古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1018話

 遺跡調査二日目、今日は居住区の奥の方の調査を行う。午前午後と入れ替え制にしているが、毎日メンバーを入れ替えている。調査内容によって午前と午後のどちらが有意義か変わるらしい。

 

 つまり初日は午前よりも午後の方が良かったのだろう。大広間の待機小屋や倉庫よりも、居住区の食堂や厨房、食品庫の方が楽しかったという訳だな。遺跡調査よりも宝探し感覚か?

 

 僕的には今日も午前よりも午後の方が楽しいと思う。午前の調査は士官の私室がメインで、午後は武器庫と宝物庫がメインとなる。古代の生活様式とか文化を知る事に重点を置くなら午前。

 

 

 

 物理的な武器や防具等に興味が有るなら午後、だけど情報は教えられないので各自悩みに悩んでいる。午前の調査が人気なのは、未調査区画に最初に入りたいとかだろうか?

 

 調査対象の古代遺跡って劣化が激しいのが多いので、此処みたいに保存状態の良好な場所は少ないからね。普通は土で埋まった状態の遺跡を掘り起こす事が多いから時間も労力も費用も嵩む。

 

 殆ど考古学の領分に近い。三百年と比較的に新しい遺跡ではあるが、人が住まない施設は直ぐに劣化する。此処は密閉状態だったから保存状態が良かった事と、魔力球による管理が比較的に長く続いたんだ。

 

 

 

 とはいえ換気用のダクトは埋まってるので、空気が重いし黴臭いし埃っぽい。コウ川と地下で繋がっているので水生生物は生息しているが、蝙蝠とかの動物が入り込まなかったのは良かった。

 

 もしもネズミとかの小動物が出入りしていたら、食料は食い散らかされていただろうし死骸やフンも有っただろう。秘密要塞だった事が功を奏した感じなのか?

 

 リゼルとクリスも同行するのだが、クリスは川海老の捕獲と料理に味を占めたのか、本格的な捕獲用の罠と釣り竿を持ち込んでいる。いや、遺跡自体に興味が薄いのは分かるけど、半分レジャー気分じゃないかな?

 

 

 

 川海老の素揚げに塩とレモンを掛けただけの素朴な料理は美味しかった。本来ならば一晩以上は真水に入れて泥抜きをするのだが、澄んだ水質の為か泥臭さは感じなかった。

 

 他の者達にも少量ながら差し入れを行った為なのか、僕の護衛が本来の任務で調査には関与しないからなのか?彼女の奇行に誰も突っ込まないし嫌な顔すらしない。むしろ歓迎されている。

 

 美少女の手料理を振舞われたのだから、当然の反応なのだろうか?因みにだが、調理にはリゼルもノリノリで参加していた。仮にも男爵位を持つ貴族の当主がだよ。

 

 

 

 此処は敵地の最前線、本国の王都の様な生活など出来無いって事で許容すべきだろうか?まぁ僕も自分で過去の思い出の料理である『麦粥』を作ろうと思っているので同類だろうな。

 

 過去に散々食べて飽きて不味いと思っていた料理を敢えて作って食べようと思っているのだから、自分でも不思議だと思っている。転生前の人生を記憶として割り切っているって事なのだろうか?

 

 昨夜、試しに食べた干し肉も不思議と美味しく感じた。味が濃くて喉が渇くような代物だったけど、味覚と記憶が連動して思い出補正で美味しく感じたと思う。

 

 

 

 このアスカロン砦という場所も、影響しているのだろうか? 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 朝食後、少し休んでから大広間に向かうと既に全ての調査員達が整列していた。予定時刻よりも三十分ほど早いのだが、皆のヤル気が凄い事になっているのが分かる。

 

 昨夜も午前午後の割り振りを決めるジャンケン大会が盛り上がり過ぎて、警備兵から苦情を言われたらしい。流石に夕食後に騒ぐなって事だが、報告してくれた警備兵は苦笑いしていた。

 

 地位も役職も有る連中が遺跡調査の順番を巡り、ジャンケンという子供の遊びの様な事を真剣に行い一喜一憂していれば面白いだろうし呆れるだろう。だから苦笑いなのね。

 

 

 

 待たせる意味も無いし少し早いが、もう始めよう。

 

 

 

「今日は重要区画の調査を行います」

 

 

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 この言葉に調査員達のテンションが爆上がった事を感じた。昨日の成果だって普通の遺跡調査では数週間分の成果だったが、あくまでも軍船の備品の一部や整備工具類、一般兵関連の品々。

