古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第103話

 デオドラ男爵からの指名依頼、ドワーフ工房『ブラックスミス』での魔力付加された武器・防具の鑑定。

 だが僕は依頼を半ば放棄、具体的にはドワーフ達に拉致られての強制酒宴の参加。

 秘酒といわれる貴重な『火竜酒』を飲まされた事によりレベルが28に上がった、奇跡の霊薬みたいだ。

 それとヴァン殿は転生前に僕が目標としていた鍛冶師の巨匠、ボルケットボーガン殿の弟子だった。

 当時は種族間の交流など僅かしかなく、直接師事など無理だった。

 精々が僅かな交易位で、僕は権力をフルに利用し彼の武器や防具を求めた。

 

 後はひたすら錬成しては解体する模倣の日々だったが、彼の作品を作れば作る程その素晴らしさを知る事になった。僕の錬金の原点が彼の作品なのだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今日から三日間、バルバドス氏の指名依頼を請ける。

 デオドラ男爵との依頼は魔法剣『ピュアスノゥ』が貰えたので達成にしてくれた、本当に良かった。

 帰りにウィンディアに弄られたがイルメラには内緒にしてくれた、もし知られていたら昨夜風呂に入った時にお世話に来ただろう。

 三度目の訪問も徒歩で行く、メディア嬢やエルフ女は居るので必ず何か仕掛けてくるだろうな……

 左手首に嵌めたヴァン殿から貰った腕輪に触れる、『剛力の腕輪』……筋力と体力の他に物理と魔法の抵抗力も大幅に上げる優れものだ。

 精神系の魔法を操るエルフ女に対抗するには有難い装備で助かる。

 

「天気は悪いな、直ぐに雨が降るかもしれない」

 

 見上げた空は厚く雲が覆い薄暗くなってきた、直ぐに雨になるだろう。

 雨の降る前にバルバドス氏の屋敷に到着、既に通達されてたのだろう、今回は待たされる事もなく中に通された。

 前回と同じ応接室に通され、直ぐにバルバドス氏もやってきた。

 

「予定通りだな、直ぐに研究に取り掛かりたいが先ずは建前から済まそう。

今のお前の力を知りたい、俺の弟子達と模擬戦をしてくれ。あの甘ったれ共に現実って奴を教えてやれよ」

 

「余計な波風を立てるのは嫌なのですが、特にメディア様です……エルフの女性もそうですが派閥絡みも有りますから」

 

 メイドさんが紅茶を用意してくれた、今回はフルーツも添えてある。

 皮の剥かれた無花果(いちじく)を一つ摘むと仄かな甘味が口の中に広がる。

 

「ああ、あの親の七光りの嬢ちゃんだな。朝から塾生共と何か企んでたぞ、必ず仕掛けてくるな。

俺にとってもアレは腫れ物扱いだ、ニーレンス公爵は俺のパトロンだから愛娘には強くは言えん」

 

 苦々しい顔で紅茶を啜っているがパトロンの娘に頭が上がらないのは僕も同じだ。

 

「それは御愁傷様です、僕の婚約者であるジゼル様が彼女の事が大嫌いでして……」

 

 お互いの顔を見詰め合ってから大きなため息をつく、僕は彼女からすればジゼル様と合わせて敵認定だから必ず何か仕掛けてくる。

 だが、バルバドス氏は彼女に強く言えない。

 

「模擬戦で仕掛けてくるな、エルフであるレティシアの介入は俺が止める。だが塾生は全員がメディアの影響下にあると思ってくれ」

 

 あのレティシアといったエルフには、今の僕でも勝てないだろう。

 彼女だけでも止めてくれるなら有難い、他の連中なら束になって来ても多分だが大丈夫だ。

 

「それは好都合ですね、僕はゴーレムを使った集団戦を得意とします。

変な条件を付けられるより一度に全員と戦った方が楽ですから。それに……ジゼル様から何が何でも彼女には勝てと言われてます」

 

 そう、バルバドス氏の指名依頼を請けたと言ったら必ず仕掛けてくるメディア嬢には負けるなと念を押された、本気で念を押されたんだ。

 

「十四歳で既に婚約者の尻に敷かれてるのかよ、お前程の男がか?」

 

「ええ、貴族の柵(しがらみ)って重いです。バルバドス様ですら魔術師の頂点を極めても我が儘娘に手を焼いてますし……」

 

 再び見詰めあってから深い深いため息をつく、元宮廷魔術師であるバルバドス氏でも上級貴族には逆らえない現実を思い知らされた。

 

