古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1025話

 早朝、薄暗い朝日が差し込む荒野を薄汚い男達が転がる様に無様に走る。振り向く顔には恐怖と絶望が張り付いているが、生への執着が凄いのか仲間を押し退けて走っている。

 

 いや、本当に並走する仲間に足を掛けて転ばせたりと仲間割れが酷い。そして同じ事を考えているから、足の引っ張り合いを避けるのと生存率を高める為に後半はバラバラに散って逃げる。

 

 笑えるのは、生存率を高めるのならば荷物は持たずに身軽で逃げるべきなのだが……全員が何かしらの財貨の入った背嚢を背負って、欲張りな奴はズタ袋を抱えている。

 

 

 

 金で命は買えないのだが、彼等にとっては自分の命よりも金が大事で大好きなんだな。最後の最後まで、自分の命でオチを付けなくても良いのだが……

 

 

 

「ほらっ、そっちに逃げ込んだぞ。急げ急げ!」

 

 

 

「ああ、もう追い立てるならば散らばらない様に上手く誘導して下さい」

 

 

 

 僕は何故か、ルーツィア殿と一緒にバーリンゲン王国の残党共を狩っている。彼の十八番である『収束轟雷撃』と『拡散百筋落雷』の乱れ撃ちは過去のトラウマを抉るんだけど……

 

 幾筋もの雷が大地に降り注ぐが、微妙に直撃を避けている。あんな馬鹿げた威力の攻撃をピンポイントで制御出来るのが恐ろしい。微妙に力加減も調整して甚振る様に追い立てていく。

 

 こいつ等は女性達を奴隷扱いにして連れ歩いていた。その様子を見てしまった、ルーツィア殿がキツネ狩りの様に嬲り始めたのに巻き込まれた。

 

 

 

 まぁ逆らえないんだけどね。

 

 

 

「はははっ、どうした?さっき迄は同族の女共に偉そうな事を言ってたのに、エルフには逃げるだけか?お前等が俺達に突き付けた要求通りにしないのか?」

 

 

 

 そう言って『拡散百筋落雷』を扇状に放って逃げ道を一本にして追い込む。バリバリと大音量で迫る雷の筋は圧巻だな。

 

 これを防ぐのは不可能だろう。自然の落雷ならば避雷針を用意して直撃を避ける事は可能かもしれない。だが魔法の落雷はどういう理論かは分からないが制御されている。

 

 一応、耐電撃の付加魔法を重ね掛けしたゴーレムキングを纏っても、完全に感電は防げない。即死こそしなくても重度の火傷は防げないし、感電による麻痺もあるだろう。

 

 

 

 ある意味、即死した方が瀕死の重傷で死ぬのが長引くよりマシじゃないか?

 

 

 

 暴漢共を一ヶ所に集めた後、『収束轟雷撃』を打ち込んで止めを刺した。大の大人が三人で両手を広げて輪になった位のブッとい落雷が、轟音と共に暴漢共を消し炭にした。

 

 

 

「汚物は焼却が基本だぞ」

 

 

 

 ドヤ顔で言い放った言葉は結構辛辣だった。ストレスが解消されて晴れ晴れしい顔をしている。この人、本当に感情が希薄なのが基本のエルフか?エルフの突然変異種じゃないのか?

 

 落雷を受けた大地が結晶化しているのは、相当な高温に晒されたからだろう。賊共も殆ど消し炭程度しか残っていないし、本当に焼却処分だよ。

 

 何というか真顔で言われると恐ろしいのだが、本気でそう思っているのは理解できる。普通だと思っているし、自分にも『そうだよな?』的に聞かれたら頷くしかないよ。

 

 

 

「まぁ、ええと……はい、ソウデスネ」

 

 

 

 思わず片言で答えてしまうが、ルーツィア殿は気にして無さそうだ。何故か連中が逃げる時に落とした背嚢やズタ袋を集めている。中身は食糧と金貨に銀の延べ棒?換金率の高い物が多いな。

 

 ルーツィア殿も俗世の金が欲しいのだろうか?エルフ族って独自の通貨は持ってない、物々交換が基本なんだ。だから近隣の国との商売をするのは、その国の貨幣を用いるか貴金属で行う。

 

 魔法技術は素晴らしいけど、魔法以外の技術を用いた品物の生産は人間の方が長けている。金銭に執着は弱いけど、全くの自給自足かといえばそうでもない。

 

