古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1046話

 人知れずの大移動、だが終点である王都に入るのに違法行為は出来ない。僕は王都では有名人なので、素顔を晒して馬ゴーレムで二人乗りは要らぬ騒動を起こすから却下。

 

 では馬ゴーレムに馬車を引かせて、リゼルが御者をすれば?馬ゴーレムの時点で誰が乗っているかバレバレなので、偽装工作をするしかない。ゴーレムポーンに御者をさせる事も考えたけれど……

 

 ゴーレムポーンもアウレール王の凱旋時に大量に錬金して交通誘導で使役したから、王都の連中には見慣れたゴーレムとなっているんだ。王都の鍛冶ギルド本部の連中もじっくり観察していたと言ってたし。

 

 

 

 なので近隣の領主、つまり自分の親族が治める領地に立ち寄る事にした。

 

 

 

「ここがリーンハルト様の、お爺様の領地ですか。何と言うか活気が有って良い街ですわね」

 

 

 

 身なりの良い男女が二人、城塞都市でもないので城壁も防壁も無い普通の王都周辺の街なので歩いて普通に街に入る事が出来た。一応警備兵も居るのだが、僕を認識した時点で硬直してしまった。

 

 ぎこちない動きで警備兵詰め所に通されたので理由を説明、領主の館に伝令を走らせるので此処で待機して欲しいと懇願されたので素直に了承し、2階の貴賓室に通された。

 

 此処は突発的にやってきた偉い人用の対応で使う、まぁ困った連中用の部屋でも有る。自分も今回は困った連中と同じという自覚が有るが、王都で騒ぎを起こすよりはマシだろう。

 

 

 

「言葉を選んでくれて嬉しいけどさ。活気というか、殺気立ってないか?」

 

 

 

 数人単位の完全武装した兵士が通り過ぎるのを数組ほど見たが、その表情はどれも厳しい。ここは王都に近く比較的に治安の良い領地の筈だが、盗賊でも現れたのだろうか?

 

 いや、何方かと言えば街の外を警戒というか街の中を巡回警備しているような……不審者程度では完全武装はしない。捜索中心ならば機動力を損ねる重武装は控える。

 

 完全武装というのは、敵が明確化していて反撃の可能性も高いという解釈も成り立つ。お爺様の領地で、何かが起こっている?

 

 

 

「亡国の困った人達が、モア教の教会に保護を求めたみたいですね。彼等流の方法で求めたので、モア教関係者は危機感を覚えて拒否。という流れみたいですわ」

 

 

 

 街の住人や兵士達の思考を遠隔で読んだのだろう。認めたくない最低最悪の情報を教えて貰った。というか、お爺様の領地に厄介者達が居た事が驚きだ。アイツ等って何処にでも潜んでいるのか?

 

 

 

「でも、それって……」

 

 

 

 窓の外を見下ろして更に情報収集を続けている、リゼルが詳しい実情を教えてくれた。道行く人々の思考を読んで情報を纏めてくれたのだろう。物凄く有能で助かるのだが、防諜対策が全く機能しないって酷いよ。

 

 モア教はバーリンゲン王国を見限って国外退去した。それは彼等がモア教の教義を守らないから破門したんだ。破門された後に上から目線で保護を求めた上に、武力までチラつかせただと!

 

 あとで教会に行って安全確認をしないと駄目だな。世話になっている、シモンズ司祭達の安否が気になる。もしも彼等に危害を加えていたら、犯人の捕縛に協力するのも吝かでない。いや、率先して捕まえるぞ。

 

 

 

「周辺諸国に潜んでいた連中が危機感を感じて活発に動き出しているのでしょう。ですが対策がお粗末というか何と言うか、祖国が残って居れば通用したのかもしれませんが……今の状況は後ろ盾のない難民でしかありません」

 

 

 

 吐き捨てる様に言ったのは、最悪の状況になっても変わらない腐った性根を感じたからだろうな。本当に、何故あんな連中が量産されたのか疑問だよ。責任の一端は、エムデン王国の前王にも有ると言えば有る。

 

 甘やかし過ぎたというか何と言うか、善性だったのだろうが自国を犠牲にしてまで他国を優先する意味が分からない。施政者なのだから自国優先が正解、人道主義も結構だが行き過ぎれば害悪でしかない。

 

 友愛を是とするモア教が撤退した事を考えれば、誰でもなんとなく更生不可な連中だと理解出来ると思う。実際、モア教の関係者に危害を加えた事を考えれば、殲滅しても殆ど文句は出ないだろう。

 

