古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

1021 / 1091
第1015話

 フルフの街での穏やかな日々が続く。単身赴任中なので家族と一緒に過ごせる訳ではないが、仕事は順調で見通しも立っている。入れ替えた兵士達との懇親も順調に進み、彼等も野菜の栽培に協力してくれている。

 

 一般兵士達の中には、家を継げない三男以降の農家の息子達が一定数いて、その農業経験を生かして積極的に協力してくれるので効率は段違いに上がっている。生鮮野菜に関しては自給自足が可能なくらいだ。

 

 仮の農業用水路の整備も完了したが、これはエルフ族へ引き渡す前に原状回復をする必要が有りそうだ。彼等はコウ川の水質改善をすると言っていたので、水関連で手を加えた部分は元に戻す事にする。

 

 

 

 エルフ族の技術を直接見れる機会など殆どないだろうから、絶対に立ち会う予定だ。

 

 

 

 事前にクロレス殿と打ち合わせをする機会が有れば、要望を聞いて極力叶える方向で調整する。彼の事だから、約一年後に引き渡しと言っても数か月前にはフルフの街に訪ねて来るだろう。

 

 いや、少し落ち着いたら此方から途中経過の報告をしにケルトウッドの森を訪ねるべきだろうか?正確な森林化の進捗も知りたい。絶対に事前の計画よりも進んでる筈だし、今後の予定も変更するなら擦り合わせたい。

 

 あと、バーリンゲン王国の街や村の現状を直接見て確認しておきたい。破壊されているのか廃墟化しているのか?領民達も残っているのか?まぁ領民については見付かれば縋って来そうなので遠目からの確認で良いか……

 

 

 

 もう知り合いは殆ど居ないだろうし、見込みの有る連中は保護した。タマル殿達もモレロフの街へ無事に移動させたし、単独行動の際に出会った幼い兄妹達もカシンチ族連合が保護したと報告が有った。

 

 あの村の連中は幼い兄妹を送り出して、自分達は村に残ったそうだ。辺境周辺は既に森林化が進んでいるので生存は絶望的だが生まれた場所から、故郷から離れたくないという気持ちは汲むべきだろう。

 

 あとは王都の状況だろう。腐ってもクーデターを成功させた連中が王宮を占拠し王都を支配している。周辺の城塞都市と比べても数倍の広さと人口を抱えているし、年単位の籠城も可能な筈だ。

 

 

 

 本来、王都と王城とは最後の砦として籠城対策も十分に備えている筈だからな。いくらバーリンゲン王国の連中が賄賂や汚職が大好きといっても籠城の備蓄品にまで手を出す事は……あるかも?

 

 その場合、残った財貨や物資を持って我先にと逃げ出すだろう。だけどさ、何処にも逃げ場なんて無いんだよ。流石にクーデターを企てた連中の情報は回ってるから、図々しく亡命だとか言って此方に来ないだろう。

 

 来ないよな?いくら厚顔無恥な連中でも、流石にそれは無いだろう。エムデン王国だって普通に捕まえてからの処刑コースだし、過去の偽造したナンチャララで無罪で保護しろとか言わないよな?

 

 

 

 まぁフルフの街まで来たら、捕まえて拘束した上で、アウレール王に報告してから……この場で処分だな。王都に移送などしないで、この地で処し埋葬する。お前達は祖国の土に還れ!

 

 

 

「バーレイ卿、古代遺跡の調査団が到着。現在、割り当てられた屋敷に通し休憩しております。代表達には一時間後に大使館へ訪ねて来る様に指示しています」

 

 

 

 思考が危ない方向に流れていたが、我に返った。危ない危ない、この愚か者共の事を考えると思考が危険寄りになるので困る。

 

 馬鹿共は祖国の地に埋まり、その罪を償い未来永劫愚か者達だったという愚者の烙印を押されて馬鹿にされればよい。そういう風に世論も誘導するので、名誉の回復や汚名の返上など出来ない。

 

 バーリンゲン王国は地図から名前ごと消えるが、少数ながら他国に居て難を逃れた連中も居るだろう。彼等が祖国奪還を元宗主国の義務とか言って騒ぐ可能性も有る。

 

 

 

 だから連中はエルフ族を怒らせて人類滅亡に追い込もうとした罪人として、世界中から恨まれる様に仕向ける。連中の嘘を信じて憐れみ、祖国の奪還に助力する連中を出さない為にもだ。

 

 全ての諸悪の根源、バーリンゲン王国は貴族も平民も等しく同じ評価を受けて貰う。人類の敵として、悉く滅べば良いんだよ。僕等は助けたりしない、絶対にしない。

 

 因みにだが、エムデン王国に仕事とかで滞在していた少数の連中は全て拘束済み。其処に慈悲など無い、一人でも生かして残せば都合の良い嘘を大声で騒ぎ出すに決まっているからね。

 

 

 

 両手で頬を軽く叩いて気持ちを切り合える。今は連中の事は忘れて、調査団の方に意識を向けよう。

 

