古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第十二章
第1030話


 漸くフルフの街が見えて来たので、男三人旅の終焉である。最初は転生前の因縁深い相手だったルーツィア殿の事を警戒していたが、今は普通に友人として接する事も出来るようになった。

 

 クロレス殿も最初はルーツィア殿と性格的に合わないかな?って思ったけど、口の悪い悪友枠みたいな感じで落ち着いている。何方も里の代表と長老の側近という、エルフ族の重鎮だ。

 

 僕も一応は大陸最大級の国家の宮廷魔術師第二席、国の重鎮ではあるが肩書からすれば二枚か三枚は下だね。別に比べる必要もないのだが、対外的にって意味でね。

 

 

 

 途中、巡回警備部隊に会えたので、全員で先にフルフの街に戻る事を報告に行って貰った。このメンバーで護衛は不要だし、彼等も古参のエルフ二人の護衛とか緊張するし嫌だろう。

 

 僕の提案に全員が頷いて全速力でフルフの街に向かって行った。そんなに慌てなくても良いのだが、余程緊張していたのだろう。まぁ此方はゆっくりと進めばよい。慌てる旅路でもないし。

 

 生憎の曇り空だが上空には気持ち良く旋回する鳶が見える。ピーヒョロロと気持ち良さそうに鳴いている。彼等も森が増えれば獲物の小動物も増えるので、生きやすくなるだろう。

 

 

 

 エルフ達も全て鬱蒼とした森だけでなく部分的に開けた草原とかも作っている。自然との調和については、エルフ族の方が詳しいだろう。

 

 

 

「この辺も自然豊かな森に生まれ変わるのですね」

 

 

 

 荒れ果てた荒野が緑豊かな大地に変わるのか。感慨深いものが有るな……

 

 

 

「フルフの街の手前迄ですね。そこから先は手を付けないですよ。当初の予定の通り、フルフの街を境界とするので、そこから先はエムデン王国側で整備して下さい」

 

 

 

「任せて下さい。街道の整備は勿論ですが、モレロフの街やスメタナの街の周辺は食糧確保の為に田畑に作り替えます。灌漑事業は慣れてますので、緑豊かな自然とは言いませんが緑は確保します」

 

 

 

 食料の自給は死活問題だから、カシンチ族連合や魔牛族の生活向上の為に必須だよ。灌漑事業に関しては、僕も尽力した方が良いな。この辺は王都に戻ってから調整だろう。

 

 最悪は前回の灌漑事業を手伝って貰った連中を集めて送り込む。ニーレンス公爵にも助力を頼めば、短期間で成果は上げられる。人は『衣食足りて礼節を知る』と言われる様に、余裕が必要なんだ。

 

 『余裕が有るから余計な事をする』という連中も居るが、切羽詰まっている連中の方が暴走するし後先考えないから最悪の行動もする。生きる為には余計な事など考えないし、周りに配慮も出来ない。

 

 

 

 生きるか死ぬかの状況で、他人を思いやれる者が大勢居るとか夢の見過ぎだよ。性善説は大勢の心が豊かな環境の場合には効果が有るが、現状は違う。

 

 バーリンゲン王国の連中に対しては当て嵌まらない。なんでも慈悲を与えれば解決すると思うな。持てるものが持たざる者を守る、言葉は綺麗だが甘やかすと同じ事の繰り返し。

 

 彼等に対しては、これが最善手だった。もっと良い結果も有ったとか、他にも手段が有ったとか、言うのは簡単だ。なら人にやらせないで自分でやってみろ。

 

 

 

 現実を知れ、偽善家と夢想家共。国家の繁栄と未来が掛かっているんだぞ。そんな感情を挟む余地なんて無い。今迄された事や対応を考えれば、納得はしなくても理解は出来るだろ?

 

 

 

「出迎えの準備は万端みたいですね」

 

 

 

「ああ、分かり易い歓迎なのだろうな」

 

 

 

 思いに耽っていたら、フルフの街の近くまで来ていた。思考の海に沈む悪癖は全く改善されないし出来ないな。うん、無理でも同行者によっては頑張って意識を保とう。

 

 侵入防止用の拒馬とか防御設備も片付けられている。流石に固定している馬防柵はそのままだな。敵意無しって分かり易く証明している。それと更に非武装で正規兵達が整列している。

 

 ああ、リゼルが城門の前で、にこやかに待機している。見た目は凄い笑顔だけど、内心は結構怒っていると思うんだ。割と遣りたい放題しちゃったし、事後報告だし。

 

 

 

 ガチガチの正装でなく仕事用の貴族服だけど、武器こそ携帯していないが鎧兜を着込んだ正規兵の中心に立っているのは違和感が凄い。

 

 『戦場の中に淑女が居る』ってオペラの題材になりそうだよ。まぁ彼女の功績を考えれば舞台で演じられても問題は……裏の功績がメインだから無理か。

 

