古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1040話

 リゼルと言う女。最初は哀れに思い、次は待遇の改善を喜び、最後に嫉妬しました。

 

 

 

 情報が秘匿されているので、最初はバーリンゲン王国に酷い扱いを受けていたのですが、リーンハルト様に才能を見出され引抜かれたと……

 

 公表はされていませんが、家族の全てを国益優先という国家の闇に翻弄されて失った哀れな女性という噂でした。事実、彼女は天涯孤独の身の上で一人だけでエムデン王国に来ました。

 

 どちらかと言えば、物静かで影の有る雰囲気を纏っていましたので噂は概ね事実だと言われていました。不思議でしたのは、アウレール王が身元引受人をリーンハルト様に指名した事。

 

 

 

 見出した本人が身元引受人なのは普通なのですが、アウレール王自らが属国の王宮勤めの侍女の人事に口を出す。

 

 

 

 口さがない方々は、リーンハルト様が側室か愛人候補を連れて来てたとか無責任で無節操な悪口で盛り上がっていましたが……配下の女性関係に国王が口添えするなど有り得ないでしょう。

 

 そして、その理由は僅かな時を経て分かりました。彼女の有能さが表れる事により、リーンハルト様の人材発掘能力の高さが証明されました。

 

 属国で不遇な扱いを受けていたのに、エムデン王国に来て才能を十二分に発揮する事が出来た。エムデン王国の国益にもなり、リーンハルト様と共に評価を上げました。

 

 

 

 エムデン王国の王宮女傑四人衆と呼ばれるまでに、その有能さを成果を挙げる。とても喜ばしい事です。いえ、でした。

 

 

 

 その後、リーンハルト様の配下として数回の王命に同行し大いなる成果を挙げ続け、彼の腹心として片腕として存在感を大きくしていきました。

 

 影響力が高まれば、活躍の輝きが煌めき続ければ、そこに淀んだ闇が集まる。彼女の遠い親戚だと言って良くない者達が集まり始めました。

 

 天涯孤独の美しい淑女の遠縁とはいえ親族ともなれば、それが年長者であれば、一族に迎え入れるという事で言う事を聞かせられると考えたのでしょう。

 

 

 

 男尊女卑が遠因とは思いますが、女性が血族の年上の男性の意見を取り入れる事は無くはないです。本当に血族ならばですが……

 

 

 

 全員が偽物、リゼルの財産と身体を自由にしたいという下種な連中でした。エムデン王国にも、こんな連中が居る事に強い怒りと恥ずかしさを感じました。

 

 その時、普段は清廉潔白で慈悲深いリーンハルト様が親族を偽る連中に対して、普段の優しい態度とは考えられない程の苛烈な程の処罰を下しました。

 

 相手が謝罪しようが、賠償を申し出ようが全く相手にせず厳し過ぎる処罰を下しました。和解を促す仲介者も居ましたが、彼等にも厳しい態度で接しましたわ。

 

 

 

 何故、リーンハルト様が苛烈なまでの処罰を下したか?その理由は、ザスキア公爵様から聞きました。

 

 

 

 リゼルは有能さ故にバーリンゲン王国を絶対に裏切らせない為に家族を人質に取られていた。ですが、その家族はバーリンゲン王国の手によって既に事故死に偽装されて処分されていた。

 

 家族の為にバーリンゲン王国に縛られていて、しかも実際にはその家族も事故を装い殺されていた。そんな天涯孤独な、リゼルに家族と偽りにじり寄って来る連中。

 

 そんな連中をリーンハルト様は許さなかった。自分の対外的な評価を下げてまで、苛烈な処罰を下す。その大きな怒りは相手に、深い思いやりはリゼルに向けられました。

 

 

 

 それが殺したいほど憎らしく羨ましい。嫉妬で人が殺せるならば、思いで人を害せるならば、リゼルは何百回も死んでいるでしょう。呪術?呪い?そんなモノは知りません?

 

 

 

 ザスキア公爵は裏の事情をそれとなく広める事で、リーンハルト様のイメージダウンを最小限に抑えたのですが……当のリーンハルト様は全く構わないと言っていたそうです。

 

 アウレール王が人材不足で悩んでいる時に、王命として自分の腹心にと与えられたリゼルを不幸にする連中には微塵も同情も配慮も手加減すらしない。

 

 リーンハルト様にとって、リゼルはザスキア公爵と同じ位に大切な仲間で家族。そう、ザスキア公爵も、自分もリーンハルト様に家族認定されていると惚気てましたわ。

 

 

 

 公爵であり『新しい世界』の盟主たる、ザスキア御姉様ならば私達も我慢が出来ますし納得もギリギリ出来ます。圧倒的な身分差と財力、美貌は……僅差で負けているとは思います。

 

 しかし、屑国家の犠牲者ではありますが、ポッと出の女にリーンハルト様の心を奪われた事は我慢が出来ません。見た目やスタイルは同程度、身分も大差は無いですが、能力は完全に負け。

 

 故に必然的に敵対に近い対応をしてしまっても仕方が有りません。ザスキア公爵様と私達から、リーンハルト様を奪おうとする。『私が先に好きだったのに』ですかね?

