古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1041話

 エムデン王国領に到着し、スプリト伯爵の出迎えを受けて……出迎え時に少し問題は有ったが、漸く帰国したという気持ちが沸き上がった。

 

 地理的には既に接収した場所を移動して来た訳だが、やはり思い入れはソレスト平原迄が本来のエムデン王国領という感覚だな。

 

 差別とかじゃなくて、今後は此方の復興も分け隔てなく行うけど、所属する国家の国土への思い入れって人それぞれだけど……やはりね。

 

 

 

 元は属国の振りをした潜在的敵国であるバーリンゲン王国の領土。整備も不十分、要は荒廃している未整備の土地だから思い入れが絶無なんだよな。迷惑者の土地の好感度なんて殆ど無い。

 

 これから手を加えて愛着を沸かせていくしかないだろう。連中の殆どの土地はエルフ達の下で森林に変わり、残りはカシンチ族連合と魔牛族の居住区となる。要は生まれ変わる訳だな。

 

 今後はエルフ族との境界線として、大使館を設置し交渉の場として重きを置かれる事に……まぁエルフ族は殆ど人間族とは不干渉だし、寿命が極端に違う所為で時間の流れと言うか感じ方が違う。

 

 

 

 取決めをしてもスパンが百年単位とか普通だし、早急に締結したいと言っても人間の感性なら数日から数週間。連中の感覚だと数か月から数年、こんなギャップをどう解消していくのか?

 

 あと、彼等との定期的な交流の窓口が出来た訳だから……他国でのエルフ族との揉め事の解決に巻き込まれる可能性もゼロじゃない。交渉すら不可能と言われていたが、その前提を覆したのだから。

 

 既にエルフ族との取次を匂わせている外交官も居るらしいが、今のエムデン王国に無理強い出来る国は周辺にはない。三国分の力を得た大陸最大の国家なのだから。

 

 

 

 だが実際は新しく加わった領土の維持管理や、インフラ等の格差を無くす為に膨大な予算と労力が必要になっている。新しい領土から戦力を引き抜けるのは数年先だろうな。

 

 戦争は終わり内需の拡大に国政はシフトした。当然だが軍事予算は縮小されるが、治安維持で兵士達の仕事は増えないが減りもしない。だが予算は減らされるので、装備の更新とかは据え置きだ。

 

 今回の戦争で国家予算の二割近い出費が有り、復興支援で継続的に予算を食い潰す。整備した土地から収益が上がるのは数か月先、半年程度は予算は持ち出し。

 

 

 

 内政担当のニーレンス公爵と、その派閥構成貴族達が活躍する番だな。戦後は軍属の仕事は少ないというか縮小されるべきだし……

 

 

 

「でも何故か、軍属の僕にも内政の仕事が割と多く振られる。何故だ?」

 

 

 

「最年少宰相候補であり最年少侯爵予定という立場、現状でも国政の中心で政務にも明るいからでしょうね。ラビエル子爵達の活躍も素晴らしい成果と評価を受けていますし、その小派閥の長である貴方を遊ばせますか?」

 

 

 

 やれやれ、何を言っているのですか?的に言われた内容がエグ過ぎて心が萎える。

 

 

 

 懇親目的の晩餐会の前に、休息の為に用意された部屋のソファーで寛いで思いに耽っていたら、アインとツヴァイに持て成されているリゼルから酷い評価を言われた。何時の間にか向かい側に座ってるし、気付かなかったぞ。

 

 ボーッとソファーに横になって今後の事を考えていたら急に声を掛けられて驚いた。油断し過ぎた?と言うか最年少宰相候補ってガセネタ、未だ生きていたのか?笑い話の類と思って放置していたのが駄目だった?

 

 それに血筋の問題で侯爵にはなれないし、なりたいとも思わない。公爵は準王家扱いだが侯爵の役割や目的は国境地帯や重要拠点を管理し、国家の防衛や政治的安定を担う役職だったっけ?

 

 

 

「あれ?僕は伯爵なのに侯爵の職務に近い事をやらされている?いた?いやいやいや、最初の成り立ちはそうかもしれないけど、既に形骸化してるし?僕に当て嵌めるのも問題だよね?」

 

 

 

 血筋って割と大事だと思うんだよな。って言ったら、実績と能力と比べたら普通に負けますわって言われた。いや尊き血筋とか貴族的には重要じゃない?

 

 

 

「優雅に紅茶飲んでないでさ。何か良いアイデア無いかな?身の丈に合わない出世ってさ、周囲を含めて不幸にしかならなくない?」

 

 

 

 成人前の子供って訳じゃないけど、既に働いているけどさ。プライドの高い連中が根拠の無い反発をすると思うし、年功序列を跳び越すのも問題だと思うんだ。

 

 エムデン王国にだって、そういう連中は一定数いる。表面には出さないけど内面では反発している連中の炙り出しと懐柔って思った以上に面倒臭いし労力に見合った成果も少ない。

 

 安定期に入った今は程々が一番なんだ。無用な反発を招くような出世は不要だし、嬉しくもない。出世して嬉しいとか純真無垢な時代は終わって、今は権謀術数に備える時期だよ。

 

 

 

「つまり面倒臭いからヤダ!」

 

 

 

 ギフトで心の呟きを読んでいる、リゼルに思いを伝える。一応味方側の屋敷だけど、誰が聞いていて何処に話すか分からないからグレーな部分は発言しない。

 

 信賞必罰だからって言われると、成果に見合った報奨って意味では釣り合っているけどね。その辺は客観的にみて理解はするし、見合った評価をされない方が国益を損ねる。

 