 自分も恥ずかしい演目を大々的に上演されたから、他の者にもこのやるせない気持を味わって欲しいと思ったけど反省しよう。

 

 

 

 近くまで来たので馬ゴーレムから降りたら、クロレス殿達も降りてくれた。立場上、騎乗したままでも良かったのだが配慮してくれたのだろう。

 

 

 

「おい、あの女。凄いな。何が凄いっていうか、兎に角凄いぞ。語集が馬鹿になる程の……何だあれは?」

 

 

 

「ええ、彼女とは何度か顔を合わせる程度でしたが、対応を考え直させる程の……内面の圧が物凄いですよ。最初の頃は隠していたのでしょうが、アレ程の圧を私が気付かないなんて……」

 

 

 

 後ろから聞こえる不穏な会話に思わず振り返れば、僕を真剣な顔で見詰める二人の視線を受けていた。其処には同情とか憐れみとかとは違うけど違わない、うわぁーって複雑な感情が読み取れる。

 

 多分だけど、リゼルの心を読んでいるのだと思うけど、古参のエルフ族にこの様な顔をさせる程の内面の圧ってナニ?ドンナナイヨウナノ?オシエテクダサイ!

 

 クロレス殿と目が合ったら逸らされた。ルーツィア殿が優しく肩を叩いてくれた。この対応って、僕はリゼルにどうにかされちゃうの?

 

 

 

 教えて、エルフ先生!

 

 

 

「あの、リゼルが何か?」

 

 

 

 恐る恐る聞いてみる。お願いします、答えて下さい。

 

 

 

「ん?ああ、まぁなんだ。伴侶は大切にしないと駄目だと、人生の先人として助言するぞ。放置は問題、後で大事になる」

 

 

 

「レティシアにも遅い春が訪れるか?とも思いましたが、その様な甘い可能性は……極めて困難、望み薄どころか皆無。アレを押し退けて、どうにかなるのは不可能」

 

 

 

 エルフの二人に両手を抱えられたと言うか支えられた。何故なら無意識に足の力が抜けて座りそうになったから。不思議と怖くは無いのだが、心の底で知らない感情が湧き上がって来る。

 

 これ、アレだ。不条理に怒っている女性の怒りの矛先を向けられた時の感情だ。悪い事をした自覚が有るので、不条理ではないとは思いますが仕事の一環なのです。

 

 仕方が無かったという事で、その感情を飲み込んでくれはしませんか?正規兵達が不思議な顔で、僕達を見ている。普通にエルフ二人に抱えられるってどういう事ってなるよね?

 

 

 

 別に体調不良でも無いので、心配しないで下さい。

 

 

 

「逃げるなら力になるぞ。複数の飛魚が不可視の状態で周囲を旋回している。空鼬も熱蛇も集まって来たし、一声掛ければ逃走は容易だな」

 

 

 

 飛魚達が足元に集まっている。早く足を乗せろと急かす気持ちが伝わってくる。空鼬は道案内で、熱蛇は追っ手の妨害?早々に役割分担を決めているけど、どうして?

 

 

 

「何故、逃走一択なのです?別に放っておかれたリゼル殿の機嫌を回復するだけで良いのでは?」

 

 

 

「お前、あの女にリーンハルトを引き渡すとかさ。エルフの心が無いのか?自然を慈しむのが、俺達の生き方だろ?慈しむって意味を思い出せよ。アレに引き渡して、コイツが無事だと?」

 

 

 

 ボソっと喰われるぞ!って言ったけど、男女の機微に一番詳しいのが一番似つかわしくない、ルーツィア殿って事?

 

 飛魚達が強制逃走を始める前に行動しないと、この状況で精霊達を利用しての逃走劇が始まってしまう。状況的には、エルフ族二人に攫われたって事だよな。

 

 エルフ族との関係が破局する最悪の行動、流石にそんな事を許容する事は出来ない。笑顔を浮かべる、リゼルにゆっくりと近付く。飛魚達よ、ズボンを引っ張らないでくれ。

 

 

 

 不可視の状態の君達は他の連中からは見えないので、僕のズボンが不自然に後ろに引っ張られるという怪奇現状が起きているぞ。

 

 

 

「お待ちしておりましたわ。ご主人様」

 

 

 

 邪気の(見え)無い笑顔を浮かべ、流石にカテーシーはしないで優雅に頭を下げた。凄く様になっていて(見た目は)素晴らしい。他所から見ても上司と部下の正しい関係だな。

 

 ただ言葉のチョイスが駄目だろう。僕は君の上司であってご主人様ではない。そういう呼び方をされれば、一部の紳士は喜ぶかも知れない。だが僕は困惑するだけで嬉しさは無い。

 

 少し離れた所で整列している、正規兵達には聞こえていないが、クロレス殿達には聞こえている。そういう選択的な配慮が出来る有能な腹黒淑女だったよ。

 

