古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1032話

 フルフの街の引き継ぎを終えて、王都に戻る事になった。引き継ぎ人員が大丈夫?と思える程の過剰な人数と有能な人材が来てくれたので、何も問題無く引き継ぎは終わった。

 

 クロレス殿とルーツィア殿は、僕が不在なら滞在する意味が無いとケルトウッドの森に引き上げていった。フルフの街に戻ったら『空鼬』に頼んで連絡をくれと言われたが、精霊を伝令に使って良いのかな?

 

 フルフの街周辺のコウ川の浄化と、エルフ族が住み易い植生にする工程を見せて貰う約束を逆手に取られて『早く王都で用事を済ませて、早めに戻って来い』って暗に言われた感じだ。

 

 

 

 現状の最大の問題とエムデン王国として総力を挙げて動く案件は、バーリンゲン王国が滅んだ真実の情報と過程を正しく広める事とエルフ族の対策なので、担当者として王都を離れる事は問題は無い筈だよね?

 

 軍属としての最大の仕事である『戦争』は当分無いだろうし、今は内政重視で逆に軍縮をする必要が有る。軍縮と言っても単純に兵士を減らすんじゃなくて、再編成をして治安維持に力を入れる事かな。

 

 利権絡みだからおいそれと動けないし、聖戦で活躍した者も多いので配慮と言うか忖度と言うか……まぁ大人の事情も絡むので正直面倒臭くて関係したくないけど、そうも言ってられない。

 

 

 

 色々と考える事は多いけど、最大の懸念事項である『困った隣国』の対処は凡そ完了したので気持ちは楽だな。

 

 

 

「私に後ろから抱き着かれながらそんな事を考えているなんてプンプンですわ。もう少し、こう……『暖かいな』とか『柔らかいな』とか『良い匂いだな』とかの感想は無いのですか?」

 

 

 

 そう言って馬ゴーレムの後ろに乗って両手を回している腰の部分を結構な力加減で抓られた。安全地帯を移動中の為、鎧は着ていなくて貴族用の旅装束だから防御力が皆無なので跡が付かない程度だけど痛い。

 

 声を漏らしそうになったが、グッと堪える。痛み耐性は軍属ならば自然と覚えるものだ、刃物で切られたり刺されたりする事に比べればマシだな。致命傷で無ければ魔法やポーションで治せる。

 

 即死しなければ大丈夫って事が、余計に痛み耐性が必要になるんだ。痛みで魔法を掛けたりポーションが飲めないんじゃ意味がないので、ある程度の耐性を付ける訓練をする。

 

 

 

 傍から見れば、只痛みに耐えるだけだから変な性癖かと勘違いされるのが嫌だけどね。

 

 

 

「無いし、痛いよ」

 

 

 

 二人だから馬車にしても並んで御者台に座る事になるので意味が無いから、馬ゴーレムで二人乗りです!って力説された。普通に護衛を伴って二人で馬車に乗って王都に向かえば良いじゃん!とは言えなかった。

 

 配下の連中も提言しようとして、リゼルの笑顔と無言の圧力に負けて『それが良いですねっ!』って声を揃えて肯定されちゃ何も言えない。まぁ正直な所、護衛は不要だし移動時間の短縮を考えれば最良だ。

 

 世間体という部分を丸っと無視すればだが、それも今更だから気楽な少人数の移動が良いね。天気は良いし無風だし、良い旅行日和だな。雲一つない空には、悩みが減った自分の心の様に澄んでいる。

 

 

 

「良い天気だなぁ……」

 

 

 

 フルフの街よりエムデン王国側には亡国の残党達は入り込んでいない。仮に居てもカシンチ族連合と、魔牛族と妖狼族の巡回部隊が定期的に回っているので潜んでいても見つかる。

 

 人間は三日間水を飲まなければ衰弱して、最悪は死ぬ。この周辺の水場は全て押さえていて定期的に点検してるから、痕跡が有れば見つかる。魔法で水は生み出せるけど無限じゃない、そんな永久機関は無理。

 

 僕だって錬金を極めつつある自信は有るが、生きていくのに必要な物資を全て錬金で賄う事は出来ない。空間創造のギフトと併用して、漸く少数での長期間の単独行動が可能になったくらいだ。

