古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1042話

 スプリト伯爵一族との懇親晩餐会、同じ伯爵だし敵対派閥でもなく任務中なので本来の晩餐会形式より略式化しているので気楽な夕食会程度になっている。

 

 そもそもスプリト伯爵の領地を通過する際に一晩の宿を求め、懇親の為に夕食に招待されたのだが立場や爵位や任務中という事で友人を夕食に招いたという体裁は駄目らしい。

 

 王命を達成し王都に帰還する軍属の爵位持ち指揮官を招く。領主としても体裁は整えないと駄目なのは理解出来るし、知らない仲でもないので晩餐会に招待された体裁にした。

 

 

 

 ザスキア公爵の派閥の中でも武力派であり仮想敵国との領土の境界に配されるだけあり有能なのは知っている。そして苦労人なのも知っている。一族に癖のある連中が多いから……

 

 

 

「今日は、ネロ殿の姿が見えませんが?」

 

 

 

 スプリト伯爵の一族の中で軍事の要で有能なのだが、一番の癖の強い問題児が居ない。立場的には絶対参加な筈なのに?

 

 

 

 一応格式ばった挨拶の後で雑談に入る。僕側の参加者は女男爵位を持つリゼル、スプリト伯爵側が伯爵本人とタイロン嬢とサナッシュ嬢。合計五人で向かい合う形で座っている。

 

 何時もは軍事関連の長であり、№2のネロ殿が参加するのだが……此処に来てから姿を見ていない。タイロン嬢達に聞いても曖昧な笑みを浮かべるだけで、はぐらかされている。

 

 特に悲壮感も無いので怪我や体調不良とかでもなさそうなのだが、教えて貰えないのが気になる。リゼルは苦笑して『気にしないで下さい』って言うだけだし。

 

 

 

 何故か、リゼルとタイロン嬢とサナッシュ嬢は仲良くなっている。最初は反発していたのに、いや一方的に嫌味を言われてた?のに、今では普通に雑談しているのが不思議だ。

 

 アレは上辺だけの関係ではなく、本当に打ち解けている感じがする。貴族令嬢って幾つもの仮面を被っているし、幾らでも表情を取り繕える者達が居る。

 

 勿論だが、有能な令嬢達に限るが三人はその有能なという条件に当て嵌まる。でも取り繕っている感じも仮面を被っている感じもしない、友人というよりは仲間みたいな……

 

 

 

 僅かな時間に何が有ったのだろう?友情に目覚めた?ないな。では利害で結び付いた?それっぽいが、利害って何だろう?

 

 

 

「ああ、ネロか?ネロはな。その……なんだ。あー何といえば良いかと言えば……」

 

 

 

 しどろもどろに答え辛そうなのだが、そんなに大事になっているのか?一族の当主を困らせる程の問題とは何だろう?

 

 

 

「ネロは悪癖の発作が酷いので、私達が沈静化させて軟禁しています」

 

 

 

「本当に、自制心が無くなったというか何と言うか困ります」

 

 

 

 ニヤリと男らしい笑みを浮かべた。そして、その様子を見たリゼルが僅かに頷いた。つまり、和解した理由が此処に有る?

 

 

 

 代わりに、タイロン嬢達が答えてくれたけど、悪癖の発作?悪癖といえば、異性の好みがデオドラ男爵という野獣大好きの特殊性癖の持ち主だったな。

 

 その彼女の発作が酷いって、好みの紳士(野獣)に熱烈アプローチを仕掛けようとして止められたのか?相手に家格とか派閥とか相容れない問題が有るから強制的に軟禁した?

 

 うーん、それはスプリト伯爵も言葉を濁すよな。色事絡みは家の恥に繋がる場合も有るから、スプリト伯爵としても教えたくないし、出来れば内々に済ませたいか……

 

 

 

「そうですか。深く聞くつもりもないので、この話題は止めましょう」

 

 

 

 変態性癖異常者の身内の苦労は身に染みて分かっているので細かく聞く事はしない。身内の恥は家長として辛い事だし、僕もインゴの件で苦労しているから分かる。

 

 思わず生暖かい目で見てしまい、スプリト伯爵がバツが悪そうに眼を逸らした。うん、自分の事じゃないのに下半身事情での問題を解決しなきゃ駄目って嫌だよね。

 

 苦労に見合う対価も成果も無いし、得られるものは恥ずかしい身内の排除だけ。しかもネロ嬢はスプリト伯爵家の軍事部門の要、改心されないと国防に穴が開く程の大問題だよ。

 

