古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1020話

 旧アスカロン砦の調査も終盤戦に入っている。港の有る広場から食堂と食品庫、武器庫と宝物庫を調べ終えて最後に残されたのは居住区。一般兵士は大部屋だが貴族や上級士官には個室が与えられる。

 

 この個室のエリアは略奪が激しく部屋の中が荒らされているが、書類などの資料は多く残っている。勿論だが軍機に関わる書類や資料は雑に隠蔽工作されている。

 

 隊長の部屋が一番荒らされているのは秘密の金庫の鍵を探したからだろう。本棚は倒され壁に掛けられた地図は剥がされ、絨毯の一部まで捲られているし……もしかして隠し金庫の存在がバレていた?

 

 

 

 まぁバレていても正規の手順じゃないと開けられないし、壊す事も出来ない強固な金庫室だからな。時間を浪費する無駄な努力だった訳だ。

 

 最初は盗掘も心配されたが、最終的には砦を放棄する時のゴタゴタで納まった。盗掘ならば他にも価値ある物は持ち出しただろうし、そもそも侵入した経路の痕跡が無かったのが決め手だった。

 

 この規模の遺跡ならば盗掘は何度も行われる筈なので、換金率の高い武器や防具が丸々残っているのが決め手かな。僕が思考誘導した事も大きいけど、過去の出来事だから想像の範疇でしかない。

 

 

 

 僕も隊長殿の日誌は確保したが、補給の記録や人事名簿、それと資金の収支を記録した帳簿等はそのまま残している。当時の事を推理するのに重要な資料では有るし、調べられても困らない。

 

 後はインクが劣化していて読めない部分も多い。固定化の魔法を掛けて後世に残す程、重要な書類ではなかったのだろう。まぁ作戦行動に関わらない資料など、保管期限も決めてないしね。

 

 作戦行動に関わる資料については一応処分はしたのだろうが、結構残っていそうだな。敗軍の連中に完璧に資料を処分する余裕なんて無かっただろうし、逃げ出すのだから所属の機密処理とか関係無いか……

 

 

 

 クリスは川海老釣りに飽きたらしく、今日は捕獲セットを持ち込んでいない。暇そうに調査員達を眺めているが邪魔はしていない。まぁ同じ料理を二日も食べれば飽きる前に止めようと思うだろう。

 

 今日の調査は書籍や書類類の収集がメインとなっているのだが、腐っても貴族や上級士官の私室なので、金目の物が粗方奪われた後でも興味を引く備品や私物は残っている。

 

 例えば、文房具類の羽根ペン。鷲鳥の羽根を加工した物だけど、当時は個人で使い易い様に加工するのが流行っていたので現物が残っていると時代考証が捗るのだろう。

 

 

 

 現代の技法書には『羽根ペンに適切な羽根は、鵞鳥か白鳥の風切羽で外側の羽軸5本程度が適切』となっている。が、此処で発見された羽根ペンは黒い羽根が使用されている。つまりカラスの羽根を使った羽ペンだ。

 

 確か書く文字の大きさによって羽根ペンの材料を変えていた。羽根軸の加工に最適な羽根を色々と模索していたのだろう。あとは羽根の部分の豪華さに拘る連中も居たな。

 

 正直、羽根軸の強度は固定化の魔法で何とでもなるから見た目が派手な七面鳥とかね。後は手に馴染む曲線のもの、右利きには鳥の左側の羽根が馴染みやすいとか色々と細かい拘りが有る。

 

 

 

 まぁ現代では羽根ペンは一般的でなくガラスペンが主流だ。羽根ペンは調印式とかのイベントの時しか使用しない。その分、豪華だったり希少だったりと拘るのだが……

 

 

 

 羽根ペンだけでも色々な考察が捗るのだから、他にも珍しい物だとワックスタブレットかな。平らなパレットに色をつけ柔らかくした蜜蝋を流し込んで固めた物。串の様な先端がとがった物で引っかいて文字を書く。

 

 消すときは反対側のヘラ状のもので擦って書いた部分の凹凸を均すと文字が消える。何度も使えるので一寸したメモとして利用していたな。当時は紙が貴重品だったからメモ用紙なんて金持ちしか使用出来なかった。

 

 羊皮紙ですら高価だったな。平民の知識層の連中は石板とロウ石が主流だったかな?現代では工業化が進んでガラスペンも紙もインク類も安価で手に入るけど、三百年前は結構不自由だったんだな。

