古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第1054話

 モア教の教皇が僕の結婚式を執り行ってくれるという申し入れについて、アウレール王に会う前にザスキア公爵達が事前の話し合いの場を設けてくれた。

 

 まぁ過去の事例に照らし合わせても有り得ない珍事だが、だからと言って現実的に拒否は不可能だろうな。慶事だし断る意味はないのだが、含まれた意味が理解不能で怖い。

 

 結局はメリットとデメリットを秤にかけて、被害を最小限に抑えるしかない。という在り来たりな対応しか出来ない。または受け身的な?

 

 

 

 全てを打破する画期的なアイデアが突然生まれる可能性は……残念ながら無いよな。そんな事が可能なのは全知全能の神様くらいだろう。

 

 まぁモアの女神様から御神託を貰えたら解決するだろうけど……神様という存在は信じていても、問題事に介入してくれるかどうかは全く別の問題だし。

 

 ユエ殿みたいに、教皇がモアの女神の御神託を授けられる存在だっとしても……僕に絡む意味が分からない。まぁ神様絡みじゃない、人間の問題だと思う。

 

 

 

「仮に教皇の提案を受けた場合の、メリットとデメリットは何でしょうか?名誉な事ですが、それ以上に何かメリットって有りますか?」

 

 

 

 敬虔な信徒として振舞っている者が吐く言葉じゃない。信仰とは損得勘定など関係無いのだから……皆が苦笑したが、僕は信仰よりも大切な人達との幸せな生活が最重要です。

 

 

 

「ふふふ、敬虔な信徒の言葉ではないな。だが国家の運営を担う者ならば当然の対応、宗教と国策は切り離して考えるべきだからな」

 

 

 

「エムデン王国は宗教国家ではない。だがモア教とは付かず離れずな関係の維持が一番メリットが有る。有る筈だったのだがな……」

 

 

 

「ここにきて急激な方針の転換など勘弁して欲しいわよね。今迄は国家の中枢に近付かなかった筈なのに、急に接近するとか怪しまない方が無理だわ」

 

 

 

 公爵三人の言葉に他の参加者も頷く。

 

 

 

 モア教の敬虔な信徒としての評価は受けられると思うけど、だから何かが得する訳でもない。信者達からは優遇されるとは思うし、何か有れば助けてくれるだろう。

 

 でも、そもそもモア教とは友愛を是とした宗教だから、信者として普通に信仰していれば手助けはして貰える筈だよな。

 

 お金が欲しいとか彼女が欲しいとか、物欲や性欲は全く助けてくれないとは思うけど、勤め先やお見合い相手の斡旋くらいなら……どうだろうか?

 

 

 

 でも国家の重鎮としての、僕の願いや対応には無理が有るだろう。

 

 

 

「デメリットと言いますか、教皇が執り行った結婚式になりますから離縁が事実上不可能になるでしょう。モア教の面子を潰す事になりますわ」

 

 

 

「どこぞの阿保な国は結婚式の当日に新郎を殺害して事実上の離婚をさせたがな。今思えば凄い事だぞ。だからこそ、個人でなく国家ごと破門という扱いになったのだがな」

 

 

 

「国益よりも欲望を優先させた結果だな。エルフ族にまで欲望を向けた結果が『国が地図から消える』事になるとは自業自得だな」

 

 

 

 うん、別に離縁などしないから問題無いのでは?あとバーリンゲン王国とか正直どうでも良い。そういう視線をメディア嬢に向けたら、チッって舌打ちされた。一応豪華な参加者達だから不敬な態度は気にしてね。

 

 そもそも、モア教は一夫一婦制ではないんだよな。一夫多妻も、その逆も否定していない。富める者や力の有る物が、妻や夫を複数持つ事は推奨しないが否定もしない。

 

 力の弱い者が庇護を受ける最も簡単な理由が、扶養に入る事だから。極端な理由ではあるけれど、僕というか男性貴族の殆どは該当する。側室って、そういう側面も有るし。

 

 

 

 実家を援助して貰う為に、側室や妾になる事って普通だから。それを否定すると色々と問題が生じるし、無償の援助とか逆に怪しまないと駄目な気がするし……

 

 

 

