古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1022話

 バーリンゲン王国の連中の動きが怪しくなってきた。業を煮やしたというか、本性を現したというか。小細工を弄してもどうにもならないと理解して欲しいし、彼等の常識は世界の非常識と理解して欲しい。

 

 少人数で構成された複数の団体が闇夜に紛れて同時に侵入を試みる。そして簡単に見付かって捕縛されるが、何時もの謎根拠を元に受け入れろと騒ぎ出す。当然拒絶するのだが……

 

 変化が有ったのは、その後の態度だった。武器を手に力ずくで押し通ろうとしてきて、返り討ちに遭う。何人も狂ったように押しかけて来て倒される。懲りずに何度も押しかける。

 

 

 

 そう、倒されても何度も押しかけて来る。自殺志願者みたいに、馬鹿の一つ覚えみたいに愚直に押しかけて来て倒される。

 

 

 

 対応する兵士達に心理的な負担が重く伸し掛かってくる。相手が狂人でも酷い言い掛かりを言ってきても、相手は生身の人間だ。それが襲ってきて返り討ちに遭い生涯を終える。

 

 今日対応した連中が、内容は腹立たしいが言葉を交わした連中が、その日の内に物言わぬ躯(むくろ)と化す。毎日、何人もだ。普通の精神を持っていれば心が病むのは止められない。

 

 顔見知りが次々と亡くなっているという異常事態、完全武装の兵士じゃなくて長期の移動で疲れ草臥れた領民だ。野盗崩れの破落戸(ごろつき)ではあるが、連続して続けば負担は大きい。

 

 

 

 この変化の理由を調べる為に複数の武装偵察隊を組織し放ったが、理由は簡単だった。追い詰められているから、本当に後が無いから前に進むしかなかったんだ。

 

 

 

「森の浸食が予定よりも数段早く迫って来ている。それに伴いエルフ族も此方に近付いているのか……」

 

 

 

 武装偵察隊の報告によれば、既にフルフの街近郊まで森林化していて、遠目でエルフ族も確認出来た。武装偵察隊はエルフ族の姿を確認した時点で進行を止めて争う意思の無い事を示した。

 

 その上でエムデン王国の紋章の刻まれた盾を見やすく掲げてから、ゆっくりと後方に下がったのか。まるで森で野生のクマに遭遇して、刺激しないように慎重に後退するのと同じだな。

 

 対応としては大正解だ。急に後ろを向いて逃げ出せば、バーリンゲン王国の連中と区別が付かなくて襲われた可能性も高い。逆にエムデン王国の紋章を認識してくれていた事に驚いた。

 

 

 

「少なくとも愚かな連中と我々を区別してくれているのは喜ばしい事だな。連中と一緒くたにしないで欲しいとお願いした事を守ってくれている。それだけでも、エルフ族と交渉した甲斐が有った」

 

 

 

 報告書を読み終えて、困難な努力が報われた事を喜んだ。それと事前に打ち合わせた進捗率が大幅に狭まっている事に胃が痛んだ。半年、僅か半年でバーリンゲン王国が森に飲まれるのか……

 

 見通しが甘かったが、大使館は完成しフルフの街もエルフ族に引き渡せる状況にはなっている。準備を計画よりも急がせたが、結果的には正解だった。

 

 エルフ族には工程管理など無いのかもしれない。長寿種ゆえの時間の感覚の違いか?急がずゆっくりと進めると思ったのだが、予想は大外れだよ。自分の趣味に近い事はガンガン急ぐのかよ。

 

 

 

「此方に近付いている、エルフ族の方々とは挨拶をしておいた方が良いかな?知ったからには、放置するのも問題だと思うんだ」

 

 

 

 楽しそうに報告書を読む、腹心の腹黒淑女に問い掛ける。誰が来ているのかは分からないが、ケルトウッドの森のエルフ族の誰かで間違いない筈だ。長老連中は辺境周辺の森林化を進めている訳だし。

 

 ケルトウッドの森から周辺に森を広めている連中の誰かだろう。クロレス殿だったら良いが、エルフの里の長が早々最前線にいる訳が無い。陣頭指揮?可能性はあるけど、流石に自重するよね?

