闇夜の荒野をゴーレムキングを身に纏い疾走する。暗闇で灯かりもなく動けるワケは、魔力探査による周辺地形の把握。脳内に白黒の地形が浮かび上がるし、ある程度の大きさの生物も判別出来る。
魔力を薄く広く伸ばして探査しているので、相手が魔術師だと感知されて警戒される。力量差も分かるので、自分との魔力量の差を感じて攻めて来るか逃げ出すか。
隠密行動には向かないのだが、目視での監視は殆ど搔い潜れる。後はエルフ族相手だと、魔力で個人を判別出来るらしいので逆に誰が近付いて来るか分かるので丁度良い。
気が付いてくれれば、余計なイザコザが無い筈だから……
少人数の集団を幾つか感知し遠目に伺うが、殆ど無警戒で野営している。見張りも配置せず焚火を囲む様にして毛布に包まり地面に寝転んでいる。固い地面に布切れ一枚で寝転がれば身体は凝るし体温は奪われる。
男女比は不明だが感知する大きさから判断して子供は居ない。無警戒過ぎるのは少数の集団には、エムデン王国側から積極的に攻め入れないと高を括っているから。不用心の考え無しだな。
不自然な位に子供達が居ないのは、長期の移動に耐えられないから別の場所に置いて来ていると思いたい。間違っても邪魔になるから置いて来たとかじゃないよな?
そこまで外道には落ちていないよな?
この辺にもモンスターは居ないが人を襲う野生の動物は居る。熊や狼は有名だが水辺にはワニも居るし、毒を持っている蛇や昆虫も居るので安全とは程遠い。生きるか死ぬかの瀬戸際なのに余裕なのか?
余裕が無いから無頓着なのか?他の連中と連携している感じは無いのだがって、彼等に近付く集団が居る。合流するつもり?いやコソコソというかゆっくりと近付いている連中は松明を持っていない。
100m先の出来事を息を殺して観察する。嫌な予想が頭の中を過(よぎ)るのだが、その最悪の予想が的中してしまった。同じ境遇の仲間を……同族を夜襲しやがった。
いや襲撃慣れというか、襲われた連中も直ぐに応戦し始めた。連中は武器を抱えて寝ていたらしく、最初の犠牲者の悲鳴を聞いた連中が慌てず混乱せずに武器を手に応戦し始めた。
「おぃおぃおぃ、襲撃慣れに襲撃され慣れ?どんな状況なんだよ」
思わず棒立ちで見入ってしまう。人数は同数程度だが、僅かに襲った方が状況的にも有利だったのか押している。何方にも加勢するつもりは無いので見ているだけだが、お互い容赦が無いぞ。
剣技が優れている訳でもレベルが高い訳でもない。洗練されていない泥臭い戦い。ただ容赦が無いという戦い方で屍の山が積み上がっていく。追い詰められて獣性が引き出されているのか?
襲い掛かる前に松明を用意していたが、薄暗い中での戦い。金属同士がぶつかり合う、甲高い音だけが響いている。一瞬だけ火花が散ったが、あれは松明で殴ったのだろうか?
刃物同士を力一杯打ち合せても火花が出る事は無い。相当の力が掛からなければ、人の力程度では火花は散らない。例外は人外の義父達みたいな剛腕同士が戦った時だ。
刃物が当たる一点に膨大な圧力が掛かるのだろう。普通に火花が飛び散るし、鍔迫り合いの時なんて花火見たいに連続して火花が飛び散るんだ。あんな使い方をされた武器は可哀そうだよ。
だから固くて自動修復機能のみを付加した武器が喜ばれた。何重にも固定化の魔法を掛けたロングソードがさ、模擬戦の後だと曲がって鞘に収まらないとか自信が無くなったのは嫌な思い出だ。
過去に思いを馳せていたら戦いが終わりそうだ。
まるで義父達とは違う意味で獣だね。十五分程で戦いは終わり、襲撃者側の勝利で終わった。襲われた方は全滅、襲った方は半数が死傷した。
その後は勝者の権利とばかりの略奪の始まり、全てを奪うみたいだ。着ていた衣服も汚れていなければ容赦なく剥ぎ取っているし、荷物は全て持ち去った。
味方でも負傷して動けない者は止めを刺して回っている。こんな外道集団が、自分達の悲劇を招いたエルフ族や濡れ衣だがエムデン王国の連中と遭遇したら……どうなる?どうする?