 

 

 魔牛族や妖狼族も同じ。少数部族だから独自の貨幣を持つ必要性を感じなかったのだろう。金貨や銀貨は金や銀そのものの価値を貨幣としているが、発行する国によって貴金属の含有率で価値は違う。

 

 バーリンゲン王国の発行する金貨や銀貨は貴金属の含有率が低く、エムデン王国の金貨1枚に対して0.7枚分の価値しかない。悪貨とは言わないが品質は良くない。

 

 だからだろうか?連中の荷物の中の金貨はエムデン王国発行の物が一番多く、次が旧ウルム王国で残りが自国の金貨だ。自国発行の金貨が一番信用が無い、というかエムデン王国の金貨が相当数流れている?

 

 

 

「金貨に罪は無い。手向けとして貰ってやれ」

 

 

 

 そう言って背嚢を放り投げてきた。思わず受け取ってしまったが、千枚位ないかな?1枚が約4グラムだから千枚で約4キロ。まぁまぁの重さだが片手で持てない程でもない。

 

 手に持った感触は金貨と銀貨だけで延べ棒とかは無さそうだが、それでも結構な価値は有りそうだ。ジャラジャラとした感触と音は、何となく単純に気分が高揚する。

 

 まぁ資産が増えるという意味では嬉しいが、任務中の収入だから国に報告して国庫に納める事になる。でも理由が、エルフ族のルーツィア殿から貰ったとか報告したら揉めそうだ。

 

 

 

 金銭の受諾は、それだけで貸し借りの発生だし一方的な利益の享受は借りを作るとか負い目が生まれるとかマイナス面が大きいけど断る方がデメリットが大きい。

 

 

 

「これは、ルーツィア殿の取り分では?」

 

 

 

 だが一応はお断りを入れなければ流れ的に駄目かな?まぁ辞退されるのも織り込み済みだけど、様式美?

 

 

 

「俺には不要だ。過去に稼いだ金塊や宝石も有る。連中の持ち物など触りたくも無いが、言った通りに金貨に罪は無い。我儘に付き合わせた礼と思ってくれれば良いぜ」

 

 

 

「そうですか。では有り難く頂きます。今回の王命の補填として有効活用します」

 

 

 

 現地での収入には一定の裁量が有る。これは兵士達の慰労に使おう。つまりライラック商会に発注して利益を供与する訳だから、妬まれる事は少ない。全部自分の懐に入れるよりはね。

 

 正式な書類で申請はするが、決裁の関係で現地裁量で事後承認だけど、公的な資料は残す必要が有る。色々と面倒臭いけど、リゼルに頼めば良いだろう。

 

 少しは普通の仕事も振らないと、裏の仕事ばかりやられると僕の胃の負担が大きい。そろそろイルメラさん成分も切れそうだから、一時帰国したい。

 

 

 

「お前が職務に真面目なのは良く分かった。汚職が当たり前の連中とは全く違うんだな。クロレスが言うには、アイツ等は俺達への貢ぎ物すら着服するらしいんだぜ。そんな連中とまともに付き合えるかって」

 

 

 

 職務に真面目って言うか、これが普通なんですって言っても信じてくれないかな。最低を基準にされると、比較対象の差が激し過ぎて普通が良く見えてしまうので期待が爆上がりで困るんだ。

 

 

 

「まぁ国家予算を着服してしまえば、まともな運用など出来ませんよね。属国化してから予算の流れを重点的にチェックしたんですけど、ほぼ全ての部署で横領して元予算の半分が使える予算でしたよ」

 

 

 

 本当に通過する全ての部署で金額の大小に関わらずに横領してやがった。適正な予算を組んでも最終的に予算が半分じゃまともな仕事なんて出来ないから手抜きになる。

 

 それを誤魔化しながら上に報告するけど、更に報告書が嘘に塗れて成果を過大に報告するから余計に変な事になる。それで誤魔化せると思ってるのが凄いのだが関係者が全員汚職しているから妙な連帯感が有る。

 

 クーデターの大きな要因ってさ。横領が出来ずに仕事も普通にヤレって言われたから反発したと思うんだ。本当に糞みたいな理由で政権を奪って、エルフ族や魔牛族にも上から目線で欲望をぶつけた。

 

 

