古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1039話

 結局、他国の諜報連中達の接触は1回だけだった。最初に接触して来た連中のレベルが低く当て馬にされたのか、総じてレベルが低く様子見していたが失敗したのを見て諦めたのか?

 

 まぁ友好的で比較的情報が入り易い連中は様子見または完全に非接触だった。ちょっかい掛ける事が国益を著しく損ねる事を理解しているというか、言い含められている?

 

 今回のバーリンゲン王国のやらかしは、大陸中の国交の希薄な国々にも公式見解としての公文書として送っている。だから確認の為に人員を送り込む事は普通だ。

 

 

 

 与えられた情報を鵜呑みにするのは三流、確認の為の人員を送り込むのは二流。更に質の高い人員を送り込んで一流。情報戦ってさ、より精度の高い情報を早く多く集めた者が勝つよ。

 

 その集めた情報の運用も大事だけど、誤情報を掴まされて運用しても相手の思う壺だと思う。ザスキア公爵の怖い所は『相手が信じたい嘘の情報を真実っぽく掴ませる』ところだよ。

 

 自分が苦労して掴んだ情報が、自分の予想や望みに近しいものだった。だから信じるし信じやすい。そういう情報を掴まされたら、疑っていても信じてしまう可能性が高い。

 

 

 

 まぁ嫌な現実を突き付けられるより、自分の思った通りの事実(嘘)が分かった方がね。

 

 

 

 それでも疑って調べ直す連中は、超が付く程有能な連中だろう。まぁ中々居ないんだけどね。例外は相手の思惑が読める、リゼルやジゼル嬢みたいなギフト持ちだろう。

 

 技術で補えるかといえば、それはそれで難しい。『真実か嘘かを見抜く』とか『嘘をついているのが分かる』とかは、分かるギフトが有るらしい。

 

 でも〇×判定のみだと理由までは分からないから、その先のを打つ事が出来ない。その点、相手の思惑が分かるのは強力だ。

 

 

 

 だから、バーリンゲン王国みたいな中途半端な連中が独立国家として生き残っていられた。彼女を引き抜かれた事が、滅亡への最初の一歩だったのかな……

 

 

 

「って痛いよ!」

 

 

 

 熱烈送迎を受けながら、モレロフの街を発ってエムデン王国の王都に馬ゴーレムで向かう移動中に考え事をしていたら、同行者に脇腹を抓られた。結構痛い。

 

 馬ゴーレム移動にしたのは、最後の行程をゆっくりしたかった事。それとあまりエルフ族に頼るのも、今後の関係性を考えて良くないと判断した。

 

 僕があまりにエルフ族に近過ぎるのが、問題になるだろうと予想させる。エルフ族関連は全て任されるとか、ニーレンス公爵との関係が悪化するだろうし嫉妬や妬みも増えるだろう。

 

 

 

 人間至上主義者も撲滅したわけでもなし、他国では差別思想が普通の所も有る。出来うる手段は無駄でも効果が少なくても講じるべきだよ。

 

 特にエルフ族関連ではね。今後、いくらバーリンゲン王国を悪の象徴として広めてもさ。エルフ族に対する悪感情は収まらないし無くならない。

 

 いや多分だけど、脅威度の増加も含めて敵対感情は湧き上がるだろうね。国土の問題は、土地と言うか領地が全ての基盤である貴族がさ。

 

 

 

 最悪、自分の領地が森となって永遠に奪われると感じたら、どんな事でもするだろう。個人の力が絶大でも基本的に森に引きこもってるから情報が殆どない。

 

 数の差が圧倒的だし勘違いする連中も絶対に居る。言葉だけでは伝わらない、実際に自分が体験しないと理解出来ない絶望的な力量差が有るんだよ。

 

 僕が百人居ても、エルフ族の森の一つも落とせない。まぁ『善戦したけど完敗です』だろうな。そして彼等は人間を滅ぼそうとすれば、時間は掛るが可能なんだ。

 

 

 

 この世界が緑に覆われた自然豊かな大地になるだけでさ。まぁ彼等も時間を掛けて滅びゆく種族ではあるから、彼等も何千年後には滅ぶだろう。

 