 

 

「うん、不適切な呼び方だね」

 

 

 

「エルフのお二方もどうぞ、此方にいらして下さい。長旅でお疲れでしょうから、お部屋をご用意しております」

 

 

 

 輝く笑顔で歓迎の意を表しているが、笑顔を向けられた二人の表情は曇っている。外見と内面のギャップにやられた感じ?そう失礼な事を考えたら、ルーツィア殿に軽く頭を叩かれた。

 

 

 

「お前さ、危機管理がさ。おざなりだぞ。確かに俺達に次ぐ強大な力は持っているが、それでも警戒心って必要だぞ」

 

 

 

「敵意も隔意も無い。好意は極大、だがそれで幸せになるかは当事者同士にしか分からないのです。何か有れば力になりますので、頑張りなさい」

 

 

 

 はい?指摘と激励を受けましたが?

 

 

 

「えっと、ただいま?」

 

 

 

 取り合えず近付いて挨拶をする。何時までも街の入り口で立っていても仕方ないし、早く屋敷に二人を招いた方が良いだろう。正規兵達にも正しい情報の共有が必要、勘違いされたら困る。

 

 

 

「はい、お帰りなさいませ。旦那様」

 

 

 

 雇い主から伴侶に変更されたが、そうじゃないと思うんだ。もう何を言っても私は聞きません、納得しません。的な彼女の言動はスルーしよう。

 

 

 

「うん、それも不適切な呼び方だね。取り合えず、屋敷の方にクロレス殿達を案内したいので宜しく」

 

 

 

 既に送迎用の馬車も用意されているし、先導と護衛の騎兵も居る。狭い街の中だけど、徒歩で移動するには距離も有るし時間も掛かる。大袈裟だけど、立場を考えたら妥当なんだよな。

 

 訝しげにしている二人を馬車に先に押し込んでから自分も乗り込む。隣にはリゼルが座りクロレス殿達と向かい合う様に座る事になるが、車内は広いので特にストレスは感じない。

 

 静かに動き出す。殆ど振動を感じさせないのは、僕が錬金した外交用の馬車だからだ。まだ国内のみの使用だが、実際に乗った事の有る外交官から自国に報告が上がり、購入の打診が来ている。

 

 

 

 僕しか錬金出来無いので流通させる予定は無いのだが、外交カードの1枚として使えるかな?

 

 

 

「エルフの方々の協力の件で、今回の王命も達成という事になりますわね。引き継ぎの方々も来られますし、漸く本国に戻れる事になりますわ」

 

 

 

 増援部隊も順次到着し、段階的な引き継ぎも行っている。そろそろ帰国しないと駄目な時期に来ている。クロレス殿達との話し合いと部分的な引き渡しが終われば帰国かな。

 

 本格的な引き渡しには、もう少し時間が必要だろう。まだ街の整備も完璧じゃないし、色々手を加える必要も有る。人の住まない家は、知らない内に痛んでいたりもする。

 

 そもそもの造りも良くないので、最低限の修繕は必要。引き渡して、エルフ達が住むかとか使うかとかは別問題。自信をもって引き渡せるレベルまでは手を加える。

 

 

 

「そうだね。一旦戻って、アウレール王に直接報告しないと駄目だろうな。流石に書面で報告して終わりにはならないよね」

 

 

 

 また書類作成の日々かぁ……僕は一応軍属なのだけど、上位者ほど外敵より書類と戦う方が多いって何だろう?

 

 

 

「聖樹を移植するので、行き来は楽になると思いますよ」

 

 

 

「ゼロリックスの森を経由するよりも、直接繋いだ方が楽だろ。任せろ、そういうのは得意だ」

 

 

 

 最後の最後に衝撃的な事実を知らされた。今回の王命の最大の報告事項は、エルフの森の聖樹繋がりの中にエムデン王国の王都も組み込まれたって事だろうか?

 

 これで一連のバーリンゲン王国騒動も終わり。今後は周辺諸国との調整と他国に逃れた連中の対応になるけど、僕には仕事は、流石に割り振られないだろう。

 

 王都とフルフの街を聖樹の力で往復しながら、調整役として少しは楽が出来るかな?

 

 

 

 ザスキア公爵やイルメラさん達に会う前に、ジゼルの機嫌を回復させるのが残された最大のミッションだろうか?




恒例の完結するする詐欺のお時間がやってまいりました。

毎年最後の投稿の後書き恒例ですが、今年も懲りずにやります。




『来年こそ完結させます!』




何時も素人の趣味前回妄想小説にお付き合い頂き、本当に有難う御座います。

誤字脱字報告も大変助かっております。




本日の投稿で長かった第十一章も終わり、来年から最終章に突入します。




今年も色々と有難う御座いました。来年も宜しくお願いします。




皆様の幸せと健康を願っております。




来年の初投稿は1月9日(木)となります。
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