「離婚とか考えていません。側室を迎えては駄目って事じゃなければ、デメリットにはならないかな?」

 

 

 

 ある意味では最低な言葉を吐いた。初期の頃は側室を否定したが、今は受け入れている。勿論だが、人数は絞る。既にアーシャを側室に迎えているので今更だけどね。

 

 

 

「ある程度の期間を空ける必要は有るだろうが、それは普通だな。そもそも既に、アーシャ殿が側室として嫁いでいるのだから気にする必要もなかろう」

 

 

 

 ローラン公爵が、ニールも側室として迎えて貰うのだからと締め括った。そして、その言葉に反応して彼を睨み付けるザスキア公爵の迫力に参加者全員が怯んだよ。

 

 笑顔で睨むって凄い技術だと思うけど、本人は直ぐに何時もの柔和な笑みに戻した。ある程度の年齢だった頃は似合っていたが、ネクタル効果で若返った十代前半の少女が浮かべられる表情じゃないよ。

 

 見た目と中身のギャップが酷い。凄いじゃなくて酷い。ニーレンス公爵とローラン公爵の額に汗が滲んでいるんだぞ。現役公爵が圧を受けているだけで、彼女の凄みが分かる。

 

 

 

「まぁそうですね。今更ですね」

 

 

 

 うーん、大問題ではあるけど、裏を深読みしない限り対策が無いから困る。素直に教皇の祝福を受けて結婚式を執り行って貰うしかないよな。

 

 断れないし、断る理由も無い。遠慮?ニクラス司祭やシモンズ司祭達に配慮?弱いし、ニクラス司祭やシモンズ司祭だって教皇には反発出来る訳が無い。内心は兎も角、彼等の方が辞退するよね。

 

 結婚式を伸ばすか取りやめる?馬鹿な、それじゃ今迄の努力の意味が無い。僕はジゼル嬢を本妻を迎えて、イルメラを側室として迎えたいんだ。

 

 

 

 雁首揃えて時間を掛けて話し合ったが、打開策も何も思い浮かばなかった。アウレール王を待たせる訳にもいかず、そのまま謁見室へ向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 全員で謁見室に入ったら、既にアウレール王が待っていた。どんな珍事だったら、国王が先に来て待ってるって状況になるんだよ。しかも頭を抱えてるし、このまま回れ右して帰りたい。

 

  臣下として仕えし国王の悩みは解決したいとは思うのだが、頭を抱えて悩む相手に掛ける言葉が考え付かない。序でに言えば、原因は間違いなく自分に有る。

 

他の連中に視線を向けたが、何事も無い様に自分の割り当てられた席に座った。しかも視線で早く自分の席に座れと促す。

 

本気か?この状況で何事も無かったとスルー出来るの?だって仕えし国王だよ。まぁ自分だけボサッと立ってても無意味だから座るけどさ。

 

アレ?もしかしなくても、アウレール王の状況を知ってた?

 

「来たか、問題児共!」

 

力無く怒鳴られた。共って一緒くたにだよ。

 

「お待たせして申し訳御座いませぬ。リーンハルト卿に状況を説明しておりました」

 

ニーレンス公爵が代表で答えた後で全員が頭を下げる。僕も慌ててタイミングを会わせる。頭を下げながら周囲を確認するが、困惑気味な女官が紅茶を用意しているだけだよ。

 

暫く全員が無言で紅茶を飲むという、重苦しい雰囲気が流れ……いや、流れちゃ駄目だろ!本来ならば臣下から声を掛けるなど不敬なのだが、この重苦しい雰囲気は耐えられない。

 

未だ責められた方がマシだよ。

 

「あの、アウレール王?」

 

声を掛けたら、ジロリと睨まれた。

 

「モア教の教皇からの親書だ。お前宛だが中身は検めさせて貰った。しかしコレは何だ?」

 

そう言って目の前にポンッて投げられた親書を手に取る。簡素だが品質の良い紙を使っている。蝋封はナイフで切られているが、モア教の紋様が押された正式な親書だ。

 

中身を取り出したが一枚だけ?内容は……

 

「あの、これだけですか?」

 

「そうだ。暗号か?お前は理解出来るか?俺も調べさせたが分からない。何かの符号か、そもそも意味が有るのか?中身を検められるのを理解してたのならば、ふざけている訳じゃないよな?」

 

モア教の教皇が独立国家の重鎮に送る内容では無いのは理解出来るのだが、冗談やふざけている訳じゃないよな?意味が有るのか?もう一度、文面を読む。

 

『自己信頼の象徴』殿へ。『バランスと調和』『創造性と自己調和』『物質的な成功』より『才能開花の救世主』ぶりの再会を祝う。

 

やはり意味不明だが文面の流れから当て嵌めれば、『自己信頼の象徴』は殿が語尾に付いているので、宛先の相手。つまり僕の事か?

