には未知の魔法なのだろう。

 

 アウレール王は言葉を止めて黙っているが、特に我々に意見を求めている感じはしない。共通認識だと思っている事の確認か?実際に参加者も特に驚きもしないし、不快な感情も表さない。

 

 

 

 アレに悪感情を抱いて反抗しても、無駄な事は理解している。馬鹿げた欲望を押し付けて、殲滅の憂き目にあっている愚か者共の末路を知っているから。アレの二の舞は御免だ。

 

 隣国と言う立地条件だけで、関わらずにはいられなかった疫病神共め。先代の国王が賢王の真似事をして甘やかすから次代にツケが回ってきて迷惑している。

 

 属国にして少しはマシになるかと思えば、直ぐに反発してクーデターを企てて独立した。そのままならば国交を断絶して、タイミングを見計らって滅ぼす予定だったが、自滅するとはな。

 

 

 

 ザマァ見ろって思ったが、余計な尻拭いを押し付けられた。最後まで迷惑を掛ける奴等だ。

 

 

 

「独立国家が地図から消滅する事になっている現状を考えると、色々と問題事が浮き上がってきている。これを放置すれば、我が国への損害も馬鹿に出来ないだろう」

 

 

 

 此処で意見を求める様に、俺に視線を合わせて来た。問題点を理解しているか?理解しているのに、国家を跨いで情報収集に暗躍する娼婦ギルドを優遇したのは何故か?って流れか?

 

 だが凄い圧を感じるので、無言で耐える事は出来ない。それをすれば視線だけの催促から言葉での催促に変わる。それは宜しくない、全く宜しく無い。

 

 他の連中がニヤニヤと見て来るのは、この質問の回答を連中は既に用意して共有しているって事だな。脳筋の両騎士団の団長共も余裕の表情なのは模範解答を教えて貰ってるのだろう。

 

 

 

「エムデン王国を取り囲む周辺諸国がバーリンゲン王国の消滅と、その原因にエルフ族が絡んでると知れば、黙って我が国に対処を一任するという事は無いですな」

 

 

 

 分かり切った事を含みを持たせて言ってみる。アウレール王は視線で次の言葉を催促し、他の参加者共は黙って此方を見詰めているだけだ。やり辛い、味方は居ない、全てが政敵で虎視眈々と失脚を狙っている。

 

 コップに水を注ぎ一気に飲み干す。爽やかな柑橘系の匂いと適度な酸味が緊張を解してくれる。熱い紅茶では、こうはいかないだろう。女官達は良い仕事をしている。この状況を見通していたならば恐ろしい先読みだな。

 

 肺の中の空気を全て吐き出す気持ちで深々と息を吐けば、僅かでも気持ちが切り替わった。緊張も適度に解れ、思考もクリアになった。アウレール王も、俺を興味深げに見詰めているが……

 

 

 

 そこに含まれた感じは悪くはない。俺を簡単に切り捨てる事はしないと考えても良いだろうか?

 

 

 

「周辺諸国への対応として、モレロフの街にカシンチ族連合と一時的に魔牛族を受け入れました。これは自分の独断ですが、難民を受け入れた事実が出来ました。微妙に問題の有る、モア教の支援も受け入れられます」

 

 

 

 カシンチ族連合も魔牛族も、ゴーレムマスターの仕込みのお蔭だが嫌がらせをせずに受け入れた事が良い方向に向かったな。まぁ本来の手柄は、奴の方が比重は大きいが構わない。どうせ後で評価されるだろうしな。

 

 

 

「うむ、モレロフの街はカシンチ族連合に、スメタナの街は魔牛族に特区扱いで任せるつもりだ。あの種族は色欲に負けそうな連中から物理的に引き離す事が必要だ」

 

 

 

 そう言って目を閉じて腕を組み上を向いたまま動かなくなった。魔牛族の誰かを思い出しているのだろうか?ミルフィナ殿だったか?男の理想を体現したような良い女だったな。

 