人間性を失った外道の集団を野放し?ふふふ、良心が痛まないって良いな。害虫駆除的な気持ちで挑める。
「さて見付けてしまっては見逃せない。今度は襲撃される側に回ってくれ」
空間創造から使い慣れた武器、カッカラを取り出す。ゴーレムキングが構えるにはサイズ的に不釣り合いだが、様式美だからね。
カッカラを頭上で一回転させて振り下ろし、リトルキングダム(視界の中の王国)を発動させる。嬉々として略奪に勤しむ連中にゴーレムポーンが襲い掛かる。
勝負は一瞬、全員を切り伏せる。あとは大穴を掘って連中を一纏めにして埋葬すれば終わり。新しい森の栄養素になってくれ。勿論だが略奪はしない、全て一緒に埋葬する。
奪った物も奪われた物も、自分達の元に戻って来たのだから本望だろう。せめてもの慈悲だよ……
似たような行動をしている集団を二つ程壊滅させたが、妙に焦っているような感じがした。勿論だが背後から森が迫ってきて、エルフ族もやってくる圧力は凄いだろう。
だが先へ進む事に、何かに追い詰められるような?それでも先へ先へと進む、共食いを繰り返しながら進む。異常な連中だからって、そういう連中ですって事で納得するしかないのか?
最後まで悩ませられる。まぁ悩んでも仕方が無いって事で割り切ろう。今は移動中のエルフ族と接触する事が最優先、そろそろ見付けても良い頃だけど……
漸く本命であるエルフ族の反応を感じた。当然だが向こうは、僕よりも先に感知していたのだろう。感知したら、その場で留まっている。
つまり此方に来いって意思表示だな。この距離では個人の判別は出来ないが、レティシアと同等の膨大な魔力を感じる。若手エルフじゃなくて安心したが、少なくとも二百歳以上の中堅クラスか……
余りのプレッシャーに胃がシクシクと痛み出した。近付けば段々と分かってくるが、少なくとも知り合いではない。知らない魔力の反応だが膨大、中堅以上。レティシアよりも格上かも知れない。
攻撃的じゃないのが救いだが、長老クラスの魔力の奔流に眩暈がしそうだよ。向こうは絶対に、僕だと分かって魔力を垂れ流している。これでも全力じゃないのが理解できるから余計に眩暈がする。
「よぅ!お前、リーンハルトだろ?俺は、ルーツィア。しがないエルフの老害共の世話掛だ」
よりにもよって、過去に因縁の有る強大な魔術師が倒木に腰かけて出迎えてくれた。友好的な態度で無警戒なのだろうが、身に纏う魔力が膨大過ぎて姿が滲んで見える。これは五百歳クラスか?
ゴクリと生唾を飲み込む。思考は読まれていないみたいだが、読まれた時点で終了だ。逃げ出そうにも、逃げ出した時点で疚しい事が有ると自白しているようなものだぞ。
転生の秘術は知られていない筈だが、過去に戦って逃げ出した相手と対面とは……しかも前世で対峙した時は、人間が嫌いで絶対に殺す気満々だった。確か綽名が『雷撃魔法使いの殺戮エルフ』とか……
嗚呼、これは終わったかもしれない。
◇◇◇◇◇◇
「いや、何故そんなにも警戒している?いや怯えているのか?別に取って食おうとは思っていないぞ」
最近見知った、人間の子供が寄って来たので挨拶をしたら怯えられた。おぃおぃ、流石の俺もその態度は傷付くぞ。お前は聞いた限りでは、そんなに弱い存在じゃないだろ?
老害達の世話に嫌気が差して、クロレスの手伝いをする体でケルトウッドの森から飛び出した。この辺は過去にも訪れた事は無かったが、大地の力が弱まっている。国土だと言って支配していた連中の所為だな。
自然は慈しまなければ衰退する。当然の摂理だが、理解していない馬鹿は多い。森を切り拓き大地を耕し農業に勤しむのならマシだが、木材を使用する為に伐採して植樹せずに放置とか自然を殺しにかかっている。
そういう行動が嫌で、過去に人間を間引いた事が有ったのだが……その時の悪名を知っているのか?流石に、クロレスが友人と呼んだ相手だな。人間だからと言って問答無用で殺しはしないぞ。
敵対行動はしていないが、物凄い警戒心だな。まるで猫に睨まれた鼠みたいだぞ。まぁ『窮鼠猫を噛む』という東方の諺もあるから侮りはしないが、レティシアやクロレスが認める程の人間の反応ではないな。
俺の事を知って警戒している?いや、人間との関りは三百年ほど経っているので過去に暴れた事は知らない筈だが……可能性は低いが、レティシア達が警戒する相手だと教えたのか?
