古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1016話

 フルフの街の地下大空間には、ルトライン帝国時代のアスカロン砦が隠されていた。それを調査する為に王都盗賊ギルト本部から遣わされた、ベルベットさんやギルテックさんに呼び止められた。

 

 彼女達とは駆け出し冒険者時代に養成学校で同期だった事と、盗賊ギルド本部との交渉時には縁が有った為に担当者紛いの事をして貰った。それとラミュール殿の触れ合い企画でも世話になった。

 

 彼女をダシに近付こうとする不審者の捕縛に貢献して貰ったが、最後の詰めの部分が甘く痴漢の被害者にしてしまった負い目も有る。詳細は聞けなかったが、臀部を執拗に触られたとか……

 

 

 

 その時の痴漢(工作員)は厳重に取り調べられて全てを吐き出させられてから処罰された。

 

 

 

「改めて久し振りですね。変わりは有りませんか?」

 

 

 

 にじり寄って来る二人に声を掛けるが止まらない。50cm位まで近付いてから漸く立ち止まったけど、他人に見られたらギリギリ不敬案件になりそうな状況だぞ。まぁしないけど、望ましくはない。

 

 何かを決意した様な感じがするけど、この調査に全力を傾けますって感じではない。最初は怪しい笑顔を浮かべていたのだが、今は思い詰めた感じで感情の波が激し過ぎる気がしてならない。

 

 黙って見上げて来るだけだが、相当の圧を感じる。知り合いの女性に近付かれる事もそうだが、思い詰めて見上げられるのもキツいものが有る。何故が申し訳ない気持が溢れて来るし……

 

 

 

 横目で助けを求めようと、リゼルを見れば額に手を当てて首を振っている。これって何か失敗した時の対応じゃない?僕は彼女達に何もしていませんよ。

 

 

 

「その、あの……私、穢されてませんから!痴漢行為をされたのは、お尻だけですから。清い身体ですからっ!」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

 えっと、大声で何を叫んでいるのだろうって最初は感じたが理由を思い出してから申し訳ない気持が溢れた。そうだよ、彼女は工作員に押し倒されて臀部を揉みしだかれたんだった。

 

 

 

「あの……」

 

 

 

「それだけです。それだけですからっ!」

 

 

 

 そう言って走り去っていく後姿を見詰めるしか出来なかった。相当嫌だった事は理解したが、だからといって彼女が穢れているとは思わない。引き留めようと伸ばした手を力なく下げる。

 

 でも年頃の淑女としては言わねばならなかったのか?思春期特有の難しいお年頃って事だろうな。まぁその件については礼状(詫び状)と相応の報酬を盗賊ギルド本部に送ったのだが……

 

 もしかしなくても、新代表のビーツ殿に着服されたとか?確認はしていなかったけど、作戦の参加者全員に行き渡るだけの金貨は送ったのだが?まさか、我が国の三大ギルドで不正が?

 

 

 

 確認が必要?

 

 

 

「違います」

 

 

 

「心の中の疑問に駄目出しされたけど、何が違うのさ?」

 

 

 

 ヤレヤレ的に両手を肩の高さまで上げている、リゼルに突っ込みを入れる。その心底ダメダメですね!的な感じは止めて下さい。気持ちが萎えます。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後、一階の広間に降りれば完全武装した参加者が整列していた。いや、未知の遺跡かもしれませんが危険は有りません。モンスターも居ませんのでって言っても駄目なんだよな。

 

 一般的に古代の遺跡にはモンスターが住み着いていたり、当時の防衛システムが生き残っていて罠が発動したりもするから攻撃手段と防具は必須なんだよな。

 

 生きたモンスターは無理でも、ガーゴイルとか仕込んでおいた方が良かったのかな?いやいや、余計に混乱するから駄目だ。ガーゴイルは年代が合わないとか、モンスターは生息していた痕跡が少ないとか?