 

 

 

 新しい発見に熱狂する連中を見て思う。自分も過去には魔導書とかのカバーや紙、使用するインクとかの材質から拘ったからな。他人の事は言えないかな。

 

 

 

「熱くなるのは良いけど、程々にね」

 

 

 

 責任者の言葉に反応する時間も惜しいのか、頷くだけの反応が殆どだったぞ。ルトライン帝国語は古代語扱いらしいのだが、解読出来る連中も数人参加している。

 

 普通に文字が読めているので余計に熱中してしまうのだろうか?解読できる者を中心に何人か集まり、読み聞かせられた内容について熱い討論をしている。

 

 もう僕の介入する余地も無いかな。隠蔽すべき物は全て隠蔽出来たし思考の誘導もできたので、僕の処刑に怒り狂った部下達の暴走でルトライン帝国が滅んだという事実には辿り着かない。

 

 

 

 マリエッタ達の名誉の為にも所属していた国に反旗を翻したとか、処刑された元上司の為に国を裏切ったとかさ。事実を知らない連中に好き勝手に想像で語られたくない。

 

 僕の我儘でしかないけれども、マリエッタ達と過ごした時間は大切な思い出なので、誰にも穢されたくないんだ。だから、この事実は隠蔽し誰にも教えないし語り継がない。

 

 古代の浪漫?知りませんよ、そんな無責任な妄想なんて……真実は立場や見方によって変わるから一つじゃない。関係者というか当事者である僕だけが事実を知っていれば良いね。

 

 

 

「主様、暇です」

 

 

 

「あーうん、そうだね。コレでも食べる?」

 

 

 

 空間創造から、イルメラ達が大量に作って持たせてくれた焼き菓子を渡すと嬉しそうに食べだした。これで暫くは時間が稼げるだろうか?二人で並んで座り焼き菓子を貪る。

 

 鬼気迫る表情で調査する連中を見ながら、呑気に若い女性と並んで座って焼き菓子を食べるってさ。調査団の責任者としては失格だと思うけど、自分は調べ尽くしてしまったからやる事が無いんだよな。

 

 喉が渇いたので果汁水の入ったガラス製の瓶を取り出して、そのまま飲む。重大なマナー違反だけど注意する人が居ないから大丈夫、これも現場だから出来る臨機応変です。

 

 

 

 嗚呼、自由って良いな……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 遺跡調査の責任者として調査中は立ち会う事にしているが、全ての扉を開放し罠も解除した状態なので暇です。秘密の金庫や制御室の秘密には辿り着けないと思うが、念の為に監視も含めた立会いだ。

 

 基本的に構造的な部分は全て調べて罠は解除している。遺物については調査団に任せているので、彼等は嬉々として細かく調べている。だが期間は最初から十日間と定めているので、未だ半分以上の調査期間が有る。

 

 食堂の一角のテーブルを独占し、見付けた武器や防具のリストアを行う。僕は手掛けてはいないが、当時の土属性魔術師達の仕事を調べる事は出来る。軍用の量産品とはいえ、相応の階級の連中が使用した武器や防具。

 

 

 

 中級以上の技術を持った連中の仕事振りを確認出来た。現代の宮廷魔術師団クラスの連中と同等以上の技量、現代の魔術師は衰退してるって危機感を感じる。

 

 

 

 この技量で昔は国家に雇われた生産部門に所属していたのだから、魔術師の層は厚かったんだ。継承するべき技術が失われていく悲しさ、もう少し何とかならなかったのかな?ならなかったんだろうな。

 

 自分だって転生前は技術は秘匿するものって考えていたのだから同罪だ。今回は、ウェラー嬢に技術を継承しているが全てを伝えている訳じゃない。だが、いずれ生まれる我が子には全てを教え込む。

 

 魔術師の素養が低かったら?考えたくは無いが、可能性は低くない。サリアリス様だって子供や孫達は魔術師では有るが、後継者としては選べない程度の素養しか引き継げなかったのだから……

 

 

 

 高い魔力適性を持つ魔術師の子供が、同じく高い魔力適性を持って生まれる事は100%じゃない。低確率で高い魔力適性を持っている子供は生まれる。その子の魔力適性が低くても、その子供から高い魔力適性を持つ子が生まれる事も有る。

 