 

 

 

 まぁそういう私は、リーンハルト様にとって知り合いの女性程度の認識でしょうが夢は見させて頂きたいのです。

 

 

 

 因みにですが、ネロは巻き込まれたくないと逃げました。あの女、リーンハルト様よりデオドラ男爵が良いとか真正の変態です。男らしさとか精悍さを通り越して野蛮で野獣ですよ。身なりの良い蛮族ですよ。

 

 脳筋でムキムキで会話が肉体言語とか、貴族の子女として生まれた私には縁の遠い殿方です。その野獣達に負けないのが、リーンハルト様なのです。

 

 知的なのに肉体は騎士の方々と遜色のない程度に鍛え上げられています。所謂『僕は脱ぐと凄いんです』系でしょうか?独立国家に単身で喧嘩が売れるのですから、完璧に守って貰える安心感。

 

 

 

 既に国家の重鎮、宮廷魔術師筆頭を約束されていますが、最年少宰相候補でもあり侯爵に叙される可能性も高い。彼の寵愛を得られれば一族の繁栄も約束されています。

 

 淑女が選ぶ理想の婚姻相手不動の一位、若くてハンサムで性格も良くて爵位も役職も財力も有る。リーンハルト様を狙わなくてどうするの?っていう程の相手ですが……

 

 現実は競争相手がエグ過ぎて躊躇してしまいますわ。既に近衛騎士団員の子女を中心とした側室予備軍がいて、本妻予定の方が運用しているらしいです。

 

 

 

 四十八人もいるらしいです。見目麗しい才媛が四十八人!エムデン王国の若く有能な未婚の淑女の殆ど全てでしょう。連携する彼女達と競う?無理です。

 

 

 

 急激な出世も大変ですわね。譜代の家臣団も居ないので、親族を抱き込んだり有能な者を集めたり。それでも普通は限界が有る筈で、そこに付け込む隙が有るのですが全くと言っていい程に有りません。

 

 側室や妾は絶対に無理です諦めます。それこそベロベロに酔わせて既成事実に持ち込めば僅かなチャンスは有りそうですが、未だ未成年なのにエムデン王国一番の酒豪という意味不明の称号を持っています。

 

 王家主催の舞踏会で並みいる酒豪を全員酔い潰しても大丈夫とか、少し考えても不思議ですわ。オリビアは上手くやりましたわね。専属侍女に指名されるなんて、どれだけの幸運だったのかしら。

 

 

 

 高嶺の花、私はそういう事なので見るだけで満足しましょう。 

 

 

 

 ですが、ネロは違う。見るだけでは満足出来ない事が有ると公言しています。デオドラ男爵の側室になれても絶対に諦めきれない事。そう、ネクタル。ネクタルは絶対にどうしても欲しいと言っています。

 

 あれも老いを気にする事は人並みな感性で持ち合わせていたのでしょう。だから絶対に、どこかでリーンハルト様に絡んでくる筈です。スプリト伯爵家が危機に陥る可能性も有る、劇薬が欲しいとか正気?

 

 私は絶対に邪魔をします。スプリト伯爵家の為に、余計な波風を立たせて欲しくない。無理をすれば、ザスキア公爵様も絶対に干渉してきます。だって配布元ですから、供給元への抜け駆けなど絶対に許しません。

 

 

 

 ええ、本音は一人だけ良い思いをする事など認められません。私達に協力しないのならば、私は絶対に邪魔をします。

 

 

 

 抜け駆け上等?ふふふ、面白い事を言いますわね。世界の秩序はそうして回っているのです。因果応報?自業自得?難しい言葉で誤魔化さずに言えば『羨ましく妬ましい』のです。

 

 

 

 女の醜い嫉妬心ですが何か問題でも?

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 タイロン嬢とサナッシュ嬢に良く分からない理由で絡まれている、リゼルが好戦的な笑みを浮かべたので大事になる前に肩を揉んでリラックスさせる。折角エムデン王国領に入った瞬間に味方から敵意を向けられるって何?

 

 リゼルはギフトで思考を読んでいるので、相手の思惑も丸分かりなのに何故か正面から受けて立つみたいな男らしい笑みを浮かべている。笑みって言う程、温かみは感じない。冷笑とも失笑とも違う。

 

 なんと表現するのが一番近いのだろうか?男らしい徴発の笑み?君は相手の思惑も全て分かった上で挑発してるよね?駄目だから止めなさい。

 

 

 

「バーレイ伯爵はリゼル女男爵と仲が良さそうだな」

 

 

 

 左手で目の間を揉みながら、スプリト伯爵が溜息を吐き出しながら言われた台詞に困惑する。アレ?上司と部下でも気軽に肩とか揉んじゃ駄目だったっけ?

 

 僕の認識が変なのか?軍隊ってこんな感じじゃなかったっけ?距離が近しいとか?うーん、これは僕が駄目な感じだろうか?単独や少数単位での行動が多くて、一般的な感性とのズレが生じてる?

 

 肩から手を離すと、リゼルが寂しそうな視線を向けて来た。アレ?僕は洗脳されてる?手を離した事を悪い事をしたという認識になっていいる。あれ、あれれ?

 

 

 

 深呼吸をして意識を落ち着かせる。うん、大丈夫。遠征部隊の指揮官から王宮勤めの政務官への切り替えは出来た。

 

 

 

「戦地にまで同行してくれる、信頼出来る部下です」

 

 

 

「うん、まぁアレだな。貴殿がそう言うなら、そうなのだろう」

 

 

 

 煮え切らない態度だが否定はされなかったので良しとしよう。この後、領主の館に招かれて晩餐会に招待される事になった。漸く、エムデン王国に帰ってこれた。

 

 これでハイゼルン砦の奪還から始まった、ウルム王国とバーリンゲン王国絡みの全てが終わった。二国を降し領土に加え大陸最大の国家となったが降した二国から戦力を引き抜けるのは数年後。

 

 これからは防衛と国内の発展が重点的になるので、戦争は暫くは無いだろう。まぁ相手が居るので宣戦布告されれば対応するしかないのだが、これ以上勝つのも問題になるとは、贅沢な悩みだな。

 

 

 

 でも暫くは落ち着ける。成人の儀を行い、ジゼル嬢を本妻に迎えて暫く待って……漸く、イルメラを娶る事が出来る。長かった、本当に長かったよ……

 

 

 

 

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