 

 

 逆に施政者が放置した場合の、信徒にとって信仰を穢されたと感じて敵意が施政者側にも向いてしまう。それは本当に困るんだ。

 

 

 

「まぁそういう方向になる様に動いたからね。奴等は殲滅する、何処に居ても逃げても必ず追い詰めて殲滅する」

 

 

 

「そうですわね。国家の方針の通り、彼等には滅んで貰いましょう」

 

 

 

 リゼルから何とも形容し難いドス黒い悪意が滲み出ている。言葉には出さないが、彼女もバーリンゲン王国に騙されていた被害者だ。国益の為に隷属させられ家族を人質に取られていた。

 

 家族の為に働かされていたのに、その家族はとっくに事故に見せかけて殺されていたという。その恨みを晴らす事は正しい行いとは言えないが、悪ではない。

 

 被害者が前向きに生きる為に、加害者に見合った罰を求めるのは正しい。加害者の人権とか更生とか情状酌量がどうだとか、もっと被害者に寄り添えよ。加害者の事なんて考慮しないしする必要も無い。

 

 

 

 全く無いよ。

 

 

 

「そう言って頂けると安心します」

 

 

 

 大元は断ちつつあるけど、各国に散った連中が騒ぎ始めたって事だな。周辺諸国にも、そういう連中の対処を公文書でどうするか問い質している。大国であるエムデン王国の意向に逆らえるか?

 

 表立っては逆らえないだろう。バーリンゲン王国は人類の敵として公式に広めている。その国の生き残りを優遇する事など出来ないし、したくも無いだろう。

 

 厄介事を生み出す連中など、追い出すか処分するかだ。連中を利用してエムデン王国に不利益な事をさせるには、リスクが大き過ぎる。

 

 

 

 なにより嘘吐き連中と組むなど、最悪の罰ゲームだよ。何時裏切られるか分からないのだから……

 

 

 

「自業自得、自分の犯した罪は自分で償えって事だよね。僕等に自分勝手な理屈で何でもかんでも尻拭いを押し付けるなって。図々しいというか逞しいというか、厚顔無恥とか鉄面皮なんだろうな」

 

 

 

「そういう風に教育されてきましたから、根本の部分を直さないと駄目なのでしょうが……難しいでしょうね?」

 

 

 

 顔を伏せながら呟いて、ソファーの方に歩いて行った。元所属していた国の連中の事だから、裏切った連中とは言え哀れな末路には思う事があるのだろうな。

 

 暫くは出されたお茶を無言で飲んでいた。それほど雰囲気の悪くない沈黙の時間、十五分程で廊下の方が騒がしくなってきたのでお爺様達が来たのだろう。

 

 さて、状況を把握して可能な限り手伝おう。王宮への報告には時間的な余裕は有るので大丈夫、後顧の憂いを断つ意味でも任せる訳にはいかないんだ……

 

 

 

 

 

 慌てた様子で、お爺様とシルギ嬢がやって来た。親族とは言え身分上位者を待たせる訳にはいかないと思っているのだろうが、予定外の連絡無しで訪れた此方の方が悪いんだけどね。身分社会って怖い。

 

 取り合えず情報収集だけ此処で話し合おうと思ったのだが、領主の館に来て欲しいと懇願されてしまった。流石に此処に領主と上位貴族が居座るのは駄目で他の方々に迷惑が掛かると、シルギ嬢にやんわりと言われた。

 

 彼女も出会った頃は信用が出来ないと避けていたのだが、和解して仕事を任せてからは驚く程に信頼出来る頼れる親族になってくれた。

 

 

 

 モレロフの街の復興支援に親族のダルシム達を率いて行っていたと思っていたけど、領地の方に戻っていたんだな。お爺様の腹心でもあるし、領地の立て直しも有るし酷使し過ぎているのか?

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 何度か訪れたお爺様の館の最上級の応接室に通され、紅茶と焼き菓子で持て成されている。自分の孫ではあるが身分差の関係で砕けた態度が出来ないからだ。貴族社会で自分も貴族の一員だから飲み込むしかない。

 

 直ぐに本題に入らず、取り合えず時事ネタや近況報告を交えるのも忘れない。用件だけ言って終わりとか、身分差の関係でそういう場合も有るだろうが、今は一族としての面を強調しても良いだろう。

 

 リゼルとシルギ嬢は旧ウルム王国領の復興支援で一緒に働いた時に仲良くなったみたいで、個人的に親書の遣り取りもしているそうだ。因みにだが、彼女にも内密でネクタルが支給されている。

 

 

 

「街の中が慌ただしい様子ですが、何か有りましたか?」

 

 

 

 リゼルのギフトは秘密なので既に情報を知っている事は隠す必要が有り、シルギ嬢ならば対応した兵士達に聞き込みや裏取り位はしている筈なので未だ事情を知らない風を装う。

 

 この問い掛けに、少し眉を顰めたのは困った連中の対処が思ったより進んでいないとかの状況が悪いからだと思う。迷惑行為が得意の連中だし、思った以上に状況は悪いのだろうか?