「お前なら負けないだろ?今日来てる弟子達は八人、全員がメディアの取り巻きだが総じてレベルは低い。

アイツ等にとって魔術は趣味の延長だ、本気で取り組んでない。逆に取り巻き以外は休んだな、とばっちりはお断りって事だ」

 

 メディア嬢を含めて全部で九人、僕のゴーレムポーンの最大制御数は五十体だから負けない。

 

「来ない方々は見込みの有るお弟子さんですか?」

 

「む、どうかな?俺の私塾は貴族の子弟が多い、本業として突き詰める奴は居ないな。だがメディアは素質は高いしレティシアも指導してるからな、強敵だぞ」

 

 強敵ね……バルバドス塾生って三羽烏のイメージが強いんだよな、彼等はどうしたんだろう?

 お互いの紅茶が無くなった時点で話し合いはお開きとなった、前回と同様に中庭にて模擬戦を行うそうだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お久し振りですわね、リーンハルト様」

 

「ご無沙汰しています。メディア様、レティシア様」

 

「うむ、久しいな少年」

 

 貴族としてマナーに則ったやり取りを行う、相手は公爵の娘で僕は男爵の息子、歴然とした身分の差が有るので下手に出る。

 前回同様彼女は椅子に座り周りを取り巻きが囲む、当然僕も立ったままだ。

 表面上は和やかな雰囲気に、取り巻きが不機嫌になっている。

 同年代から二十代前半まで幅広いが全員が男だ、だが誰も知らない連中だな。

 だが同じテーブルに着けないって事は身分は下なんだろう、男爵や子爵の子弟達か?

 身なりもそこまで高級じゃないので当たらずとも遠からずだと思う。

 

「バルバドス様から聞いています、私達の為にわざわざ来て頂き有難う御座いますわ。何でも模擬戦の相手をして頂けるとか?」

 

「はい、僕も高名なバルバドス塾の塾生の方々と模擬戦が出来て光栄です」

 

 ほほほほほ、私達は三羽烏とか詐称する者達とは違いますわ!とか扇で口を隠しながら言われた。つまりアレよりは手強いって事だな……

 しかし取り巻き連中は僕を睨むだけで口出しはしない、だが私達のメディア様に馴れ馴れしいとか、新貴族の分際で図々しいとか小声で悪口を言っている。

 取り巻き連中は従来貴族か、余り下手に出ても付け上がるだけかな?

 

「天気も良く有りませんし早めに模擬戦を始めましょうか?」

 

「そうですね、同感です。それで模擬戦のルールはどうしましょうか?」

 

 勝ち負けの方法を決めておかないと、後で揉める事になる。

 

「私達は土属性魔術師で、バルバドス塾はゴーレムについて学ぶ私塾、勝負はゴーレム戦で全滅した方が負けですわ。

術者に直接攻撃は禁止、途中棄権は負けとみなします」

 

「流石はメディア様、分かり易いルールです。それで、其方は全員ですか?それとも総当り戦?」

 

「貴様!我々を愚弄する気か?コッチは九人居るんだぞ」

 

「そうだ!新貴族の子弟の分際で生意気だぞ」

 

 漸く取り巻きが騒ぎ出したが、一人だけ僕に凄い殺気をぶつけてくる男が居る……奴は強いな、纏う魔力が中々だ。

 他の連中はリプリーよりも弱いな、逆にこんな連中ばかりで大丈夫なのか?

 

「お黙りなさい、私達は同じ塾生で今は身分など関係有りません。リーンハルト様はバルバドス様が私達の為に呼んで頂いた方なのです、無礼は許しません。

ですが、リーンハルト様も少しおふざけが過ぎますわよ、全員で掛かって来なさいとは……」

 

 毅然とした態度に取り巻きが見惚れている、只の親の七光りじゃなくカリスマも有りそうだな。

 

「バルバドス様からも依頼されています、最初は全員と戦ってくれと。では始めましょうか?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 30mの距離を挟んで向かい合う、私の取り巻き達がゴーレムの錬成を始めたけどリーンハルト様は動かない。

 

「メディア、直接的な援助は出来ないが風の精霊に頼んで少年の言葉が聞こえる様にしよう」

 

「助かるわ、しかし私の陣営の方々の錬成時間の長い事……」

 

 30秒以上掛かって漸く終わったみたいね、でも未だ彼は動かない。

 