 

 

 

「先行して送った、タマル殿達ですが到着した頃でしょうか?」

 

 

 

 その声色には心配が強く出ている。彼女達の事を気に入っているし、本気で心配しているのが分かる。無理を承知で保護した相手だし、最後まで気になるのは当然だ。

 

 クリスも護衛に同行させたのは過剰だと思ったけど、その件についてはリゼルが頑として引かなかったので言う通りにした。

 

 クリスは不安そうに何度も気を付けろと言っていたが、この状況で危険など皆無とは言わないが限りなく低いのに……僕を害する事が出来る存在なんてエルフ族位だが、二百歳以下の連中の襲撃の可能性?

 

 

 

 その割には、寝る時は部屋の戸締りをしっかりしろとかさ。心配の方向性が違くない?僕は子供で、クリスは僕のお母さんか?って話だぞ。

 

 

 

 王都に帰ったら、先ずは大々的に成人式を執り行って……と言うか、アウレール王主導の国家的な催しになっているのが恥ずかしい。王太子の成人式並みの豪華さで、他国の外交官も招くとか違わなくない?

 

 僕は伯爵位は賜っているけど、王族じゃない。公爵家の跡取り息子の成人式だって、ここまで大袈裟じゃない。計画書を見せて貰って、読み進めると顔から火が出そうな位に恥ずかしかった。

 

 これ一介の伯爵の成人式の内容じゃない。ローラン公爵の正統後継者である、へリウス殿だって此処まで大袈裟じゃなかったぞ。公爵家二位の最上級貴族の跡取り息子がだぞ。

 

 

 

 国威の為に恥ずかしさを我慢する。これも貴族としての責任と義務だ、いや本当にそうか?大袈裟過ぎるから、僕がアウレール王の隠し子説とか馬鹿らしい噂話も囁かれるのだが?

 

 

 

「内緒で妖狼族達を呼び寄せて護衛させたからね。問題が有れば連絡が入るし大丈夫、匿う先は妖狼族と魔牛族と一緒にして貰っているからカシンチ族連合の連中と接触はしない様にしてあるよ」

 

 

 

「彼女達は辺境の方々に悪意ある行動はしていませんが、カシンチ族の方々が知っているとも限りません。一緒くたにされて危害を加えられても困ります」

 

 

 

 共に助けた相手同士が争うのはね。見たくも無いけど、人の感情は理屈じゃない。後々まで後を引く可能性が有るなら、自分の都合で教えない選択肢を選ぶ。

 

 知らなければ、会わなければ、接しなければ、憎みようもない。タマル殿達は新しい人生を歩む事になるので、その門出に悪意は要らない。どちらにしても身分を偽るので、過去は捨てて貰う事になる。

 

 モレロフの街に一時的に匿って、新しい身分を用意したらフルフの街に戻って来て働いて貰う。僕の家臣団として、拝領した領地から有能な人材を引き抜いて来た事にする。

 

 

 

 新しい身分や名前を受け入れる。つまり過去を全て捨てさせるって事だが、亡国に良い思い出なんて皆無だし思い入れも皆無。捨てても全く困らないそうだ。

 

 まぁ『人間種の敵』の一員だと思われるよりは絶対に良いだろう。彼女達を知る同胞達は全滅するので、縁切りも万全。

 

 タマル殿は実家の連中も聖戦の時に行方知れずになっているので、その線からバレる可能性も低い。貴族の血縁と言う繋がりは厄介だけど、元を断たれればね。

 

 

 

 新しい人生、万歳!という事で丸く収まった。

 

 

 

「まぁね。被害者の感情を考えればさ。見ていただけとか、何もしないけど止めもしないのは同罪だと思う可能性は低くない。ならば教えずに知らない方が良い場合も有る。僕等の都合だけどさ」

 

 

 

「貴方の都合という事では無いでしょうに……この件については此処までにしましょう。スメタナの街が見えてきましたわ」

 

 

 

 有能で誠実な人材は拝み倒してでも迎え入れたい。そういう事だから全て僕の事情だよ。有能な補佐官に義理堅い警備兵、真面目なメイド。損もなにも彼等は信用するに値する人材、見逃す訳がないね。

 

 

 