 

 それと厨房や食品庫という軍事基地の調査としては地味な部類だった。それが今日は重要区画の調査という、軍事基地の中核を担う部分の調査だ。保存状態も良いので相応な結果が得られる期待感だろう。

 

 真っ直ぐ伸びる細い通路を先頭で歩いて行く。左右に扉は無く突き当たりが金庫室、その手前の左右に扉が有り武器庫となっている。前回はこの通路に多数の死体が有ったが、既に埋葬済みだ。

 

 

 

「争った痕跡が有りますね」

 

 

 

 壁の傷の部分を指でなぞりながら、今気付いた様に話す。此処に有った死体は二十人以上で全員が複数の致命傷と思われる傷を負っていた。同士討ちだったのだが、必ず殺すという強い意志を感じたよ。 

 

 前回は気付かなかったが、魔法球の明かりの元で確認すると壁や床の傷と血痕の痕跡も残っている。僅かに赤黒いシミが残っているだけだが、過去に攻め込まれて戦闘が有ったと考えるには十分な痕跡だよ。

 

 秘密基地に外敵と争った跡が有る。これを明らかにした理由は、この先の金庫室や武器庫に財宝や高性能の武器・防具が無い理由の一つとしての伏線だ。

 

 

 

 遺跡の財宝って浪漫だけど、実際に前例も多々有る。リトアルシア帝国の遺跡から大量に発見された魔法の付加された武器とかね。此処は保存状態も良いから期待値も半端なく高いだろうし……

 

 だが此処には残念ながら『価値の有る財宝は残されていなかった!』という事になる。多少は魔法の付加された武器や防具は残っているけど、魔力が切れて効果を発揮しない物しかない。

 

 魔術師ギルド本部としては価値ある発掘品となるとは思うが、他の連中からしたら壊れた武器や防具でしかない。もっと俗物的な金貨や宝石を見付けたいと思っているだろう。

 

 

 

 その幻想は打ち砕かれるんだけどさ。

 

 

 

「結構数が多い。同じ時期に付けられた傷や血痕かは判断出来ないけど、少なくとも敵対している武装勢力が此処に侵入し戦闘を行った事は確かだ。死体が無いので、戦闘後に片付ける余裕は有ったのだろう」

 

 

 

 座り込んで床に残っている血痕の後も調べてみる。広範囲に広がっているから、流れ出た血の量だけでも致命傷だと分かる。調査員も周辺に残された戦闘の痕跡を調べ始めた。剣や槍で付いたと思われる傷跡。

 

 それが広範囲に広がっている。狭い通路で少なくとも十人以上の乱戦が有り、何方が勝ったかは分からないが、負傷者や死体を片付ける時間的な余裕が有った。状況的には襲撃側が負けた感じかな。

 

 もしも襲撃者側が勝ったのならば、もっと略奪の痕跡が残っている筈だ。此処迄の状況を見れば、その様な痕跡は見当たらない。軍船も残されていなかったので、必要な物は全て持ち出せたと思うだろう。

 

 

 

 当然だが、当時の司令官の残した日誌類は全て回収済みだ。仲間割れとか同士討ちとかの予測は立てられても証拠は一切無い。

 

 

 

「古代ルトライン帝国は、その強大さと国土拡張主義を恐れた周辺諸国が連合して組み滅ぼしたと言われています。ここも襲撃されて撃退はしましたが撤退したのでしょうか?」

 

 

 

 リネージュさんの呟きに同意する様に頷く。十分に考えられる事だし、仲間割れして同士討ちを行った事を除けば逃げ出した事も正解だし。マリエッタ達の暗躍を示す証拠も無いし、その線で進めよう。

 

 

 

「計画的な撤退だったのかも知れませんね。当時の事に思いを馳せるのは、全てを調べ終わった後でも良いのでしょうが状況からすれば……僕もそう思います。つまり価値の有る物は全て持ち出されている可能性が高いのか……」

 

 

 

 残念そうに呟く。計画的に撤退したのならば価値の有る物は全て持ち出して、安物のワインや嵩張る食料品は残すのも理解出来る。宝探しは最初から無いと結論が出てしまった、残念。

 

 そのまま通路を進み突き当りに到着、金庫室の扉は開けたままにしていたので中に入って確認するも数枚の金貨が残されているだけだった。因みに隠し金庫の存在は教えないので、結論は財宝は無かっただ。

