古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1027話

 リーンハルト様より緊急の報告書が王都に届けられたわ。悪い報告では無いのですが、手放しで喜べる内容でも有りません。良い報告は、バーリンゲン王国の愚か者共の処分が完了した事。

 

 これにより他国に居る残りの連中の対処を行う方向にシフトします。具体的にはエルフ族に恥知らずな要求をして人類全体を滅亡に追い込もうとした事と、その尻拭いをエムデン王国が行った事。

 

 情報を抑えていた森林化の内容と共に、人類共通の敵というレッテルを貼りヘイトを生き残りの方々に背負わせる事です。悪意は分かり易い内容と方法で押し付けるのが良いのです。

 

 

 

 読み終わった報告書を机の上に投げ出して溜息を吐く。用意してあった紅茶は既に飲み干してしまっているので、新しい紅茶を用意して貰う為に傍に控えていた侍女に声を掛ける。

 

 新しく淹れ直した紅茶に砂糖とミルクを大量に入れて貰い、少し冷めた紅茶を一気に飲み干す。マナーが悪いのは承知しているけれど、脳が糖分を求めています。

 

 この尋常でない報告書を御前会議で報告し、私達に有利な結果に誘導しなければならない。絶対にリーンハルト様に非が無い方向に動かさなければならない。多大な成果を挙げたのにです。

 

 

 

 散々迷惑を掛けられていたのですから、その全ての件について『謝罪と補償と賠償を請求』します。それは貴方達の専売特許ではないのですわ。

 

 

 

 悪い内容は……リーンハルト様が新たなエルフと友好関係を結びました。本人曰く『仲間』だそうです。本来ならばエルフ族との縁が強くなるという事なので歓迎すべき報告です。

 

 その相手が三百年も過去に人間界に干渉し敵対した人間を『収束轟雷撃』と『拡散百筋落雷』という強力な電撃魔法で殲滅した伝説級の存在、『殺戮電撃魔法使いエルフ』でなければです。

 

 ビャウォヴィエジャの森のルーツィア殿と正式に名乗った事も驚きです。人間相手に五百歳以上のエルフが正式に所属する森の名前を伝えるなど、殆ど最上級の扱いでしょう。

 

 

 

 それだけ、彼等は人間達を見下している。絶対的な力の上下関係、膨大な魔力に美貌に長寿。人間が勝っているのは総人口だけでしょうね。

 

 

 

 ですが、人間界で悪名の高いというか高過ぎる殆ど伝説というか伝承というか……実在すら定かでは無かった古文書に登場する様な人物が存在している事、その人物と友好関係を結んだ事。

 

 この事実は受け止める者によっては正反対の感情が生まれる。畏怖・嫌悪・排除という悪感情を抱く者は多いというか殆どがそうでしょう。昔話の空想の人物が実在して干渉してくるとか、想像すら出来ない。

 

 嫌悪感程度ならば良いのですが、悪感情を増幅させて人類の敵と思われるのが非常に宜しくないのよ。それは仲間認定されている、リーンハルト様の評価にも繋がるわ。

 

 

 

 人間至上主義者にとっては、格好の攻撃の的になるわ。結果的に人間が滅ぶ事になっても、連中は動くでしょう。自分達が一番で無ければ我慢出来ない、無理ならば諸共滅ぶ!位の異常者ですもの。

 

 

 

「悩ましいわ。リーンハルト様と直接話したいのだけれど、クロレス殿やレティシア殿もフルフの街に滞在しているから不在が不味いのは分かりますが……」

 

 

 

 エルフ族の重鎮連中を放置しての帰国が宜しくないのは分かります。ですが、対応を少しでも間違えると大火傷では済まない結果になりえます。

 

 そもそも何で、ルーツィア殿という大問題児と接点が出来たのか?エルフ族全体のバーリンゲン王国への悪感情が大き過ぎた結果、効率良く連中を始末出来る人材が派遣されたと考えるべきかしら?

