古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1044話

 驚くべき事は、若さに対する女性の執念とでも言うのだろうか?スプリト伯爵の館から王都に向かおうとした瞬間、恐ろしい叫び声が聞こえた。地の底から響く様な咆哮、間違いなくネロ殿だろう。

 

 簡単には王都に向かえないだろうとは、嫌々ながらも予想はしていたが……タイロン嬢達のギフトの拘束を自力で解くだけの執念をネロ殿は供えていた。だが、それだけだ。

 

 流石に身体能力まで増加はしない、スプリト伯爵の私兵達が拘束する筈だ。僕に絡んできたら最悪は、スプリト伯爵家と一族が無くなる可能性すらある。だから必死に取り押さえるだろう。

 

 

 

 流石に高価で希少なポーションである『ネクタル』を当主の意向を無視して強請ってきたとか問題になる。配下の統制不備と身分上位者への無礼な行為、それと完了報告をしてないから王命の最中に妨害となる。

 

 

 

「リーンハルト様、早めに移動した方が宜しいかと思いますわ」

 

 

 

 聞こえて来る音は未だ小さいが、無視出来る音量でもない。スプリト伯爵もソワソワしだした。

 

 

 

「うん、そうだね。賑やかになって来たし、邪魔にならない内に早々に出発しようか」

 

 

 

 その場で警戒していたが、リゼルは早く移動しろと言って服の袖を引いた。用意して貰った馬車に乗り込まずに馬ゴーレムを錬金して先に乗り込み、リゼルを前に引き上げて二人乗りにする。

 

 館内の騒がしい音が段々と近付いているし、ガラスか何かの破壊音も聞こえる。つまり、ネロ殿が取合さえようとしている連中と争いながら近付いている証拠。もしかして協力者とかもいるのか?

 

 金属のぶつかり合う音はしないので、武器を用いての交戦は無さそうなのが救いか?スプリト伯爵の顔色が青から白に変わっていく瞬間を見てしまった。スプリト伯爵も万が一の可能性に辿り着いたのか?

 

 

 

 それ位の準備はしそうな有能令嬢だし、スプリト伯爵の軍事面の要ならば彼女に心酔している者も居るかもしれない。脱出の手引きも可能ならば、僕への接触も段取りも既に済んでいると考えるべきか?

 

 そう思った瞬間、危険を感じて馬ゴーレムに走り出す様に指示を出す。僕の危険察知能力や危機管理能力が低い訳じゃないのだが、悠長に構え過ぎたか?

 

 ここはスプリト伯爵領だが、ネロ殿の本拠地でもある。当主と彼女の影響力が、何方が大きいかは分からない。スプリト伯爵が優勢かもしれないが、ネロ殿の信奉者がゼロな訳が無い。

 

 

 

 ここの人達で誰が何方の味方かなど、僕には分からない。故にスプリト伯爵やタイロン嬢とサナッシュ嬢以外を疑った方が良い。

 

 

 

「スプリト伯爵、これにて失礼します」

 

 

 

「おっああ、急かすようで申し訳ない」

 

 

 

 礼儀的に一声掛けて走り出す。その姿を見た、御者の残念そうな顔をみて確信した。彼もネロ殿の協力者だろう。御者が味方ならば、移動速度を落としたり出来るし、そもそも合流地点にでも連れてかれそうだ。

 

 リゼルが『良く気付きましたわね』と振り返って微笑みながら言ったけど、分かってたならば素直に教えて欲しかった。リゼルなりの考えは有るとは思うが、ネロ殿の排除の方に傾いていたらさ。

 

 御者という証拠を確保した上で、ネロ殿を追い込む可能性がゼロじゃないんだよ。僕もだが、敵対したり迷惑を掛ける連中に慈悲とか与える訳が無いんだよね。敵は例外なく潰す事は基本だよ。

 

 

 

 特にリゼルは『新しき世界』の連中とは友好的じゃないので、不安と言うか心配になる。何故かザスキア公爵とは協力者扱いだから、仲間とも微妙に違うらしい。

 

 

 

 全力で走り出した数秒後、扉の開く大きな音がしたが振り返らない。直接見てしまっては、スプリト伯爵の言い訳というか報告と齟齬が出るかもしれないので馬ゴーレムに乗った後の事は関与しない。

 

 僕は王都に早く帰りたかったので善意で用意してくれた、スプリト伯爵の馬車に乗らずに自分で錬金した馬ゴーレムに乗って移動した。この事実だけが有れば良いんだ。好意を王命優先で快適だけど遅い馬車を断った。

