お爺様の領地で一悶着あったが、問題無く解決する事が出来た。といっても解決したのは居合わせた冒険者達で、僕が行ったのは事後処理だけだ。法に則った配慮と措置、後は本来の担当者への連絡。
国内のバーリンゲン王国の残党達の対処は、バニシード公爵が立候補して本来ならば聖騎士団が受け持つのを引き受けた。なので、彼に経緯と結果を報告する必要が有る。
向こうも自分の仕事の範疇だが、他の貴族の領地での出来事だから報告されないと分からない。黙って知らせないのも方法の一つだが、悪い事はしていないので構わず報告する。
緊急性が高かったので、越権行為とか言い出さないだろう。言えば、自分の仕事の範疇の尻拭いを他人にさせた事と同じ意味だからな。
プライドの高い、バニシード公爵には政敵からのクレームは耐えられないだろう。此方も干渉する気が無いので、そのままスルーされるか適切な処理をして終わりかなら構わない。
だが此方の対処に対して文句を言ってくるならば、相応の対応はする。今回は自国の国民だけでなくモア教も絡んでいるので甘い対応など出来ない。すれば信徒からの反発が生まれる。
宗教絡みの不満は放置すると肥大化する一方で自然鎮火はしない。そういう意味では、バーリンゲン王国はモア教に対して日常的に不満を募らせて爆発させて滅ぶ切っ掛けを生じさせた。
お爺様もモア教の扱いについては慎重だったので、今回の件のリカバリーも十分だ。シモンズ司祭達に不満は無く、領民も満足の結果だったし活躍した冒険者達にも十分な報奨も与えたからね。
誰も今回の騒動の終わり方に不満を持たずに解決出来たのは良かった。親族の領地でモア教絡みで大炎上とか正直勘弁して欲しい。だが、シモンズ司祭の身に何か有れば……
怪我や最悪の場合、亡くなってしまっていたら?その責任は領主である、お爺様に降り掛かる。実行犯を全員捕縛して処刑しても、逃れられない大きな失態だった。
今回は運が良かった。先ず礼拝堂に冒険者達が居た事と、シモンズ司祭が居なかった事。初手でシモンズ司祭を拘束されていたら、冒険者達も隙を伺えず手出しが難しかった。
修道女だったから、連中も油断していたし隙も生まれやすかった。大本命のシモンズ司祭を拘束していたら、ガッチリと確保して奪い取られる隙など無かっただろう。
悪事に慣れた感じだったが、どこか間抜けな連中だったのも幸運だった。誘拐に慣れた連中だったら、人質を確保したら直ぐに隠して人目に晒させない。奪還の隙など与えない。
まぁ今回も自業自得だったな。これで領民達の間に僅かに有った配慮や遠慮が全く無くなったので、残党と疑わしい連中を遠慮無く調べられるし拘束も出来る。
無法な行為は出来ないしさせなかった。エムデン王国は法治国家だから、違法な行為は行わないしさせない。縛りはキツいが法を無視して勝手をすれば、それは法治国家ではなく無法者の集まりでしかない。
普通だったら法に照らし合わせた対応をするので、疑わしきは罰せられず逃げられる可能性も有った。今回は誰も文句を言わないし言わせない。奴等は一人も逃がせない、逃がさない。
連中は絶対に殲滅させる。
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お爺様の伝手を使い王都に先触れを送って貰ったので、二日ほど滞在させて貰いお爺様の紋章の入った馬車で王都に送って貰う事になった。バーレイ男爵の家紋入りの馬車ならば、問題無く王都に入れる。
検問も有るが、貴族特権で比較的に待たされないし顔見せと簡単な荷物監査で終わるだろう。まぁ僕が乗っていると知られれば本来ならば駄目だが顔パスで素通りも可能かもしれない。
絶対に荷物など検めないで検問の連中が全員整列して見送ってくれる予感がヒシヒシとする。そういう対応をさせると、周りからは誰が乗っているのか想像出来るだろうな。
未だ人通りの少ない街道なので、馬車の窓のカーテンは開けて外の景色を見ていられる。貴族の馬車の中を見ようとする連中は不敬扱いになるので居ないと思うが、偶然見られる可能性も有る。
整備された街道は振動が少なく、両側には街路樹が植えられて防風林や防砂林ほどではないが、日差しや風を遮る効果も有る。そして何割かは食用の実が生る木も植えている。
ヤマボウシとかシャシャンボとかジューンベリーとか、普段は食用とはしないものだが有事の際には食べれる様にだね。だけど甘味の多い実だから、栄養補給よりはストレス緩和の娯楽的意味合いが強い。
「リーンハルト様の教養の幅の広さって不思議です。貴族が食用でもない樹木の事まで知っているって不思議って言葉だけでは済まされなくないですか?」
向かい側に座り不審者を見る様な目を向ける、リゼルからの突っ込みに当惑する。いや、貴族だってというか森を愛し森に生きるエルフ族の影響かと思われたりしてるのか?