 

「予算か……俺達には理解が薄い部分だな。エルフ族は全体で目標を決めたら、各々が自分の出来る事を最大限に行う。勿論調整役は居るが強制はされないし、しない」

 

 

 

 ははは、そんな協力体制でも小国とはいえ国土の全てを森林化させられるんだからビックリ種族だよね。もう反則なんだが三百歳以上のエルフ族は一人で独立国家に勝てるポテンシャルがあるからね。

 

 どうにでもなっちゃうし、できちゃうんだよな。羨ましいというか妬ましいというか……欲望が薄いから、競い合い奪い合いが無いのか?まぁ人間は人間らしく生きるしか出来ないし、無理もしたくない。

 

 欲望が肥大過ぎて自制心が無くなると、我々でもバーリンゲン王国の連中みたいになってしまう。何事も程々が大切、心に余裕と適度な慈愛を持ちましょう!かな。

 

 

 

「個人が大きな力を持つから可能な事ですよ。人間は個人の力が微々たるものなので、力を合わせる必要があるんです。そして人数が多いので指揮する責任者と適正な予算を必要とします」

 

 

 

 同じ人間なら万単位の敵と渡り合える僕でさえ百人で挑んでも、ルーツィア殿には勝てない。二百歳以下の若手なら条件次第ではタイマンで勝てたが、二人か三人で掛かって来られたら絶対に勝てない。

 

 

 

「やっぱり真面目だよ、お前はさ。後方の連中は俺達が摺り潰しながら来ているから、残りは少ない。とっとと片付けて終わりにするぞ」

 

 

 

「えっと、聞いてない事実が増えましたが?」

 

 

 

 バンって肩を軽く叩かれたが、知らない情報が有った。ルーツィア殿以外にもバーリンゲン王国の残党共を殲滅しながら来ている連中が居るって?

 

 結構な大問題をサラリと告白されたが、どうしたら良いのか分からずに固まってしまう。ノルマが減ったと喜ぶべきか、手間を掛けさせた他のエルフの方々をどう持て成せば良いのか?

 

 取り合えず、フルフの街に招いて歓待すれば良い?うわぁリゼルになんて報告すれば良いのか分からないぞ。正直に言えば良いと思うけど、またエルフ族の新しい仲間が増えましたとか正気を疑われる珍事だ。

 

 

 

「まぁ腹に据えかねた連中も多くてな。適度なガス抜きって必要だろ?自制心の薄い三百歳以下の連中は参加させてないから安心しろ」

 

 

 

「余計に安心出来ません!」

 

 

 

 大国すら崩壊させられる連中が複数人迫って来るって、恐怖以外の感情が浮かびませんが?何をどうすれば、そんな伝説級の化け物共が襲って来るの?

 

 

 

「ほら、移動するぞ。自慢の馬ゴーレムを錬金しろ!お前の馬ゴーレムは過去に因縁の有る相手よりも洗練されていて興味深いんだ。やはり三百年も経つと馬ゴーレムも進化するんだな」

 

 

 

 曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。それ転生前の自分の錬金した馬ゴーレムの進化版です。一応バレると困るので色々と手を加えたのですが、誤魔化し切れるか不安です。

 

 

 

「ははは、有難う御座います。過去の記録を殆ど独学で改良した馬ゴーレムですが、褒められると嬉しいです」

 

 

 

「お前も適性は無いが錬金で付加すれば雷魔法を使えるんだろ。俺が教えてやるから楽しみにしていろよな。雷光だっけか?もっと高威力を出せるようになる。頑張れば要塞だって真っ二つに出来るぞ!」

 

 

 

 続けて曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。錬金の魔力付加は殆どの属性魔法を扱えるけど、雷魔法は難易度が高い。それを多分だがエルフ族の中でも最高の使い手に教えて貰えるのは物凄く嬉しい。

 

 嬉しいのだけど、嬉しくない。レティシアが拗ねるだろうし、ルーツィア殿は拗ねた彼女を無意識に煽りそうだし、ファティ殿やディース殿だって不機嫌になるのは目に見えている。

 

 とんでもない贅沢な事を断ろうとしている事に、魔法馬鹿と言われている部分が激しく反応する。教えて欲しい。だが師事を仰げば、僕の胃はストレスで崩壊する。

 

 

 

 ど、どうすれば良いんだ?

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