 

 後の事は関与しないというか知らないし、知りたくもない。スプリト伯爵やタイロン嬢達が何とかするだろう。だからザスキア公爵にも何も言わないし聞かない。この話は此処でお終いだ。

 

 

 

「それで良いと思いますわ。ネロさんの気持ちは痛い程理解出来ますが、状況を理解出来てないのが致命的ですわ」

 

 

 

 老いを駆逐した『新しい世界』の信奉者達、だがその代償は少年愛とか年下趣味とか最悪だ。何故、そうなった?誰がそうした?いや、まぁ原因というか元凶は分かるけどさ。

 

 

 

「大事になる前に物理的に接触を断った。追って来る事は無いとは思うが、そのまま何も手を打たないとも思えない。なるべく距離を稼ごう」

 

 

 

 馬ゴーレムに指示をだし全力で走らせる。仮にネロ殿が馬車や軍馬で追いかけて来ても逃げ切れる。感知魔法で後方を窺うが追跡者は居ない。だが王都へのルートは限られているので、追跡は可能だ。

 

 

 

「ふむ、もう少し進んだら街道から逸れて進もうか。ネロ殿の事だから街道筋は予測していて、対策済みだと思うんだ」

 

 

 

 軟禁される前に時間も有ったので準備は可能だろう。軍師的な立ち位置だったし、根回しは得意だろうし。あと策略とか罠とか好きそうだし。

 

 

 

「足止めですか?立場や身分差でそれは無理では?」

 

 

 

 振り返って答えてくれたが、顔が近いよ!それに騎乗中は上下に身体が揺れるから、接触しそうで危険だよ。思わず身体を少し後ろに逸らす。

 

 その態度が気に入らなかったのか、少し強めな視線で睨まれたが……不慮の事故接触とか、可能性が低くないから当然の対応だよ。

 

 ギフトで心を読んでいるのだろう、溜息を吐いた後で前を向いてくれた。しかし妨害工作といっても……

 

 

 

「普通に考えたら時間稼ぎの足止めも無理だよな。物理的な拘束など不可能だけど精神的に追い込むとか、譲らないと可哀そうな気分にさせるとか?うーん、無理が有るな」

 

 

 

 自分で考えても無理が合った。老いが嫌なのは淑女にとって共通の問題だろうし、それをネロ殿だけ可哀そうだからネクタルを融通してあげて欲しいはね。

 

 願いは皆さん一緒だからね。ザスキア公爵に相談してくれっていうしかない。ネロ殿はスプリト伯爵の派閥構成貴族だから敵対もしてないし仲間だから入信は難しくない。

 

 性癖の趣旨替えさえ飲み込めば可能だろう。いや、厳しい審査とか有るんだっけ?まぁ深く考えると負けっぽいので気持ちを切り替えよう。

 

 

 

 馬ゴーレムのスピードを緩やかに下げる。急激な減速は落馬の可能性が有るからね。僕の魔法障壁も衝撃は通るから、落馬して受け身を失敗すれば大怪我も有り得る。

 

 魔法障壁の課題というか、改善の方法が難しい。要は丸くて固い球なので、相応の力を加えれば踏ん張れずに動いてしまう。取り合えず、黒縄(こくじょう)をアンカーの様に足元に打ち込んで抵抗する。

 

 それ位しか対応策が無い。ゴーレムルークに棍棒を持たせてフルスイングで引っ叩けば、遠くに飛ばされて着地の衝撃で全身打撲とか有り得そうだな。

 

 

 

「止まったりして何か気になる事でも有りましたか?」

 

 

 

 ああ、うん。魔法障壁の弱点について考察していたとは言えないな。つい余計な事を考えてしまうのは、魔術師の性というか何と言うか……

 

 

 

「うん、街道を逸れるので馬ゴーレムでの移動は終わりだよ」

 

 

 

 先に馬ゴーレムを降りてから、リゼルが降りるのを手伝う。生身の馬には不可能な足を折り畳んで低くする事も可能だけど興ざめなのでしない。やはり本物の馬と同じ行動をしなきゃ駄目だよね。

 

 その気になれば、馬ゴーレムの胴体部分を椅子状にして安定を向上させる事も考えたけど違和感が物凄くて止めたんだ。アレは足の生えた馬車というか、生理的に嫌悪感が生まれる不思議な物だった。

 

 馬と馬車を掛け合わせたキメラ?バルバドス師もキメラを好んで錬金していたけど、生物と無機物の掛け合わせはしてなかった様な?