 

 お爺様がシルギ嬢に視線を送ったのは、彼女から状況を説明しろって事だろうな。シルギ嬢が対応の実務に当たっているのかも知れない。

 

 

 

「その、我が街の周辺からもバーリンゲン王国の方々が集まり、モア教の教会を襲撃しました。名目は『保護を求めた』との事ですが、実際は修道女達を拘束してシモンズ司祭に要求を呑めと迫ったのです」

 

 

 

 は?シモンズ司祭や修道女達は無事だったのだろうか?というか修道女達を拘束しただと?それはモア教に喧嘩を売る行為というか、完全に敵対しましたって事で保護とかフザケルナって話だぞ。

 

 自分も敬虔なモア教の信徒なので、モア教関係者への暴力行為は許せない。久し振りに沸き立つ怒りと殺意、シモンズ司祭達が怪我でもしていたのなら絶対に許さない。

 

 握った拳に力が入り過ぎて、プルプルと震えてしまうのと、僕の怒気に当てられたシルギ嬢が怯えてしまったので謝罪する。シルギ嬢を怯えさせてどうするんだよ、反省だ。

 

 

 

「それで、シモンズ司祭や修道女達は無事ですか?」

 

 

 

 先ずは安否確認、実行犯への報復は情報を集め終わってから決める。極刑しかないが、極刑でも段階が有るので軽めか重めか判断基準が欲しい。

 

 

 

「徒党を組んでモア教の教会に向かった時点で不審な武装集団だと判断し、この街の警備の者達が警戒していましたが様子見したのが判断ミスでした。武器を持って集まった時点で対応するべきでした」

 

 

 

 シルギ嬢が悔しそうな顔をして下を向き、嗚咽を漏らし始めた。ちょっと待ってっ!その悲しみって、シモンズ司祭達が害されたとか被害が酷いとか、そういう話じゃないよね。

 

 嗚咽を漏らしながら、ポツポツと話してくれた内容だが……

 

 

 

 流石に二十人程度だが集まっただけで拘束したりは出来ないと判断し、遠巻きに様子を窺う事にした警備兵達だが連中がモア教の教会に入り込んだ時には危険と判断し取り押さえようと向かった。

 

 だが一足遅く、対応した修道女二人を拘束し、シモンズ司祭に好待遇で保護をしろ。バーリンゲン王国を返還する様にエムデン王国に言え、謝罪と補償と賠償をしろ!と訳の分からない事を大声で騒ぎ出した。

 

 シモンズ司祭が直ぐに暴徒達の前に現れて、先ずは修道女達を開放してから話し合おうと諭したが、修道女達を開放するどころかシモンズ司祭を拘束しようと襲い掛かった。

 

 

 

 場所が礼拝堂であった事、他にも礼拝に来ていた者達が居た事。その中にたまたま冒険者グループが二組いて、有無を言わさず修道女達を拘束していた連中を攻撃。残りの連中も警備兵が拘束した。

 

 厳しい取り調べの結果、バーリンゲン王国の連中には独自の情報共有の方法が有り、何故か僕のお爺様の領地に元バーリンゲン王国のモア教の責任者のシモンズ司祭が居る事が知れ渡ってしまっていた。

 

 エムデン王国や周辺諸国に潜んでいる連中が言うには、シモンズ司祭はバーリンゲン王国を裏切ったのだから、危機に陥った我々を保護する義務が有る。だそうだ。

 

 

 

 それが一昨日の事で、既に王宮には報告済みで現状は警戒を強めている。そして一番気になっていた、シモンズ司祭と修道女達の安否だが此処で保護しているそうだ。

 

 シモンズ司祭達も、僕が来ている事を知らせたら面会を希望しているので後で会って欲しいと言われたので快諾しておいた。

 

 しかし、バーリンゲン王国の残党共め。シモンズ司祭にまで謎理論で危害を加えようとするなど許せない暴挙。

 

 

 

 殲滅あるのみ。やはり奴等は根絶やしにする必要があったな……

 

 

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