 そして動植物だけの天国になるか、新しい文明が生まれるか?楽しくない未来予想だから、なんとか防ぎたい。少なくとも、僕の第二の人生を全うする間は……

 

 いや、出来るであるう子供達の事も考えれば、この考えは駄目だな。まぁ時間は有るしエムデン王国は大国で影響力も絶大、その大国の重鎮なのだから出来ない事は無い筈だ。

 

 

 

「失礼過ぎます。私が破滅への原因みたいな言い方ですわ。その様な事実は有りません。あと色々と考えている様ですが、私は子供は二人以上は欲しいです。息子と娘は絶対です」

 

 

 

「いや、それは色々と問題が有るよ」

 

 

 

 貴族間でも子供の件とか絶対に揉める案件だし、そもそも君を側室に迎える事が確定みたいになってるよ?

 

 

 

「帰国してから調整します。イルメラさんとザスキア公爵と話を進めますから大丈夫です」

 

 

 

 考えればギフトで読み取って回答してくれるので楽なのだが、その内容が驚愕だった。いや、そこに本妻のジゼル嬢の名前が無いよ。

 

 それとザスキア公爵が、僕の嫁取りの話に参加する?何故さ?伯爵クラスの婚姻問題に公爵が参加?いやいやいや、無いだろ?反対されても困るし、賛成されても困る。

 

 兎に角、困るという事は理解した。もしかしなくても、アウレール王も干渉してくる?いや、それは約束を違える事になるかな無いか……無いよね?

 

 

 

 成人の儀には積極的に参加してきて、国家行事まで持ち上げてくれたんだ。結婚式だって国家行事にされそうなんだ。僕はエムデン王国の王族じゃないのに、何故国家的な催しに?

 

 公爵家の跡取りだって、そこまで盛大に行わないよ。血筋から言っても侯爵にはなれないし、宰相にもならないよ。なのに、この厚遇は……

 

 いや、今はそんな先の事を考えている場合じゃない。リゼルが相談する相手が問題なんだよ。

 

 

 

「いや全然大丈夫なメンバーじゃないよね?まぁイルメラが認めるなら問題は少ないけどさ」

 

 

 

 プンスコ怒っているけど、連中の雑な外交が曲がりなりにも機能していたのは、君のギフトの力が全てだったのも事実。君を失ってから、まともな外交など出来ず殆どの国から距離を取られていたぞ。

 

 まだエムデン王国の属国と言う立場の時はマシだった。何か有れば、宗主国が出張って来るからね。ケツ持ちにエムデン王国という大国が控えていたから一応は国家として扱って貰っていた。

 

 そのケツ持ちのエムデン王国から独立という裏切り行為を働いた事で、保護者不在の不良娘の言う事を聞いてくれなくなった。対等に扱われなくなった。

 

 

 

 独立国家としての体裁を失い、国内の取り纏めさえも不十分。独立を指導した連中は王都に集まり好き勝手して自滅。これが真実のストーリー……

 

 その交渉のプロフェッショナルな君が、イルメラとザスキア公爵と調整するとか結果に反論出来ない奴じゃん。

 

 流されている自覚は有るけど、嫌じゃない自覚も有る。どうしようもなく困った男だと自覚も有る。まぁ貴族だし、本妻と数人の側室は普通って事で。

 

 

 

 そう考えれば、僕もバーリンゲン王国の連中の事を悪くは言えないのか?そこそこ近しい事をしようとしてるし?奥さんを1年以内に複数娶るとか、倫理的にどうなの?

 

 

 

「違います。貴方は彼等とは違います。それと彼等は滅ぶべくして滅んだのです。要は『欲望だけがが極端に肥大した品性下劣な悪童が集まって好き勝手して自滅した』のです。自業自得、自然の摂理です」

 

 

 

 表現が適格で困る。確かに下事情が原因で国に関わる全てが滅ぶのだから、当事者達は諦められるだろうが巻き込まれた連中は堪らないだろう。まぁ似たり寄ったりな連中だから関係無いのかな?

 

 

 

「それはそれで酷いのだが、まぁ事実だね」

 

 

 

 悪童とは言い得て妙だね。大人になり切れない子供だけど、性欲は大人顔負け。子供理論を振りかざし、欲望に忠実で我慢も出来ない。悪の英才教育?