 

 彼等が滅ぶ事はエムデン王国の国益に叶っていますが、その人間に敵意が溢れている大問題児と友好関係を結べるというか結んでしまったわ。

 

 

 

「リーンハルト様とは、本当に何者なのでしょうか?」

 

 

 

 新貴族男爵の長子として生まれた事は間違いないのですが、知識も立ち振る舞いもマナーも伯爵家の当主として恥ずかしくない練度で修めています。

 

 そして騎士と僧侶の間に生まれたのに、魔術師として未成年の段階で完成されている。いえ、完成というか現代最強の土属性魔術師でしょう。宮廷魔術師の枠には収まらない、独立国家に単独で戦争を仕掛けて勝てるのです。

 

 実務能力も高く、既に国政の何割かを担う程です。そして人材発掘や教育能力も高いですし、外交も異種族と問題無くコミュニケーションを取れている。あのエルフが仲間と認定している位に……

 

 

 

 幾ら考えても予想もつかないので、その件は全て脇に置いて対策を考えましょう。真相は本人にしか分からないでしょうし、直接会った時に聞けば良いのです。

 

 

 

「じっくり、ねっとりとですわ」

 

 

 

 次に会える時の楽しみが一つ増えました。あと、リゼルにはもっと情報を寄越す様に伝えておきましょう。あの女、リーンハルト様に絡み過ぎるし近付き過ぎるのよ。協定違反も甚だしいわ。

 

 必要悪なのは理解しているのですが、有能過ぎて御せない可能性が有ります。敵対はしていないし共闘もしていますが、出し抜かれる危険性が馬鹿に出来ない確率になりそうなのよ。

 

 身近に居る事の有利さは覆せない。いくら手紙のやり取りをしても、直接会って直に話せるという状況は圧倒的に相手が有利。あの女狐は、それを理解して腹心という位置に収まっている。

 

 

 

 傍に侍っていても命令されるだけなら大した危機感は無いのですが、相談相手というのが嫌らしい。頼り頼られる関係、その距離感は男女の恋愛のソレを上回る事も有るのよね。

 

 

 

「私もフルフの街に行こうかしら?いえ、無理よね。現状、王都を離れる事は許可されないわ」

 

 

 

 周辺諸国との外交が主な動きとなるのに、諜報部隊を束ねる責任者が王都を離れてフルフの街に行ってどうするの?我儘を通すにも状況が悪すぎます。

 

 

 

「もう直ぐ御前会議の時間ね」

 

 

 

 アウレール王とサリアリス様、ニーレンス公爵とローラン公爵をどう動かせば良いのか?悩ましい難問ですが、私の幸せの為にも負けてはいられないのよ!

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 謁見室に一番に乗り込んだつもりですが、既にニーレンス公爵とローラン公爵が呑気な顔を晒して談笑していたのを見て少しばかりムカつきましたわ。貴方達は問題の大きさが理解できていないのかしら?

 

 連携している私達用の詳細な報告書には事細かく書いてあった筈です。敵対してるバニシード公爵には簡易版しか渡していませんが、それはどうでも良い事です。身の回りの事に忙しくて、殆ど読んでもいないでしょう。

 

 王都を空けていたので足元がお留守になってしまい、色々と問題が発生して対応に苦慮しているのよね?その殆どは私達が仕掛けた事ですから、頑張って対処しなさいな。

 

 

 

「なんだ?不機嫌そうな顔をして?」

 

 

 

「そうだぞ。もう少しすれば、リーンハルト殿も王都に戻って来るだろう。我々も人員を多目にフルフの街に送ったので、引き継ぎもスムーズに終わる筈だぞ」

 

 

 

 警備兵は総入れ替え、大使館関連の人員も規定以上に送り込んだのは知っています。フルフの街を整備する為の工兵も相当数送り込んだし、資機材も同様に増量して送ったわ。予算を度外視してね。

 

 街を丸ごと引き渡すのだから整備には時間が掛かるでしょうが、望みうるフォロー体制は整えています。エルフ族絡みだから問題を起こす事は出来ないので、当然の処置ですけど……

 

 地下の古代遺跡の調査も順調、持ち帰った発掘品も直接見ましたが、三百年前の色々な事を紐解く事が出来るでしょう。相応の時間が掛かりますが、トータルで見れば利益は得られます。

 

 

 

「そんな事は分かっています。私が問題にしている事は報告書を読んだのなら分かりますよね?」

 

 

 

 どっかりと椅子に座る。マナーが悪い事は理解していますが、口煩いレジスラル女官長も居ませんし構いません。不機嫌さをアピールしてみましたが、首を傾げられました。

 

 その様な仕草は中年の紳士には似あいませんわよ。あざといと言われようとも、淑女がしてこその可愛らしい仕草なのです。加齢臭を気にする年齢の中年には不釣り合いね。

 

 まぁ若返った本妻さん達と仲良くしているらしいから、彼等の気持ちも若返っているのかも知れませんが……傍から見れば祖父と孫くらいに見えますので、そこはかとなく犯罪臭がします。

 

 

 

「殺戮エルフのルーツィア殿の事か?空想の人物かと思ってたぞ」

 

 

 