「いや軍属として糧秣の確保とかって重要だし、防衛用の都市開発とかの観点からも必要な知識なんだよ」
先ず大前提は本来の街路樹としての機能は必要、維持管理も運用に含まれる。食用として重視するならば、リンゴとかの大きな実の生る樹木を植えた方が良いと考えるとおもうけどさ。
食用の果物って世話が大変なんだよね。ある程度放置して年に数回の定期的な最低限の手入れしか出来ない条件だと、食用の果物は除外される。大して美味しくも無いから収穫されずに放置して道に落ちる。
落ちれば腐るし異臭を放って虫が湧く。だから大き目の実が生る物は候補から外れる。栗とか銀杏とかの腐らない実も有るが、栗はイガが有り銀杏は果肉が腐ると異臭を放つ。
此処に植えられているヤマボウシとかシャシャンボとかジューンベリーは、比較的に実が小さく放っておけば鳥達が啄んで殆どを処理してくれるので熟れて落ちるという事が少ない。
普段は見向きもされない食用には余り適さない実なので、収穫される事も無い。つまり乱獲される事もないので必要な時に収穫量が見込める。
問題は収穫時期が年一回だから必要な時に収穫出来るか?は状況次第だけど、この街道が整備され始めたのは旧コトプス帝国との戦争の頃だから、当時の担当者は色々と考えたのだろう。
「普段は放置しても大した問題にならず、特に収穫目当てで乱獲もされず、必要な時期に実が生れば全て利用出来る。まぁ食料としては補助的なモノかもしれないが、国民の慰撫にはなると思う」
この街道を整備した連中の苦労は何となくだが感じられる。旧コトプス帝国との戦争は自国の被害も大きく、厭戦気分も蔓延していたかもしれない。
そういう時に効果は高いが維持や手間暇が掛かる果実を選ばずに、手間暇掛けずにそれなりの果実を選択した判断は素晴らしいと思う。きっと長期戦を見込み、最悪は防衛戦まで考えたのだろうか?
戦争とは国家総動員で国運を掛けた一大事業、勝てば潤い負ければ全てを失う。外交の延長の筈だが、安易に武力で解決とか考える連中は多い。
それを実行すると全ての周辺諸国から警戒され敵視されて、延々と終わりのない戦いを続ける事になり……最後は負けて全てを失う事になる。それこそ大陸を制覇しないかぎり、何時かは負けて終わる。
勝ち続ける事なんて普通は無理、倒した国の兵士を徴兵して戦わせるとかしないと人的な戦力は直ぐに枯渇する。だけど現地調達した連中は忠誠心もヤル気も最低値、マイナスの状況で勝ち続けられるか?
僕の無言兵団によるゴーレム運用ならば、ある程度は可能かもしれない。でも制御する自分の疲労が溜まれば、制御がおざなりになりゴーレムの制御が甘くなり負ける事になるだろう。
延々とひたすら戦いを繰り返す事なんて無理だ。それこそ神か悪魔にでもならない限りは……嗚呼、僕は敵からは悪魔と呼ばれていたっけ。
「長々と考察を有難う御座いましたわ。リーンハルト様の知識って、独学で学んだというよりは経験と蓄積じゃありませんか?あと、敵からの無責任な呼び方など気にする必要はないかと思いますわ」
最初の評価は適当だったけど、後半は思いやりしか感じられなかった。殺し殺させる相手からの評価なんて、そんなものだよ。慈悲深いは手加減とかだし、正々堂々とかは有利な条件を用意するのを怠った言い訳。
究極の理想は戦わず勝つ、とか被害皆無で勝つ。とかだろうか?引き分けや痛み分けって、互角だったとか良い勝負だったとかいうけどさ。勝てない事を工夫しない事を問題にしろよ。
軍属の最低限の仕事は負けない事、最高は無傷で勝つ事。勝てても被害が大きければマイナス評価だよ。戦力を目減りさせるって事は、次は勝てない可能性が増えるって事だぞ。
勝ち方にも拘らないと、兵を率いる者としては失格だよ。
「うん、有難う。別に気にしてはいないよ。敵から神とか天使とか呼ばれるのは、自分達に利が有ると思っているから。それは利敵行為と変わらない愚行、敵に掛ける情けがあるなら味方を優遇すべきだよ」
「それは評価が厳し過ぎると思いますけど、理想が高すぎるのも問題ですわ。上司の理想が高いと配下が委縮してしまい、無理な事や間違った報告を上げてしまいます」
平均値を基準として評価する様にしなければ、誰しもが自分と同じ成果を出せると思うのは、傲慢であるか自信が無さ過ぎるかの何方かですわ。そう諭されてしまった。
誰もが理想の成果を出せる訳ではないが、合格点を越えたならば評価をするのが上司の勤め。合格のハードルを勝手に上げては駄目です。って更に諭させてしまった。
でもって言い掛けたが『自分を基準にしては駄目』って言われてしまった。僕の他人からの評価は高いらしいので、悪い言い方だと凡人というか標準に合せろって事だとか。
そういう君も標準よりも大分有能なのだが、私の様に普通の能力評価をって言うのも『自分の事を客観的に評価できない』って言われた事をそのまま返すよ。