古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1017話

 古代遺跡の調査初日、半数の調査員が大広間を中心に調査を行っている。軍船が停泊していただろう軍港と軍船の整備用の道具を納めていた倉庫、それと兵員達の待機小屋の調査だ。

 

 成果は相応に有り、古代の軍船の規模や性能を残された備品や工具類から推察する事。待機小屋には当時の生活用品がそのまま残されているので、生活水準や伝承が途絶した生産方法が分かるかもしれない。

 

 これは転生した自分にしか分からない事なのだが、現在と三百年前との生活水準にそれ程の差が無い。つまり魔法大国ルトライン帝国の滅亡により、相当数の技術が後世に伝えられずに消失したのだろう。

 

 

 

 最初こそ興奮していたが、少ししたら落ち着いて真剣に調査をし始めた。魔術師ギルド本部は測量を終えた後に洞窟の壁面や床に掛けられた固定化の魔法の強度を調べ始め、冒険者ギルド本部の連中は……

 

 室内から備品類を運び出して種類別に整理し始めた。家具や食器類、空のワインボトルまで全て運び出して選別し詳しく調べるのだろうか?因みに見つけた書籍は既に地上に運んだ。

 

 待機班にも仕事を与えないと交代した時に何もして貰えないのを理解しての行動だろう。地上は地上で大騒ぎしているのが見えなくても分かる。ルトライン帝国の公用語は古代語扱いだから、解読にも熱が入るよね。

 

 

 

 公爵組と盗賊ギルド本部は、僕と一緒に扉の調査をしている。まぁ僕が調べている少し後ろで見ているだけだが、探査・調査魔法を掛けているので見ているだけでも意味があるだろう。

 

 なんたって現代に伝わっているか分からない古代魔法扱いだが、何か詮索されたらエルフ側に教えて貰った事にする。流石にエルフ族に事実確認など出来ないから一番安全な言い訳だろう。

 

 公開しろ教えろと言われても、エルフ族から広める事は止められていると言えばよい。実はこの扉、鍵が掛かっていないし罠も無いから安全なんだけど制御球から遠隔で開閉可能な機能が有るんだよね。

 

 

 

 扉の前で屈んで鍵穴の部分に人差し指を近付けて探査・調査魔法を掛ける。淡い白色が扉全体に行き渡り仄かに数秒光ってから小さな粒子となり霧散する。

 

 

 

「鍵は掛かっていませんし罠も有りませんが、何かしらのラインが鍵の部分から何処かに繋がっています。遠隔で開閉が可能だったのかも知れませんね」

 

 

 

 答えを知っているが故の力強い断言するかの様な回答に、驚きなのか呆れなのか分からない溜息が人数分聞こえた。

 

 

 

「そんな数秒で調べられるとか、私達の存在意義が無くなる」

 

 

 

 ベルベットさんが床に両手を付いてガッカリ感を出しているが、直ぐに起き上がり安全が確保された鍵穴を調べ始めた。

 

 盗賊職の場合はスキルにより調査を行うので安全に調べられる機会に入念に調査するのは良い事だよね。経験によりスキルは磨かれるから余計にだ。

 

 殆ど鍵穴から数センチしか離れていない距離で細長い針金を鍵穴に差し込んで内部構造を調べている。流石に貴重な古代の鍵なので分解して調べる事は今は出来ない。

 

 

 

「古代遺跡の調査の場合、普通は扉一つに数日掛ける場合も多いのだが数秒で調べられるって驚きを通り越して呆れれば良いのだろうか?」

 

 

 

「我等も土属性魔術師として技術に自信を持っていたが、たった今砕け散った。何をしたのか一つも分からなかった」

 

 

 

 こういう独白に、どんな言葉を返したら良いか全く分からないので無言を貫く。慰めも労りも時としてマイナス方面に働く場合が有り、下手な同情は傲慢ですらある。

 

 

 

「扉の先の調査は、待機組と入れ替え後にしましょう。此処の遺跡は逃げ出しませんから、ゆっくり慌てず確実に行いましょう」

 

 

 

 扉の奥に見える範囲は通路となっており、その先は大食堂と厨房、そして食料品の倉庫が有る。居住区の為に大広間の壁はゴツゴツとした岩肌のままだが通路の壁や床、天井はツルツルしている。

 