 エムデン王国は、アウレール王は、頼んだ仕事に対して正当な評価をしない!なんて評価を周辺諸国が下せば、次の行動は引抜きと離反を促す工作がセットだよ。

 

 

 

 それは国が荒れる。最悪から数えた方が早い結末だ。どんな大国でも外敵に対して無敗でも、内部工作をされると案外脆いものだ。

 

 

 

「適材適所でしょうか?ですが、私達との時間が削られるのも困りますし……どうしましょう?」

 

 

 

「ザスキア公爵には、何となく相談出来ない。何となく肯定派みたいだから説得されそうな予感がする。貴族的には喜ばしい事だから間違いじゃないけど嬉しくはない」

 

 

 

 何となくだけど嫌だから断りたいと相談したら、逆に説得されてしまいそうな予感がする。僕に対して悪意は無いのだろうが、それ以外の思惑が有りそうで……

 

 根拠の無い勘でしかないが、こういう危険予知は無視すると後で絶対に後悔する。致命的とは言わないが、それに近い感じがする。うーん、まさかザスキア公爵が裏切るとは思えないけどね。

 

 何故か、心の奥がモヤモヤするしチクチクする。考え方の違いとか擦れ違いとか、そういう事なのだろうか?僕は貴族の常識が当て嵌まらないし、多分だが間違っているのは自分なのだろう。

 

 

 

 でも嫌なものは嫌だし、この感情を無視するのも危険だ。

 

 

 

 国家の防衛はそのまま、重要拠点の管理は今後のエルフ族との交渉の起点となるフルフの街に築いた大使館の管理責任者だった。政治的安定には微妙だが貢献はしている。

 

 エムデン王国には辺境伯と言う爵位を授かった貴族は居ない。その役目は中央から独立した地方長官みたいな扱いで、エムデン王国には中央から直接管理出来ない地方は無い。いや無かった。

 

 今後はどうだ?旧ウルム王国領の端部はエムデン王国の王都から物理的に離れているので、国境付近で問題が起こった場合に中央に伺いを立てていたら対応が遅れてしまう。

 

 

 

 辺境という程の場所でもないので語弊は有るけど、旧ウルム王国領とか此処とか、誰かが辺境伯に叙されて管理する可能性も有り?公爵と伯爵の中間位、つまり侯爵扱いという訳になる?

 

 

 

「アレ?アレレ?可能性が皆無どころか、絶妙に条件に当て嵌まってない?これ不味くない?」

 

 

 

 思わず頭を抱えて蹲ってしまう。不味い、予め仕込まれたみたいに一本道を真っ直ぐ進んでいる感覚に陥る。ゴールは出世という薔薇色の檻の中に向かって真っ直ぐに……

 

 考えれば考える程、泥沼に嵌っていく感覚がする。此処に来て最大の危険を感じるのは何故だろう?ハッピーエンドに向かっている筈なのに微妙にハッピーじゃないエンドに向かっている。

 

 戦争も終わり、エルフ族との交渉も纏まりつつある。既に帰国し王都に向かうだけの状況なのに何故?

 

 

 

 孤児の母の息子である血筋の悪さという欠点が、それを上回る成果によって打ち消されている。血筋の悪さを理由に異を唱える事は可能だが、結果に対して異を唱える事は難しい。

 

 殆どが王命、結果も満点に近い。なのに成果に対した報酬を血筋という本人がどうにもできない理由で却下する。信賞必罰の観点から言えば、間違いでしかない。

 

 こんな事が罷り通れば、どんなに努力し結果を出しても無駄という事になる。僕は別に宰相にも侯爵にもなりたくはないが、周囲が許さないだろう。

 

 

 

 善意に敷き詰められた嬉しくない出世街道を進む事になってないか?本人の意思など関係無く、一般的に出世は喜ばしい事だからとか?いやいやいや、嫌だぞ、仕事に追われる人生なんて!

 

 国家に縛り付けられる権力や財力は有れども、自由の無い未来など御免だぞ。自由を望んで、ある程度の自由を手放して権力を掴んだつもりなのに、ドップリと権力者側に取り込まれている。

 

 幸せか?このまま流されて望んでない出世をして国家の中枢に組み込まれて使い潰されはしないが、酷使されて幸せなのか?これが自分が望んだ未来なのか? 

 

 

 

「まさに条件に合致しましたわ。アウレール王はサリアリス様の引退に併せて、宮廷魔術師筆頭への就任と宰相への就任と侯爵への陞爵を目論んでいます」

 

 

 

 仮にも仕えし国王に対して目論んでいるは無いぞ。正確には悪巧みじゃない、正当な評価という名の信賞必罰。だけど国益も絡んでいる。一般的には良い事だとは思うが、僕にとっては悪い事でしかない。

 

 

 

「ははははは、急激な出世なんて要らないよ。僕を臣下のトップに据えようとしないで!適材適所と言えば聞こえは良いけど、それは自由と引き換えにしたもので臨んだ未来じゃない」

 

 

 

「では逃げますか?貴方と私達ならば、何処へでも行けますわ。ですが、今後のエルフ族との交渉は不可能となります。良くて不可侵、ですが周辺諸国はエムデン王国を防波堤として期待していたので納得はしないでしょうね」

 

 

 

 嗚呼、そうなんだ。クロレス殿達との関係が壊れてしまう。それは僕に取っても嬉しくないし、そんな裏切り行為に近い事は出来ない。だが、だけど……

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