 

 

 

 疑われる要因しか無いから、余計な事は極力控えるのが得策だよ。

 

 

 

「では向かいましょう。出入口に関しては事前に調査して見つけ出してあります。この広間の壁の一部が地下大空間への入り口でした」

 

 

 

 そう言って壁の一部を叩く。裏側に空間が有る為に乾いた音が返って来るのを確認した後で、錬金術により石積の壁を消せば地下まで真っ直ぐな穴が現れる。錬金にて開口部に作り替える、それが侵入方法の一つだ。

 

 前回は一人だったので黒縄(こくじょう)を身に纏って降りたが、今回は大勢いるので縄梯子を用意している。一応高さが30m以上あるので、命綱も用意し縄梯子を踏み外しても墜落しない措置は講じる。

 

 他の入口は軍船が出入り出来るコウ川に面した大扉だが、固定化の魔法を重ね掛けしているので分厚く頑丈だ。これは内側からしか開閉出来ないので今回は無視した。最初に調べられる場所でもないしね。

 

 

 

「では先に降りているので順番に降りて来て下さい。命綱を持つ者は安全を確保するまで、全体の半数は此処で待機して下さい。何か有れば対応をお願いします」

 

 

 

 一応、古代遺跡なので全員で降りたら万が一の時に助けが来ないので数人は待機となる。事前に説明しておいたので待機組は文句は言わないが不満そうだな。まぁ入れ替えで交代するので安心して下さい。

 

 先陣を切って黒縄を身に纏いスルスルと真っ暗な縦穴に降りようとしたら、リゼルが躊躇無く抱き着いて来た。受け損ねたら真っ逆さまに墜落なのに度胸の据わった御嬢様だ。

 

 右手で抱き留めて、そのまま二人で降りる。クリスは一人で縄梯子を降りるが、鍛えているだけあり身体能力がズバ抜けて高いので危なげなく降りて来る。三分程で地下に到着した。

 

 

 

 縦穴は壁際に有るので周囲に何もない状態で壁側に身体を向けて降りられるので、姿勢の維持は難しくない。

 

 

 

 因みに梯子や縄梯子の昇降は三点支持が基本と言われる。両手両足を使って昇降するので、動かすのは手足の片方のみで、残りは動かさずに固定しておく。

 

 分かり辛いと思うが ① 左手で一段上の踏み桟を持つ ②右手で左手と同じ踏み桟を持つ ③左足を一段上の踏み桟に乗せる ④右足を左足と同じ踏み桟に乗せる を繰り返す。

 

 常に三点で身体を支えて動かすのは一点だけ。慣れれば片側の手足を動かし、片側の手足は固定という移動方法も有るが身軽な盗賊職やクリスみたいな暗殺者でもないと無理だな。

 

 

 

 因みにだが、クリスは左右の手足を交互に動かして高速で降りている。魔法でズルをしている僕の降下速度に合わせる余裕も有るし、最後は5m位の高さから飛び降りたよ。

 

 縄梯子を軽く数回引っ張って下に降りた事を上の連中に知らせる。まぁ次に降りて来る者は五分から十分位掛かると思う。幾ら気が急いでも安全第一だよ。

 

 魔法で光球を二十個生み出して均等に浮かべて照明を確保すると、地下大空間の全貌を見渡す事が出来る。古代ルトライン帝国時代の軍事拠点、アスカロン砦の全貌がね……

 

 

 

「これが古代の軍事施設ですか?コウ川の水が引き込まれていますね。桟橋も有りますし、全盛時には軍船が停泊していたのでしょうか?」

 

 

 

「向こうに幾つか小屋が見えるし、その奥に閉まっているけど扉が有る。それと水深が思ったより深いので、大型の軍船が停泊していた?でも出口が無い」

 

 

 

 僕の左手に抱き着くリゼルと、興味深そうに周囲を動き回るクリス。どうやら御嬢様方は此処が気になる様子、クリスは待機小屋の扉を開けて中を確認しているけど後続の連中を待ちなさい。

 

 

 

「クリス、危なくは無いが他の連中を待とう。先に調べていると後から来た連中に文句を言われるよ」

 

 

 

「分かった」

 

 

 

 素直に近付いてきたが、水辺が気になるらしくリゼルと並んで水面を眺めている。魔法の光に照らされているので水底まで見通せる。コウ川自体は透明度がそれ程無いのだが、此処は透明度が高い。

 

 余り水が入り込まないので泥や埃が沈殿して水が澄んでいるのかな。小魚や川海老を見付けては喜んでいる。こうして見ると川で水遊びに興じる令嬢達だね。普段は中々出来ないので楽しいのだろう。

 

 令嬢が水遊びとか殆ど不可で、避暑地でボートに乗る位で水辺を自由に動き回るとか駄目だからな。クリスよりもリゼルの方が楽しんでいる感じがするよ。今度、暇が出来たら海にでも遊びに行くか……

 

 

 

