古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第2026話

 植物が大地を覆う。数多の命を巻き込んで、大地がうねり、波打ち、全てを飲み込んで覆い尽くす。そこに人間の営みが有った事など想像出来ない、ただ太古の昔から緑豊かな大地だったと思うだけだ。

 

 エルフ族の怒りは僕の想像を遥かに超えていた。アイツ等は大挙して何時もの感じでエルフ族に一方的な要求を突き付けに行ったらしい。原因となった連中は殺したんだから、他の連中を巻き込むな。

 

 そもそも誤解が有ったのに短絡的に殺すとか有り得ない。間違って殺された連中の遺族を名乗る者達が、謝罪と賠償と補償を高圧的に突き付けたそうだ。

 

 

 

 連中の悪しき文化には『声の大きい者が正しい』とか『嘘も言い続ければ真実』とか『悪くても謝ったら負け』とか不思議なものがあり、エムデン王国には途中まで効果が有った。

 

 ならばエルフ族にも通用するだろうと短絡的に考えたのだろうか?エルフ族の最大の懸念事項、人口の減少の解決策を再度提案したそうだ。馬鹿だとは思ったが、想像以上に馬鹿だった。

 

 性欲の解放、生活の保障、金銭的な賠償、全てを声高々に要求して再度逆鱗に触れた。そんな奴等に対してエルフ族は、女子供や老人だからと対応を変える事はしなかった。

 

 

 

 全てに分け隔てなく、等しく対処したんだ。

 

 

 

 これが、ルーツィア殿が暈(ぼか)した予定変更の真相だ……

 

 

 

「なんでこんな事になったのかも理解出来ずに嘆いて滅ぶとはね。連中とは縁を完全に切れて良かったと思います」

 

 

 

 死体を巻き込んで森林化した海の様に広がる青々とした森、樹海とでも呼べば良いのか?人間的な感覚だと『穢れた森』とか『呪われた樹海』とかだろうか?

 

 まぁエルフ族の感性は全く別だろう。他種族が眠るとは言え、生活する範囲で考えれば人が死んだことの無い場所の方が珍しい。未踏の地とかなら普通だけどさ。

 

 『その土地で生きて、その土地で死ぬ』ことが普通なのだから、深く考える事もないだろう。逆恨みで死霊化する事も有るだろうが、魔法のスペシャリスト達が浄化魔法を使えない事は無い。

 

 

 

 人間の聖職者よりも高威力の浄化魔法を使いこなせるだろうから、化けて出ても返り討ちで二回目の人生の終了だよね。

 

 

 

「特殊な連中だったのは理解したよ。アレ等を人間の標準としてしまったら、エルフ族は総力を挙げて人間の殲滅の可能性も低くは無かった。我等が王の英断に感謝して欲しい」

 

 

 

 何故か、ルーツィア殿とクロレス殿に挟まれてバーリンゲン王国の生き残り達が大地に還る様子を眺めている。後続のエルフ達のリーダーがクロレス殿だったが、里の代表だから変ではない?

 

 いや里の代表が最前線に出張っちゃ駄目か?話の通じる相手だったから、僕的には助かった。レティシア達は別の場所で盛大に暴れているそうだ。あの三人娘には恩は有るけど、困らされる事も多くないか?

 

 バーリンゲン王国の残党共は何かしらの事情で他国に居る連中しか残って居ない。総数でも千人も居ないだろう。彼等には情報を遮断しているが、音信不通が続いているので怪しむのも時間の問題だな。

 

 

 

 祖国の異変に対してのエムデン王国の動きに疑問と不信を感じる筈だ。意図的に情報を遮断し移動の制限を設けている。これで関係無いと思う程、能天気な連中じゃない。

 

 今頃、各地で仲間と集まり騒ぎ出しているだろう。事前情報でクーデターを起こした事と、亡命した女王達を保護した事は公式に発表したので反乱軍の対処に苦労していると思っているかな?