 

 

 

 まぁキメラも生命の禁忌と言う意味では大概だけど、錬金製で生身じゃないからセーフ。

 

 

 

「此処からはゴーレムキングで街道を逸れて移動する。ネロ殿も街道は抑えられても、その他の場所は広すぎて無理だろうからね」

 

 

 

 少し離れてゴーレムキングを身に纏う。自分が胴体部分に座る形で納まるので、全長4.5m程の金属性の鎧兜を着込んだ巨人に見えるだろう。遠目だと全身鎧を着込んだオーガ?

 

 人としては有り得ない大きさだからね。オークよりもスタイリッシュでトロールよりは小さい。新手のモンスターと勘違いされても仕方ないのだが、視覚的な威圧感は満点だろう。

 

 転生前の戦場でも無言兵団を率いて居た時に、二回りも大きいゴーレムキングは恐怖の象徴として機能していた。だから恐れられて、実の親から排除されたんだけどね。

 

 

 

「着込むゴーレムですね。でもどうやって、私を運ぶので……きゃぁ!」

 

 

 

 リゼルをお姫様抱っこする。直接触ってないからセーフだし、小麦袋みたいな感じで肩に担がれるよりは万倍もマシだろう。失敗だったのは、先に声を掛けなかった事だろうか?

 

 

 

「憧れていた、お姫様抱っこの初体験が厳ついゴーレムさんとは、全く何を考えているのですか?私の憧れと純情を返して下さい」

 

 

 

 プンスコ怒る、リゼルさんを宥めすかして何とか迅速に移動し追っ手や待ち受ける者達を躱す為と納得して貰うのに十分ほど時間が掛かった。今後は迂闊な事はしないと心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 風の様に流れる景色、頬に当たる強めの風、それでいて埃っぽくはなく爽快感すら有ります。鋼鉄製の腕に抱かれているのに不思議と伝わらない振動、快適な移動方法ですわ。

 

 見上げると胴体部分に収まっている、リーンハルト様の真剣な顔が覗き窓から見えます。巨大なゴーレムの中に納まって操作する、ゴーレム道の秘奥義。

 

 エムデン王国の武の重鎮と言われる、ライル団長やデオドラ男爵達と魔術師でありながら接近戦でも負けないという驚くべき性能。移動するだけでも、その性能の良さに驚かされます。

 

 

 

 両手が塞がっているので走るだけかと思えば、肩からウネウネと蠢く黒縄(こくじょう)を操作し木の枝に絡ませたと思えば伸縮を利用して自身の身体を引っ張り上げたりとやりたい放題です。

 

 確かに凹凸の有る大地や林の中を高速で潜り抜けるというかすり抜けるというか、前に妖狼族の方々が荒野を走って移動する姿を見た事があり驚きましたが……

 

 今回は更に驚きました。これも、リーンハルト様のいう『ゴーレム道』を極めるという事なのでしょうか?多分ですが、他の誰も真似出来ないと思います。

 

 

 

 この殿方は、本当は古代の偉大なる魔術師である『ゴーレムマスター・ツアイツ卿』の生まれ変わりなのではないでしょうか?

 

 バーリンゲン王国にも土属性魔術師は僅かながらも居ましたし、エムデン王国に移籍してからは多くの土属性魔術師の方々を見る機会は有りました。

 

 ですが、どの方々も理解の及ぶ範疇での錬金や魔法でした。『何となく出来ない事も無いだろう』の範疇なのに、この殿方ときたら他人に伝えても『噓でしょ!』とバッサリ切られる内容です。

 

 

 

 まぁこれが『大陸最強の土属性魔術師』と言われる、リーンハルト様なのですが……知ってます?この方、未だ成人式を済ませてない十五歳ですよ。

 

 

 

「ん?なに?」

 

 

 

 ジッと見詰めていたので視線に気付いたのでしょう。微笑みながら何かと聞いて来ましたが『貴方の異常性を真剣に悩んでいます』とは言えないです。

 

 それを言えば貴方が傷付くのを理解していますから……異常な能力の高さを見せ付けているのに、その本人の感性が常人と同じとか笑いが堪えられません。

 

 普通ならば増長したりするのに、全くその様な感じがしません。貴方よりも魔法に精通してるのはエルフ族の方々くらいですが、自分よりも上の連中が居るからとか考えているのでしょうね。

 

 

 

 そんな異常なのに普通と思っている、貴方が好きですわ。

 

 

 

 

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