 

 同じく報告書を読み終えて、居住まいを正し笑顔を浮かべる腹心殿の言葉が酷過ぎた。

 

 

 

「残敵処理は、エルフ族の方々に押し付け……いえ、任せましょう」

 

 

 

 輝く笑顔で押し付けるとか言ったよ。確かにエルフ族にとっては、バーリンゲン王国の連中など抹殺対象だからさ。見敵必殺じゃないけど、無事に見逃すなんて事にはならない。

 

 いや、サーチ&デストロイ?流石の自己中心的な連中も、エルフ族には我儘が通用しない事を理解したのだろう。接触して文句でも言えば、即殲滅されるのだから命懸けで文句など言えない。

 

 文句を言うならエムデン王国といった感じでバラバラに押しかけて来るのだろう。今までの甘い対応のツケを払っている最中なのか?いやいやいや、アウレール王が即位してからは甘い対応などしていない。

 

 

 

「まぁ此方に来ている、エルフ族とは会いに行ってくるよ。予定変更の調整もしないとだし、フルフの街に攻め込まれても問題だしね」

 

 

 

 クロレス殿と取り決めた事をケルトウッドの森のエルフ族が全員周知していれば問題は無いが、聞かされていても見分けが付かないとか普通に言いそうなんだよ。

 

 多分だが血気に逸った連中がバーリンゲン王国の連中憎しと動いていると思う。長寿種は呑気だと思っているかも知れないけれど、頑固で融通の利かない連中も多い。

 

 僕等とバーリンゲン王国の連中の見分けが付かず同じ対応をされたら厄介だ。エムデン王国の連中と禍根が残ってしまうのは駄目だ。

 

 

 

 最低限の話は通しておかないと、後で問題になりましたとか嫌だぞ。最後の最後で自分達がエルフ族と揉めましたじゃ笑えない。

 

 胸の中の空気を全て吐き出す。クロレス殿は協力的だが、他の連中は分からない。僕が行って話をしないと、彼等の流儀で事を進められると問題が出るかもしれないからね。

 

 まぁ問題は無いのかも知れないが、バーリンゲン王国の連中が予想外の事を仕出かして巻き添えを食らう可能性もゼロじゃない。

 

 

 

 その辺の擦り合わせが大事なんだよ。

 

 

 

「反対はしません。可能ならば同行したいのですが、大人しくフルフの街で留守番をしていますわ」

 

 

 

 リゼルも反対はしない。彼女がフルフの街に残ってくれるならば、後顧の憂いは全く無いだろう。凝り固まった身体を解す為に立上り軽く両手を左右に振りながら窓際に移動する。

 

 総仕上げは自らの手で行わなければならない。最後は他人任せという訳にはいかないし、嫌な思いを押し付ける訳にもいかない。後が無い連中の行動など、形振り構わず命乞いだろうな。

 

 僕等への責任の擦り付けと罵詈雑言もセットだろう。命乞いなのに上から目線とかさ、助けて貰うのが当然とか考える時点でさ。見捨てられるって思わないのが凄い。

 

 

 

 連中にとって、エムデン王国の認識って幾ら迷惑を掛けても構わない都合の良い存在なのだろう。理想と現実の狭間が理解出来無いって……幻想に生きて幻想で滅べ。

 

 

 

「最後の仕上げ、手を抜く訳にもいかないからね。エルフ族がヤル気になっているなら任せるのも有りかな」

 

 

 

 窓から眺める景色というか街並みは殆ど住人が居ない為に寂しい限り。ここをエルフ族がどういう街に変えていくのか楽しみだ。森の住人が街を造るのだから、人間の造った街とは全く違うだろう。

 

 僕の知っている二つのエルフの里は自然と共存共栄している感じだが、此処は木と石で造られた人工の街。考えたら街路樹も無ければ庭木も殆ど無いのは、狭いから居住の為の区画が最優先だったのか?

 

 異種族の街造りを最初から体験出来るのだから、それはそれで楽しみだ。苦行の先に御褒美が有ると考えれば、嫌な仕事もヤル気が出るって事だな。飴と鞭って大切だよね。

 

 

 

「鬱憤晴らしをしておかないと、人間に対する悪感情が消えません。あくまでもバーリンゲン王国の方々が異常で特殊だったのです。アレを普通と思われても困りますので、きっちりケリをつけてきて下さいね」

 

 

 

 エルフ族には頼らない。今後の関係も考えて、同族のやらかしは自分達で収めた方が良い。無関係と言って相手に押し付けるのは悪手、特にエルフ族相手には手を抜けない。

 

 一手間違えたら、エムデン王国の崩壊も有り得るからね。彼等の全てが人間に好意的じゃない。少しの瑕疵でも突つかれたら、そこから『全ての人間憎し滅ぶべし』になる可能性も有る。

 

 僕は特に若手のエルフ族からは嫌われている。これは自業自得じゃなくて、レティシア達にも責任が半分位ある。だが彼女達は味方はしてくれるが、多分だが僕しか助けない。

 

 

 