 

 

 晩餐会が始まり、料理が配られる。今日のホストはスプリト伯爵だが、余り会話が弾まない。僕達の王命の成果に対する祝福が主なのだが、心配事が大き過ぎて気が回らないのだろうな。

 

 その辺は主賓の手腕が問われる事になるので、ネロ殿の話題を避けて僕の不在時の事を聞いて話を広げる。知らない事は大袈裟に驚いて、知ってる事は突っ込んで細かく聞き出す。

 

 話ながら、周囲の参加者の料理の食べ進め具合を確認し、自分も合せて食べ終わる様にする。ある程度のタイミングで扉に控えるメイドに視線を向ければ、新しい料理が運び込まれる。

 

 

 

 普段は主賓に気を遣わせることなどしない、スプリト伯爵が出来ないとなると……結構深刻で根深い問題なのだろうな。

 

 

 

 その解消は、野獣という紳士を紹介して結ばれる事だけど、彼女が好むのはデオドラ男爵級だとエムデン王国でも両手で数えられる。そして殆どが年上の既婚者。その領域に踏み込めるだけの研鑽に時間が掛かるから仕方ない。

 

 条件が厳し過ぎて大変だな。アレか?ニーレンス公爵の実子だけど、レディセンス殿ならギリギリ条件に合うかな?でもニーレンス公爵の実子がザスキア公爵の派閥構成貴族から嫁を貰う?

 

 うーん、問題が今考えるだけでも片手位は有るな。この案は却下、だけど他の候補者って……直ぐには思いつかない。ライル団長達は候補から外すと、本当に独身で若いと言う条件だと難しい。

 

 

 

 僕は武闘派の連中とは仲が良いつもりだけど、全員が父親世代で結婚適齢期の同性の友人が極端に少ないんよな。彼等も娘は紹介しても息子は紹介してくれないので余計にだよ。

 

 絶対に息子には合わせてくれない、彼等の屋敷を訪ねても不在。同居せずに独立している事も有るとは思うが、同世代って事は未成年も含まれるのに不在。

 

 いや、居るよね?気配はするんだ。しかし紹介してくれる令嬢達に兄弟の件を聞いてもはぐらかされる、持て成してくれる両親達を見ても曖昧な笑みを浮かべているだけだし。

 

 

 

 ならば訓練の時に見習いとして参加している連中の様子を見ようと訓練場に行った場合、会えることは会えるのだが声を掛けようとすると怯えたように礼儀正しく挨拶だけして去ってしまう。

 

 少し前なら敵愾心たっぷりで挑むような視線を向けてくれたのだが、今は怯えというか避けられていると言うか何とも微妙な扱いをされている。

 

 少し前にレディセンス殿に同世代の同性を紹介して欲しいと言ったら、両手で肩を掴まれて前後に揺すられて『お前、俺にそんな酷い事を言うなよな!』って本気で懇願された。

 

 

 

 自分で考えてて悲しくなってきた。

 

 

 

「そうして貰えると助かる。まぁ暫くすれば落ち着く筈だ、落ち着くだろう。うん、大丈夫だ」

 

 

 

 ネロ殿は有能だし、自分で何処かで折り合いを付けられる筈だ。漢と違って物理的に相手をどうこう出来るわけじゃない。具体的には夜這いとか相手の屋敷に潜り込む猛者(愚か者)も居る。

 

 酷い場合は相手の屋敷の使用人を買収して手引きさせるとか、犯罪行為も行う。まぁ大抵は爵位の低い相手に対してで、身分上位者にそんな事をすれば現行犯で取り押さえられ切り捨てられても文句は言えない。

 

 後日発覚した場合、知らぬ存ぜぬで逃げ切れるかと言えば難しい。相手も自分の娘が傷物にされて黙ってなどいない。もし、その令嬢に婚約者や許嫁が居れば……秘密裏に暗殺位はする。

 

 

 

 僕もイルメラ達に不埒な真似をする奴が居れば、物理的に首を切る。

 

 

 

「そうですね。物理的に距離を置く事をお勧めします」

 

 

 

 そういう状況を理解している筈だから、少し軟禁して気持ちを落ち着かせれば……自分の置かれた位置を再考する事が出来れば大丈夫の筈だ。色恋沙汰は時間が経てば少しは……

 

 

 

「なので申し訳ないが、早い旅立ちを希望する」

 

 

 

 あれ?僕?ネロ殿の好みに全く合致していない筈だが?もしかして、ネロ殿は筋肉愛好家から少年性愛者に鞍替えしたの?