 

 

「有難う」

 

 

 

 伝令兵が地下の旧アスカロン砦を調査する為の選抜調査団が来たと報告してくれた。人員は冒険者ギルドに魔術師ギルド、それと盗賊ギルドの王都三大ギルド本部から。それからニーレンス公爵とローラン公爵により選抜され派遣された集団。

 

 人数を限定した為に、その選抜方法は苛烈を極めたらしい。ルトライン帝国時代の貴重な遺跡、それを僕が事前調査し本格的な調査に同行するとなれば貴重な体験をしたい連中は大勢いるだろう。

 

 古代の魔法技術に興味が有る魔術師ギルド本部、防衛対策の罠等に興味が有る盗賊ギルド本部。利権絡みで両公爵から派遣される土属性魔術師達。今回、ザスキア公爵から人員は来ない。

 

 

 

 まぁ既に隅々まで調査済みというか、製作した本人が此処に居るのだから調査は問題無く終わるだろう。制御球はそのままにしているけど教えないので、本当に引っ越しが済んだ基地内の捜索で終わり。

 

 財宝の類は全く無く、残されているものは朽ちた武器や防具に干からびた食料。それとビネガーに変化した大量のワイン、古代の住人の生活様式は分かるだろうが技術的な部分は殆ど知る事は出来ない。

 

 それでも失われた三百年前の遺跡なので調査の意義は高い。相応のお土産も仕込んでいるので、アウレール王に胸を張って報告出来る。出来レースだけど、それはそれで……

 

 

 

「さて、では代表達に会いにいくかな」

 

 

 

 全ての仕込みも準備も終わっているので接待調査になるから、少しだけ心が痛むけどね。

 

 

 

「お供致しますわ」

 

 

 

 勢い良く椅子から立ち上がる。執務机の上に置かれた書類も全て終わらせた。と言うか半日分程度の仕事量しか無いので随分と楽になった。リゼルの方も本日の仕事は終わったみたいだな。

 

 二人で執務室を出れば、何時の間にかクリスとアインが後ろに控えている。護衛の必要性は低いのだが、クリスは王都に戻らずに此処に残っている。

 

 ジゼル嬢から戻って来る様に何度か手紙が来ているのだが、リゼルの護衛の名目で戻らないと返事を出しているそうだ。本来の護衛対象はジゼルやアーシャなのだが……

 

 

 

 ジゼル嬢達にはメルカッツ殿達やニール、護衛特化ゴーレムのエルフ五姉妹も付けているので万全で安心と言えばそうなのだが……この件については深く関わらない事にしている。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 結構な予算を投じた為、大使館には複数の応接室や会議室が用意されている。対エルフ族用だから、少数用の豪華な応接室しか使用しないと思うのだが、国としての大使館の仕様が有り等級は最上級となっている。

 

 まぁ国家の威信とか信用問題とか見栄とか色々有って、ニーレンス公爵も予算を最大限投入したからね。領主の屋敷よりも豪華絢爛となっている。維持費とかも結構掛かるのだが、その辺は考えない事にした。

 

 自分の屋敷の整備も完了しているのだが、此方は殆ど利用していない。人員的な問題で最低限の維持と警備の人員を配置して、残りを大使館に振り分けたので少し余裕が出来たけど……

 

 

 

 ニーレンス公爵の好意なのか他に思惑が有るのか?リゼルの私室まで大使館内に有るんだよ。彼女の場合は用意された屋敷を引き払ってしまった。

 

 『通いの手間が省けましたし勤務場所が徒歩0分です!』って嬉しそうだったけれど、コレって同じ屋敷に住んでいるって事にならない?いや、王宮とかも多数の未婚の男女が自分の部屋を用意されて住んでいる。

 

 王宮を基本として、それに倣ったって事で大丈夫だろう。大丈夫じゃなくても、強引にそういう事にする。リゼルの経歴に傷が付く事には絶対にしない。

 

 

 

 歩き慣れた廊下を進み、調査団の代表達が待つ会議室に向かう。気付かない内に、クリスが背後に控えている。彼女に対しては既に接近を察知する警戒網が機能しなくなっているので、感知魔法の能力向上は必須だ。

 

 リゼルが扉を数回ノックし、室内から返事が有ったので両開きの扉を女性陣が左右に分かれて開けて入室を促された。そういう特別待遇は遠慮したいのだが、僕がノックして返事を待って自ら扉を開けての入室は駄目なんだろうな。

 

 立場や役職、爵位等を総合的に考えても側付きの連中に世話を焼かれなければならない。貴族の面倒臭い一面だが、自分で行うと周囲から舐められる。甘く見られ、下にも見られる。

 

 

 

 使用人を用意出来ない程、金銭的にも人材的にも窮しているのだろう。とか思われるか、ケチで慣例や前例を踏襲しない野蛮人とか?まぁ波風立てないように行動するしかないけどさ。

 

 

 

「ああ、そのままで良いですよ」

 