 

 

 

「旦那様の考え方の方が酷いと思います。『悉(ことごと)く等しく滅べ、愚か者共よ』なんて……」

 

 

 

 いや、そこ迄は言ってないよ。『嘆いて滅べ』とか『愚か者共』は言った事が有るけど『悉く滅べ』は無い筈だ。まぁ『嘆いて滅べ』もイキっていた若い頃の恥ずかしい思い出だけどさ。

 

 無駄話に花を咲かせていると、ソレスト平原の終わりが見えてきた。もう少しで国境を越えてエムデン王国領に入る。短い旅も終わりが近付いて来た。

 

 今後は旧バーリンゲン王国領とも呼べない、エルフの支配地域というか『エルフの森』になるのだから、過去の残滓の名前で呼べばエルフ族は怒り狂う可能性が高い。

 

 

 

「忘れ去られる国家か……いや、愚かな行為を行ったとして未来永劫その名は語り継がれる。人類の敵として歴史には残るよ」

 

 

 

 僕の呟きは荒野に消えていった。リゼルも、この呟きに対しては何も反応しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 予想通りというか予想通りの歓迎だった。城門前に兵士を整列させて正面に、スプリト伯爵がタイロン嬢とサナッシュ嬢と共に出迎えてくれたがネロ殿が居ない。ネロ殿が居ない?

 

 こういう行事には必ず参加している、防衛の要の彼女が居ない?因みにだが、タイロン嬢とサナッシュ嬢の評価は護送の件で上方修正している。二人合わせて有効な要人護送用のギフトが……

 

 詳細は教えて貰えなかったが、確かに効果は高い。潜在的敵国との国境に配置されるだけの一族って事だな。最初は一般的な貴族令嬢だと軽く見てしまったが、僕も未熟って事か。

 

 

 

 近付いてから手前10m程度の所で馬ゴーレムを降りる。爵位は同じ伯爵だし、領地持ちの領主でもある。自分の領地を通過させて貰うのだから、丁寧な対応が当たり前だ。

 

 先に降りてから、リゼルに手を伸ばし下馬する手助けをする。紳士として当たり前の行動だし、もう慣れたものだ。トンっと飛び降りる彼女の身体を軽く支える。

 

 

 

「リゼルさん?リーンハルト様に近付き過ぎてませんか?」

 

 

 

「淑女が馬車に乗らずに殿方の馬に同乗するなど、はしたなさ過ぎではありませんか?」

 

 

 

 おぃ!評価を上方修正したばかりなのに、何故リゼルに噛み付くの?君達はドラゴンに非武装で立ち向かう位な無謀な事を仕出かしているのを理解してる?

 

 

 

「ザスキア公爵様を差し置いて、リーンハルト様に纏わり付くのは止めて下さいます?」

 

 

 

「全くですわ。協定違反も甚だしいですわ」

 

 

 

 辺境だから情報が入ってないの?いや入ってるよね?それとも、ザスキア公爵派閥だから牽制してる?おぃおぃおぃ、止めるしかないのだがリゼルの余裕の笑みが怖すぎる。

 

 君は彼女達の思惑を全て理解した上で、その表情を浮かべているんだよね?スプリト伯爵が顔面蒼白で立ち尽くしている。

 

 うん、分かるよ。特大のドラゴンの尾を踏みにじっているみたいな無謀極まりない行動だよね。エムデン王国女傑四人衆に対しての言動じゃないよね。

 

 

 

 リゼルを見れば、ただ笑っているだけだ。見とれる程の笑みだけど、歯こそ見せない綺麗な笑みだけどさ。古来より笑顔って威嚇の意味も有るんよ。

 

 僕も意図的に数種類の笑顔を使い分けるけど、敵対した者に向ける笑みも有る。もしかしなくても、ネロ殿はこうなると察して逃げたのかな?

 

 スプリト伯爵と一族の者達と敵対する意味もメリットも無いので、リゼルさんの肩を揉んでリラックスさせる。帰国後一発目に派閥争いとか、勘弁して下さい。

 

 

 

 リゼルさんも肩を揉まれて満更でもなさそうなので、スプリト伯爵に視線を送り行動を促す。この後は領主の館で一泊、懇親の晩餐会に呼ばれるのかな?

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