 

 リゼルを見れば、両手の人差し指で額の左右をグリグリと揉んでいる。その様子を見れば、ネロ殿の性愛対象が筋肉から少年に変異した事が伺える。

 

 嘘だろ?まさか、自分がネロ殿に狙われていて夜這いを防止する為に物理的に軟禁したって事なのか?あれか、『新しい世界』の誘惑に負けたのか?

 

 

 

 アレは筋肉愛好家を年下趣味に変えるだけの威力が有るのか?

 

 

 

 思わずナイフとフォークを落としそうになり、慌てて握り直す。晩餐会で食器を鳴らすとかマナー違反の初歩の初歩だが、それだけ動揺してしまった。

 

 一時期は落ち着いていた。『盟主様の想い人には手を出しません』とか『自殺希望者でも破滅主義者でも有りません』とか謎の言葉で避けられていたので気が楽だったのに、ネロ殿に何が有った?

 

 聞きたいけど、これ以上は聞かないと言ってしまった以上は聞けない。こんな勘違いをしてしまうなんて、筋金入りの筋肉愛好家だと思っていたのに酷い詐欺に合った気分だ。

 

 

 

「警備の整った客室で休んだ後に、明日の朝一番で王都に向かいます」

 

 

 

 アイン達に警備を頼んで、扉や窓には固定化の魔法を重ね掛けして何なら客室の真ん中に鋼鉄製のドームを錬金して防御を固めれば良い。流石に今から出発するのは、問題になる。

 

 急ぐ理由も無しに歓待してくれた、領主の館に泊まらずに深夜に出立などすれば、対応が気に入らなかったとか言われても反論出来無い。まさか『貞操の危険を感じたので逃げました』とは言えない。

 

 言えば言ったで別の意味で大問題で大炎上だよ。インゴの時より大騒ぎになる。僕とスプリト伯爵が正式に敵対したって事になり、王都の貴族院が出張ってくる程の大事になるよな。

 

 

 

「ああ、見送りは私だけになるが、許してくれ。ネロはアレで有能なのでな。タイロンやサナッシュのギフトを信用していない訳ではないが、何かあったら身の破滅なのだ」

 

 

 

 お互いにね。下手をすれば、ザスキア公爵の派閥構成貴族と事を構えるみたいな扱いになり、ニーレンス公爵やローラン公爵も静観など出来ずに……話し合い?いや、どうなるか分からない。

 

 折角公爵三家が纏まり国政が上手く回っているのに利権にあぶれた連中が、この問題を騒ぎ立てて引っ掻き回す未来しか見えない。正論を言っている様な態度で公爵三家の関係に罅を入れたいんだ。

 

 それがエムデン王国の国益を大きく損なう事などお構いなし、最悪は王族の誰かを巻き込んで調停と言う名の干渉をしてくる。そうなれば、エムデン王国を捨てて皆を連れて隠棲する選択肢もゼロじゃない。

 

 

 

 自分達の幸せの為に頑張っているのに、自分達の都合で不幸にしようとするならば……敵対者を全て殲滅して後腐れ無くしてから逃げるのも悪くはないな。なにより自由だし……

 

 

 

「勿論です。手厚い対応に感謝しか有りません」

 

 

 

 問題を起こされる前に逃げ出そう。大丈夫、今後の移動はエルフの聖樹を利用させて貰えば解決だ。本質的な解決にはならないが、僕以外の性欲をぶつけられる対象者を合意の上で探して貰えば良い。

 

 うーん、もしかして僕に同世代の同性を会わせてくれない原因の一つって、『新しい世界』の淑女達を嗾ける原因の一部だから?

 

 

 

「本当に何でこんな事になったのやら……神の摂理に逆らって若返りたいなど……」

 

 

 

 あ?不味い。そっちか。配布元のザスキア公爵に交渉は無理だから、供給元として疑われている僕の方に接触を試みて取り押さえられたって感じか?

 

 それは、スプリト伯爵が胃を痛めるのも理解出来るし、阻止しようとしたタイロン嬢達とリゼルが連携するのも納得だ。僕にネクタルを寄越せって迫ってきたら、別の意味で大炎上不可避だ。

 

 チラリと盗み見た、スプリト伯爵の恨めしそうな顔を見て軽く頭を下げる。ですが、文句は配布元に言って欲しいのですが……

 

 

 

 まぁ自分の所属する派閥の当主には言えないだろうな。

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