「子供の頃に『言う事を聞かないと、怖いエルフが雷を落とすぞ』って脅された事を思い出したな。殆ど伝説のエルフだが、実在して存命な事に驚いたぞ」

 

 

 

 あははははって笑い合っていますが、御伽噺の登場人物みたいな可愛らしい存在じゃないですわ。呑気を通り越して愚か者と思ってしまいますわよ。

 

 幸せが滲み出て大変宜しそうですわね。私の幸せは未だなのですが?貴方達だけ幸せで宜しいですわね?という思いを乗せた視線を送れば、頭を下げてきましたわ。

 

 本妻さん達の旦那様への教育は順調みたいで結構ですが、そろそろ私も自分の幸せを本気で掴みたいので邪魔者や障害物は排除してでも突き進む覚悟が出来ています。

 

 

 

 覚悟は完了していますわ!

 

 

 

「伝説級の問題児と友好関係になった。この事実は非常に面倒臭い事になるので、公表は控える方向で会議を進めたいのですわ。勿論ですが、バニシード公爵には教えていません」

 

 

 

 簡易版の報告書には個人的な友好関係を結んだ事とかは記載していませんわ。知らせる必要性も感じませんし、変に騒ぎ出す事は確実なので省きました。

 

 

 

「ああ、そうか。ヘイト管理か。確かに人間至上主義者達が騒ぐのに格好のネタだな。今は大人しくしているが、ネタが有れば活動が活発化するだろうな」

 

 

 

「確かに、過去の事ではあるが人間と敵対して大量殺人を犯した者に好意的になれは無理だな。その嫌悪感が、リーンハルト殿に向かう事が気に入らないと……」

 

 

 

 直ぐに問題に気付くのならば、最初から考えなさいな。夫婦円満なのは結構ですが、少し色ボケが過ぎるのではないかしら?

 

 

 

「アウレール王に口止めは出来ませんが、情報漏洩を抑える為にも話題が出たら逸らすか誤魔化すかして欲しいのよ。後でアウレール王を含めて、私達だけで検討する必要が有るわ」

 

 

 

「今回の話し合いは、バーリンゲン王国の崩壊に伴う事実と、全ての人間を巻き込んで滅ぼそうとした大罪を周辺諸国に知らしめる事の方法の検討だからな。了解した」

 

 

 

 人類の共通の敵を生み出す事が必須なの。悪いけど愚か者達には未来永劫『人類の敵』として語り継がせて貰います。それだけの事をしたのだから、諦めて下さいな。

 

 両騎士団長は問題無く説得出来る。そもそも連中が大嫌いだから問題は無いわ。サリアリス様も愛弟子の挙げた成果には無条件で賛成するでしょう。

 

 問題は知らされていなかった、バニシード公爵だけ。没落まっしぐらだし影響力も低下しているので大した事は出来ないけれど、情報を流す事は出来る。

 

 

 

 後先考える必要も無い位に追い込んでしまうと、自暴自棄になって馬鹿な事を平気でするのは……嫌だけど割と有るのよね。死なば諸共、一蓮托生、お前を巻き込んでやる!とかね。

 

 だから安心出来ない。地頭が悪い訳でもないから、没落するなら政敵も巻き込んで自滅するぐらいの覚悟は有るでしょう。巻き込まれ事案が多すぎて嫌になるわ。

 

 でも、それを行ったらバーリンゲン王国の連中と同じよ。それでも良いと言うならば、連中と同じ目に合せるしかないわ。

 

 

 

『存在ごと、抹消してあげる。私の、私達の幸せの為に……』

 

 

 

「おぃ、何を覚悟ガンギマリみたいな顔してやがる!」

 

 

 

「本音が駄々洩れだぞ。巻き込むな、振りじゃないから巻き込むなよ。連携するし協力も惜しまない、だから絶対に巻き込むなよな!」

 

 

 

 可憐な淑女に対して酷い言葉を投げつけられましたわ。酷い、繊細な心が盛大に傷付きましたわ。謝罪と補償と賠償を請求しますわ!

 

 そして当然ですが、巻き込みます。何故なら私達は一蓮托生で呉越同舟なのだから。最後の最後までコキ使って差し上げますわ。

 

 貴方達は私達のお蔭で本妻さん達と薔薇色の性活を送る事が出来ましたわ。ならば私達の愛欲に塗れた爛れた性活を送る為の助力を惜しんではいけません。

 

 

 

 私、知っていますのよ。貴方達がリーンハルト様から毛生え薬と精力剤を定期的に購入している事をね。自分達だけ恩恵を受けては駄目、幸せは仲間内で分け合うものでしょう? 

 

 

 

 

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