古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1019話

 調査二日目の午後、午前中は重要区画の金庫室の調査を行い午後は武器庫を調査する。調査のスピードが速すぎるかもしれないが、一通り大まかに調べた後で優先順位を付け直して再度細かく調査を行う。

 

 僕が安全の確保を全般的に担うので最初から細かく調べると時間的拘束の負担が大きくなる事を配慮しての事と、最初から安全面の確保をしてから調査団を受け入れた方が効率は良いのだが……

 

 数の少ない貴重な古代遺跡の調査を一人で行う安全面での危険性と、貴重な出土品等を独り占めしない為のお互いの監視という側面も有った。

 

 

 

 嫉妬や疑いを掛けられる位なら一緒にやりましょう!という政治的な判断です。

 

 

 

 まぁ実際は一部の連中が危惧した通り、この古代の遺跡『アスカロン砦』は所有していた国の王族の転生体である、自分に所有権が有るので有り難く残された財貨は頂いた。

 

 そもそも自分が整備した秘密要塞なので、細かい所まで把握しているし貰った財貨も隠し金庫に保管してあった物だから存在を知る連中も少ない。

 

 一般の宝物庫の財貨は既に運び出されていたから、隠されて残された財貨は発見者が貰っても構わない筈だ。所有者は現代に生き残ってないし、後継国も子孫達も居ないのだから……

 

 

 

「やはりと言うか此処は国難の時代に放棄された軍事拠点なのでしょうね。国が亡ぶ状況で、ここに詰めていた軍属達は財貨を軍船に乗せて、何処に行ったのでしょうか?」

 

 

 

 金庫室の前に佇んでいると、リネージュさんが話しかけて来た。別に過去に思いを馳せていたわけでもないのですが、古代の浪漫に浸っていたとか思われていたのか?

 

 他にもギルテックさんとその後ろに、リゼルやクリスも居る。まぁリゼルは全てを知っているからニヤニヤと淑女がしてはいけない笑みを浮かべ、クリスは一緒に釣りをしたいのか釣り竿を二本持っている。

 

 その他の連中は纏まって少し後ろに居る。僕が武器庫の扉を開ける迄は待機だからだろうが、特に急かす様な感じはしないし同じように感慨に耽っています的な顔を向けている。

 

 

 

 いえ、僕は過去の出来事を空想して悦に浸ってませんよ。細かい詳細も残された日誌を読んで凡そ把握していますから……

 

 

 

「強大な力を持っていた魔法大国ルトライン帝国でさえ、数の暴力には勝てなかった。現状のエムデン王国も周辺諸国を圧倒する国力を得ましたが、今後の行動によっては反エムデン王国連合が生まれるかもしれない……」

 

 

 

 ここで言葉を区切る。実際にデンバー帝国やルクソール帝国の動向も怪しいので、外交官達の頑張りに期待するしかない。味方を増やし敵を牽制する、周辺諸国とのパワーバランスの調整は大事だ。

 

 エムデン王国は強大だから傘下に入れとか反抗するなら滅ぼすぞ!みたいな恫喝外交は愚策、今は周辺諸国との良好な関係を維持し旧ウルム王国のエムデン王国化を進める時期だよ。

 

 バーリンゲン王国という巨大な負債を抱えているし、完全に縁切り出来る事は望ましいが負担も大きい。本当に最後まで迷惑でしかない困った隣国、このチャンスに未来永劫『人類の敵』として名を残して貰う。

 

 

 

「これから暫くは国力を高める時期となるので、この調査で得られたモノが有益であって欲しい。そう思ってました。滅んだ国の事を考えるのは、ちょっと嫌かな。エムデン王国は違う道を歩むのだからね」

 

 

 

「そうですわね。此処で得られた知識を有効活用して国を豊かにする事こそ重要、『富国強兵』でしたか?国を富ませれば余裕が出来て軍事にも予算を潤沢に回せる。必然的に兵士は鍛えられ良い装備を貰えます」

 

 

 

 ん?富国強兵ってそういう意味だっけ?経済と軍事力を両方同時に発展させる。国民の基礎教育の向上、税制の見直し、社会インフラの整備。国が主体で進める事業の整備、小麦などの主食の安定と増産。

 

