御前会議、国王と国家の重鎮のみが国政について話し合う重要な会議。此処で決まった内容が、エムデン王国の未来を決定する事になる。此処で決まった方針は、国王でも理由無く変更出来ないわ。
今回の参加者は、アウレール王と公爵四人に両騎士団の団長、宮廷魔術師筆頭のサリアリス様は体調不良で欠席。高齢だから病気かと思ったけど、ぎっくり腰で動けないとか……
リーンハルト様が居れば、問答無用でエリクサーを使用したでしょうが……流石に無理があるのでハイポーションのガブ飲みで治療中。愛弟子の凱旋帰国までには絶対に緩和するでしょう。
まさか愛弟子の凱旋を自宅のベッドの中で迎えるなんて失態は、絶対にしないでしょう。必ず見栄を張る筈ですわ。
しかし代理出席の手配をしないのは失態ではなくて?第三席のラミュールさんが、私の信奉者だから躊躇したのかしら?第四席以下は参加しても発言もしないから微妙ですし。
末席の火属性魔術師さんは改心したので、次の御前会議にお試しを含めて参加させるのも良いかもしれないわね。彼の本妻と側室の方々の取り込みも完了済みですし、敵にはならないわ。
参加者の様子を伺えば、バニシード公爵以外は落ち着いているわね。事前に議題は教えているし、国家の危機とかいう話でもないので焦る必要もないでしょうしね。
出来れば事前に、アウレール王と話したかったけれど……公爵という立場でも、軽々に国王と話し合いの場を持てるかと言えば難しいのよね。
無理を通せば可能だけれど、後々の事を考えれば痛くない腹を疑われる様なものですし。確かに重要な会議の前に、国王に直談判して根回ししてるとか問題行動よね。
でも、リーンハルト様ならば可能なのよ。既に国王を補佐する立場として認められているので、重要な会議の前に事前に話し合う事は問題行動ではない。
宰相とは、そういう立場なのですから。時には国王の代理も可能な立場と権力、前王の宰相は頑固で前王の反吐の出る偽善思想を尊重し、現王たるアウレール王にも意見を通した。
故に任命するには相応の覚悟が必要。ですが、アウレール王はリーンハルト様に全幅の信頼を置いている。リーンハルト様もアウレール王に絶対の忠誠を誓っている。
その理由は、『自分達の幸せの為に、エムデン王国の繁栄が絶対に必要だから』と言う実に青臭く若者らしい思いからだったわ。そしてそれは、イルメラさんの為でもあった。
平民の孤児という吹けば飛ぶような立場の彼女を守る為に、絶対の権力を手に入れた。その手段は老獪で隙も無く、誰からも反論されない為に強大な自身の力を示しながら……
イルメラさんは排除出来ない。それをすれば、彼は魔王となり手を下した者達を分け隔てなく滅ぼすでしょう。だから協調するしかないのですが、彼の心の中の一番には絶対になれない。
羨ましく妬ましい。殺したいほど憎らしい。ですが表に出しては駄目な感情、心の読めるジゼルさんとリゼルさんのギフトは危険ですが、誤魔化す方法など幾らでも有ります。
ふふふ、巷では『病んでる』というのでしたか?そう、私は病んでいる。病みを自覚していますが、それがなにか問題でも?些細な事でしょう。
恋愛関係の憎悪感情など、ありふれた事ですわ。表に出さず、行動せず。思うだけならば良いでしょう?