 岩盤を魔法で加工して磨いて平滑化したのだが、これも古代魔法か技能扱いになりそうだ。本当に技術の伝承が途絶えているんだな。転生前は魔法や技術は秘匿するもので、弟子達にしか教えなかった。

 

 特に魔法に関しては、魔法大国ルトライン帝国の滅亡により殆どが失われたのだろう。魔導書や記録に残さなかったり、残しても暗号化したりして分からない様に細工するのが流行っていたし……

 

 

 

 当時の生き証人である僕が感じているのだから、ほぼ真実で正解なのだろう。僕も殆ど魔導書など残さなかったし、魔法技術も配下にしか教えなかった。

 

 扉に張り付いて離れないベルベットさんを宥めすかして、休憩と交代の為に地上へ戻る様に促す。未だ初日だしメインの武器庫や宝物庫、上級士官の私室は残ってますからね。

 

 そう言って何とかゴネる者達を説得して地上に戻る。結構な時間をかけて調査をしていた中で、リゼルはずっと僕の傍にいたがクリスは何故か川海老釣りを行って多くの手長海老を釣り上げていた。

 

 

 

「主様、素揚げにして食べましょう。新鮮なので美味しいです」

 

 

 

「ああ、そうだね。美味しそうだね」

 

 

 

 得意げなクリスの頭を撫でて釣果を褒める。情操面の教育は順調なのだろうが、食いしん坊キャラになってないだろうか?帰ったら、イルメラに教育課程の相談をしなければ駄目だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 初日の調査を終えて私室に戻って来た。昼食と休憩後にメンバーを入れ替え居住区の調査を行ったが、大広間より盛り上がった。特に残された食材の調査が白熱して困惑したよ。

 

 まさか干乾びた人参を分け合って少しづつ食べるとは思わなかった。いや結構な量が有ったから食べ尽くした訳じゃないけど。今は干乾びているけどさ、その過程は萎びて腐って水分が飛んで乾燥したんだよ。

 

 『仄かに古代の人参の味がする』とか『三百年の時を超えた奇跡の味覚』とか『古代人と同じ食べ物を味わった』とか理解不能だからね?干し肉は保存食のナレの果てだけど同じように食べたよね。

 

 

 

 乾燥して岩の様な塊になった塩も、元が何だか分からない香辛料の類も全て食べるとかどうかしてるぞ。幸いお腹を壊した者は居なかったけど、調査隊としては失格だと思う。

 

 流石にビネガーと化したワインは飲むのを止めた。基本的にワインには消費期限が無いと言われるが、飲み頃は各々で違う。劣化すると赤ワインは茶色みを帯びて濃くなり、白ワインは濃い黄色や茶色になる。

 

 貴族のワイン通は『ワインに時間経過による劣化など無い。時間経過と共に熟成するのだ!』とか騒ぐけどさ。密閉されていれば未だ許容するけど、コルク栓が劣化してる物が殆どだよ。

 

 

 

 全てのワインボトルを運び出してから並べて劣化状況を調べる事に一番時間を使いやがった。そして百本近くのワインボトルは密閉状況が良好でエムデン王国に献上する事になったが……

 

 残ったワインボトルで比較的にマシな状態のものを飲もうと騒ぎ出した時には、どうしてやろうかと思ったね。細菌が繁殖していたら良くて腹下し、最悪は食中毒で命に係わる危険性が高い。

 

 まぁ捨てるのが勿体無いのなら煮込み料理に使うとかホットワインにして飲むとか利用法は有るけどさ。このワインは軍用だから安物なんだよ。そして今気付いたんだけどさ。

 

 

 

「空間創造の中に同じワインを保存食と共に大量に持ってるよ。大量に支給されたから未だ消費し切れてないな」

 

 

 

 国から支給された食料は、基本的に干し肉と固焼きパンにワイン。残りは現地調達か自前で準備するのだが、現地調達は徴収か略奪なので指揮官達は兵士達の士気を保つ事と治安の維持に苦労した。 

 

 

 

 干し肉は赤肉を同じ大きさで切り分けてワイン・胡椒・スパイスを混ぜ込んだ調味液に漬け込んだ物を天日で乾燥させてから温燻(30~60℃の煙で燻す)した物で形も均一だ。

 

 固焼きパンは軍でも人気が無く、ハード・タック(Hardtack)と呼ばれていた。ガリガリと齧るかスープに浸さないと食べられないのだが、栄養価があり日持ちもする。此方も形は均一。

 

 それと量産品の安物ワイン。これが500人×3食×30日で45,000食分と飲料水が同数ストックされている。転生前の宮廷魔術師筆頭時代に直属の配下に魔導兵団が500人いて一ヶ月分の予備食料として支給されたが……

 

 

 

 何時の時代も軍の支給品なんてこんなモノだよね。腹一杯食べれるだけ幸せってか?