「スメタナの街かぁ……中継地点として巡回警備兵達の基地的にする整備を進めているんだよね。その少し先から、カシンチ族連合達の生活拠点としてモレロフの街を起点として整備を進めている」

 

 

 

 既に見張りにより発見されているのだろう。門が開いてバラバラと兵士達が飛び出しているのが見える。遠目でも馬ゴーレムは分かり易いし、事前に通達しているから準備していたのかもな。

 

 大袈裟に整列をし始めている連中を微笑ましく見る。交代した連中だから、今回の王命で一緒に働いた連中ではないけれど、僕も軍属にはそれなりの人気が有るんだ。

 

 『英雄』の看板は使い勝手が良いが、反面劇薬でもある。だが『モア教の守り手』は全てが非常に問題を抱えている。困った事に聖戦は終わったのに、全く沈静化してないんだよな…… 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「大歓迎でしたわね。私まで歓迎されるとは思いませんでしたわ」

 

 

 

 時間の関係で、スメタナの街には泊まらず昼食休憩だけで済ました。ここからモレロフの街迄は約20km、馬ゴーレムなら半日の距離だが急げば三時間程度で到着する。

 

 昼食もわざわざ王都から食材どころか料理人まで呼び寄せて待機させていたのには驚いたが、ローラン公爵の派閥構成貴族が隊長だったので当主に相談して用意させたらしい。

 

 軍規的には微妙にグレーゾーンだが、爵位を持つ軍属が平時に食事を自分で用意する事は黙認されている。非常時には許可されないが、確かに軍の食事は味より栄養と量だから合わない連中も一定数居る。

 

 

 

「ローラン公爵が手を回したみたいだね。対応してくれた隊長は見覚えが有ったし、役職の他に爵位や実家の事もさり気なくもないけど話していたし」

 

 

 

 昼食を頂いたときに隊長の他に、ローラン公爵家の執事が当然の様に同席して色々と世話を焼いてくれた。彼は一番最初にローラン公爵の屋敷を訪れた時に対応してくれた人だ。

 

 当時は未だ爵位も無く、冒険者としてお家騒動の解決に助力した立場だったので相応の態度で接した事を酷く後悔しているみたいだったので、気にしない様に言ったのだが……

 

 僕関連の事には積極的に参加して面倒を見てくれるので、正直助かる。へリウス殿も来たがったそうだが、必死に宥めすかして王都に残らせたので時間が有る時に会ってあげて下さいと頼まれた。

 

 

 

 正直、へリウス殿には苦手意識が有る。同世代の友人になれるかと思っていたのに、物凄く崇められている。対等な友人関係じゃなくて信奉されちゃってる。

 

 

 

「大使館の件は、ニーレンス公爵が手を回したので軍関係はローラン公爵が配慮するみたいな感じですね。公爵二家から配慮されるなんて、流石はご主人様ですわね」

 

 

 

 ボソっとザスキア公爵もですが、アレは諜報関連ですので今は大忙しで此方に構う暇など無いでしょう。と薄笑いを浮かべていた。

 

 正直、少し怖かった。彼女をアレ呼ばわりとか、アウレール王でも厳しいと思うよ。『新世界の盟主』とか『老いを永遠に駆逐した美の化身』とか『永遠の美少女』とか綽名がね?

 

 新しき扉を開いてしまった王国中の貴族の淑女達と敵対する覚悟が無ければ言えないぞ。まぁザスキア公爵とリゼルは盟友らしいので、その辺は下手な事を口走っても誤解はされないらしいのだが……

 

 

 

 リゼルは実質的にエムデン王国の淑女達の№2なんじゃない?公爵令嬢だけど無冠無職の、メディア嬢よりもさ。

 

 

 

「王都に戻ったら、ローラン公爵の屋敷を訪ねる必要が有るね。世話になって挨拶も礼も無しとか、貴族として有り得ないからね」

 

 

 

「ニーレンス公爵も、ですわ。勿論ですが、私も同行しますので宜しくお願いします」

 

 

 

 予定がどんどん埋まっていくよ。貴族だから挨拶回りを兼ねた根回しも必要なのだが、義父達も絶対に舞踏会じゃない武闘会も予定しているだろう。単身赴任中の気楽さは終了って事かぁ……

 

 

 

 

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