 後続の連中が全員降りる迄はその場で待機なのだが、動き回らずとも視線は忙しく動かしている。因みに最初に降りて来たのが最高齢のレニコーン殿で、最後がベルベットさんだった。

 

 所属する組織やギルドの半数が下りて来た感じだが、当然の選択だと思う。同じ組織でも順番で相当揉めたらしいが、最後は役職等に関係無く平等にジャンケンで決めたらしい。

 

 恨みっこ無しって事だろう。いや負けた方は相当恨みがましい視線を送っていたのだろうが、それは考えないでおこう。人選について僕はノータッチだし、権限も無いので宜しくお願いします。

 

 

 

「此処は過去には軍船が停泊していた軍港だったみたいです。その奥に見えるのが待機小屋と整備用具を入れていた倉庫、此処までは事前調査で安全は確認していますので自由に見て下さい。奥の扉の先には未だいかない事」

 

 

 

 では解散!とって軽く手を叩けば全員が一斉に走り出したが、事前に打ち合わせでもしていたかのようにバラけたぞ。ギルド組は倉庫に、公爵組は待機小屋に突撃していった。

 

 

 

 残留物の価値で言えば、待機小屋よりも倉庫の方が未だ価値の有る物が残っている。予備の帆やロープに整備用の錆びた工具類は当時の整備技術を想像出来るだろう。整然と並んではいるが劣化は激しい。

 

 待機小屋の方は、二十人以上が入れるスペースに六人用のテーブルが四組。幾つかの倒れていた椅子は元に戻している。テーブルの上には中身が無くなった食器類が残っているが、軍用の量産品だから価値は低い。

 

 それでも慎重に持ち上げて調べている様子は微笑ましい。一応三百年前の製品だから骨董的な価値は有るのかな?ルトライン帝国時代の品物は現存数が少ないので、こういった日用品は珍しいのかな?

 

 

 

「リーンハルト様、これ等の遺物は持ち出し可能なのでしょうか?」

 

 

 

「配置と数を記録してから持ち出しする様に。基本的に持ち出せる物は全て持ち出し可能ですが、未だ初日ですからね。あと侵入ルートも一ヶ所ですから、何を持ち出すかは厳選して下さい」

 

 

 

 盗掘集団ではないので、正式に調査報告書が必要。最初は興奮していた連中も実測から始めた。正確な地形と建物類の配置寸法、残置物のリストと仕事は多い。

 

 此処に派遣される前に王都で役割分担も済ませていたのだろう。全員が無駄なく動いているので、大広間の調査も本日中には終わるだろうか?

 

 僕は軍船の出入り口の開閉装置を調査する事にする。制御球を操作しないと開閉は不能なのだが、その構造には古代の英知が詰まっている。これらの古代知識の解明は、僕の担当となっている。

 

 

 

 まぁ扉は調査するけど開閉は不能って事にする。この大扉を開閉する為には制御球の解析が必要なので、残念ながら物理的な構造の調査報告しか出来ないかな。

 

 それでも岩で出来た扉が自由に開閉していた事が分かるのだから、この扉の構造だけでも調査する意義も価値も高い。城門等に転用出来る事も多いのだから、エムデン王国の国益にも適う。

 

 待機小屋で調査していた連中が歓声を上げた。どうやら数冊の書物が残っていたらしい。何かの記録か娯楽関係か、解読しないと内容は直ぐには分からないだろうが最初の発見としては当たりだろう。

 

 

 

 倉庫組の方は予備の帆を広げて構造を調べている。帆船は帆の形や種類でマストの本数とかも予想が出来る。帆には横帆(おうはん)と縦帆(じゅうはん)が有って、横帆は船の中心線を横切る形で張られる帆の事で縦帆は船の中心線に沿って縦に張られる帆だ。

 

 横帆の特徴は追い風には有利で向かい風には扱い難い。此処に残っていた軍船は二艘、空間創造の中に収納しているけど……帆はどんな形状だったっけ?部材一つから全体像を想像する事も楽しみの一つだよね。

 

 エムデン王国というか、今の世界は造船技術や航海技術が転生前から殆ど進化していない。大型海洋モンスターの存在が海への発展を妨げているのだろうか?河川用の帆船が主流だから、大型船も少ないし。

 

 

 

 あれ?僕の知るゴーレム動力の軍船を公開したら大騒ぎになりそうだぞ。特にリズリット王妃の母国のマゼンダ王国とか、海洋国家から絶対に目を付けられるだろう。

 

 

 

 

 

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