 

 そういう風に世論を誘導している。納得し易い嘘の方が信じやすいし『流石は同胞達だ!エムデン王国の連中が鎮圧出来ないとは元宗主国の名が泣くぜ!』とか思っているのだろう。

 

 

 

 彼等が真実を知って団結して騒ぐ前に、周辺諸国を巻き込んで騒ぐ前に、先に此方に都合の良い真実を発表して……彼等は人類を滅ぼそうとした最悪の人種だったと広める。

 

 彼等には世界を滅ぼそうとした悪役として永遠に憎まれ続けて貰う事になる。実際に巻き込まれ事故で滅ぼされる未来も有ったが、エムデン王国が尽力して何とか抑えたんだ。

 

 毎回の感謝されない尻拭いも今回でお終い、本当に今回でお終い。もう連中に悩まされる事は無いが、苦労に見合った結果じゃない。未来の子孫達の為に頑張ったんだよ。

 

 

 

「バーリンゲン王国の連中が滅んだ事実は、エムデン王国が責任を持って公式に周辺諸国に発表します。滅んで当然、他の連中を巻き込んで滅ぼされそうになった程の世界の大罪人。後世にまで伝えます」

 

 

 

 エルフ族に恥知らずで無謀な要求を突き付けた事を広めるだけで、人類滅亡の原因だった事を知れば……エムデン王国への非難は有る程度が抑えられる。

 

 周辺諸国に連携して対応とかの時間的余裕など無かった。通常の手順を踏んでいたら、エムデン王国はバーリンゲン王国と同一視されて滅ぼされていた。

 

 エムデン王国が滅べば、周辺諸国も時間の問題で滅ぼされていた。魔法特化種族、全員が大国の宮廷魔術師を子供扱いする化け物集団のエルフ族を誰が止められるのか?止めれる手段を持っているのか?

 

 

 

 居ないし出来ないから、バーリンゲン王国に責任を取らせてエルフ族の怒りを鎮める必要が有った。それがバーリンゲン王国という国家の滅亡であっても、他国を巻き込ませない為に必要な事だった。

 

 

 

「それが良いでしょう。後から自分達は悪くないとか責任転嫁するならば、その者達を庇っている国にも責任を取って貰う事になります」

 

 

 

「舐めた真似する連中を庇うならば、国が亡ぶ覚悟をしろ!って言って良いぞ」

 

 

 

 心を読んでリアルタイムに必要な言質を貰えたので話が早い。エルフ族の重鎮二人の言葉は重い。これに表立って逆らえる国など無い。

 

 人間至上主義とか問題の有る国は有るけど、組織的な非難は殆どゼロに近い。故に他国に居て生き残りの連中が騒げば巻き添えを嫌った連中に裁かれる。

 

 同然だろう。国家という後ろ盾を失った少数の連中を庇う者など居ない。それが自国を巻き込む滅亡へのカウントダウンと同じと理解すれば、人道的な配慮なら国外退去で過激ならば投獄からの裁判で処罰かな。

 

 

 

 実際は殆どの国は巻き込まれるのが嫌だからと、縁切りで国外追放かもしれない。後腐れ無くならば捕縛して投獄して適当な時期に罪状をでっち上げて処刑かな。その方が確実だし、逆恨みとかも遠慮したいだろうし……

 

 問題は他国に流出した連中が、どの程度まで現政権に食い込んでいるかで対応が変わる。便乗してエムデン王国に仕掛けてくる国ならば、利用できる捨て駒として有効だろう。大義名分のでっち上げも楽だし。

 

 それでも理由が弱いかな。それに連中に味方してもエムデン王国とエルフ族の両方に敵対するだけで、メリットが皆無だ。義憤に駆られてって事も無いだろう。

 

 

 

 最悪なのは非道な事をしたという事を曲解して人類至上主義を掲げて異種族を滅ぼすぞって反抗するかだけど、夢を追うのは否定しないが負けが確定している事を行うなら周囲が巻き込まれるのを嫌って普通に止めるだろう。

 

 人類も一枚岩じゃないし、感情を優先させる連中も皆無でもない。もうひと騒動有ると考えておいた方が良い。アウレール王達と周辺諸国への対応に関しての協議が必要だな。反エムデン王国連合とか負けないけど嫌過ぎる。

 

 事前の想定範囲内では有るけど相応に手間も掛かるし、周辺諸国を巻き込んでの外交という名の交渉というか牽制?ニーレンス公爵の手腕に期待すれば良いので気持ちは幾らかはマシだよ。

 

 

 

 まぁ僕も関係する事だから無関係は無理だし、最後まで面倒を見るという意味でもメインではないが協力はしよう。でもバランスを考えないと、越権行為になりかねないんだよな。 

 

 

 

「予定よりも大分早いですが、フルフの街に乗り込みましょう。コウ川の改良も早くしたいし、我々が乗り込んでいれば周辺諸国の連中への牽制にもなりましょう。必要ならば、他国の大使達をフルフの街に呼べばよいのです」

 

 

 