 

『バランスと調和』『創造性と自己調和』『物質的な成功』は送り主、つまり教皇の事だよな?大陸最大の宗教のトップを表す言葉にしたら変だ。モア教の教義に合うのは最初の『バランスと調和』だけだろう。

 

『才能開花の救世主』とは、僕の事か?確かに短期間でレベルアップしたし、モア教の救世主呼ばわりもされた。だが『ぶりの再会を祝う』の『ぶり』って何だ?

 

久し振り?何時振り?期間や時間を表す表現だよな?

 

最後に『再会を祝う』と締め括っているけど、僕は教皇に会った事は無い。故に再会も違うし祝うのは……結婚するから新郎新婦として祝って貰うので、相手と共に祝うは違う。 

 

「あの、この内容って何でしょうか?」

 

外観は親書の体をなしているが、内容は考えようによっては非礼な内容だよ。意味不明な便箋が一枚、内容も手紙の形にすらなっていない。教皇が僕に送る意味不明な便箋、だが高齢の教皇がボケてなければ必ず意味が有る……筈だよな。

 

「それが分かれば苦労はしない。だが教皇は、リーンハルトが読めば分かると思っているぞ。それは魔術的な何かか?いや、僧侶的な?だが、その感じだと分からないんだな」

 

魔術的?僧侶的というか信仰的な?神聖魔法に関連が?いや、神聖魔法の呪文はそれなりに知っているけどさ。同じ様なフレーズは無い。経典の方は知らないが、教本との違いは少いだろうし、もしかしたら記憶違いで書いてあるかも?イルメラに聞くのが確実かな。

 

ん?でも信仰?言葉?何かが引っ掛かる。教本や経典の中にヒントが有るかな?モア教の教皇だからといって、宗教や信仰絡みと決めつけるのは危険か?

 

「暗号?」

 

ん?暗号?いや、暗号と言うか昔の記憶に、それこそ転生前の……

 

 

そうだ!『天使の数字』の意味が、こう言う言葉だった。ルトライン帝国時代の宗教には数字に意味を持たせるものが有った。誕生日の日付を並べて組み合わせて特定の桁の数字にする。そして並べた数字の単体の意味を繋ぎ合わせて、その者の評価や運命を占った。

 

現代ではすたれた筈だし、僕も殆ど覚えていない。だが数少ない記憶に照らし合わせれば……

 

 

『自己信頼の象徴』は数字の1を示す言葉だった筈だ。1殿?初めの、いや最初の者?一番と言う意味なら、アウレール王や教皇と言う国家や組織のトップだろう。僕は宮廷魔術師第二席で二番目、一番じゃない。

 

次の相手を示す言葉が『バランスと調和』『創造性と自己調和』『物質的な成功』だな。これは……

 

「どうした、リーンハルト?何か分かったのか?」

 

アウレール王の言葉に、思考の海から引き戻される。本当に、この悪癖は治らない。まぁ治す気も、治せる気もしないのだが……

 

「申し訳御座いません。やはり意味は分かりませんが、言葉遊びの類いではと思いまして、考えていました」

「言葉遊び、つまり暗号だよな。親書の内容を見られる前提で、お前に通じると思った筈だが狙い通りにはならなかったか……どうする?不敬だと提案を突き返すか?」

 

また無理な事を言わないで下さい。それは不可能です。分かってて言ってますよね?

 

でも、アレ?まさか、この組み合わせってもしかしたら……動揺するな、落ち着け!流石に有り得ないだろう。そんな事は……

 

 

 




久し振りに昨日のランキング28位に入ってました。
有り難う御座いました。
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