エムデン王国に帰還中、ソレスト平原を通過中に雷雨に見舞われ雨宿りを余儀なくされた。急ぐ旅でもなし、無理せず休憩を取る事にした。まぁ雨の中でも濡れないで移動は出来る。
でも精神的な疲労は増えるので、すっぱりと休んだ方が結果的には良いだろう。僕は雨の中の行軍も嫌いじゃないけど、リゼルは淑女だし嫌なのだろう。馬車での移動なら別だが、馬ゴーレムに騎乗だしね。
それに他にも、僕等が休憩してくれた方が嬉しい連中も居る。周辺諸国の間者達、ウルム王国との聖戦には参戦せず、バーリンゲン王国のゴタゴタに掛かり切りだったので詳細を知らないのだろう。
僕と言う噂が先行して実態が良く分からないイレギュラーを調べるには絶好の機会と捉えたのかな?
ふふふ、怖いもの知らずとは凄いよね。殆ど警戒せずに接触しようとして来るのだから、ナメられている?甘く見られている?のかと思ったけど実情を知らなければ仕方ないのかな?
情報収集不足だと思うよ。その為に接触してくるのだと思うけど、その判断は甘いとしか言えないよ。確かに配下の女性と自国内とは言え、二人だけで移動しているけどね。
探査魔法の範囲に入り込んでいるのは四グループ、さて四ヵ国なのか一国が複数の諜報員を投入しているのか?敵対国家か友好国だけど情報収集だけなのか、どう接触してくるか楽しみだな。
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適当な場所を錬金し小山を作りだし正面に大き目な穴を開けた簡易陣地を錬金、洞窟形状なので普通に考えれば穴の開いた正面だけ警戒すれば良いと思うだろう。
実際は探査魔法を全方位に掛けているので死角は無いのだが、高位魔術師じゃなければ魔法で構築した警戒網と探査範囲は把握出来ないだろうね。隠蔽魔法も同時に掛けているが、現代では失われた魔法らしい。
魔法技術の衰退は思った以上に酷い。魔法技術は秘匿するものって考えが有り、魔法大国ルトライン帝国の滅亡と共に多くの技術が継承されずに失われた。
「簡単な手料理を振舞おうと思ったのですが、アインさんが本格的な調理を行えるとか信じられません」
驚愕の表情を浮かべているけど、リゼルはわざと言っている。フルフの街に滞在中に、アインの手料理は何度も食べているのだから。まぁ急拵えの竈に向かい鉄鍋を振るっているゴーレムを見れば驚くか……
アインは繊細な菓子類から豪快な野戦料理まで多岐にわたり調理出来る。今夜は豪快に燻製ソーセージ炒めに混合野菜サラダ、それと固焼きパンという状況に合せたメニューだね。
後は暖かい紅茶が用意されている。襲撃を警戒しながらの食事なので、こういうのが良いんだ。こういうので良いんだ。ふふふ、アインは良く分かっているな。
「自慢の愛娘だからね」
雨粒は大きいが風は弱い、時折遠くの雲が稲光で輝く。それ以外の時は真っ暗なので、洞窟の灯かりは遠くから認識出来るだろう。
それこそ普通の旅人だったら、突然の悪天候時に見付けたら警戒しながらも無視出来ずに近付いて来るだろう。周囲には雨宿り出来る場所が全く無いから余計にだろう。
しかもパッと見は自然由来の天然洞窟だから、独占も出来ないだろうと寄って来る。緊急時はお互い様の助け合い精神?そう言われれば断り辛いし、離れたスペースなら居ても良いと思うだろう。
「近付いて来ますか?」
ベジファーストで混合野菜サラダに、オリーブオイルのドレッシングを掛けて上品に食べながら聞いて来た。僕はマナー無視で燻製ソーセージにフォークを突き刺して齧り付いた。