 少し話したが、不快を感じさせないギリギリの色香を仕掛けて来る危険な種族だ。アレに入れあげれば、どんな馬鹿な事を仕出かすか分からない。色に狂う愚か者は多い、エムデン王国にだって居ないとは限らない。

 

 バーリンゲン王国の二の舞は御免だ。まぁ細くは有るが今後は付き合いが続くので親密になる機会が全く無い訳じゃない。俺は公爵だし他よりは機会が多いだろう。ふふふ、楽しみだな。 

 

 

 

「それだけ分かっていて、危険な娼婦共を招き入れたのは何故だ?アレは裏で国を跨いだ諜報活動を行い、情報元が困ろうが平気で情報を売るような連中だぞ」

 

 

 

 目を瞑り上を向いた状態でボソりと呟いた。確かな非難というか叱責というか、明確に問われた訳だ。これは回答を間違えると大炎上する。覚悟を決めて答えるしかないのだが、直球で問われると何て言って良いか……

 

 

 

「今回の王命は兵士達にとって非常にストレスを感じる仕事でした。敵国とは言え少し前は属国でしたし、その前は一応隣国で友好国でした。その領民達を言葉は悪いですが見捨てる訳ですから良心がゴリゴリ削られるのです」

 

 

 

 もっとも自業自得で困った連中程度の認識だから、それ程良心が削られる心配は無かった。助けを求めて来た連中でさえ、上から目線で偉そうな口振りと態度だったので逆にボコして財貨を没収し追い返した。

 

 その総額は金貨に換算すれば十万枚以上にはなったし、全てをエムデン王国に献上した。この功績も大きい筈だ。採算性の無い作戦で全てを賄える訳ではないが、それでも利益をだしたんだぞ。

 

 追い返せずに捕獲した連中の中には、クーデターを起こした者達も居た。戦争犯罪者、いわゆる戦犯だが十人前後は送った。裁判記録は見たが全員何かしらの悪事を働いていたので処刑が順当だろう。

 

 

 

 属国が宗主国に対して武力で独立をしたならば、それはもう敵国だろう。それを元宗主国だから助けろとか有り得ない暴言だぞ。まぁだから滅んでも構わないと思えるので、良心が痛まないのが唯一のメリットか?

 

 

 

「ストレスの緩和か……確かに酒と女はな。必要悪として効果が有る事は理解しているが、もう少し上手く使えなかったのか?」

 

 

 

 本命の問題が来たが、敢えて問われると胸がギュッと苦しくなる。何故、俺は女共の色香に負けてしまったのだろう?酒と女の失敗は男の成長に必要な肥やしなのだが、場所とタイミングが悪過ぎたんだ。

 

 レイチェルとバレンシアだったか。佳い女だった、二人掛かりでの夜の接待は久々に興奮してしまった。だが今の状況に追い込まれるとしたら、対価としては不十分だぞ。あの程度の快楽ではな。

 

 他にも娼婦ギルド本部から選りすぐりの女共を送り込んでくれたし、俺が連れて来た愛人も連中からの紹介で引き取ったんだ。ズブズブに嵌ってしまった自覚はあるが、公に認めたら自滅だな。

 

 

 

「その件につきましては、如何とも申し訳無く……」

 

 

 

 恥を忍んで謝罪するのが正解だ。変なプライドで反発するとかしない。新しく生まれ変わった俺は、悪いと思えば頭を下げる事が出来るのだ。

 

 

 

「その件についてですが、エムデン王国の王都娼婦ギルド本部は許しがたい裏切り行為を行っていたわ」

 

 

 

 おぃザスキアよ。俺が謝罪してるのに大問題をブッ込んで来るなっ!

 

 

 

 ギロリと睨めばニタリと嗤いやがった。此処からは私のターンってか?そんな事はさせないぞ。お前は前から娼婦ギルド本部の事が気に入らなかったらしいが、俺を含めて始末しようとか思うな!