 親が高い魔力適性を持ってない場合でも、祖父母とかが高い魔力適性を持っていれば生まれる場合も有る。全く魔力の素養が高い者が居ない家系に突然変異みたいに生まれる事は無い、皆無と言っても良い。

 

 僕は例外中の例外というか、母親が孤児だった為に祖父母が高い魔力適性を持っていただろうと思われている。両親共に正確な家系図が有った場合、僕の母親は浮気を疑われた訳だったので出自が曖昧で良かった。

 

 

 

 因みにだが、祖父の家系に魔術師は居るが、高い素養を持って生まれた者は居ない。貴族は家系図をちゃんと残すし、一族に傑物が居れば自慢になるから記載漏れは無い。なので結構前まで遡れるから誤魔化しが利かない。

 

 

 

「真剣な顔をして、何を考えているのですか?」

 

 

 

 無意識にスモールシールドの固定化を修復しながら考えに耽っていたら、リゼルに呆れられた。だが心の防壁は崩れてないから、転生うんぬんの件は読まれてないだろう。流石に転生の件を教えるのは、イルメラだけだ。

 

 なんとなく、リゼルは気付いているっぽいけど問い質されてはいないので引き続き秘密だ。こんな古代の遺跡を見付けて簡単に開放出来るのだから、単純に優秀な土属性魔術師って事では納得しないだろうけどね。

 

 転生なんて、荒唐無稽な御伽噺だよ。モア教は輪廻転生を否定しなかったけど、僕の転生は人為的な禁呪の結果だからね。死して魂が生まれ変わったのではなく、他人の子供に憑依転生したのだから……

 

 

 

 まぁ元の魂が有ったのか?何処に行ったのか?は誰にも分からないけど、罪深いのだろうな。妖狼族の女神ルナ様は、全てを知っているのに責めはしなかった。だから完全な悪ではないと信じたい。 

 

 

 

「ん?後継者問題かな。僕の後継者として魔術の全てを継承する素養の有る子供が生まれるのか?生まれない場合、技術が失われない為に何をすべきか?弟子を育てるのも一つの案だが、相続問題で揉めるよね?」

 

 

 

 効果の高い技術には相応の危険が伴う。危険には責任が有り、結果にも義務が生じる。好き勝手に与えられた力を振るうだけでは困る。そういう奴に限って、後継に技術を教え込まずに独り占めを考える。

 

 それじゃ駄目なのだが、遺産という意味では継続的に子孫の為に役に立って欲しいので難しい問題だな。

 

 

 

「未だ成人式前の未成年で未婚ですよね?『私達の子供を絶対に後継者にする!』という考えは有りませんが、少し飛躍し過ぎではありませんか?」

 

 

 

「私達?魔法関連の技術の喪失を防ぐ話だけど、確かに後継者は素質が一番高い者、魔力適性の高い者が望ましいね。ここに本妻の子だから長男だからと余計な判断材料を混ぜると揉めるんだぞって、痛いよ」

 

 

 

 何故が脇腹を抓られた。割と本気の力具合だったので、思わず変な声が出てしまったぞ。

 

 

 

「金銭的財産的なモノや爵位とか領地とかは貴族院の定めた基準に則って相続させるけど、魔法関連の知的財産は別として考えているんだ。宮廷魔術師筆頭のサリアリス様だって悩んでいるんだよ」

 

 

 

 貴族院の相続関連に魔法関連の相続の規定は無い。マジックアイテムは資産として考えられているので金銭に換算して割り振られるけど、技能や知識は当て嵌まらない。基準が無いから各自で決めるしかない。

 

 普通に考えれば素養の一番高い者に継承するのが最も効率良く引き継げる。適性の低い者に引き継いでも全てを引き継げる事が出来ない。つまり技術の消失とか失伝とかになるので衰退の原因だな。

 

 愛情や感情の比重の重い部分だから割り切れずに悩んでしまう。効率を考えれば一番有能な者を後継者にする事だけど、そんなに単純じゃない。お家騒動の何割かは後継者選びなんだぞ。

 

 

 

「そうでは有りません!私達の子供の部分を疑問で返された事を怒っています」

 

 

 

 え?そっち?僕はリゼルを側室に迎える予定は……

 

 

 

「痛い、痛いって。もうちょっと止めてって!」

 

 

 

 ポコポコ殴り掛かってくる、彼女の両手を掴んで止めさせる。腹黒淑女が暴力淑女にクラスチェンジしやがった。そうじゃない、そうじゃないんだよ!

 

 

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