ふふふ、余計に上級貴族とは思われない豪快な食べ方。残念なのは口が小さいので丸ごと放り込んで咀嚼出来ない事だな。デオドラ男爵も手掴みはしないでフォークは使うが一気に口の中に押し込むし。
まだまだ逞しい野生児には慣れない。いや、デオドラ男爵達を野生児とか野蛮とか思ってないよ。豪快だと思っているだけですハイ。
「来ると思うよ。情報収集なら接触して会話を試みるのが最善だし、シチュエーション的にも緊急避難で飛び込んできたら断り辛いだろ?」
「情報統制されて封鎖されている場所で、偶然を装い接触ですか?私達、甘く見られてます?」
同じようにフォークに刺した燻製ソーセージを小さいな口で齧っているけど、悔しいけど上品で色香が凄いぞ。物を食べる女性って魅力的だって言われるのは同意します。
「ナメられているのか?甘く見られているのか?僕は未だ未成年だし、供も連れてないし侮られる条件は多く満たしているよね。近付いて来る連中は、情報の精度の低い国家だろう」
探査魔法に察知されても特に気付いた様子もない。つまり魔術師は居ないし、そういう訓練もされてない。いや普通は分からないのだから、そこを責めては駄目だろう。
実は諜報部員で魔術師は多い。隠密活動に魔法は有効だから、魔術師としては一人前未満でも諜報の技術と合わせれば一流の人材は多い。ザスキア公爵の配下が良い例だね。
ウチもウルティマ嬢の配下の諜報部員を鍛えている最中だけど、魔術師崩れが何人か居る。そして諜報員としては優秀なんだよね。
「友好的で比較的情報を集め易い国家の諜報員は、もっと警戒して用心を重ねて接触してきますわよね。杜撰過ぎるのは罠の可能性も有ります?」
「無いだろうね。警戒はするけどさ」
正面から雨具のフードを被って小走りに近付いて来る連中を見て思う。少しは警戒してるけど、諜報員としては駄目じゃない?偶然を装うにしては状況が既に駄目。
身分を偽って封鎖地区に居る理由を作って接触してくれば合格、だけど報告では出入国は厳しく管理していて特例は居ない事は確認済みなので書類を偽造しても無駄だよ。
上級貴族が勝手に送り込んだ事にして、指示書なり命令書を用意していれば合格。だがバニシード公爵くらいしか対象者が居ない。しかも政敵だから、拒否しても問題は少ない。
「さて、どんな理由で接触してくるか楽しみだね」
「悪い旦那様ですわ」
口の中の燻製ソーセージを飲み込み、紅茶で脂分をすっきりと洗い流す。入口の方に身体を向ければ、小走りで近付いて来た連中が丁度入り込んだ所だった。
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屋根のある場所に入り込んだので、被っていたフードを脱いで水を払う連中を警戒しています感を出して見詰める。一応、声も掛けずに此方のテリトリーに入って来た不審者だからね。
全身びしょ濡れだから焚火で暖を取りたいだろうが、流石に無許可で近付いては来ないだけの常識は有るのだろう。身嗜みを整えてから話し掛けてくるのかな?
相手は三人、全員が中年男性で身なりは商人風で鎧こそ着ていないが、腰にショートソードは差している。背嚢を背負っているので、商人というより旅人?
商人としては荷物が無く、冒険者にしては武装が貧弱。旅人というのが一番近い様子だけど、旅の目的地が規制されて侵入を厳しく管理している土地なのだが?