我らが王も認めた者だから、問答無用で攻撃はしない分別くらいは有るぞ。まぁエルフ族に友好的で利用価値の高い相手だから、俺の方から歩み寄り位はしてやるか。
俺も若手の鼻っ柱を叩き折った、お前のことは嫌いじゃないぜ。
「ルーツィア殿ですよね?僕は、リーンハルト・フォン・バーレイ。エムデン王国宮廷魔術師第二席の任に就いています。出来れば魔力を抑えて頂けると助かります」
身に纏っていた漆黒のゴーレムを魔素に還した後、一礼して名乗ったが様になっていがる。人間の貴族でも上の方らしいので礼儀作法は身についているのか。だが、魔力を抑えろ?
嗚呼、垂れ流しだったな。久し振りに良く制御された小気味良い探査魔法を受けたので気分が高揚した所為か?確かに人間が俺の魔力を浴びれば警戒もするか?悪いとは思ってないが、悪い事をしたな。
滲み出る魔力を抑えて軽く一礼する。これでも過去では人間の王族にさえ頭を下げた事は無かったのだから、俺に出来る最大限の礼儀だと喜べ。お前は過去の王族共を越えたんだ。
「おお、それは済まなかったな。俺は、ビャウォヴィエジャの森のルーツィアだ」
正式に所属する森の名前も一緒に名乗ったのは何時振りだろうか?長い事生きていると、有名になれば相手の方が自分より詳しく知っている事が有る。俺もエルフ族では有名人、まぁ老害の世話人としてだが……
一応は次期長老会のメンバー候補、誰かを追い落とせば次の次くらいには繰り上がって長老だな。そんな五百年以上生きているエルフの魔力を浴びたんだ。失神しないのは見込み有りだな。
うん、人間にしては気に入った。同族の二百歳以下の若手よりも見込みが有るとは驚いた。俺も我が王に倣って、人間を少し見直すか。さっきまで焼き殺していた人間共とは別物だぞ。
あれは屑だな。何故、自分達が全く悪くないと思い込めるんだ?エルフに上から目線で保護を強要するとか、未だに信じられない。そんな阿呆共には『収束轟雷撃』と『拡散百筋落雷』を食らわせてやった。
少しだけ気が晴れた。だが結構な数を仕留めたが未だ減らない。何処からともなく湧いて来やがる。全く鬱陶しい。殺し尽くすのも手間が掛かるので、舐めた口をきいた奴は抹殺しているが……
毎日だぞ。どれだけ居るんだ?あと、リーンハルト。名乗ったのに絶望的な顔は止めろ。何故か悪い事をしているような気分になる。
「その、ルーツィア殿が何故このような最前線に居るのでしょうか?長老方の世話係と聞いていますので、てっきり植生を任された辺境の方に行かれていると思っていました」
ん?ああ、俺の事をある程度知っているのだな。ならこの対応も納得だ。レティシア辺りが危険人物だと吹き込んだのだろう。
「任された?ははは、老害の世話が面倒になってな。自分の好きな植生を育てたいとか迷惑以外のなにものでもなかろう?老害共が勝手に盛り上がっているから、俺が居なくなっても問題無いんだ」
微妙な顔をしやがったが、お前も若いのに重責を負っているのは聞いてるがな。仕事に対して思い入れが大き過ぎると潰れるぞ。適度なサボりというか息抜きが必要なんだ。
長寿のエルフ族だから分かる長生きのコツだな。そう教えてやったのに、余計に微妙な顔をしやがった。理解したぞ。お前は真面目過ぎる。だからクロレスが気に入ったんだな。
アイツもエルフに多い堅物だから気が合ったのだろう。俺は自由人だから、風の向くまま気の向くままって生き方なんだ。本来のエルフ族は水と風の調和を愛する種族なんだ……