 

 ニーレンスやローランもニヤニヤしているし、此処からが本番みたいな感じを出しやがって。エルムント団長とライル団長達が不思議な顔をしているのは、公爵連中だけの企みか?脳筋はハブかれたか?

 

 ゴーレムマスターを溺愛している、サリアリス殿の沈黙も恐ろしい。表情の抜け落ちた顔を見ると、何を考えているのか分からないので余計に恐ろしい。この婆さんは前王暗殺の容疑も有るから余計にだ。

 

 

 

「我が国の王都にある娼婦ギルド本部はデンバー帝国とシグ王国に対して、エムデン王国の情報を定期的に流していました。特にバーリンゲン王国関連の情報を重点的に調べる様に依頼されていました」

 

 

 

 ん?バルト王国とレネント王国には情報を流していない?買い取り先は多い程、連中の利益が増えるのではないか?まぁバルト王国は優遇政策をしているので、特に情報を欲しなかった?ではレネント王国は?

 

 あの国の事はイマイチ良く分からないのだが、一応は友好国の範疇だった筈だ。まぁ周辺四国の中で一番の小国であり、国力は凡そデンバー帝国の半分。我が国にチョッカイを掛ける余裕も無いのか?

 

 デンバー帝国とシグ王国は表立って敵対はしていないが、反エムデン王国で間違いは無い。故に連中に情報を高値で売っていたのは、明確な利敵行為だぞ。

 

 

 

「ふむ、デンバー帝国とシグ王国か。潜在的な敵国だが、前にも検討したが両国が手を組んでもエムデン王国には勝てない。それで情報戦に切り替えて、まんまと協力させられたという訳か?バニシードよ」

 

 

 

 アウレール王の言葉に参加者全員から猜疑の眼差しが向けられる。いやいやいや、俺は情報漏洩などしていないぞ!

 

 それは断言出来る。酒を大量に飲まされて寝所でのアレコレの後の会話でも、注意を払っていたぞ。気持ちが大きくなっての失言などしていない。あやふやな時も少なからず有ったが、エルフ族絡みの話はしていない。

 

 精々がクーデターを企てた連中が何故か亡命を望んで来たので、主導権争いに負けた連中を捕縛して王都に送った程度の情報だ。その内容から真実に辿り着く事など有り得ないぞ。とんだ濡れ衣だっ!

 

 

 

「いえ、その様な事実は全く有りません。確かに娼婦共と接触する機会も有りましたが、情報の秘匿には細心の注意を払っていました。自分から情報が洩れる事は皆無だと断言できます」

 

 

 

 人生の円熟期を迎えている俺が、娼婦如きの夜の手練手管にやられる訳が無いだろう。逆にヒィヒィ言わせてやった位だ。

 

 

 

「レイチェルさんにバレンシアさんだったかしら?相当気に入って何時も二人を指名して遊んでいたんでしょ?彼女達から色々と聞いたわよ。随分とお盛んなのね」

 

 

 

 わざとらしく扇で顔を隠しながら背けるとか、お前は今でこそ十代の少女の姿をしているがな。少し前は年下の美少年好きの妖艶な美魔女で色々な浮名を流していただろう。

 

 何故、そんな汚らわしいみたいな視線を向けてくるんだ。ふざけるなよ、お前も俺と同類の爛れた趣味を持つ色狂いだろうがっ!清楚華憐とか方向転換も甚だしいし、恥知らず過ぎる。

 

 言葉に出せば、俺でも人生が終わるかもしれないのでグッと我慢して飲み込む。これを言ってしまったら、年下好きの色狂い『新しき世界』の信奉者共を全員敵に回す。

 

 

 

 その未来を予測して、ゴクリと生唾を飲み込んだ。若返りの忌々しい、真正の化け物共め。

 

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