「そんなに警戒しないでくれ。俺らは悪天候に見舞われた哀れな旅人だよ」
両手を広げて無害をアピールしながら、ゆっくりと近付いて来る。僕の背中にリゼルが隠れたが、彼等から見れば若い女性を脅かしたと思ったのだろう、慌てて両手を振って無害だとアピールした。
リゼルは相手の様子を観察しながら、心の中も読んでいる。その彼女が小さな声で『黒です。接近して無力化する予定です』と教えてくれた。
一般的な魔術師への対応としては正しい。高レベルの魔術師でも接近されたら対処しにくいから、魔法を使われる前に勝てる確率は高い。一般的な魔法障壁は接近されると対応出来ないし……
無害を装い近付いて来るが、後ろの二人がさり気なく左右に分かれて包囲しようとしてるのはバレバレだよ。
僕と視線を合わせる事で注意を引き付けているのだろうし、視線が動けば警戒している事が分かる。視線誘導も駆け引きの内だけど、探査魔法で俯瞰的に感じる事が出来るんだ。
対魔術師の慣れは感じるけど、慣れは油断と慢心を引き起こすので程々にね。先手は譲ってあげるので、どんな手段を講じてくれるか見せてくれ。
他国の対魔術師対策は興味が有る。だけど簡単に好きに出来ると思うなよ。相応の抵抗はさせて貰うからさ。
相手と視線を逸らさずに近付くのを見守る。それで、どうする?
「女性と二人で旅行とは羨ましいですねぇ」
含み針?笑顔のままで両目に向かって何かが飛んできたが魔法障壁で弾かれた。地面には短い針が数本、凄いな。息だけで針を真っ直ぐ飛ばせるのか。
威力は低くても目とか柔らかい部分なら効果は高いし、意識も逸らせる事も可能だな。攻撃範囲は狭そうだけど、1m位は余裕そうだ。
流石に口に含んでいたので毒は塗ってなさそうだけど、良く針を咥えながら笑顔で話す事が出来るものだと感心する。暗器の代表の針、珍しくも無いが効果は有りそうだ。
「いや、これでも任務中だよ」
初手、暴力で拘束からの尋問の予定だったんだろうか?捻りが足りない。もう少し油断を誘わないと、警戒されているのに含み針で攻撃とか減点だよ。
「弾かれた?おぃ全員で一斉に……」
「女を狙え、人質に……」
「馬鹿野郎、失敗だぞ。逃げ……」
失敗したら意見が割れた。何通りか防がれた場合の対応策くらい決めておいた方が良いよ。仲間割れしている時間が勿体無いし、判断に迷う僅かな時間が生死を分ける。
最初から殺すつもりでいかないと、中途半端に捕縛とか尋問とかさ。成果を求め過ぎだよ。こういう場合、最低限の成果を決めておいて行動しないと欲が出れば隙も出る。
まぁコイツ等の考えは、リゼルが丸裸にしているだろうからさ。僕は迷わずに殲滅一択。期待したけど三流諜報員というオチだったよ。
「黒縄(こくじょう)」
なます切りにて宿泊場所を血で汚すのは嫌なので、黒縄でグルグル巻きにして拘束。そのまま地中深く埋め込む。これで痕跡を残さずに処分出来た。
あとは埋めた場所を周囲と馴染ませて一枚岩に錬金すれば、掘り出す事も殆ど不可能。目撃者も居ないというか、残りの連中も遠目で様子を窺っていたのか失敗したのが分かったのだろう。
周囲を窺っていた連中が、ゆっくりと離れて行った。そしてある程度の距離を取ったら、全力で離れていった。逃げ出したと言ってもいい感じにバラけている。
もう接触してくる事は無いだろうな。様子を窺っていた連中は、中止するという判断が下せる程度には有能なのだろう。エムデン王国側に行かずにモレロフの街に逃げ帰る?
向こうに逃げかえっても捕まるだけだと思うけどね。帰国前に準備は済ませて有るから、セインとカーム殿が上手くやるだろう。お手柄を立てる事が出来るので、達成後は期待して下さい。
ちゃんと評価しますよ。
「さて、戸締りして休もうか。連中の考えていた事は、明日の移動の時にでも教えてよ」
「これで終わりですか?あっけなかったですわね」
囮の必要も無くなったので、洞窟の入り口を錬金で塞ぐ。予想よりも簡単に終わったけど、まだ周辺諸国の認識ってこの程度なのか……何とも微妙な気持ちになるなぁ。