 

 リネージュさんが拾い上げた金貨を丁寧に調べている。少しくすんでいるが、指で擦れば黄金色の輝きが蘇る。全部で六枚の金貨が残っていた。これらは全てエムデン王国に献上する事になるかな。

 

 

 

「古代ルトライン帝国の公用金貨に間違いなさそうですね。現代にも相当数が残ってますので間違いないでしょう。ここはルトライン帝国時代の軍事拠点という確たる証拠になります」

 

 

 

「僅か数枚ですが残していったという事は慌ただしく撤退した可能性も有りますね。当時は周辺諸国から一斉に攻められていた可能性も有りますから、余裕は無かったのでしょうか?」

 

 

 

 自分も一枚の金貨を掌の中で弄びながら、極めて真実に近しい嘘の予想を呟く。マリエッタ達に汚名は着せられないし、裏切られた祖国の事は正直どうでも良い。既に三百年も前の出来事だし……

 

 

 

「最終的には周辺諸国の連合軍に負けたと伝わっているので、敗戦濃厚だった時期になにかしらの理由でアスカロン砦を放棄し移動した可能性が高い」

 

 

 

 そう言ったら周囲の連中も頷いた。まぁ身分上位者の見解に異を唱える事は勇気が居るだろう。なので今のところは賛成だが、これから色々と調べて自説を唱えてくるだろう。

 

 この場に居るのはそういう連中だから。だからこそ古代遺跡の調査に参加しているので、イエスマンじゃ無意味なんだ。ある程度の情報の誘導と統制はするけど、あくまでも僕の予測も意見の一つだ。

 

 大量の資料を持ち帰る事になるので王都での調査は大掛かりになるだろうが、僕は初期調査だけしか関われない。浪漫ある仕事だけど緊急性も無いし採算性も不明、そんな案件に携わらせてはくれない。

 

 

 

 知識の探究者を目指す自分としては、厳しく悲しい現実だな……

 

 

 

「何か言われましたか?」

 

 

 

 リネージュさんが邪気の無い笑顔を浮かべて聞き返してくれたが、彼女にとっては滅んだ国の公用金貨よりも古代の遺跡を調べられる方が嬉しいのだろう。僕もそうだけど、魔術師としては正しい思考だよね?

 

 

 

「いや何でもないよ。さて金庫室には何もなかったが、扉や部屋全体の強固な作りは調べる価値が有るだろう。転用可能な技術なのか調査は進めて欲しい。午後から手前の武器庫の調査を始めるよ」

 

 

 

 魔術師達が床や壁、棚などを丹念に調べ始めた。彼等も金貨よりも古代の英知の詰まった室内の構造が気になるのだろう。各自が探査・調査魔法を掛けて所かまわず調べ始めた。

 

 ここは狭いので邪魔にならない様に外に出る。この部屋の扉は強固な固定化の魔法も掛かってはいるが、扉自体も鋼鉄製で強度が高い。そして開閉を楽にする為に重量軽減の魔法も付加されている。

 

 密閉性を高める為に扉と枠が凹凸で納まる形状や、鍵自体にも色々な工夫を凝らしている。この古代遺跡の調査により建築関連の技術的な向上が望めそうなのだが、一般向けじゃないかも。

 

 

 

 一般家庭に金庫なんて無いから、資金の豊富な貴族や国家の財務関係者が金庫や重要書類の保管庫として運用したがる?つまり予算を付け易い案件になるかな。浪漫よりも実利、為政者って悲しい。

 

 

 

「主様、待ちの時間ならば一緒に川海老を釣りませんか?」

 

 

 

 1m程の長さの釣り竿を手渡された。川海老を釣るのに長い竿は不要なのだが、一応古代遺跡の調査責任者が地底湖で夕食の食材を釣っていても大丈夫なのだろうか?

 

 まぁ良いか。クリスと過ごす事も情操教育には必要だし、川海老の素揚げも美味しかったからね。責任者は問題が起きた時に責任を取る者の総称だから良しとしよう。

 

 ここが安全なのは保障するしさ。沢山捕れれば皆にもお裾分け出来るし、良い事尽くめだろう。既にリゼルは短い竿を振って使い心地を調べているし、負けてはいられない。

 

 

 

「良し、じゃあ誰が一番沢山釣れるか勝負しよう!」

 

 

 

 周囲の呆れた視線や苦笑いの声は無視します。多忙な者には、こういう一日も必要だと思います。

 

 

 

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