 他にも金融関係で融資や借金の法的整備、利息の統一化とか一部の金持ちや貴族が金を貸して暴利を貪る事を止めさせるというか、そういう感じで進めているし発表している。

 

 一部の貴族や商人からは反発されているが、徐々にではあるけど規制し始めている。『健全な国家運営、領土拡張はしないで自国領内を発展させる事を中長期計画の目標とする』だよ。

 

 

 

 多分だけど軍事費は徐々に削減されるだろう。数を減らして質の向上にするか、国内の治安維持に注力して質を平均化し数を増やすか。

 

 

 

 何方にするかは未だ決まっていないが、領内の治安維持を優先するならば兵士数が必要だから質を落とすと言うか必要なレベルに平均化して予算を減らす事になるだろう。

 

 確かにエムデン王国は支配地域は増大したけど利益が生まれるのは旧ウルム王国領だけで、バーリンゲン王国の方は勝っても負債しか残らない不良債権だよ。でも裏庭の心配が無くなるなら受け入れる。

 

 二つのエルフの森と交流が出来るし、異種族だけど魔牛族と妖狼族を保護というか取り込んだ事によりメリットもデメリットも発生したが、メリットの方が多い筈だ。

 

 

 

「その装備の向上が見込める古代の武器の調査、ですが現状を考えると持ち出されている可能性も有りますね。では扉を調べてみましょう」

 

 

 

 まぁ国家の中枢に居る自分と、王都三大ギルドとはいえ民間の彼女とでは知れる情報も段違いだろうし間違いを修正する必要も感じない。まぁそういう側面も有るから全く違うとも言えない。

 

 曖昧な笑顔を浮かべながら目の前の扉の前で膝をついて鍵穴と目線を合わせる。この扉も未施錠のままだが、探査・調査魔法を掛けて『未施錠』である事を分かり易く周囲にも確認させる。

 

 物理的・魔法的にも未施錠状態なのが分かり、序に罠も無い事を確認。起き上がり、ドアノブを掴んでゆっくりと回して扉を奥に押せばギギギと軋んだ音を立てながらゆっくりと開いた。

 

 

 

 中からヒンヤリとして少し埃っぽい空気が流れ出してきた。完全に扉を開けると廊下の灯かり照らされた人型の物体が数体、綺麗に並んでいるのが見える。鎧兜、壁際には武器類が並んでいるな。 

 

 魔法で光球を生成し倉庫内の天井部分に浮かべると防具庫内の様子がハッキリと確認出来る。広い室内には四列の鎧兜の懸架台が設置されていて、整然と陳列されている。

 

 所々に空きがあるのは使用中なのか盗まれたのか?全体の七割程度が残っている感じかな?固定化の魔法が切れているのだろうが、三百年前の物とは思えないほど質の良い状態で残っていたな。

 

 

 

 試しに一番手前の鎧兜に探査・調査魔法を掛けてみる。

 

 

 

「付加魔法の残滓はあるけど、固定化の魔法だけだな。それも切れているけど百年単位で保ったから、表面の錆程度で済んでいるのかな?ルトライン帝国の魔導師団の鎧は相当数の残っているけど、一般兵用は殆ど残ってないね?」

 

 

 

 高価な物は最初から無かったし、残っていた物で価値の有りそうな物は既に回収している。此処に残した物は精々が固定化の魔法が掛かっていた物で、軍隊用の数打ちの製品だけだ。

 

 

 

 部屋全体に探査・調査魔法を掛けてみるが、見事な位に魔力の付加された鎧兜は残していなかった。高価な鎧兜は撤退時に全て持ち出したのだろうし、武器や防具の隠し倉庫は無いから、此処に無ければ残念ながらって事だ。

 

 一般兵用の鎧兜でも製作方法や素材の品質等、調べる項目は膨大だ。サンプルも百を超えて有るのだから色々と調査出来るだろう。王都の鍛冶ギルド本部に幾つか持ち込んで調べて貰うか?