 それじゃ駄目なんだ。人間の亜種とか、特殊個体とか、例外とかさ。区別されるのも困るけど、僕だけは特別扱いで助けるけど『他の人間は滅ぶべし!』じゃ困る。

 

 全力で抵抗しても、大切な人を誰も守れない。全てを捨てて逃げても同じ。それ程の実力差が有るのに、どうしてこういう結果になったのか、連中は考えないし反省も対策もしない。

 

 凄い、滅ぶべくして滅ぶのか。ふふふ、そう考えれば凄い連中だな。尊敬も憧れもしないけど、多分死ぬまで多くの連中の記憶には残っているよ。

 

 

 

 それはそれで凄いと思うよ。僕は嬉しくないけどね。

 

 

 

「ああ、最後の仕上げは責任者が行うのが良いからね。悪縁を断つという意味でも、未来の為にもね。ここで完全に連中の息の根を断つよ」

 

 

 

 首を数回振って気持ちを切り替える。事務仕事は暫くしないで済むのも、嬉しいといえば嬉しい。僕は完全に現場型の人間だと思うんだ。

 

 執務室に監禁紛いの軟禁状態で事務仕事を行う日々は終わり、いや其処まで酷い拘束は無かったけど、やはり豪華でも椅子に座りっぱなしは精神的にキツいのです。

 

 最年少宰相とか絶対に断る。僕は軍属で宮廷魔術師筆頭を目指しているのであって、政務の最上位の席を目指してはいない。国王の助言はするけど自ら立案して運用する立場じゃないのです。

 

 

 

 リゼルがヤレヤレ的に肩を竦めるのを横目に見ながら執務室を出る。今から準備して今夜にでも夜陰に紛れてフルフの街を抜け出すぞ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 単独行動ばかりしていると思われている危険性が有るので、関係各所に今夜単独で敵地に侵入しエルフ族と接触を試みる事を通達した。当然の様に、クリスは同行すると言い出したが却下。

 

 彼女には留守を守る、リゼルの護衛を任せるという重要な任務が有る。それとは別の理由で、エルフ族と接触する人数を限りなく減らしたい為にだ。今近くに来ている連中が、友好的かどうか分からない。

 

 僕だけならば、最悪は逃げれる可能性は有る。クロレス殿やレティシア達に助力を願う事も、恥を忍んで行う事も候補に入れてある。だが、クリスは……彼女の身の安全は保障出来ない。

 

 

 

 彼女自身も暗殺者として鍛えられているし、感情を殺す処置もされている。多分だが危機的状況に陥れば、僕の安全を最優先にして玉砕する。絶対にする。だから連れては行けない。

 

 物凄く悲しそうな顔をしたので、僕の罪悪感がモリモリと膨れ上がったが何とか我慢した。リゼルは呆れ顔だったが一緒に、クリスの説得をしてくれた。

 

 ただ……『あの件については確約しますから、今は我慢して下さいね』『絶対ですよ。私だけ仲間外れは嫌です』って小声での会話が聞こえたけど、怖くて確認出来無かった。

 

 

 

 深夜、日付が変わる頃に黒装束に身を包んで、更に艶消しの黒で塗装を施したゴーレムキングを身に纏ってフルフの街の城壁を飛び越える。黒縄(こくじょう)を利用した立体的な移動には慣れた。

 

 天気も月に雲が掛かり月明りに照らされる心配も無い。夜間巡回や立哨警備している兵士達にも気付かれず抜け出す事が出来た。逆に言えば同じ事が出来るならば発見されずに侵入されるって事なのだが……

 

 エルフ族なら可能だけど人間には厳しいだろうし、そんな手練れが近くに居て行動すれば何とか気配は探れるだろう。義父達は人外では有るが隠密行動は苦手だし、堂々と正面から攻める手段を選ぶだろう。

 

 

 

 派手な移動は城壁を超える迄、その先は遮蔽物を利用しながら素早く走って移動する。

 

 

 

 夜風が冷たいが久々の単独行動で気分が高揚している所為か、逆に心地よく感じる。軍馬よりも早く走る事が出来、猫のような跳躍力で障害物を越えていく。

 

 身長の三倍程度の跳躍力があるので8m位は跳ねる事が可能だ。黒縄と併用すれば10m以上飛び上がる事も出来るのだが、人間の範疇を越えた人外の義父達も同じ程度の事が出来る。

 

 嫌になる程の身体能力の高さだよね。僕は未だ装備のお蔭の能力向上なので人の範疇で納まっている。ゴーレムキングや黒縄の習得は厳しいかもしれないが、不可能じゃない。

 

 

 

 なので化け物扱いは止めて下さいね。

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