 

 

 

 少しずつ提供して数を減らしているけど、未だ大量に余っている。これも古代ルトライン帝国時代のものなんだよね。知ってしまっては気軽に提供するのも憚られるぞ。

 

 ゴロリとベッドに横になる。残り数日で大まかな調査を終える事が出来るだろうが、収集品の調査は継続して行う事になるだろう。まぁ其方が本命なんだけどね。最終的に必要な物は根こそぎ持ってくし。

 

 試しに空間創造から干し肉の塊を取り出し、魔力刃で薄く切る。5mm程の厚さの干し肉を嚙み締めれば弾力の有る食感と調味液の味が口内に広がる。美味しくは無いが遠い昔に味わった懐かしい味。

 

 

 

 文句を言いながらも仲間達と焚火を囲んで食べていた頃の記憶が蘇る。懐かしくも寂しくほろ苦い思い出の味か……

 

 

 

 ベッドで寝返りを繰り返しながら転生前の出来事を思い出す。記憶が曖昧な部分も多いが、有る程度の記憶は残っている。特に食事関連の事はよく覚えているって、他人の事をとやかく言えないじゃないか。

 

 今でこそ贅沢な食生活を送っているが、転生前は王族の一員だけど転戦による戦地暮らしも長く最適に調理された物ばかりを食べていた訳じゃない。流石にエリート部隊だったので一般兵よりは恵まれていたけどね。

 

 最悪の食糧事情の場合はカロリーを摂取する為に蛇や虫も捕えて食べていたとも聞くが、自分が一番嫌だったというか食べ続けて飽きた食べ物は簡素な『麦粥』だな。一番手軽で栄養価の高い料理。

 

 

 

 身体も温まるし消化も良い。調理も簡単で基本的に穀物を煮て味付けをするだけ。調味料も塩・ニンニク・オリーブオイル・ハチミツ・チーズ・ミルク・ワインと何でも有りだったが塩味が一般的だったな。

 

 具材は野菜・肉・魚と此方も何でも有り。鍋一つで大量に作れるし調理時間も短く薪などの消費も抑えられるので、軍隊としては最高の料理だったのだろうが毎日コレだけじゃ不満も多かったな。

 

 僕達は麦粥をメインにしても、副菜として肉や魚料理も一緒に食べてたので未だマシだった。質素な食事が続けば、最悪は兵士が離反したり勝手に略奪する連中も居たし。

 

 

 

 軍隊の運用にはさ、徹底的な食料と食事の管理が必須だった。軍需物資の殆どが食事関連の食糧や薪等だったのは常識だしね。補給ルートの構築と維持管理も同じ位に大切だったよ。

 

 逆に、それが出来ない指揮官が率いる連中は戦場での略奪が多かったので問題視された。敵側だけでなく味方側からも徴発という略奪をして、その罪を擦り付けられたんだった。

 

 思い出したら腹が立ってきたぞ。僕達は少数精鋭で連戦連勝だったが、少数なのと空間創造のギフトの関係で物資は潤沢で徴発や略奪は全くしなかった。それなのに罪を擦り付けられたんだ。

 

 

 

 面倒臭がって政争を避けて戦地を渡り歩いた事が原因の何割かを占めているのは事実だから半分は自業自得か?過去は過去として割り切ろう、今生を楽しく幸せに生きる事に集中しよう。

 

 今更怒っても無意味だし、生産性も全く無いから綺麗さっぱり忘れよう。忘れないのは食べ物関連で良いよね。しかし昔は不味くて飽きて嫌だったけど、今は懐かしく思えるものなんだな。

 

 

 

「ふふふ、懐かしい思い出の味か……今度イルメラに作って貰おうかな」

 

 

 

 侯爵待遇の伯爵が食べる物ではありません!とか言われそうだし、思い出の味とか言っても説得は出来無さそうだけど、それでも無性に食べたくなってきた。自分で作って食べようかな。

 

 

 

 思い出の『麦粥』をさ。 

 

 

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