「あ?人間を脅すのか?ならば俺が担当しよう。これでも昔取った杵柄というか国と交渉する方法は熟知してるぞ。要は脅せば良いんだ。リーンハルトも国に単独で喧嘩を売れるだろ?二人で脅せば文句など言える訳がない」

 

 

 

 うわぁ?凄く嬉しくて効果的な提案だけど、丸呑みしたら大問題だよ。エムデン王国とエルフ族が連携してますって公表するのと同じだよ!関係各所が歓喜ではない悲鳴を上げる事になるよ。

 

 

 

「馬鹿ですか、貴方は?脅迫にリーンハルト殿を巻き込んでどうするのです?」

 

 

 

「仲間だからな。俺は刺激の無い人生に嫌気が差しているんだ。コイツは面白いぞ。人間の突然変異種というか力もそうだが、考え方が凡人共と違う。実は耳と寿命の短いエルフなんじゃないかと、真剣に悩んでいる」

 

 

 

 バシバシと肩を叩かれながら言われたけど、ルーツィア殿の本心は同族以外の者と刺激の有る外の世界で暮らしたい。だが相応の能力と立場が無ければ、エルフ族とは付き合えない。

 

 それに価値観も違いがあるのだろう。僕はレティシア達との交流で、エルフ的な思考も理解し始めた。だから気楽に付き合える相手として、人間の中で相応の権力も有る融通の通し易い相手として認められたのだろう。

 

 彼等の王が認めた事が最大の要因だとは思うが、人間を仲間にするという考え方が既に普通の扱いじゃない。特別扱いには間違い無いし、凄く協力的だけど判断基準がエルフなので難しい。

 

 

 

「フルフの街の受け入れ態勢は万全では有りませんが、大使館の整備は終わってますのでクロレス殿達を受け入れる事は可能です。今後の事は再協議としましょう。先ずは貴殿達の助力で一段落付きましたので感謝します」

 

 

 

 最終的に、バーリンゲン王国の連中を一番自然に還したのは、エルフの方々だ。僕等は最後の詰めを丸投げしてしまった。この事実は、アウレール王に報告し指示を仰がねばならない。

 

 対エルフ政策の見直しが必要なレベルだが、悪い方向に進んでないのが救いでもある。まぁお叱りは甘んじて受け入れます。あと、リゼルには最初に説明しないと駄目だろうし……ザスキア公爵も同じだな。

 

 王命の達成は条件付きで成功。一旦、王都に報告に向かってからフルフの街に戻る事になる。でも安全は確保出来たから、イルメラ達を連れて来る事も出来る。これは正直、嬉しい。

 

 

 

 そろそろイルメラさん成分が枯渇していて、思考が危険な方に傾き始めている。ルーツィア殿の提案に素直に頷きそうになる位の危険域に足を踏み込んでいる。

 

 

 

「今夜は屋敷のベッドでぐっすりと眠れます。エムデン王国の名物料理も味わって下さい。ワインもお勧めが有ります」

 

 

 

 連中の最後を看取ったので、フルフの街に帰る事にする。これで一連の騒動も最終段階に入るので、兵士達の慰撫と入れ替え。それに縮小も考えないと駄目だな。その前にフルフの街の整備もか……

 

 外敵が居なくなったので警戒網を縮小出来るのが地味に嬉しい。兵士達の心理的負担も無くなるし、兵力を王都に戻す事も出来る。国境に戦力を張り付かせるって大国でも相当な負担なんだ。

 

 エルフ族に対しては戦力を張り付ける意味は無いので、治安維持くらいで済むだろうな。折角作った畑も縮小するのは寂しいけど、収穫しても消費出来無ければ無駄になるだけだし。

 

 

 

 クギュー達に卸す?まぁその辺はゆっくりと考えれば良いだろう。連中の自給自足率も確認して余裕が無ければ売ればよいし、あれば縮小すればよい。収穫物を空間創造に収納しても良いかな。

 

 品質は専門農家の作物と比べると一段下がるけど、普通に美味しいし何より思い入れもある。兵士達に配るのも良いかもしれないな。共に土を耕したので不思議な連帯感も育んだし、家族に良い土産にもなるだろう。

 

 『宮廷魔術師第二席の伯爵と共に、任務の合間に育てた野菜です!』とか言っても家族は信じてくれるだろうか?全員が同じ事を言えば噓臭いとは思うけど大丈夫だろう。

 

 

 

 現実逃避は此処までにして……エルフ族の重鎮を二人も連れて帰ってきたら、リゼルは表情こそ柔和だが内面は荒れ狂うかもしれない。でも見た目は物凄い美男だから目の保養になったと許して下さい。

 

 

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