『何ともお粗末なゴーレム達だ、嘆かわしい。300年という時間はゴーレム技術を退化させるには十分だったのだな、基本を疎かにし異形に走るとは。

メディア嬢とあの男のゴーレムは未だみたいだな』

 

 風の精霊の力で聞こえてきた彼の囁きに驚く、確かに時間は掛かったが合計二十二体のゴーレムは正規騎士団五人以上でも苦労する戦力よ。

 

「300年だと?やはり少年は……」

 

『リーンハルト殿、早く済ませろ。研究を優先したい』

 

『了解しました、では行きます』

 

 バルバドス様の言葉にカチンと来る、私達が負ける事が決定事項なのね。

 

「皆さん、突撃なさい!」

 

 未だゴーレムを錬成してませんが構わない、20mなど十秒と経たずに接近出来ますわ!

 

『クリエイトゴーレム!不死人形達よ、無言兵団よ、ゴーレム戦の真髄を見せてみろ!』

 

「なっ?ゴーレムがあんなに素早く?」

 

「無言兵団だと?その台詞の言い回しは……」

 

 地響きを上げて突撃する自軍のゴーレム達の前に整然と並んだ騎士風の全身鎧兜姿のゴーレム達。

 両手持ちのアックスを装備して素早い動きで文字通り私達のゴーレム達を破壊していく、その数は三十体以上は居るわね。

 

「セイン、ゴーレムを召喚しなさい。時間が無いわ!」

 

 精神を集中し私のゴーレムを錬成する、女性型の騎士ゴーレム『ヴァルキリー』が私の分身。

 セインは牡牛型の四つ足のゴーレム、突進の破壊力は中々の威力よ。

 私が『ヴァルキリー』の錬成を終えて前を向けば、敵を全て倒し終えたリーンハルト様のゴーレム達が整然と並んで待機していた。

 

「馬鹿な、一分と経たずに二十二体ものゴーレムが負けるなんて……」

 

「セイン、先に行きなさい」

 

 牡牛型ゴーレム、『グレイトホーン』三体を突進させて陣形を乱れさせてから『ヴァルキリー』で各個撃破するしかないわ。

 

「お任せ下さい。『グレイトホーン』よ、貧弱なゴーレムを蹴散らせ!」

 

 セインの『グレイトホーン』は四つ足故にゴーレムとしては珍しく動きが速いのが特徴、前進だけですが……

 

『ビッグボアよりは強いか、だが動きが単調で遅い』

 

 リーンハルト様のゴーレムは『グレイトホーン』の突進を二体で受け止めてしまった、直ぐに両手持ちアックスが振り下ろされたわ……

 

「卑怯だぞ!三体に対して三十体などと、恥をしれ!」

 

 セインが真っ赤になって怒鳴っていますが恥の上塗り、バルバドス塾生No.2がこの様とは力の差は歴然、困ったわ。

 私の『ヴァルキリー』は一体のみ、数の暴力で負けてしまう。

 

『メディア様のゴーレムは一体か、女性型とはいえ人型とは見込みが有るな』

 

『馬鹿弟子共め、だが数で押すと揉めるぞ』

 

『一騎討ちでしょうね。ゴーレムナイトでお相手します』

 

 目の前のゴーレム達が一瞬で魔素に還ると一体のゴーレムが残っていたわ。

 これがゴーレムナイトね、先程のゴーレム達も騎士風と言ったけどコレは完全な騎士で隊長格……

 身長200㎝、見事な装飾が施された全身鎧兜、手にはツヴァイヘンダーを持っている。

 見ているだけで気圧されてしまうわ……駄目、勝てないわ。なまじ自分の力に自信が有ったから、その差が如実に分かってしまう。

 

「メディア、気圧されるな!」

 

「そうね、何処まで私の『ヴァルキリー』が通用するか見極めるわ」

 

 自分の右手を振り下げて命令を伝えると、槍を構えながら突撃。両手剣と槍、リーチの有利さを生かして攻める。

 

『迎え撃て、刺突三連撃!』

 

 私の『ヴァルキリー』よりも素早く突っ込んでくると、頭・心臓・腹の三点に一瞬で鋭い突き繰り出して勝利を決めた……

 『ヴァルキリー』は後ろに吹き飛んで、そのまま魔素となり風に運ばれていく。

 

「負けましたわ、完璧に……」

 

 悔しくて涙が溢れて……私の気持ちを酌んでくれたのか雨が降り出し涙を隠してくれたわ。

 勝利者が真っ直ぐ歩いてくるが、私は睨み付ける事しか出来なかった。

 


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