「アウレール王がいらっしゃいます」
思考に耽っていたら、先触れの近衛騎士から声を掛けられたので思考を切り替える。アウレール王を出迎える為に、参加者全員が姿勢を正す。
男共が私を嫌らしい目で見ていたので睨み返せば、バツが悪そうに眼を逸らしました。悪いと思うのでしたら、幾ら若く美しい淑女の鑑である私に嫌らしい視線を向けなければ良いのです。
何が『独り言が恐ろしい』とか『誰を抹殺する気だ?』とか『態と聞かせているんじゃないよな?』ですか?知りません、分かりません。
「全員揃って……は居ないか?サリアリスは病欠らしいな。珍しいが、アレも高齢だしな。そろそろ楽をさせてやりたいのだが、アイツを説得次第か?」
そう言って自分の玉座に座った。つまりアウレール王の考えでは、既に宰相を任せる事は決定済みなのね。この言葉に、ニーレンス公爵とローラン公爵は苦笑したわ。
まぁ飲み込む事は吝かではないって事ね。同盟を組んでいる相手の出世は、自分の利益でもありますし政敵として戦う事も無いですし。
自分の子供世代が、上の役職に就く事に対しての苦笑でしょう。別に今更年齢差など関係ないし気にしない。苦笑で済ませられる程度に、自分の心の中でも納得している。
納得していないのは憮然としている、バニシード公爵だけ。でも国王の言葉に否定など出来ないし、具体的には言っていない。故に不満を表す事しか出来ない。
その不満を表す行動も、言い様によっては不敬案件ですわ。能力も高く実績も有る、否定材料は年齢だけ。しかも当人は望んでいないし否定すらしている。
そういう相手に対して不満を募らせても意味は無くてよ。嫌なら自分が努力して、宰相になればよい。でも、その様な能力も無ければ実績も無い。
貴方は周りを気にしなさいな。ニーレンス公爵達の苦笑は、他の参加者から微笑ましく好意的に思われているのにね。貴方の不満顔は、嫌悪感と敵意を持たれているわよ。
「さて、今後の動きだが……ザスキアはどう思う?」
バニシード公爵の不満顔をスルーして、私に本題を振って来たわね。世論誘導担当の私と外交担当のニーレンス公爵が、今後の行動の要となる。
ローラン公爵は周辺諸国の動向の監視と牽制、バニシード公爵は……何をさせるのかしら?リーンハルト様は暫くお休みよ。仕事は割り振らないから、ネクタルの収集をお願いします。
思った以上に消費が激し過ぎます。未だ三百本以上は残っていますが、心許ないのも事実。ストレス発散とレベルアップ、それとイルメラさん達との健全な交流の為に魔法迷宮バンクを攻略して下さいな。
これも東方の諺で『敵に塩を贈る』でしょうか?私は敵には成りえないという事を心に刻ませる為ですわ。
「愚か者達の末路を正しく後世に残す事。私達を巻き込んで人類滅亡の書類に判を押した事を周辺諸国に知らしめるのです。巻き添えで滅ぼされる所だったのをエムデン王国が救ったのです」
歴史上、最悪・最低の屑隣国として公式に後世に伝え残す義務があります。そう締め括れば、全員が深く頷いた。ここで追い込みの手を緩めては駄目なのです。
馬鹿な連中は最後まで、叩いて叩いて叩いて分からせる必要があるのです。偽善を発揮して助けようとか、もうそれ以上は可哀そうだとか言い出す裏切り者が居ない事に安心しました。
あの連中には何度も裏切られているのです。それを許そうとか考える者が居れば、洗脳か裏切りを疑います。最悪の国家への裏切り行為、絶対に許すまじですわ。
「そうだ。各国に散らばって難を逃れた残党共の動きを封じ込める必要が有る。自分達の国を取り戻そうとか、エルフに再度難癖を付けたらどうなるか?周辺諸国からも切り捨てられる様にしないとな」
心配な点は、少なからず他国に移住している連中が騒ぎ出す事。ただ大声で喚き散らすだけならば問題は少ないけれど、他国の森に住むエルフ族に得意の謝罪と補償と賠償のセットを要求したら……
今回も上手く収まるという保証は無い。その場合は愚か者が住まう事を許した国家が責任を負う方向に話を持っていって、馬鹿が騒ぎ出したら抑え込む様に仕込まなければならない。
抑え込む=処分が望ましいのですが、モア教への配慮も有りますので、あからさまな虐待や差別は駄目なのです。その匙加減が難しいのですが、愚か者が暴走したら自分達も滅びかねないと考えればね。
自分達をも巻き込んで、壮大な自爆を行う禄でもない連中だと知らしめれば良いのよ。
「周辺国家への公式の通達は、自分の方で外交筋を動かします。ですが公式な書簡による発表の前に、事前の仕込みが必要でしょう。あの屑共の生き残りが、大声で嘘を喚き散らす前に我々に都合の良い真実を広める必要が有ります」
ニーレンス公爵が、私の方を見ながら言った。民間への噂を広める事を暗に任せたって事なのでしょう。下話は済んでいますので予定調和ね。この仕事は、バニシード公爵には絡ませない。
貴方の不穏な噂も同時に広めるのだから、一緒に担当されては都合が悪いのよ。娼婦に現を抜かして愚か者達の情報を流そうとした、色ボケの公爵様にはね。
同時に複数の効果を齎す事を行いたいのです。効率的に効果的に、貴方も私達の政敵には変わらないのですから攻撃の手を緩める訳にはいかないのよ。
まぁ事実なのですから、甘んじて『色狂いな変態公爵様』の噂は受け入れなさいな。一部の酔狂な者達からは、貴方は勇者扱いよ。『王命よりも色欲を選んだ猛者』ですって。
「その辺の噂は、私の方で行うわ。幸い、娼婦ギルド本部が協力的になったので各国への『亡国の原因となった真実』を広める事も簡単よ。勿論、商人ギルド本部等も使って大々的に広めるわ」
娼館の金融関連と夜の商い、それから物流と商売による真っ当な商いの両方。裏と表、光と闇から同じ情報が広まれば信ぴょう性も高いし色々な層の者達に広まるわ。平民に貴族、あらゆる階層の者達にね。
色々な階層の人達の中に潜む連中を炙り出して始末させるには、一定の層だけに噂を広めても効果は少ないの。上書きされたり内容が変わったり、下手に同情されても困るのよね。
正しく人類の敵として悉く滅んで貰わなければ困るの。もう全ての縁を切りたいので『彼等を生かしておけば自分達も危ない』という方向で頑張るわ!