 

 連中の方が本職だし、此処にある鎧兜は錬金製でなく鍛冶製。鍛冶工の方が調査には適任だな。彼等にも利益を与えなければ、只でさえ騎士団関連の美味しい仕事を奪っているので関係が悪化するよ。

 

 

 

 現物は大量に有るから、各種一個ずつ渡せば満足するだろう。僕が補足説明をしても良いし見本で同じ物を幾つか錬金して渡せば、其方を分解して細かく調べるだろう。

 

 貸与品は最終的には回収するつもりだから、分解して再組立て出来ませんでしたは不味い。錬金製なら最悪壊しても問題無い。幸いというか、此処に有る武器や防具は細部まで理解しているから再現は可能だ。

 

 素材の構成は実際に溶かしたりするのかな?僕は魔法で素材の構成割合とか分かるけど、鍛冶工の調査方法は分からない。成分構成まで教えたら意味が無い?いや、細かく教えた方が喜ばれる?どっちだ?

 

 

 

 うーん、利益供与の調整まで行うって、僕も悪徳な貴族様の仲間入りだな。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 幾つになっても男女の変わりなく、お宝発見には沸き立つものなのだろうな。今回一番のテンションで調査員達が仕事をしている。ワインの時と同様、順番に丁寧に鎧兜や武器を大広間に移動して仕分け。

 

 種類別、サイズ別に綺麗に並べられた武器や防具類を調査する連中の目はヤバい方向に病んでいる。ギラギラしてる、好奇心に満ち溢れた微笑ましい表情じゃなくて、もっとドロドロでグチャグチャな感じ。

 

 頼むから鞘から抜いたショートソードの刀身を微動だにせず長時間眺めてないでっ!早くコッチ(現実)に戻って来てっ!それは傍から見れば、只の危ない人だから。危険人物だからね!

 

 

 

 軍用の為、規格は統一されて種類は最低限に抑えられている。一般兵士の装備品といえば、鎧兜に盾。ロングソードに予備のショートソードにナイフ。それと槍と弓だな。

 

 金属製で統一されているのは、一般兵の中でもアスカロン砦に配属される連中は上級兵だったから。末端の兵士だと革製の鎧を使わせる事も有る、いやその方が多いか?臨時徴兵された連中などは皮鎧と短槍とか多かった。

 

 エムデン王国も金属製の鎧兜を装備できる者は限られている。正規の訓練を受けた兵士の中でも上位の連中、此処は秘密基地だから有る程度の地位にいないと知らされなかった筈だったか?記憶は曖昧だが、多分そうだと思う。

 

 

 

 金属製だから現代まで保ったのだが、装備の一部に使用されている革製の部品は劣化が激しい。金属は錆びるが、革製品は腐る。劣化の度合いが結構違うのは、固定化の魔法の精度か強度だろうか?

 

 錆も地金を腐食する程酷くはないので、普通に磨けば今でも使えるだろう。武器や防具としての性能は悪くは無いが、使うとなると王宮警備隊?騎士団クラスには性能が低すぎて使わせられないかな。

 

 でも資料的な価値は高いし、古いというだけで欲しがる好事家も多いだろう。少しは市場に流しても問題は無さそうだし、関係各所と要相談だろうか?買えるなら、僕も欲しいし……

 

 

 

 働く連中の脇で満面の笑みを浮かべて釣り竿を二刀流で地底湖に投げ込む、クリスが一番この状況を楽しんでいるのだろうな。

 

 

 

 僕は持ち込まれる武器や防具を鑑定し、魔力付加の有無を判別する。有った場合は効果が残っているか残ってないかを調べて選別の指示を出す。簡易な魔力付加はそれなりに掛かっているが、効果は殆ど消えている。

 

 だけど固定化の魔法の効果が残っている物も少なくなく、当時の魔術師の技量によって差が出たのだろう。でも百年単位での持続効果だから、効果が無くなっていても粗悪品ではない。

 

 うーん、この時代の魔術師でも数百年も効果が持続する固定化の魔法を掛けられる者が居るかと言えば……微妙だな。やはり魔法技術の継承は万全じゃないな。だからと言って鍛冶の分野が発達したかと言えば……

 

 

 

 技術の発展って難しい。数百年もの時が経過しているのに、文明の発展の実感が無い。確かにポーション類は同じ効果で飲む量が減ったりしていたけど、困惑する程の進化は無いなぁ。

 

 

 

「主様、大物です!」

 

 

 

「そうだね。大きいし美味しそうだね」

 

 

 

 誇らしげに釣り上げた川海老を見せ付けて来る、クリスに微笑みかける。彼女の情操教育は進んでいるのだろうか?幼児退行というか感性が幼子になってない?

 

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