 

 

 一斉に立ち上がり此方に向かって来ようとする連中に声を掛ける。何も言わなければ一列に整列して頭を深々と下げそうだったから。

 

 

 

 調査団のメンバーは予想の通りだった。魔術師ギルド本部からは、レニコーン殿とリネージュさん。組織の№1と№2が不在にしちゃうって良いのか?いや、魔術師とは、知識に貪欲な連中だったよ。

 

 冒険者ギルド本部からは、オールドマン殿。当初の予定では冒険者ギルド本部は不参加だったのだが、オールドマン代表のみ参加で留守はクラークさんに任せたそうだ。見習え、魔術師ギルドよ。

 

 盗賊ギルド本部は代表である、ビーツ殿は不参加。彼との関係性は良好と言い難いので納得はするが、代わりに来たのがベルベットさんやギルテックさん姉妹ってどうなの?

 

 

 

 ギルド内で相応の影響力の有る者が参加している筈なのだが、彼女達は実力は有るが組織の中での立場は新人だし下の方じゃないかな?『選考試験、頑張りました!』じゃないと思う。

 

 両公爵が派遣したのは高レベルの土属性魔術師、多分レベル40以上の実力者だろうが猛者じゃなく研究者肌の感じがする。多分だがレニコーン殿達と同類だろう。古代遺跡の調査とか、何が何でも参加する連中だな。

 

 少しでも古代魔法の秘密を知りたい。断片でも構わないって感じだろう。まぁ僕も同類だから理解は出来るが、それほど実りある調査にはならないんだよな。悪いけどさ……

 

 

 

「長旅、ご苦労様でした。フルフの街の地下大空間ですが、エルフ族と魔牛族から貰った情報によると、ルトライン帝国時代に運用されていたアスカロン砦という名前らしいです」

 

 

 

 実際にクロレス殿もミルフィナ殿も、その存在を知っていた。名前迄は分からないかもしれないが、話を聞けた事は事実だから嘘じゃない。この情報だけで、参加者は興奮しだした。

 

 僕が処刑された後に周辺諸国に滅ぼされたルトライン帝国は、僕の元配下の連中が暗躍し復讐を行ったので殆どの魔法技術関連の物は破壊されるか奪われたので現在まで残っている資料は少ない。

 

 そんな希少性の高いルトライン帝国の現存している秘密基地の調査だから、テンションが高くなるのも理解する。僕も同じ立場だったら興奮が収まらないだろうし……

 

 

 

「皆さんが来る前に時間が有りましたから、事前調査は済ませています。とは言え、地下大空間への入り口を見付けて時間切れでしたので侵入するのはこれからです」

 

 

 

 事前調査の言葉に、僅かながら嫉妬と落胆が見え隠れしたが未侵入状態だと知ってから興奮が一段階上がったな。もう直ぐにでも突入したいって感じ、ワクワクが止まらない。

 

 レニコーン殿など椅子から腰を浮かせているし、止めなければ突撃しそうだよ。まぁ僕しか入口を知らないので、会議室から飛び出しても戻って来るしかないけどね。

 

 リゼルは下を向いて笑いを堪えている。実情を知る彼女にとっては、酷い喜劇を見せられている感じなのだろう。まぁ全て把握済みで問題無い部分だけを教えて貰えるのだから……

 

 

 

 事前に説明する事もないし、待ちきれないみたいだから早く現地に案内しよう。特に配布資料も用意していないし、出たとこ勝負って感じを出すのが良いだろうし。

 

 そもそも建前は前代未聞の遺跡調査だから、計画的にって感じ取られたら駄目なんだよな。時間を掛けてゆっくりと、その場で逐次対応する感じにしないと駄目なのだが出来るかな?

 

 僕は芝居とか苦手だし、役者の適性は皆無だ。微妙な手加減が難しい。そもそも遺跡調査をする事自体が初めてだよ。此処は転生前の自分が錬金したから、実質的には何も調べてないしね。

 

 

 

「待ちきれないようですので、これから現地に向かいましょう。一時間後に領主館の一階広間に集合しましょう。では解散!」

 

 

 

 この言葉に参加者が一斉に飛び出していった。一番最初に扉を潜ったのは最高齢のレニコーン殿だったのには驚いた。リネージュさんの慌て振りを見れば、本気の彼女の走りに追い付けなかったのだろう。

 

 フル装備で準備万端の状態で一時間前に既に待ち構えている状況が予想出来るよ。年甲斐も無くとは口が裂けても言えないが、思わず苦笑してしまった。本当に楽しみにしていたのだろう。

 

 さて、自分も準備……と言っても何も用意するものは無いが、未だ会議室に残っている盗賊姉妹に話し掛ける必要が有るのだろう。わざわざ残っているのだし、ビーツ殿の様子も聞いておかないと駄目だし。

 

 

 

 視線を向ければ満面の笑みを浮かべる、ベルベットさんやギルテックさんがにじり寄って来たよ。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。