「その、なんだ。全てを任せるが事前に報告と許可は取れ。俺に必ず説明して承諾を得てから行動しろ。反対はしないが、確認と微調整は必要だぞ。振りじゃないからな」
アウレール王の顔が引き攣っていますが、私が娼婦達に行った『教育と指導』についても事前に説明して許可を得ましたわ。特に変更点は無かった筈ですが、そんなに心配なのでしょうか?
「分かりました。計画書は既に出来ていますので、後程ご説明致します」
「それで良い。この件は最優先事項だ。速やかに滞りなく進めていくぞ。これで悪縁とも本当にオサラバだ。前王の尻拭いも、これで完済だ。本当に長かったが、漸くだな」
その後の話し合いは順調に進みましたわ。私が民間への噂の流布、ニーレンス公爵が近隣諸国への公式な外交ルートからの発表。ローラン公爵は両騎士団と連携しての噂による暴動への対策と治安強化。
バニシード公爵は、フルフの街から撤退してくる兵士達の受け入れと慰撫。共に王命を達成した者達への労りは上位者の必須事項。とても大切な仕事なのですが、不満が有りそうですわね。
その不満は兵士達の心が、自分ではなくリーンハルト様に向いているから。自分の部下として派遣された筈なのに、蓋を開ければリーンハルト様に掌握されていたから。
伝説の色狂いの『勇者』様も、『英雄』様には敵わなかった。ただそれだけの事でしょう?
「アウレール王、エムデン王国内に潜伏する愚か者共の捕縛については、自分に任せて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」
は?貴方、それは正式に任命された者が居ますわ。ローラン公爵と両騎士団長が直ぐに反応したわ。怒りを露わにしているけれど、怒鳴り付けたりはしない理性は残っているみたいね。
御前会議ですし、武官が暴力に物を言わせて話を通す事は絶対にしてはならない。三人が目くばせをしましたが、同じ公爵であるローラン公爵が軽く頷きました。
共に公爵ですし、武門の家柄。両騎士団長は役職は上でも爵位が低いし、妥当な人選では有りますわ。ローラン公爵は上手くバニシード公爵の横入りを躱せるかしら?
「それは俺と両騎士団の仕事の範疇だな。治安維持には不穏分子の捕縛も当然含まれている。越権行為は止めて頂きたいですな」
正論ですわ。これに異議を唱えるとなれば相応の理由が必要。成果を挙げたいからとか馬鹿な話は出来ないでしょう。そんな事を言えば、アウレール王の『駄目だ!』の一言で終わってしまうわよ。
「俺にも意地が有り、馬鹿にされたままで終わらせる事は出来ない」
上級貴族の面子の問題にしたいらしいわね。ですが相応の理由か原因が有りそうだわ。本来ならば理由を聞かずにバッサリ切るのが正解なのですが、ローラン公爵は話を聞くみたいね。
この状況で今更面子に拘る?ローラン公爵も甘いわね。貴族の面子を理由に出されたからと言って、妥協しなくても宜しいでしょうに……
ふふふ、でも面白くなりそうだわ。